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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十五章 再起する学び舎
105/112

#105 師走の賑わい


 12月も下旬となると冬本番で寒くなりましたが、そんな気候でも、私立更科学園の学園祭は賑やかで、活気に満ちていた。

 かつては、保護者のクレームを気にして中止派だった武田学園長ですら、体育館で行われた開会式にて、更科学園生徒の力強い団結力と自主性に驚きと喜びを滲ませ、言葉を詰まらせながら褒め称えていた。

 また、同じく開会式にて生徒会長が、『牧田先生の快復を祈りつつ、二日間だけは勉強や部活動のことを忘れて、思い切り楽しみましょう』と挨拶をして、大きな拍手と歓声があがっていた。


 教職員有志のけんちん汁の出店では、一日目は200食分を用意していた。

 前日から調理を始め、割り箸や使い捨ての容器などの用意も済ませ、食欲を誘う匂いを第二校舎中に漂わせていた。

 そのおかげなのか、エサに群がる食用豚のように朝から来客が押し寄せた。

 生徒や父兄だけではなく、来客の中には更科理事長や武田学園長、村上教頭の学園上層部を始めとした職員などの顔もあり、味に関しては好評だった。

 どなたも、味のクオリティと無料提供であることに驚いていましたが、「私の実家がスポンサーにつきましたので」と説明すると、皆さん納得していた。


 そんなこんなで、お昼前には品切れとなった。

 寸胴鍋が二つだけなので、200食が限界なのですよね。

 寸胴鍋や調理器具などを洗い、教室内の清掃を済ませると、私たち職員有志も手が空いたので、一人で2年5組の様子を見に行くことにした。


 5組の教室の前には行列ができており、なかなかの盛況ぶりだった。

 私も行列に並ぶと、すぐにクラス長の中田さんに見つかってしまい、「先生も手伝ってくださいよ!」と教室内へ連行されて、調理係の手伝いを命じられた。


「先ほどまでけんちん汁のお店が最前線の衛生兵並みの忙しさでしたので、午後からはのんびりと見て回るつもりで、働く気はないのですが」


「担任なのに自分の出店準備ばかりで、クラスの準備には全然来なかったんだから、今日くらいは手伝ってください!担任の責任を果たすべきです!」


「いえ、私は担任ではなく、担任代行なので」


「そういうのを屁理屈っていうんですよ!エプロン付けますからね!」


 チラリと教室内を見渡すと、他の生徒たちも忙しそうにしながら怖い顔で私を見ており、視線が突き刺さるように痛かった。


「あ、はい」


 中田さん、こんなに強引で怖かったかしら・・・

 以前はもう少し落ち着いていて、こんなに当たりが強くなかったと思うのですが。他の皆さんも、私が担任代行になったばかりの頃は、元気が無くて頼りなく、私のほうが叱咤激励していたくらいなのに。


 結局、「学生時代に散々避けてきたのに、大人になってから協調性を押し付けられるだなんて」とブツブツ不満をこぼしながらも、2時間も閻魔焼きそばを作り続けるハメになり、客足が落ち着いてから、ようやく解放された。


 疲れました。

 もう腕が上がりませんよ。

 それに、なによりも空腹が辛い。

 まずは腹ごしらえですね。

 けんちん汁も閻魔焼きそばも働かされるだけ働いて、お昼を食べ損ねてしまいましたからね。

 生徒会が配布したプログラムを開いて、各クラスや部活動の出し物をチェックすることにした。


 さて、なにを食べようかしら。

 栗林さんが在籍する1年3組で、天むすを販売していますね。

 様子を見に行くついでに、天むすを頂きますか。

 あと、温かい物も欲しいですね。

 今から5組に戻って閻魔焼きそばを頂くというのも可能ですが、あの匂いを嗅ぎ続けたせいで、触手が動かないのですよね。

 あ、食堂で男子バスケ部が、たこ焼きを販売していますね。

 焼きたてなら熱々でしょうし、お昼は天むすとたこ焼きにしましょうか。


 そうと決まれば、まずは天むす(1年3組)に向かうと、他のお客さんの姿はなく、嫌な予感がした。廊下から顔を覗かせて、「栗林さんを呼んで頂けますか?」と生徒さんに声をかけて呼び出してもらうと、ジャージ姿にエプロンと三角巾を身につけた栗林さんが出てきてくれた。


