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おひるやすみ

 お昼を告げるチャイムが鳴り、授業から解放された学生たちが購買や食堂に駆け込む。

 2―1の教室には十数人の生徒たちが、いくつかのグループに別れ昨日のTVの話題やファッションについて花を咲かせている。

 そんな中、鈴木浩介は机に突っ伏してぐったりとしていた。

 あの後朱雀に、ご飯作らないと今度は火炙りにするわよっと脅されて嫌々朝食を作ったのであった。

 結局学校についたのは二限目終了ぎりぎりだった。


「ぐったりしてるねー、こーちゃん」

「なっちゃんおはよー」


 力なく返事をする。

 声をかけてきた少女、なっちゃんこと野澤夏樹は浩介の幼馴染みだ。

 幼稚園のころからの知り合いでよく一緒に遊んでいた。


「珍しいよね。こーちゃんが遅刻するなんて」

「はは、ははははは。そうだね~」


 まさか伝説の生き物と会って死ぬような目にあったとは言えない。


「ん?こーちゃんなんか隠し事してない?」

「えっ!?」


 突然の指摘を受け思わずびっくりする。


「ど、どおして?」

「ふっふーん。こーちゃんとケンちゃんのことなら何でもわかるんだから」


 自慢気な顔で話す夏樹。


「べ、別に隠し事なんかしてないよ」

「そぉ?んーなんか怪しい」


 その目はいかにも疑ってますといった感じだ。

 夏樹の顔が近づき思わず浩介は赤くなる。


「あっ。赤くなったー!んふふふー、こーちゃんたらすぐ顔が赤くなるんだから」


 そう言って頭をなでなでする。まるで可愛いペットのような扱いだ。

 恥ずかしさと嬉しさとちょっぴり悔しい思いで何とも言えない気持ちになってくる。


「むー」

「で、どおなの?お姉さんが相談に乗ったげるからっ♪」

「言えないよ、そんなこと」

「む?言えないようなことなの?…はっ!?さーてーはー」

「えっ…、な、何……?」


 何かに気づいたのかニヤニヤする夏樹。

 その様子を見てたじろぐ。


「女の子関係だっ!」


 ズビシッと一差し指をつきつける。


「「「「「「「「ええええええええええええ!!!!??」」」」」」」」


 二人の会話を聞いていたのか、女子たちは驚き浩介たちのもとへ走り寄る。


「えっ、浩介くん彼女できたのぉ?」「誰々ぇ?」「あーん、先越されちゃったー」「まさか浩くんがねぇ」「相手はだれなのかな~?」「多分一年の園原カレンじゃない?」「ああ、あの御嬢様の?」「あの子可愛いのに目がないからねー」

「えっ、いやそのぉ」


 矢次早に質問され目を白黒させる浩介。


(ちっ、まぁた始まったよ)

(うぅ浩介ばっかりぃ)

(………殺す)

(モテモテでいいっすねー)

(リア充死ね)

(浩介君ハァハァ)


 浩介の周りで騒ぎ立てる女子たちを見て、男子たちは怨念を込め睨み付ける。中には変なのも混じっているが。


「こらこら諸君。こーちゃんに質問したかったらマネージャーのあたしを通してからにしなさい」


 勝手な事を言う夏樹。


「別に浩介くんは夏樹のものじゃないでしょー」

「いーいーのっ。こーちゃんとあたしは幼馴染みなんだから」

「それ理由になってな~い」

「で、誰と付き合っちゃった感じ?」

「いや、付き合ったりとかそういうのじゃなくてっ」

「えっ?やっぱり相手とかいるんだー!」

「ちちち違うよっ!?全然そういう意味じゃなくて!」


 慌てて否定するも夏樹を含めた女子たちは黄色い声をあげて興奮している。


(だっ、誰か助けて!?)


 男子に助けを求めるが


(ちっ、勝手にやってろ)

(浩介いいなー)

(………絶対に殺す)

(なんてーの?不公平ってゆーか、そんな感じ?)

(リア充市ね)

(浩介君ハアハアハア)


 助けを求めようにも仲間がいない事を悟った浩介はかなり追い詰められているのに気づく。


「ふふふ。そろそろ年貢の納め時だねぇ、こーちゃん」


 眼を光らせながら手をわきわきと握り浩介に近づいてくる。


「ち、ちがうって言ってるのにぃぃぃぃぃ!」


 女子たちの隙間からぬい出て慌てて教室から退散していった。


「あちゃー、やりすぎちゃったかー」

「浩くんかわいそー」


 本心はあまり可哀想とも思っておらず、それぞれが先程の会話から相手を予想したりと気楽に話していた。

 あくまでペットの扱いな浩介なのであった。







「はぅぅ、ひどいや。みんなして僕をからかって」


 勢いで教室を飛び出し衝動のまま走り回ったのか校舎の裏口まで来てしまった。お昼ということもあって人気は無い。


「―から―――やね―」

「―ジか――オレ――――」


「あれ?」


 木々と茂みの中から、隠れるようにして二人の男女の声がした。


(あっ、ケンちゃんだ)


 そこには浩介のもう一人の幼馴染み、前田賢次が立っていた。

 賢次は浩介とは対照的に野性的な格好良さを持つ少年だ。

 普段は明るく皆を笑わせてくれる彼だが、今は深刻そうな顔をしている。


(何話してるのかな)


