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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第二章 現世での営みと再会
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#13 二人の天命論者


 学年会議が終わると、少し早いですがお昼休憩となった。私はお弁当を持参していたので、職員室の自席で食べることにした。

 教職員は給湯室で自由にお茶やコーヒーを淹れていいそうで、職員のほとんどが自前の湯呑やマグカップを置いていましたが、私はそのことを今日聞いたばかりで知らなかったので、来客用のを借りることにした。

 お隣の坂下先生もお弁当を持参していたので、新人らしく私から、「先生の分もお茶入れますね」と申し出て、二人分のお茶を用意してから自席で食事を始めた。


「笹錦先生もお弁当派なんだね。ご実家を出て一人暮らしなんでしょ?大変じゃない?って、もう食べ終わったの!?」


「はい。おにぎり二つなので」


「それにしても早すぎない!?それで足りるの?」


 食べるのが早いのは、せっかちだからでしょう。こればかりは性分なので。むしろ、女性同士の食事はモタモタしててストレスがたまってしまうくらいなんですよね。 

 それに今日ばかりは行きたい所がありますので。


「朝食をきちんと食べる様にして、お昼は軽めにしてるんです」


「なるほどね。笹錦先生スタイル良いもんね。若さが羨ましいわぁ」


「では私は図書室に行きますので、失礼します」


「はーい。いってらっしゃい」モグモグ


 この日は授業も行事も無いので、部活の顧問をしている職員と明日の入学式の準備を担当している職員以外は、午後はフリーとなる。なので、朝はゆっくり見れなかったので、じっくりと図書室を見て回ることにした。

 借りたマグカップを給湯室で手早く洗って片付けて、いざ図書室へと向かおうとしたら、職員室へやってきた理事長と遭遇した。


「こんにちは。ご無沙汰しております」


「今日からでしたね。職場にはもう慣れましたか?」くんくん


「ええ、みなさんが良くしてくださるので、助かっております。それで、どなたか御用でしょうか?お呼びしましょうか?」


「ああ、笹錦先生が初日でしたから、様子を見に来たんですよ」くんくん


「私ですか?」


 これは困りました。せっかく図書室でじっくり見て回ろうと楽しみにしていたのに、話が長くなりそうです。

 

 私が教員を目指し私立更科学園へ赴任することになったのには、二人の人物が関わっていた。一人は大学時代の恩師である戸田教授。そしてもう一人がこの学園の理事長である更科理事長。学生時代、私は最初から教員を目指していたわけではなかった。本当は、大学院へ進み、古典文学の研究を続けるつもりでした。

 そんな私が大学2年のとき、ゼミの担当教授だった戸田教授が「笹錦君は教員になるべきだ。君は古文の教師としての役目を果たすことが天命だ」と突然言い出した。しかも、勧めるとかそういうレベルではなく、かなり強行的に。

 当時は突然のことで訳が分からないまま理由を訊ねると、「夢を見たんです。その夢の中で美しい女性が20センチほどのサイズのサイコロを楽しそうに振ってまして、サイコロの宿命で古文の教師と決まったんです。その女性は夢の中でマノン姫と呼ばれていましたから、これは天命だと分かりました」と、ウチの母と同じようなことを言い出した。

 戸田教授の話を聞いて戸惑いつつも、母と祖母の3人でフランスへ旅行した際に二人に相談すると、二人も「あなたは古文の教師になるべきです」と言い出した。

 みんなどうしてしまったんだろうか、とさらに悩みつつも、帰国してから戸田教授が勧めていた私立更科学園のことを調べてみると、意外にも興味も持ち始め、最終的に教員を目指すことを決意した。今にして思えば、初めてのフランス旅行で見たパリ市街の景色に感動したことも、何か心境の変化に影響していたのかもしれない。

 そしてその事を教授に伝えると、「では、さっそく理事長と会おうか」と言って紹介されたのが戸田教授の旧友でもあるこの更科理事長だったのですが、更科理事長も初対面の私に『古文の教師が天命』だという夢の話を熱弁して、「役目を果たすことが業の清算になるのです。あなたの希望は出来る限り応えるので、是非我が校で、古文の教師の役目を果たしてください」と言い出した。

 当時は大学2年で教員資格もまだ取得してないというのに、戸田教授といい更科理事長といい、何故ただの学生にここまで執心するのか理解が追い付かなかった。

 けど、この二人のことは『天命論者』と呼ぶことにして、無理やり納得することにした。


 それにしても、女性に対してあからさまにくんくん匂いを嗅ぐのはいくら理事長とは言え失礼ですね。そのうち、セクハラで訴えてやろうかしら。






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