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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十五章 再起する学び舎
101/112

#101 教師なりのエール


 里子さんからお願いされた1組男子6人から話を聞く件ですが、『さて、どうしたものか』と考えていたら、翌日の放課後に、「真乃先生!ちょっと相談したいことがあるんですけど!」と、向こうから6人でゾロゾロと職員室に押しかけて来た。


 あの頃は、市場に売られていく仔牛のように肩を落として覇気が無かったというのに、今では、まるで闘牛のような行動力と突進力。顔を上げて堂々としてほしいとは言いましたが、前のめり過ぎなのでは。

 職員室で聞けるような話ではないと思ったので、あの時と同じ空き教室へ移動して聞くことにした。


「それで、私に相談というのはなんでしょう?先に言っておきますけど、恋愛相談でしたら、他をあたってください」


「違いますって。恋愛相談なら一人で来ますって」

「真乃先生がガード堅いの有名だけど、ただの自意識過剰なんじゃ・・・」

「学園祭が中止になった件です」


「その件ですか。あなた達がそんなにも学園祭にご執心とは、意外ですね」


「別に学園祭が好きだからってわけじゃなくて」

「真乃先生とマッキーにケガさせただけじゃなくて、学園祭まで中止なんて、学校全体に迷惑かけちゃってることになるし」

「真乃先生なら俺達の気持ちを分かってくれるでしょ!?」


「え?私が生徒の立場なら、クラスの出し物などで協調性を押し付けられるような学園祭が中止になったら、むしろ嬉しいですけど?ちなみに、球技大会や運動会も中止になってくれれば、小躍りするほど喜びますね」


「教師が生徒に言っていい話じゃない・・・」

「修学旅行も全力で拒否してたって噂、本当なんじゃ・・・」

「真乃先生、学生時代にいったいなにが・・・」


 あれ?

 当たり前のことを言ったつもりが、憐れまれている?


「そ、それで、学園祭のことで私に相談というのは?」


「学園祭中止の撤回を求めて署名活動始めたいから、真乃先生に後ろ盾になって欲しいんです」


「なぜ私なのですか?なにも、違うクラスの担任代行に頼まなくても、1組なら甘利先生だって折原先生だっているじゃないですか」


「真乃先生が味方になってくれたら、心強いしな」

「顔を上げて見てろって言ってくれて、マジで堂々としてる姿見せてくれて、めっちゃ励まされたし」

「マッキーの代わりに5組の担任になって、5組の連中も真乃先生のこと、すげぇとか言ってるし、口だけじゃなくて恰好いいなって」

「俺達、真乃先生のお陰で前向きになれたし、学園祭中止のことだって、黙っていられないっていうか、なにかやらなきゃって思って」


「つまり、私が君たちを焚きつけてしまったと?」


「まぁ、そういうことっすね」


「そのようなつもりでは無かったのですけどね。私はただ、また学園長を怒らせてみせるから、それを見て、笑ってほしかっただけなのですよね」


「いや、だから、俺らも別に、学園長に喧嘩売ってほしいわけじゃなくて」


「真乃先生の誘導に惑わされるなって。この人、すぐに話そらすから」


「あ、そうだった。もう少しで煙に巻かれるところだったわ」


 チッ

 最近の高校生ときたら、妙に感が鋭い。


「仕方ありませんね。ではここからは、教師として真面目な話をしましょう」


「おぉ!お願いします!」

「味方になってくれたら、マジで怖い物なし!」

「っていうか、やっぱ、真面目に話してくれてなかったんすね」


「まず最初に。君たちは、私を過大評価しすぎています。新任1年目の新米教師に、学園上層部の決定を覆せるような権限も影響力もありません。むしろ、あなた達の活動に関わっていることが学園上層部に知られれば、『お前は生徒になにを吹き込んでいるのだ!』とお説教コースですよ。下手したら、保護者からも『あの新米教師は、ウチの子に悪影響ザマスわ!』と苦情もくるでしょうね」


