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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十五章 再起する学び舎
104/112

#104 文系インドア女子の誇り


 例年、12月上旬に開催されていた学園祭ですが、本年度は一度中止と決まってからは、計画や準備などが全て凍結されていたので、準備期間を考慮して12月の20・21日の二日間の開催で、前日の19日は終日授業は無く準備日と決まった。

 また、当日の入場は、生徒の父兄や招待状を配布した近隣住民や招待客に限られており、受験を控えた3年生は、自由登校となっていた。


 開催日まで一カ月を切っており、参加する1・2年の各クラスや部活動では、準備に大忙しとなった。

 学園祭開催の立役者である三田君たち6人は、今度は逆に生徒会からの要請で学園祭の運営スタッフとして手伝うことになり、イベントの企画や準備などで忙しそうだ。それでも、自分たちの力で成し遂げた達成感や使命感なのか、その表情は活き活きとしており、もう火災事故直後の沈んだ面影は全く無かった。

 ただ、学園祭中止撤回運動のことで、私のところへお礼に来た際に、「クイズ大会の時みたいに」とイベントの司会を依頼されましたが、それは丁重に断った。福留アナはしばらく封印です。


 読書部でも参加することが決定し、三人はそれぞれ防災に関する調査をして、レポートなどにまとめて、図書室にて掲示することにした。

 部長の遠藤さんは、更科学園一帯のハザードマップや学園内の避難経路、AED、消火栓、火災報知器などの場所を写真など使って、身近なエリアの防災マップを作成し、併せて避難マニュアルも紹介した。

 副部長の里子さんは、あのホテル火災で逃げ遅れた6人や私にインタビューをして、極限状態の体験談をまとめたものを発表した。

 栗林さんは、記録に残っている日本国内の地震や洪水、大火災や火山噴火などのあらゆる災害の被害状況を調べ、歴史年表にまとめたものを発表した。


 これらは全て自主的に始めて、自分たちだけで調査しまとめ、私は助言などをする必要はなかった。

 以前は、図書室でひっそりと息を潜めていた文系インドア女子でしたが、今では自主性が定着し、元から持っていた知的好奇心や探求心を存分に発揮する場も増えて、部の設立からまだ半年程度でも、その成長には目を見張るものがあった。高校時代に同じ文系インドア女子でも、周りとの交流を遮断していた私では、考えられないことでしょう。


 そしてそれは、私が担任代行を務める2年5組でも、同じだった。

 5組での出し物を急遽話し合うことになり、私は口を挟まず会議の様子を静観していましたが、皆さん積極的に意見を出し合って、会議は紛糾していた。


「イクラ丼なんて生ものだし、もっての外!味噌ラーメンだって素人には無理!」

「ザンギならどう?手軽に食べられそうだし」

「揚げ物系は、生徒会から禁止の通達が出てますね」

「だから、観光できた札幌じゃなくて、行けなかった函館とか登別にするべきだって」

「函館って言ったらなにが有名?」

「塩らーめん?登別は?」

「閻魔焼きそば」

「焼きそばなら良くない?お祭りとかでも、よく出店があるじゃん」


 5組は食べ物を提供する出店と決まり、それも因縁の修学旅行で行った北海道のグルメとなったのだが、なにを出すのかで揉めていた。こんなにも5組の生徒を迷わせるとは、やはり恐るべし、北海道グルメ。


「真乃先生なら、なにがいいと思いますか?」


「私ですか?味噌ラーメンもイクラ丼もお刺身もザンギも筆舌に尽くせないほどの美味でしたが、牛ホルモンのスープカレーもとても美味しかったですよ。さっぱりとした口当たりに深いコクと柔らかな野菜やお肉は、ぜひもう一度味わいたいですね」


「え!?札幌に居たあいだにそんなに食べたの!?食べ過ぎじゃね・・・」

「確か真乃先生ってあの日、朝まで船酔いで死んでたよな・・・」

「食べ物への執念がハンパ無い」

「っていうか、先生のグルメレポートが聞きたいんじゃなくて、出店でなにを出そうかって話ですよ」


「出店ですか・・・ラッシーはどうですか?業務用のものを仕入れて、紙コップではなく透明なプラのカップに注いでストローでも添えれば、見栄えも良くなりそうですよね。1杯当たりの原価を50円以内に抑えて100円で販売すれば、簡単に黒字ですよ」