「せ、先生、来るの、おお、遅い。もう、売り切れ」ぐふ


「くっ、やはりそうでしたか。それは残念ですが、仕方ありませんね。他を当たります」


「あ、せ、先生、と、図書室も、み、見に来て」ぐふふ


「もちろん、あとで必ず行きますよ。でも、まずは腹ごしらえなのです!」


 そう言って、たこ焼き(食堂)へ向かった。

 本校舎1階の食堂へ行くと、なにやらイベントでもしているのか、歓声が廊下まで聞こえていた。

 イベントなどどうでもよいので、たこ焼きを求めて中へ入ると、多くの生徒が盛り上がっており、簡雍ステージでは、2年1組の甲斐田君がマイクを握って、イベントの司会をしていた。

 甲斐田君と言えば例の6人の一人で、ホテル火災では共に極限状態からの脱出をしている。どうやらバスケ部所属で、食堂でイベントを開催しているのでしょう。

 そういえば、イベントの司会を頼まれて断りましたが、このイベントだったのかしら。


 しかし、今の私にはそんなことよりも、たこ焼き確保のほうが最重要ミッションなので、たこ焼きの販売コーナーを探してキョロキョロとしていると、スピーカーを通して「あ!真乃先生!」と呼ぶ声が聞こえたと思ったら、強引に手を引かれてステージに上げられた。


「更科学園の女神!真乃先生が!特別ゲストに来てくれたぞぉ!」


「うおぉー!」


「え?ゲスト?そのような話は一切聞いていませんよ?私はただ、たこ焼きを探し求めてここまで来ただけで、あなたたちのイベントに構っている暇などないのです」


「お!たこ焼きを食べに来たんですね!ということは、真乃先生もエントリー決定だぁ!」


「うおぉー!」


「エントリー?」


「出場者が6名揃ったんで!ここで『たこ焼き早食い競争』のルールを説明だぁ! 各出場者には、焼きたて熱々のたこ焼き30個を完食してもらうぞぉ!最後の1つを口に入れた時点で完食と判定!飲み込めなくても口の中に詰め込めばオッケー!! そして、一番最初に完食した人が、優勝だぁ!」


 むむ

 男子バスケ部がたこ焼きを販売していると思って来たのに、販売ではなく早食い競争のイベントだったのですね。空腹のせいで集中力を欠いたのか、早とちりしてしまいました。


 けど、ステージ上に用意された席に座ると、目の前には、焼きたて熱々のたこ焼き30個分が大皿で用意されており、うねる鰹節とソースの香りが私の胃袋を誘惑していた。

 私以外の出場者は、見るからに体育会系で体格の良い男子生徒5名が座っている。

 ここで尻込みして敵前逃亡などしては、笹錦の者としての名折れ。

 いいでしょう。文系インドア女子代表、笹錦真乃の真の力を見せつけてやりますよ。


「更科学園早食い王の名を手にするのは誰だぁ!出場者のみんな!準備はいいかぁ!? 用意・・・スタァート!!!」


 笹錦の長女として。文系インドア女子代表国語教師として。そして、ハラペコ女子の意地をかけて、背筋を伸ばしてお淑やかに且つエレガントに、超特急でたこ焼きを口に運んだ。


「うお!?真乃先生速い!速すぎる!焼きたての熱さに他の選手が苦戦するなか、真乃先生はすでに残り10を切っているぞぉ!すごい!圧倒的だぁ!学園の女神は、食欲の化け物か!?」


「ごちそうさまでした」


「真乃先生!綺麗に完食してゴール!!!しかも、手を合わせてごちそうさまをする余裕まで!?そしてタイムは・・・なんと!1分12秒で完食!異次元すぎる!これは、更科学園の歴史に名を残す偉業だぁ!」


 生まれついてのせっかちな私が空腹の時に早食いを挑む時点で、無謀だと言わざるを得ませんね。体育会系などには負けませんよ。ふふふ



 空腹が満たされ、表彰式で「いらないです」と断っても無理矢理押し付けられた優勝トロフィーを持って図書室へ向かって歩いていると、なぜか母に遭遇した。







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