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ばーにんぐがーる

 チチチチチチチチチチ―


 目覚ましの音が部屋全体に鳴り響く。

 

「うぅん」

 

 体を起こし瞼をこする。

 眉間に痛みが残っていたのかズキンと音がした。


「夢じゃなかったんだ…」


 部屋の中を見回すとガラスの破片と昨夜突然侵入してきた鳥が眠っているのを確認する。

 陽の光りが割れた窓から差し込んでいる。


「なんだかなあ」


 足下に気をつけ目覚まし時計をとめ部屋を出る。

 階段を降りると父良介がネクタイをしめていた。


「おはよう。父さん」

「おお、おはよう」


 浩介の家は父子家庭だ。

 母親は浩介が小学2年の時に交通事故で亡くなり男手一つで浩介を育ててきた。

 仕事で多忙な父親に少しでも負担を与えないよう、中学に入ってからは家事は浩介が行うようにしてきた。母だけでなく、父も過労で倒れてほしくないという浩介なりの心遣いだった。


「いやぁ、昨日の衝撃音はすごかったなぁ」

「そ、そうだね」

「またお隣さんがヒステリックでも起こしたのかな」


 お隣さんとは新婚3ヶ月目の夫婦だ。

 旦那さんはそうでもないのだが、奥さんがいささか癇癪持ちでよく喧嘩をする。それも理由は大したことではなく聞くと馬鹿馬鹿しいことばかりだ。


(まるで誰かさんみたいだ)


