第六幕:ナイフの言葉、海への舟
やあ、君。弱さは、言いたい時に言えぬ苦しみを生む。第五幕の石の落下から、父の微笑みがジェイを拷問する。「妖精なんているものか!」の呪文が、愛を切り裂く——ダンケリットの沈黙と、少年の独白が、貴族海賊の決意を刻む。さあ、舟を漕ぎ出そう。
やあ、君。弱さは時として、言葉を言いたい時に言えなくて、言いたくない時に言わせる事がある。
だから、どうか少年を責めないでほしい。
第五幕は、
少年の初恋が、
彼を一撃で滅ぼす。
少年が夢の種を肥やす為にやった事が、そのまま少年を追いつめる証拠になった。
閉じられた箱が開かれるように、彼には逃げ場なんてなかった。
空からは天使の落とした石が落ちてくる。避けられないギロチンだ。
「黒い妖精が!妖精が惑わしたんだ!」と彼は繰り返し、父に言う。
悲しみの叫びは、
更に父親を失望させた。
「ジェイ・フール!!!」と父は怒鳴る。
「お前は、ここでそう呼ばれているようだな。当然の名前だ。情けない。」
彼は怒りを抑える。
海軍将校としての彼が、少年の息の根を止めるのを抑えていた。
彼が普通のゲイなら、女の子のように平手で少年を打ち続けたろう。
「これは、ジェイ。お前がやった事だ。妖精なんていない。お前は、ジェイ・フール。規律も礼儀も知らない、卑怯者だ。まさに海賊だ」と父は彼にたんたんと説教を始める。
「お前の兄なら、こんな事はしない。彼なら、自分がやった事は自分がやったと言う」と優しさをこめて、少年にいう。
「さあ、ジェームズ。妖精なんていないと言いなさい」と父は肩を叩く。
少年の目は虚だった。彼は枕元にいる妖精を見つめた。彼女は、黒妖精の目は恐怖でひきつる。彼女は今にも泣きそうに、ボクらを、少年を見つめてた。わんわん泣き出したかった。
少年はボソっとつぶやく。
彼の父が、微笑む。
「もう少し、大きな声でーージェームズ」と少年に促す。
「妖精なんているものか!」と父は少年に言わせるのさ。何度も。
彼が言った言葉はナイフ。
ナイフのようだった。
か細い悲鳴が、部屋に響く。
黒妖精は地に落ちる。
彼女の愛した寝床へと、虫ケラのように落下した。
少年はかけよる。
大人には妖精は見えない。
少年にも、何が起こったかわからない。
寝床がぐちゃぐちゃになって、
彼の前で縮こまっている妖精が痙攣を終えた。
彼女は沈黙を選んだ。
「ああ、ボクのせい?」と少年は一声上げた。あとは、彼は黙る。もう、彼の口は軽くはない。
『この軽すぎるボクの口が悪い。夢は宝石箱にいれ、ボクは後世の大海賊。だけど、ダンケリット。ボクは自由を奪われた者たちの代弁者。きっと偉大な男になる。貴族海賊さ!』
ボクらが話す物語は、彼が本当に夢を取り戻し海へ出るまでの話だ。
少年は、海へと出た。
(こうして、第六幕は終わりを告げる。舟が夜にひっそりと、大きな船へと漕ぎ出された。)
第六幕は、夜の舟が大きな船へ漕ぎ出すところで終わりを告げる。妖精の消失が、夢を宝石箱に封じ込め——ジェイは自由の代弁者として海へ。ファウストの魂は、ここで再生するのか。物語は続くが、この旅立ちは永遠だ。君の海は、どこへ向かう?




