#103 学園を動かしたのは、生徒の力
遠藤さんの口利きで生徒会執行部との正式な面談の場を得た6名は、里子さんの台本に従って『学園祭を開催してほしいと考える生徒が沢山いる』という体でアピールした。ここでポイントだったのは、『学園祭中止の決定に不満』という態度は見せないこと。
そして、『2年修学旅行での火災事故で学園の雰囲気が沈んでいる今こそ、学園祭のようなイベントの必要性』を重点的に訴え、全校生徒へのアンケートで開催是非を問うべきだと主張した。
その結果、生徒会執行部は彼らの主張に賛同して、協力する約束まで取り付けることに成功した。
さらに里子さんは彼らへすぐに指示を出して、その日のうちに甘利先生へも相談させて、翌日には村上教頭へも相談を済ませていた。
二人への相談でも生徒会のときと同じ主張をし、二人とも明確な賛同は示さなかったが、否定的な意見や態度は見られなかったそうだ。また、村上教頭からは「一度中止が決定しているものを覆すのは大変ですが、絶対にダメだというわけではありませんので、頑張ってください」との励ましのコメントがあったそうだ。
里子さんが指揮を執っていたおかげか、ここまでの動きは期末の試験週間に入る前に終わらせており、助言をしていた私でも、まさかここまで進めてしまうとは、と驚いた。
しかし、里子さんはそこで満足せずに、次の手を打っていた。
『期末試験が終わったら、生徒会が全校生徒へ向けて学園祭是非を問うアンケートをするらしいという噂を、友人や知人、所属する部活内や委員会などで流して、2年だけでなく1年や3年にも口コミで拡散させてください』という指示を6人に出した。これなら試験期間中でも、スマホだけで出来る。
その目的は、一度中止になった学園祭が開催されるかもしれないという期待と興味を、多くの生徒に持たせるため。そして、6人に試験期間中は表立った活動を自粛させることで、「学園祭中止の反対運動をしていたせいで成績が落ちた」と、学園側や保護者に言わせないための対策でもあった。
その結果、試験期間中にアンケートの噂は全校生徒に広がり、2年だけでなく各学年でも学園祭の中止に疑問を持っていた多くの生徒が、『学園祭が無くなって、寂しい』『楽しみにしていたのに残念』『時期をずらすなりしてでもやって欲しい』と声に出して言うようになり、学園全体が『今からでも学園祭を開催するべきだ』という意見に傾いていた。
自主性や公共性というものは、こうしてはぐくまれるのだろうと感慨深いものを感じつつ、教師の立場からこの様子を見ていると、火災事故の影響で沈んでいた学園内の空気は、すでに払拭されているように見えた。
そんな期末試験が終わった日の午後。
試験期間中はお休みだった部活動が再開したので、職員室での採点地獄に突入する前に、読書部の三人を労うために図書室へ顔を出した。
読書部の三人は、いつものように窓際の6人がけのテーブルに座っていた。
「皆さん、期末試験、お疲れ様でした」
「あ!先生!試験の採点してなくていいんですか?」
「ええ、採点しないといけないですよ。なので、地獄道に引きずり込まれる前に、陣中見舞いに来たのです」
「す、すでに、し、死相、出てる」ぐふ
「不吉なことを言わないでください。それで、学園祭の件は順調なようですが、どうですか?」
「生徒会が来週頭に、全校生徒対象で無記名でのアンケートを実施するそうです。内容は、「当初の決定通り中止」「予定通り開催」「規模を縮小しての開催」の3つです。現実的なラインで言えば、規模縮小での開催なんですけど、この辺りは三田君たちや生徒会執行部の中でも意見が分かれていますね」
「なるほど。でしたら、「学園祭に代わるイベント」というのも入れるのはどうですか?芋煮会や焼き芋大会、餅つきや栗拾いなどのイベントも楽しそうですよ」
「先生、やっぱり食べ物なんですね」
「そっちの方が準備大変ですよ」
「や、焼き芋大会、ちょっと、惹かれる」ぐふ
三人とも、いつも通りですね。
試験勉強しながらの裏工作で忙しかったと思いますが、疲れはないようで安心しました。
「それにしても、学園祭のことが色々と話題に上がるようになったおかげなのか、学園内に活気が戻ってきたようで、少し安心しました」
「そうなんですよね!」
「あとは、学園祭が開催できれば万事解決ですね」
「ど、読書部でも、が、学園祭、参加したい、です」ぐふ
「あ、私もそれ考えてた。せっかく中止撤回の運動を手伝ってるんだから、クラスの出し物だけじゃなくて、読書部でも何かしたいって」
「具体的にやってみたいことでもあるのですか?」
「うーん、読書部らしいことしたいよね?」
「オススメ本の紹介とか、書籍のレビューとか?」
「さ、笹錦家の、歴史を、研究発表」ぐふ
「芋煮会」
「先生、ドサクサに紛れてしれっと意見出してますけど、芋煮会が「らしい」のは読書部じゃなくて、先生だけじゃないですか」
「あ!そうだ!防災に関係すること調べて発表するのは?あの火災現場で先生に怒られてからずっと考えていたんだけど、私たちって防災の意識が無かったんだよね」
「確かに私も、そのことでずっと悩んでた」
「か、火事も、地震も、怖い。今なら、みんな、分かってくれる」ぐふ
「火災事故を経験した2年はもちろんですが、災害の恐怖や知識を1年と3年にも知ってもらう良い機会かもしれませんね」
「学園祭の参加準備する前に、まだアンケートがあるし、中止派の職員の切り崩しもしないといけないですよ」
「中止派といっても、保護者からのクレームが怖くて中止にするべきだと言っているだけなので、生徒側の総意が『学園祭は開催するべき』と分かれば、もう誰も中止とは言わないと思いますよ」
「だと良いんですけど、まずはアンケートの結果がどうなるかですね」
翌週の月曜日。生徒会が主導で全校生徒アンケートが実施され、即日集計した結果、9割以上の生徒が「予定通り開催」「規模を縮小しての開催」と開催を支持した。
その結果を受けて、里子さんはすぐに指示を出して、遠藤さんや三田君たちは学園長を始めとした上層部への根回しに奔走し、生徒会から正式に学園祭開催の要望書が学園長へ提出されると、臨時職員会議で学園祭中止の撤回が決定された。




