第一幕: 霧の窓辺、黒き羽根の幻視
やあ、君。ファウストの魂は、決して天に留まらない。壊れた鏡のように、次の宿主へ砕け散るんだ。1850年のイングランド、エトン校の霧に包まれた寮で、少年ジェイは鞭の痛みと母の記憶に苛まれる。だが、この夜、彼の叫びは悪魔ではなく、未知の光を呼ぶ。さあ、貴族海賊の幻視を、共に覗き見よう。——語り部ファウスト、君の友だ。
やあ、君。今回の物語は、
ファウストが天に召された後の話だ。
彼の壊れた魂は、
次の誰かに受け継がれた。
もしかして、君の時代にも彼の魂を持つ者がいるかもしれない。
ボクが誰かって?
語り部ファウストさ。
ヨハン・ゲオルク・ファウスト。
君と共に物語を見つめる者であり、
君の友だ。
今度の物語は1850年の秋、大英帝国イギリスを形作る四つの国の一つ、イングランド。
その中にあるエトン校の寮。
一人部屋。小さな机、ベッド、窓からテームズ川の霧が見える。
そこのベッドの上でうつ伏せになっめいる豊かな黒髪が蛇のようウェーブがかった少年が、
次のファウストの魂を受け継ぐ者。
彼は後に、こう呼ばれる。
ジェームズ・F・フックと
Fとはファウスト。
ボクらだけが知る彼の秘密の名前だ。
でも、今は彼はジェイ・フール。
そう学友から呼ばれてた。
彼は鞭で打たれた尻を痛そうに撫でる。ボクが撫でてやりたいくらい。
まあいいさ、彼の父は厳格な海軍将校でジェイ少年をママに甘える女の子のような男とバカにしてた。
いつも、彼の兄と比べては、彼の心と身体に鞭を打ってた。
でも、だんだんと彼に期待するのが面倒くさくなった。
だから、規律と礼儀を重んじるエトンの寮に彼を閉じ込める事にした。
今日、彼は家から青いコートを着て寮に入った。
エトン寮での彼の生活は散々なものだった。寮長の女は彼を礼儀がなってないと言って、皆の前で尻を打った。
しかも、入寮初日だ。
「礼儀をわきまえなさい!」と言いながら、彼の尻を鞭で打つ。
彼は彼女にこう言っただけだ。
「その年になるまで、ここにいたんなら、将来は化石だ」とね。
寮長の女は42頃。花は過ぎた枯れていく。だけど、エトンじゃちょいと人気。男だらけの花一輪。
ああ、それを見抜いた少年は、
ついつい口走る知性ビンタ。
寮長は怒りにかられ、再び彼の尻を叩く。
学友たちは、彼をジェイ・フールと命名して、大喜びした。
この恥ずかし目が、ずっと続くと、ジェイ少年は目を伏せた。
「母上。母上。」と彼は、家に閉じ込められた母を思い出す。彼女の黒髪は、彼の大事な贈り物だ。
髪を撫でると、不思議と落ち着く。
まるで、母が近くにいる。
「ああ、ここはなんて地獄なの。
神さまは、ボクを見捨てたに違いない。ひどい方だ」
怒りと嘆きは地獄のファンファーレ。
悪魔を呼ぶには、ちょうどいい。
だけど、今回は悪魔ではなく黒い羽根をした黒髪ボブカットの女の子が、テームズ川の見える窓から飛び込んだ。彼女は妖精の光をまとって、まんまるな蛍の光みたいに飛び回る。
少年は、妖精の光に目を丸く、口をポカンと開けたのさ。
この出会いは、永遠だ。
また誰かがファウストを受け継ぐ者を語るのなら、
未知との出会いは、永遠でなければならない。
こうして第一幕は妖精の光と共に閉じる。
第一幕は、ジェイの孤独な叫びが妖精の光に変わる瞬間で幕を閉じる。ファウストの魂が目覚め、抑圧された夢が黒い羽根に宿る——この出会いが、少年を海賊の道へ導くのか、それとも新たな呪いか。次幕では、妖精ダンケリットの嘲笑の歌が響く。君の考察を待ってるよ。続きを紡ぐ旅は、まだ始まったばかりだ。