 上でまだ眠っている鳥とお隣の奥さんを比べて心の中で深く溜め息をつく。

 幸いお隣さんがいなかったら、昨日のごまかしは効かなかっただろうがそれはまあ結果オーライというやつだろう。


「朝ご飯作るよ」

「いや、もう出る」

「もー、ダメだよ父さん。朝ご飯ぐらいはしっかりとらないと」

「大丈夫。寝る前にリポDとってるから」

「いやいやそういう問題じゃなくて」


 良介は「じゃあ、行ってくる」と言い家を出て行った。

 最近良介は出張続きで家にいることが少なくなった。

 父に負担を与えまいと頑張っているが、最近微妙に距離を感じて寂しさがある浩介だった。


「それも仕方ないのかなぁ…」


 朝食の準備をする。

 今朝はベーコンエッグとパンだ。

 バターの良い香りが部屋を包んでいく。


「いい香りじゃない人間」


 いつの間に起きたのか後ろの方から鳥の声が聞こえる。


「ああ、ごめん。君の分も作らないとだね。―――――って」


 浩介は固まった。全身が硬直したのだ。

 そこには赤い長髪をした女の子が全裸で立っていたからだ。


「え、え、ええええええええええええええええええ!!!!!!????」

「うるさいぞ人間っ」


 女の子は手のひらから炎の球を出し睨みつける。


「ちょちょちょちょっと待って!ななななんで人間の格好してるの!?というかなんで裸なの!?」

「うっさい」


 炎の球を顔にぶつける。容赦なかった。


「あっちーーーーーーー!!!!熱い!!!!熱いよこれ!!!!!!」


 昨日の"浄化の炎"と違い、今回の炎の球は普通に熱かった。

 慌てて顔を洗面台に突っ込み水をかける。

 幸い軽い火傷で済んだ。


「まったく。私のことうるさいうるさい言っときながらあんたのほうが百倍うるさいじゃないの」

「いや、でっでも」


 顔に煤がつきながらまだ驚きを残す。

 浩介の狼狽ぶりを見ながらあることに気づく少女。小悪魔な表情を浮かべながら


「はっはーん。さてはあんた私の裸を見て欲情したんでしょ?ホンッとダメな人間ね」

「ちち違うょ!ただ、驚いたっていうか…」

「言い訳しないの。ほらっ、認めなさいよ。ダーメにーんげーん」


 そう言いながら浩介のもとににじり寄ってくる。


「いや、ちょっ、やめてください!」

「あんたがダメ人間て認るまでやめなーい。ほらほらぁ」


 少女との距離が徐々に縮んでいく。パニック状態になった浩介はついに降参した。


「認めます!認めますからこれ以上近寄らないでくださーい!!」


 浩介の態度に気を良くしたのか更に追い討ちをかける。


「ふふんっ。じゃあ、昨日はうるさいなんて言ってすみませんでした。わたくしは史上最低なダメ人間ですので許してくださいって謝りなさい」

「えええっ!?」


 少女の顔は目と鼻の先にある。

 先程焼いていた目玉焼きは既に焦げていたが、テンパっていた浩介にはそんなことはきづかなかった。

 頭が沸騰していて何が何やらわからなくなっていた。


「…………か」

「か?」

「可愛い…で……す」


 沈黙が訪れた。

 自分が何を言ったのかわからず、ただ顔から湯気を出していた。


「ばばばばば馬っっ鹿じゃないのっっっ!!!!!?」


 少女も予想外の事を言われたのか顔を真っ赤にしていた。


「えっ?…はっ!?僕は何て事を!!?」

「ああああんたねぇっ!わたっ、わたしが聞きたかったのは、そっそんなことじゃなくて、あんたがダメ人間て言葉が聞きたくてっ!」

「あああのっ、その、すすすいません!でも僕どうしたらいいかわからなくて!!それでつい!!!」

「つつつつついじゃなななないわゅよ!!ここ殺すぅっ!!!」


 少女は先程より数倍大きな炎の球を出し浩介の全身を燃やしていく。


「ッッギャーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!!!!!」







 全身消し炭状態になっていた浩介はしばらくその場でピクピクと痙攣して放置されていたが、流石にやりすぎたと反省した少女は"浄化の炎"で治療した。

 今更ながら裸の状態はよくないと改めて思ったのか、少女は全身に焔をまとわりつかせ服を形成させていく。

 紅いTシャツにジーパンといったラフな格好だ。


「…で、君は一体何者なの?」


 "浄化の炎"により、疲れは無いはずだが、精神的にぐったりとした様子で尋ねる。

 先程の出来事でまだ戸惑いが残っているのかそわそわしながら少女は答える。


「わっ、私はフェニックス。パートナーであるあなたに会いに来たのよっ」

「……………………へ?」


 一瞬何を言われたのか理解できなかった。


「へじゃなくてフェよ、フェ」

「いや、そういう意味じゃなくて」

「まぁ、他にも朱雀や鳳凰、火の鳥って一くくりに言われてるけど、どう呼んでくれても結構よ」



 フェニックス

 エジプトや中国など様々な神話に登場する火の精霊。四神や四霊の一つで永遠を生きる不老不死の象徴とされる。眷属に迦楼羅(ガルーダ)がいる。


「私たちは幻獣と言って人間たちが崇める神様の存在と言われているわ。実際は伝説でも何でもなく実在してる生物なんだけど、普段は自然の景色や空気、石なんかに化けているわ。で、何百年、何千年に一回生物のもとに現れるの」


 淡々と自分たち幻獣のことを話す。どうやら幻獣とはこの少女の他にも存在するらしい。


「えっと、そのフェニックスさんが僕のところに何しに来たんですか?」

「だから言ってるでしょ。あんたは私のパートナーなんだから会いに来たんだって」

 今いち理解できないでいる。先程から起きている現象や説明を理解しているわけではないが。


「君が、えーっと、フェニックスって事は百歩譲ってさっきからの炎で良くわかりました。で、」

「言いにくかったら朱雀で良いわよ」

「あっ、はい。で、パートナーって言ったけどどういう意味なんですか…?」

「そのままな意味よ。私とあんたは魂の共鳴でパートナーになったの」

「魂の共鳴?」

「魂の導きによりあんたは生まれた瞬間に私との契約は決まってるんだけど、ある時期に決まったタイミングで決まった動作をしたら幻獣とパートナーの共鳴が始まるの。それが魂の共鳴と言われているわ」

「僕そう言われても特に何もしてないんだけど…」

「昨日私が来る数分前何をした?」

「えっと、1時すぎになったから電気を消して布団に入って寝ようとしただけだけど」

「その瞬間に私とあなたは共鳴したのよ」

「えっ、たったそれだけで!?」

「普段何気ない動作って言ったでしょ?あんまり難しいのにすると契約した意味が無くなるじゃない」

「はぁ」

「まあタイミングを逃したら私が来ることは無かったんだけどね。もっと遅く寝たりとか」


 そのタイミングが良かったお陰で、窓ガラスは吹っ飛び全身が丸焦げにされたりするわけだが。


(あっ、そうだ部屋掃除して窓ガラス買わなきゃ)


 そんな風に物思いにふけながら時計を見る。

 AM 08:40。


「……」


 ちなみに浩介の通う学校は夜間制でもなんでもなく普通の公立校だ。


「ねー、お腹が空いたんだけど~」


 何もわかってない朱雀は呑気にお腹の具合を訴える。だが、その主張は浩介の耳に届いてなかった。


「ち、」

「…ち?」

「遅刻だーーーー!」



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