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それぞれのきもち

「うぅん、………はっ!?」


 浩介が起きたらそこは自分の部屋だった。

 窓は既に新品の物に取り替えられていて、外は昼間だった。


「助かったんだ…」


 朱雀と憑依してガルムを撃退し、全身が悲鳴をあげて暴走し始めたところで記憶は途切れた。

 ただ、朱雀が心の中で自分を止めようと必死に何かを叫んでいた記憶はある。

 傍らには朱雀が人間の姿でベッドにもたれかかって寝ている。


「あっ…」


 思わず見とれてしまった。


(黙ってると可愛いんだけどなぁ…)


 寝顔を見て、ついそんなことを思ってしまう。


「……だ」

「?」

「…やだよ」


 夢を見ているのだろうか、目から一筋の涙を流し寝言を言っている。

 普段の言動からは考えられない、弱々しい態度に内心驚いていた。


「行っちゃやだよ…」

「……………」


 夢の中の朱雀は誰に向かって言っているのだろうか。


(多分、昔の恋人かな。………)


「へへっ」


 夢の中でいいことでもあったのか笑顔がこぼれた。


 ドキッ


 浩介の胸が高鳴る。


(えっ、何これ!?なんでドキッとしてるの!?)


 それは初めて女の子を好きになった時に感じた気持ちと同じだった。

 朱雀を見る。


「すぅ…、すぅ…」


 朱雀は美少女だ。

 普段の言動はアレだが、黙っていればかなり可愛い。

 人間に対してなんだかんだ言いながらも、朱雀は助けに来てくれた。

 守ってくれた。

 そう思うと胸の動悸が早くなる。

 よく考えてみると、今部屋の中は二人っきりで、相手は寝ている。


「か、髪ぐらい触ってもいいよね?」


 起こさないよう静かに朱雀の頭に触れた。

 感触は柔らかく、高級な織物に触るような感覚だった。


「差し入れ買ってきたぜ!」


 突然ドアが開き、賢次がビニール袋を片手に入ってきた。

 咄嗟に撫でていた手を話す。


「あれ?こーちゃん起きてんじゃん!よかったー、全く起きないから心配してたんだぜ」

「わわわ、ケ、ケンちゃん!?」

「ん?どうした?熱でもあんのか?」

「いや、そういうわけじゃないけどっ」

「うーん、うるさいわね…」


 二人の騒ぎようにうるさかったのか、目をこすりながら起きる。


「おっ、朱雀ちゃんも起きたのか?おはよう!」

「あんた誰?」

「おいおい、三日も一緒にいたのにまだ覚えてくれてないのかよ」

「え…………………っと」

「賢次だよ!」

「ああ、そうそうケンジ」

「寝ぼけてるのにも程があるだろ」

「昔っからそうや、その女は」


 白虎も姿をあらわす。

 格好は何故か白い虎柄のチャイナ服だった。


「あっ、白虎。おはよー」

「おはよー、やないでまったく…。どうなることかホンマ心配したで」

「ど、どういうことですか?」

「いやな?話せば長くなるんやが…」







 自然公園の木々は燃え盛り、辺り一面は炎の海と化していた。


「グオオおォォオオアアあアアぁァッッッッ!!!!」


 事態の元凶の人物は咆哮しながら悶え苦しんでいる。

 巨大な炎の翼を生やし、翼からは生命の嘆き、哀しみ、苦しみの声が聞こえてくるようだ。


「こーちゃん…!」

(かなりヤバイ状態やでっ!)

「夏樹もいるのか!?」


 そばには夏樹が倒れている。気を失っているようだ。

 燃えた木が夏樹に向かって倒れてくる。


「危ないっ!」


 夏樹を助けに駆け込む。


「グアアアアアアアア!!!!」


 賢次に気づいたのか、我を忘れた浩介は巨大な炎剣を片手で横凪ぎしてくる。


「っ!?」


 咄嗟に炎剣を避け夏樹を救出し、炎の化身と化した浩介から離れる。

 浩介はその場でうずくまり苦しんでいる。

 熱さにやられたのか夏樹は滝のような汗をかいていた。


(あかん、このままだとこの子も危ないで!)

「くっ!土壁結界!」


 賢次は念じて土の壁を造り上げる。


「夏樹には悪いが、こーちゃんを止めるのが先だ」

(まっ、しゃーないわな)

「なあ!どうしたら止められる?」

(…かなり難しいわな。うちらも試したことないが……最悪死ぬで?)

「それでもいい!」

(……わかった。今から言うことしっかり聞き)



「グゥッ、ウうあアアア…!」

(ぐぅっ!もっ、もしかして私にも、影響が出てる…!?)

「グッ、ガはッ」


 うずくまったまま口から吐血する。


(体内にまで変化の影響が起きてきてる!?ぅぐっ!こっ、これはもしかしたら…。この人間との、きょっ、共鳴で、新しい幻獣に進化しようとしてる…!?)


