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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第二章 現世での営みと再会
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#10 見た目100%体育教師


 高等学校の図書館としては、蔵書の量は比較的多いだろう。フロア面積も広く、教職員とは別の専属の司書も居るそうで、この学園が図書施設の教育的役割をいかに重視しているのかが分かる。実は、そのことがこの学園への赴任を決めた理由の1つでもある。

 図書室では、じっくり見て回りたいところでしたが、そろそろ職員室に戻らなくてはいけない。この学園で働くのだから、いつでも利用出来ることだし、今のところは場所と雰囲気を知れたので良しとしよう。


 静かに速やかに職員室に戻ると、時刻は7:50。40名弱の教職員の席はほぼ埋まり、それぞれにデスクに向かって仕事をしていたり、隣近所の同僚と会話を交わして雑然としていたが、入口から入ってきた私に何人かの方が好奇の視線を向けてきたので、微笑みながら会釈して受け流した。

 デスクにカバンを置いたままだった自席に着席してカバンを足元へ降ろすと、右隣の女性が声を掛けてきた。


「新任の笹錦先生よね?」


「はい。笹錦と申します。よろしくお願いいたします」


 初対面の先輩に失礼が無いように答え、座ったまま会釈した。


「坂下です。こちらこそ、よろしくね」


 30前後だろうか。左手の薬指に指輪をはめているので、既婚なのだろう。同性の先輩であり、1年間はお隣さんとしてお付き合いすることになるので、粗相がないように注意しておくべきでしょう。

 ということは、反対側の左隣の方にも挨拶をしておくべきか。

 そう思い至り、左隣へ視線を向けた瞬間、固まった。


 そこには、白いポロシャツに下は水色のジャージ姿で、瞑想でもしているのか目を閉じたまま腕組みをした角刈りの男性が座っていた。漫画やドラマに出てきそうないかにも『体育教師』といった出で立ちだ。これで首からホイッスルやストップウォッチなどをぶら下げていたら、パーフェクトだ。

 この方も30代だろうか。私よりはひと回りは上だろう。姿勢良く背筋を伸ばして脚は少し開き、組んでいるむき出しの腕は太く体毛も濃い。太い眉毛と角刈りが特徴的で、どこからどう見ても体育会系だと分かる。文系インドア派の私の周りには居なかったタイプだ。


 声を掛けづらい。瞑想の邪魔をしては気分を害するだろうか。

 壁に掲示されている席次表へチラリと視線を向けて確認すると、名前は牧田先生。

 デスクの上は比較的綺麗に片付けてあり、几帳面な性格なのだろう。服装はジャージ姿でも、清潔感はある。

 あ、でも、鼻から毛が6本ほどはみ出している。こういう時、視力が良すぎるのも考え物ですね。

 しかし、いくら声を掛けづらくても、挨拶をしないままというのは失礼になるだろう。ここは私のほうから挨拶しておくべきか。


「あの」


「・・・」


 声を掛けたが、反応が無い。


「牧田先生?」


「・・・」


 完全に無視をされているようだ。こんなことを言うと自意識過剰と言われてしまいますが、こう見えても私は、幼少期より異性からは異常なほど好意を寄せられてきた。冗談抜きで『モテてモテて困っちゃう』状態だ。同世代の男子なら、私がひと声かければ頬を赤らめ、視線を彷徨わせていたし、この歳まで求愛や求婚をされた数は、星の数ほどだった。

 別に、そのことを自慢にするつもりは更々無いし、むしろ自慢どころか、私のこれまでの人生最大の悩みの種でもあった。

 けど、こんなふうに異性から無視された経験が無い私は、無意識にムキになっていたのか、しつこく声をかけた。私がせっかちなのは関係ない。礼儀の問題です。


「あの、牧田先生?聞こえてますか?」


 声を掛けながら、人差し指で肩をツンツンと突いた。

 すると、ビクッ!と反応があって、組んでいた腕を解いて慌てた様子で腰を浮かせてイスを倒し、突然声を張り上げた。


「ね、寝てませんよッ姫様!?ちょっとウトウトしてただけですッ!」


「・・・」


 腰を浮かせたポーズのまま大袈裟に体ごとキョロキョロさせて、私を含めた周囲の同僚に向けて、言い訳のような釈明を始めた。

 どうやら無視していたのではなく、居眠りしていただけらしい。

 それにしても姫様とは。どんな夢を見ていたのやら。






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