 聞き耳をたてようとするが直ぐに思いなおす。


(いけないいけない。いくらケンちゃんと仲が良いからって盗み聞きはまずいよね。告白、とかかもしれないし…)


 立ち去ろうとした時だった。


「誰やっ!」

「えっ!?」


 茂みの中から何かが飛び出し浩介に覆い被さるように襲いかかってくる。

 倒れこみ、頭を地面にぶつけた痛みを感じながら眼前を見上げた。


「グルルルルル」

「と、虎あ!?」


 目の前にいたのは白い虎だった。体長は浩介とあまり変わらないぐらいの大きさだが、それでも虎である。唸りをあげて浩介を睨みつけている。


「なんだこーちゃんじゃん」


 虎の背後から聞きなれた声がした。賢次だった。


「ケケケケケンちゃん!これ一体どういうこと!?」


 本日何度目かわからない驚きの顔を表して賢次に理解を求める。


「なんや、ケン坊の知り合いなんか」


 虎の口から人間の言葉が発せられる。


「まさか幻獣!?」

「おー、坊主幻獣知っとるんか」

「えっ、何?ケンちゃんも幻獣いるの!?」

「ケンちゃんもって、こーちゃんもいるのか?」

「おっ、坊主。誰が相手なんや?早よ教えんと噛みついたるで」

「わわわ。教える!教えるから!だからちょっとどいてよ!」

「おっと悪いな」


 浩介の身体から離れる虎。虎の姿のままじゃ誰かが通った時まずいと思ったのか人間に化ける。虎の周囲に砂埃が巻き起こり、中から短髪で白い頭髪をした女性が現れた。一見すると女子大生みたいな顔立ちをしているが、何故かここの学校の制服を着ている。カモフラージュのためだろうか。


「へー、まさかこーちゃんにも幻獣がいるなんてなあ」

「ほら早く教えんと、痛い目にあうでぇ」

「いじめるなっ」


 虎の頭をゲンコで殴る賢次。


「っ痛ぅー。乙女を殴るなんて、ケン坊をそんな風に育てた覚えはないで」

「オレだって育てられた覚えはねーよ」

「ふぅぅ、そんな反抗的やなんて!二人はあんなに愛しあったというのに!」

「なぁにホラ吹いてんだよ。オレたち人間で言ったらババアのくせに」

「ババアとはなんやババアとはーー!!」

「あ、あのー」


 二人のやり取りにすっかり取り残された浩介は弱々しくたずねる。


「おっと、自己紹介がまだやったな。ウチの名は白虎。西方白虎や。特技は土を司ることで、逆上がりが得意や。趣味は散歩と縁台で茶あすすることやなー」


 白虎

 朱雀と同じ四神の一つで、西の方角を司る霊獣。四神の中では最も高齢の存在であると言われている。



「ババアじゃん」

「いいやん!?散歩が趣味なんはっ」

「散歩が趣味ってのは理解してやってもいいけど、縁台で茶をすするのはどうかと思うぞ?」

「うう、今期のパートナーはいちいち細かいわ」

「お前がツッコミどころ満載だからだよ」

「…」


 再び取り残される浩介。

 

「ほらまたこーちゃんを一人にしちゃった!」

「ああ、そやった!」

「で、相手は誰なんだよ?」

「ええっとぉ」


 言っていいものかと迷うが、相手は自己紹介までしてくれた。


「えっと、朱雀さんです…」

「(ピクッ)」

「えっ!?朱雀ってあの朱雀か!?」

「うん、その朱雀」

「おい、聞いたか白虎っ。お前の仲間じゃん!」


 喜んで白虎の方を振り返るが白虎は下を向いてぶつぶつと呟いている。


「あれ、どうした?」

「…まさか、あの朱雀が復活したやなんて、殺す。今度の今度こそ殺したる」


 何やら物騒な事を呟いている。


「あのー、白虎さん?」

「ってかアイツ死なないやん。いや、待てよっ。アイツの体温を上回るほどの冷気を与えればもしや。あっ、でもそれ前やって失敗したし」


 あーでもないこーでもないと考えを張り巡らせる。その時昼休み終了のチャイムが鳴る。


「やべ、もうこんな時間か」


 慌てた様子で教室に戻ろうとする。


「おーい、白虎ぉ!俺が戻るまであんまウロチョロすんなよぉ?」


 ぶつぶつと話しを聞いてない白虎。


「まっ、大丈夫か」

「いいの?」

「大丈夫大丈夫」


 勝手に納得する賢次。信頼してるのかあまり気にしてない様子だ。


「なんで白虎さんは学校に来てるの?」

「んー?なんか学校に一度でいいから来たいってうるさくてさ。部外者だってバレないように制服まで着ちゃうし」

「ケンちゃんが用意したの?」

「まさか。あいつが変身、ていうの?なんて言うか身体にいきなり砂がまとわりついて制服に変化させたんだよ」

「へー」


 どうやら幻獣には、それぞれの種族や属性によって様々な能力を持っているらしい。


「学校は堪能してくれたのかなぁ?」

「ああ、まぁしたんじゃね?…まぁ、それだけじゃないんだけど」

「え?」

「いやっ、何でもねぇ」


 先程茂みで話していた事を言っているのか、賢次はそれから無言になってしまった。

 その様子を見て浩介も気を使って黙る。

 二人はそれぞれ別の教室に向かって入って行った。

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