 様々な魂の輪廻転生を見てきた朱雀にとって、それは初めての経験だった。

 生物は進化する。だが、進化とは長い年月を経てそこの暮らしや環境にあわせて変化していくものだ。

 一生をかけて出来るものではない。

 しかし今、この人間は朱雀と憑依した事により進化しようとしてる。

 それは通常ありえない事だった。


(ま…、まさか………)


 今の現象から一つの結論に達する。

 それは朱雀たち幻獣が人間から恐れ、崇められた存在であっても決して到達できない存在。


(神………)


「うおおおおおおおおおおおおお!!!!」


 目の前に白髪の男が襲いかかってきた。

 賢次だった。

 賢次は炎で燃え上がる浩介を思い切り抱き締める。

 その行為は火山から噴火した石を抱き締めるのと一緒だった。


「ぐあああああああああああああああああああああっ!!!!!!」

(ちょっとの辛抱や、ケン坊!!!)

(あ、あんた白虎!?なんで!!?)

(さっきうちらのこと攻撃したやろが!なに、今気づいたようなことぬかしてんねん!!)

(そんなことより、なんでこんなことしてんのよ!!)

(あんたのパートナーに憑依するためや!)

(憑依!?あんたなに言ってんのよ!!?)

(いいから黙って聞きぃ!!うちがあんたのとこにちょこっと入り込む。当然魂が共鳴できんから、中で反発作用が起きるやろう。その拍子にあんたが憑依解除するんや!)

(そ、そんなことできるわけが)

(とりあえず今はそれしか方法が考えられんのや!早くしないと皆大変なことになるで!)

(そうは言ってもあんたのパートナーが!それに何が起きるか、ぅぐっ!うああああああ!!!!)

(まずい!!あんたも同化しかけてるやん!!?)


 公園は地獄と化していた。

 朱雀を含めた三人は悲鳴をあげている。

 木は焼かれ、鳥や虫たちは逃げ出し、今になって異変に気づいたのか遠くから何台もの消防車が来る音がする。


(ええい!憑依するでっ!!)