「確かに手軽で良さげ」

「見栄えとか原価計算のことを考えてなかった」

「でも、ラッシーだけだと、ちょっと寂しくない?」

「じゃあやっぱり、閻魔焼きそばも出す?焼きそばって原価率低そう」


 結局、2年5組では、ラッシーと登別名物の閻魔焼きそばを出すことに決まり、クラス全員で準備に取りかかった。


 そして教職員でも、坂下先生の発案で有志が集まり、出店を出すことになった。

 メンバーは、坂下先生、書道部顧問の幸村先生、2年4組副担任の山崎先生、養護教諭の伊崎先生、担任代行の私を入れて、女性職員5人が集まった。

 出すものは、けんちん汁。

 最初はササニシキのおにぎりにでもしたかったのですが、12月に入ってからは連日寒いですからね。何か温かい物をという話になって、私が芋煮会を提案したら、最終的にけんちん汁に決定した。


「教師として大人として、生徒たちとの差を見せつけるべきですよね?」


「いや、そこまで気合い入れなくても。安くて安全な物を提供できればいいよ」


「いえ、それだけではダメです。生徒達がこれだけ頑張っているのですから、ここは私たち教師陣も本気を見せるべきですよ。生徒たちに大人の力を見せつけてやりましょう!ということで、ウチの実家に相談して、スポンサーになってもらいます」


「大人の力って、お金のことなの!?」


 母に相談するとスポンサーの話はすぐにまとまり、野菜などは実家で採れたものを玄徳が運んでくれることになり、鶏肉も業者を紹介してもらって格安で仕入れ、寸胴鍋やガスコンロなども貸し出してくれることになった。

 そして、母の『真乃、あなたまさか、生徒さんたちからお金を取るつもりではありませんよね?』の一言で、無料提供と決まった。


 職員有志の出店は、生徒会から第二校舎の3階にある空き教室を割り当てられていたので、18日の放課後に、野菜や機材などの搬入に来てくれた玄徳にも手伝ってもらい、ガスコンロを2つセッティングして、机などを並べて調理台にするなどのレイアウトを決めておいた。

 ガスコンロや寸胴鍋は、ラーメン屋さんなどで出汁を取るのに使用している大きいサイズの物で、以前、東北の震災の時に、父の会社でボランティアの炊き出しに使用したものがいくつも残っていたので、コンロと寸胴鍋を2つずつと、調理器具なども一式貸してもらった。


 そして、12月19日。

 学園内はどこもかしこも、朝から学園祭の準備で大賑わいだった。

 朝の朝礼だけ教室に顔を出して、火や包丁などの扱いには十分注意するように伝えると、一度更衣室に戻って着替え、私も空き教室へ向かい、準備に取りかかった。


 ちなみに、調理するのに汚れても大丈夫なのと動きやすいようにと、ジャージに着替えた。それも、今まで愛用していた母校である県立六頭首高校の体操服ではなく、担任代行になってから購入したアディダスの最新デザインで、鮮やかなブルーのジャージ。これでもう、他校のジャージで徘徊していたなどと、誰にも言われないでしょう。ふふふ


 朝からメンバー5人で、野菜や鶏肉などの下ごしらえをしていると、雑談に花を咲かせた。


「それにしても、こうして学園に活気が戻ってきて、良かったよぉ」


「そうですよね!火災事故のあとは、2年だけじゃなくて、3年も1年も沈んだ雰囲気になってましたからね」


「ああいうことがあると、生徒たちも、はしゃぐのは不謹慎だって、萎縮してしまうのでしょうね」


「でも、結局は生徒たちが自分たちで動いて、学園の空気を変えてしまいましたからね。本当にこの学園の子たちは、いい子ばかりですよ」


 学園祭中止撤回の運動に、私が関わっていたことをほとんどの生徒や教職員は知らない。

 でも、忠雁が蔵の梁に書いたサインや、野生の体育教師が生徒を救ったことが報道されなかったのと同じで、それで良いのですよね。



 一度は火災現場に置いてきてしまいましたが、ようやく取り戻せた。

 これこそが、文系インドア女子の美学であり、私の誇り。

 






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