「学園長相手に毒舌吐きまくってる真乃先生なら、平気なのでは?」

「俺も、そう思う」

「理事長と学園長にお説教かまして泣かせたことも忘れてはいけない」

「保護者相手でも、余裕で煙に巻いてる姿が目に浮かぶな」


 私のイメージって一体・・・

 

「では、単刀直入にいきましょう」


「ハイッ!」

「押忍!」

「かもん!」


「学園内でなにか事を起こそうと思うのなら、最初から教師を頼るな!自分たちの手でなんとかしなさい!」


「えぇ・・・」

「そ、そんなぁ・・・」

「冷たい・・・」


「私があなたたちの活動を手伝っていることが広まれば、きっと『教師を味方につけて、調子にのっている』と学園側だけでなく他の生徒達にも思われて、逆効果ですよ。自分たちの主張が正しいと思うのなら、自分たちの手で、それを証明してください。自分たちの言葉で、周りの生徒を味方につけるのです」


「言ってることは分かるけど、それは理想論ですよ」


「一度中止が決定したことを覆そうと思うのなら、理想を現実にする力を見せつけなさい。それを成す気概を見せられないのなら、誰もあなたたちには賛同しませんよ」


 私の言葉を聞いて、先ほどまでの威勢が嘘のように、6人とも意気消沈してしまった。

 

 でもこれは、私なりのエール。

 この子たちは、甘えている。

 担任の甘利先生ではなく、頼みやすい私に話を持ち掛けている時点で、それは明白。私が介入して、もし本当に学園祭中止が撤回されたとしても、それはこの子たちの自己満足だけで終わり、この経験が成長の糧にはならない。


「ですが、私も鬼ではありません。1つだけアドバイスをしましょう」


「お?」

「アドバイス?」

「屁理屈で力押しとか?」


「漢の劉邦には張良。蜀の劉備には諸葛亮。羽柴秀吉には竹中半兵衛や黒田官兵衛。石田三成には島左近。徳川家康には南光坊天海。と、古来より、事を成そうとする偉人たちは傍に優秀なブレーンを置いて、常に意見を求めて戦略や方策を練り、実行してきました」


「軍師とか?」


「そうです。今のあなたたちには勢いはありますが、それだけでは周りはついてきません。俯瞰して状況を見て、冷静に判断することが大事です。そのためには、あなたたちにも優秀な軍師が必要なのです」


「そうは言っても、そんな優秀なヤツなんていないっすよ」


「いますよ。周りをよく見なさい。あなたたちと同じ2年1組に、とても優秀なブレーンになれる人材がいますよ」


「え?1組?誰のことですか?」


「松金里子さんです」


「松金?あの真面目そうな?」

「あ、でも松金って成績はいいぞ」

「でも、ちょっとキツイんだよな」


 確かに、里子さんは教師の私に対しても、容赦がなくてキツイですね。


「実は、あなた達が署名活動を始めようとしていることを心配して、彼女から事前に相談を受けていたのです。松金里子さんは、確かに厳しくて容赦ない面もありますが、それも彼女なりの愛情表現なのですよ。 たぶん」


「うーん、松金かぁ」

「味方になってくれるなら、一人でも多いほうがいいのは確かだな」

「声だけでも、かけてみる?」


「あなたたちはまだそんな甘っちょろいことを言っているのですか!頭を下げてでも「手伝ってください」とお願いしてきなさい!この時間なら図書室で読書をしていますので、今すぐ行ってお願いしてくるのです!それと、2組のクラス長の遠藤涼子さんも一緒にいるから、ついでに彼女も味方にしなさい!この二人がいれば、きっと風向きを変えられますからね!」


「は、はい!とりあえず行ってみようぜ!」

「そうだな!真乃先生のアドバイスだしな!」

「先生!相談にのってくれて、ありがとうございました!」


 その日の夜。

 読書部のグループトークにて、遠藤さんと里子さんから『先生に売られた!』だの、『三田君たちに、南光坊天海になってくれ!と言われたんですが、一体何を吹き込んだんですか?』と、クレームが入った。






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