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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
最終章 転生者の行く先
109/112

#109 体育教師の決断


「例えば、そなたに体育教師の宿命を自覚させるために、わしはそなたが幼少期のころより夢を見せていた。しかし、滅びの魔女である笹錦真乃には、それができなかった。笹錦真乃の思念に、直接干渉ができないのだ。それで仕方なく、笹錦真乃の母親や、将来関わりを持つ人物の中から運命や天命などを信じやすい気質の者を選び、古文教師になることや業の清算が宿命である夢を見せて、間接的に笹錦真乃を古文教師になるように誘導していたのだ」


「水晶でも干渉できない?それなら、どのようにして魂の裁定をしたのですか?」


「干渉できなくなったのは、現世に転生してからだのう。魂の裁定をしたあの時までは、そこまで強力な力を持っていなかった。恐らく、現世での笹錦家の力と関係しているのだろうが、直接干渉できなくなった今となっては、それも分からぬ」


「前世で国を滅ぼし、多くの人を殺めたために滅びの魔女となり、そして現世に転生したことで、強力な因果と力を持つようになったと」


「それも、自らの力で因果の結びを解き、断ち切ってしまうほどのな」


「力とは、具体的にどのようなものなのですか?」


「言葉だ」


「言葉が力?」


「マノン姫の資質を受け継いだ笹錦真乃は、幼少期より異常な知識欲で言葉の魅力と力を学び、教師となった。そして転生時に、6つの力も付与されておった。それらの要因が上手く絡み合って作用したために、強力な力となったのだろう、というのがわしの推論だ」


「確かに、笹錦先生の声と言葉には、引き寄せられるような感覚を感じたことが何度もあった」


「つまり、滅びの魔女にとって古文教師という生き方は、非常に相性が良かったのだろう。世界の理が通用しなくなるほどにな」


「せいぜい、理事長と学園長を泣かせてしまう程度で、世界の理が通用しないほどには見えなかったが・・・」


「あやつにもそなた同様に前世の記憶が無いから、滅びの魔女であることも自覚していない。そのために、その強力な力を意図的に使うことはないのだろう。しかし、もしその力を使えば、歴史に名を残す天下人や独裁者の比ではないだろうな」


「そうか、私も記憶を封印されていたのだから、笹錦先生もマノン姫の記憶は封印されているのか。そういえば、笹錦先生が竹刀を握った時に、とても強力な殺意を放っていたが、本人には全くその自覚がなさそうだった。あれも、滅びの魔女の力の一部で、自覚のない本人にだけは、なにが起きたのかすら理解できていなかったのか」


「わしが観測している限りでは、笹錦真乃自身は、宿命も因果も全く信じておらぬ。わしが干渉してマノン姫の最後を夢に見せた生徒の話を聞いても、一切動揺を見せずに、普段どおりだったからの」


「たぶんそれは、滅びの魔女だからではなく、笹錦先生の性格の問題では・・・」


「ふむ。恐らくそうだろうな」


 笹錦先生がマノン姫の生まれ変わりであり、滅びの魔女であることは分かった。

 笹錦先生を守らなくてはいけない衝動を感じていた理由も、理解できた。

 子供の頃から「ササニシキ」という言葉の響きに、特別なものを感じていたのも前世の影響だったのだろう。


 しかし、だからこそ、これで終わって良いのだろうか。

 前世で主君であった笹錦先生が本来得るべきだった徳を譲ってもらったことで、俺は業の清算を終えることができた。笹錦先生の業の清算は、まだ先の長い道のりだというのにだ。

 臣下として、騎士として、それは、簡単に受け入れられる話ではない。主君の益を奪うなど、臣下としての道義に反し、騎士としての忠義に反し、信義にもとる話だ。

 

 現世にも、武士道という言葉がある。

 現世での俺はただの体育教師だが、心では武士でありたかった。

 その想いで、青春時代を剣道に捧げたんだ。

 だからこそ、笹錦先生を守らなくてはいけないという衝動も、なんの疑いもなく受け入れることができていた。


 火災現場で、身動きが取れなくなった俺の額の汗を拭ってくれた時の、真っ直ぐな眼差しが思い浮かんだ。

 我が忠誠を捧げた主君の顔だ。


 ササニシキ王家に忠誠を誓う騎士であり、武士道を心に刻む体育教師の俺は、このまま業の清算を終えて、現世に笹錦先生をおいたまま神の国へ行くことに、罪悪感と自分自身への嫌悪感を覚える。


「あの、このまま神の国へは行かずに、現世での人生を続けることはできないのですか?」


「色々と葛藤しておるようだが、そなたは妻と娘に会うために、現世に転生して業の清算に励んでいたのだぞ?せっかく、笹錦真乃が自ら因果の結びを断ち切ってくれて、神の国へ行くことができるのに、それを逃す覚悟があるのか?次の機会はいつになるのか、分からぬぞ?」


 あの最後の日、「先に行って待っています」と言って、妻と娘は神の国へ旅立った。

 だから俺も囮作戦の指揮を執り、敵陣深くで自爆して後を追ったんだ。


 サリナとアイナの元へ行きたい。

 しかし、神の国へ行けたとしても、「俺は忠義を尽くした」と妻や娘に胸を張れるだろうか。


 いや、無理だ。

 自分の心に、ウソはつけない。


「サリナとアイナなら、忠義を尽くす夫であり父であることを、誇りに思ってくれる。私を現世に戻してほしい」


「現世に戻り、どうするつもりだ?」


「マノン様、いや、笹錦先生をお守りします」


「ふむ。現世に戻すからには、前世の記憶もここでの記憶も、再び封印するぞ?」


「牧田泰造の記憶が残るのなら、問題ない」


「ファイナルアンサー?」


「もう迷いはない」


「ではここで!恒例の!サイコロチャレーンジッ!」


「え?また?恒例だったのか?」


「そなたには、前回と同じようにサイコロを振ってもらう。しかし今回は1度だけ!1回勝負だ!」


「お、おう」


「奇数が出たら、つべこべ言わずに神の国へ行ってもらうぞ!しかし、偶数が出たら、現世に戻ってオッケーだ!」


「な、なるほど」


「そして、出た目によってボーナスも与えようぞ」


「いや、普通に現世に戻してくれればよいのだが」


 あの時と同じように、水晶よりもひと回り大きいサイコロが目の前に現れた。

 もしかしたらこの水晶、ここでずっとプカプカ浮いているだけで退屈だから、俺で遊んでいるのではないのか?


 しかし、いずれにせよ俺には、サイコロに運命を委ねるしか道はない。







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