 瞬間、二人の身体から光が放たれる。

 光が収まると、そこには四人の男女が倒れていた。







「そ、そんなことが…!?」


 今の話を聞き、すっかり身体が治った浩介は驚いていた。


「いやー、大変だったぜ?正直死ぬかと思った」

「そ、そんな…、そんな軽く言えることじゃないでしょ!?」

「まあ、ええやん。皆無事やったんやし」

「ええっ!?」

「そうそう。皆無事だったんだから問題なし!」

「えー」

「それに、そのあとも大変やったんやで?」

「そうそう。白虎が俺たち四人を抱えて人の目を潜り抜けて逃げてくれたし、俺んちは大家族だから一先ずこーちゃんちに行かなきゃならなかったし」

「四人?」


 その時夏樹の存在を思い出す。


「そういえばなっちゃんは!?」

「あの女なら今家で寝てるわよ」


 朱雀はぶすっとした態度で言う。


「夏樹もあの日のことが相当ショックだったのか、まだ起きてないんだ」

「…なっちゃん」

「まっ、夏樹のことなら心配いらないさ。あいつはああ見えて強いやつだ。どうせ明日には起きてくるさ」

「で、でも親とかが」

「大丈夫大丈夫。夏樹の親御さんにはすぐに良くなるからって伝えたし」


 本当はかなり真剣に心配させないように伝えてたが、それは浩介には言わないでおく。


「まあ何はともあれ腹減っただろ?何か食うか?」


 そう言われるとお腹が空いてる気がする。

 何せ三日間も寝てたのだ。


「そうだね。じゃあ僕が何か作るよ。みんなにはお世話になったし」

「ねぇあんた」

「…?」


 見ると朱雀がにらんでいる。


「えっと…、な、何?」

「何?じゃないでしょ。一言言うべきことがあるでしょ」

「あっ、そ、そうか。…ごめんねみんな。助けてくれてありがとう」

「違う」

「えっ?」

「こんな奴らのことなんてどうでもいいのよ。助けていただきどうもありがとうございました朱雀様、でしょ?」

「えーっと」

「おいおい、そんな言い方はねぇだろ」

「全くやで、毎度毎度そうやけどあんたのその態度はかなり…」


 そこまで言うと白虎はあることに気づく。

 思わず笑みがこぼれ出す。


「なによ白虎。気持ち悪いんだけど」

「まあまあまあ。ええんやないの?コーチンはそんぐらいのことを言ったげても」


 いつの間にか白虎から新しいあだ名をつけられてる。


「なにあんた。珍しく賛同するわね」

「まっ、しゃーないやん?だって、あんたは四六時中つきっきりでコーチンの側で泣いて看病してたもんなぁ」

「えっ!?」

「あっ、あんたバカ!?別にあたしは泣いてなんかないわよ!」


 白虎は賢次の脇腹を軽く小突く。

 賢次も気づいたのかにやけた顔で。


「でも四六時中は本当だよなあ?」

「そおそお」

「ええっ!?」

「ウソよウソ!ウソっぱちよ!」

「いや、嘘ついてねえし」

「そおそお!あんたがあまりにもコーチンの側を離れようとしーひんから、うちも今まであんたに対してあった殺意がどっか行ってもーたし!」

「えええええっ!!?」

「そんなことあるわけないでしょ!!!私が看病してたのは、…そう!わっ、私の"浄化の炎"の効き目が弱くなったのかなあって」

「「ふ〜〜〜〜ん」」

「本当だってば!!」

「そ、そうなの…?」

「あんたもなんで顔赤くしてんのよ!?違うって言ってるでしょ!」

「まっ、そういうことにしといたるわ」


 日頃の鬱憤をはらしたのか白虎は大笑いし、賢次もつられて笑っている。


「う゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

「あ、あの、朱雀?…本当にありがとう。朱雀がいなかったら、そもそも僕となっちゃんは生きて帰れなかっただろうし…」

「これと言うのもあんたが中々起きなかったのが悪いのよーーーーー!!」

「ええええええええ!!!!?」


 朱雀は浩介の話しを聞かず、そのまま憤りをぶつけた。

 ぶっちゃけとばっちりだった。

 家の中で走り回る二人。

 一見すると楽しそうに見えるが、本人たちはいたって本気だった。


 朱雀が四六時中浩介のことを看病していたのは、本当のことを言えば心配だったからだ。

 だがそれは、あの日暴走し、浩介という人間が未知の力を秘めていて危ないことがわかったからだ。

 いつその前兆が起きるかわからない。

 だから心配だったのだ。


(可愛い…で……す)


 かつて、可愛いと言われたことを思い出し、ついカッと赤くなる。


(なんなのよもうっ!本当にそんなんじゃないんだから!!)







「はっ、はっ、はっ!!」


 夢の中で夏樹は恐怖から逃げていた。

 恐怖の正体は人間の姿をした犬の化け物だった。

 何かに躓いて転ぶ。

 何かの正体は大量の眼球だった。


「いやああああああああああああっっ!!!?」


 その場から逃げようとするが身動きは取れず金縛りになる。

 化け物は息を荒くしながら夏樹の元へと近づいてきた。


「誰か助けてよお!!!」


 辺りは炎にまみれていき、犬の化け物や目は消えて無くなっていった。


「………こーちゃん?」


 そこにいた人物は幼馴染みの少年だった。

 服や髪型は変わっていたが夏樹にはわかった。

 近づいてきて夏樹を優しく抱き上げる。


「わわっ、こ、こーちゃん!?」


 浩介の顔を見ると優しげで穏やかな表情だった。



「そそそ、そんな顔したらダメでしょっ!こーちゃん!!?………あれ?」


 ベッドから起きる。

 ぬいぐるみやマンガを入れてある本棚がある。

 そこは夏樹の部屋だった。


「夢…かぁ」


 夢にしては随分と鮮明でリアルに感じた。

 犬の化け物のことを思い出す。

 思わず身震いする。


「…」


 あの時感じた恐怖はとてもじゃないが、夢とは思えなかった。

 でも現実に起こったことかと言われたら信じることも出来なかった。


「こーちゃん」


 夢で助けてくれた人物を思い出す。

 その表情は、いつもの可愛くどこか頼りない雰囲気とは全く違っていた。

 頬が赤くなっていくのがわかる。


「えーー?まっさかー?」


 今自分が抱いてる気持ちにはっきりと認めることができない。

 浩介は幼馴染みで親友だ。それはこれから先も変わることはないだろう。

 だが少女は少年の顔を思い出すだけで顔がにやけていく。


「違うよ?決して好きとかじゃないよ?…多分」


 部屋の中で一人、誰にかけるでもなく、そう呟いた。


「…顔洗ってこよ」


 部屋を出て、洗面所に行く。

 親は出掛けているのか、いなかった。

 鏡を見ると髪はボサボサで涙を流しすぎたのか、荒れていた。


「うん、やっぱりシャワー浴びるか」


 シャーーーーー


 身体を洗う時、ふと自分の身体つきを見る。


(決して悪くはないと思うんだけどねー)


 どちらかと言うと、標準よりいい身体つきだ。

 出るとこは出てるし、スタイルも悪いというわけでは決してない。


「も、もしかして小さいほうがいいのかな…!?」


 誰に対しての好みのことを言っているのかはこの際もういいとして、勝手に落ち込んでいる。


「恋、ですね」


 突然声をかけられてびっくりする。


「誰っ!?」


 背後を振り向くが誰もいない。


「ここですよ、ここ」


 声は足下からした。

 見ると一匹の亀がいた。


「初めまして、私の名は玄武。魂の共鳴により参りました」

「………」


 亀がしゃべっているので頭が真っ白になった夏樹だった。

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