七不思議:リカの人形 in 〇〇室 (雛子・明雄・その他)
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少しして(雛子視点)
人体模型ガチ勢なお化け少女を振り切ったアタシとアッキーの2人は、廊下をダッシュで逃げ回ったのち、偶々開いていた職員室へと飛び込んだ。
そして中から施錠して、しばらく様子をみた後、リカが追ってきてないと判ると、2人で壁際にへたりこむ。
「はぁ、疲れたぁ」
「もぅ、さいあくぅ。アタシの5500円ん~!」
ドタバタの中で、消臭スプレーを落としちゃった。アッキーにお金借りてまで買ったのにぃ!
「そう落ち込むなよ。帰ったらまた俺が買ってやるから」
と、アッキーがさらっと衝撃発言!
「マジ!?5500円だよ?津田梅子一枚とワンコインだよ!?」
「あぁ、そうだよ。この間、オカンの実家に行ってきて、婆ちゃんに渋沢栄一、恵んで貰ったんだ」
「アッキーがボサツサマに見えるよぉ」
そうそう、アッキーって昔っからアタシを助けてくれてたんだよね。
頭も要領も悪くて、同級生にいじめられてた私を、わざわざ隣のクラスから助けに来てくれた。
勉強も教えてくれたし、いじめられないように力つけろって、スポーツジムを紹介してくれたし。(紹介してくれた本人は、早々とリタイアしたんだけど)
それに、本当は美術部が良かったのに、アタシが顧問のマントヒヒ(本名忘れた)に嫌われてるの知って、諦めてくれて。漫画研究会も、揉めたのはアタシ独りだったのに、ついてきてくれた。
いつだったか、「なんでそこまで?」て聞いたら、
「別に、お前のためじゃねーし。お前が泣いてる横で絵ぇ描いても、なんかグチャクチャになるんだよ。だから、俺のたーめ」
なんて、顔真っ赤にしてツンデレしちゃって。
……、……うん、解ってる。このままじゃだめだって。
だから決めた!ここから出たら、空気読めるように訓練する!そして、アッキーに恩返しのチューをしてあげるんだ!
そのためにも、『クサカミ・アヤメ』を退治しないと。
そしてアタシ達は、職員室を探索し始める。
旧校舎って、もう何年も前から使って無いはずだから、職員室も空っぽだと思ってた。けど実際は、まるで昨日まで使っていたように、教材や文房具がたくさん残っていた。
ただし、
「平成1x年って、20年前の日付だぞ」
「こっちも。もしかして、タイムスリップ?いやそれよりは、『クサカミ・アヤメ』が再現した、の方が正しいのかな?」
机の上にあるカレンダーや書類ファイルは、全部年号が平成、しかも、ちょうど世紀を跨いだ時期のもの。
「あぁ、年号がぁ、変わってるぅ」
「今の状況とは違う方向に怖いネタだからやめろ!!」
「もぅ、判ってるよ。チョサクケンチョサクケン……。それにしても、『20年前』かぁ」
その言葉に何か引っ掛かりを覚えた。
「……、そうだミヤマッチ!たしか20年前は、ここの生徒だったんだよね?」
「あぁ、だから七不思議の載った部誌のバックナンバー持ってたんだよな。あ、ついでに思い出した」
「なんぞいや?」
「確かその頃、生徒が1人事故死したって、先輩から聞いたことがあるんだよ。もしかしたら、それが『クサカミ・アヤメ』かも」
「事故死……。あ、もしかしてこれ?」
アタシはついさっき置いた新聞をもう一度拾い、アッキーに見せる。(どうでもいいけど、職員室にも新聞って置いてあるもんなんだね)
地方紙なのか、その記事は一面に載っていた。
『女子生徒 窓から転落死
事故と自殺の両面で捜査
8月13日午後4時頃、ハザマ市内の県立高校で、女子生徒が校舎3階にある教室の窓から転落し、病院に搬送されたが、まもなく死亡が確認された。
死亡したのは、同高校の3年生、照山紅葉さん(18)。照山さんは文芸部に所属しており、部活で発行する部誌の制作中だったとみられ……』
記事の隅には、亡くなった女子生徒の写真があった。
髪は短いスポーツカット、文芸部より陸上部って方がしっくり来る顔だ。
でも、気になったのはそこじゃなくて。
「『テルヤマ・モミジ』……『クサカミ・アヤメ』じゃない?」
「みたいだな。(ぺら)他に女子高生が殺されたり死んだり、って記事は無いな」
「じゃあ、『クサカミ・アヤメ』は、ホントは死んでない、てこと?」
「うーん、この『照山紅葉』のペンネームって可能性はどうだろう?」
ヒントは見つかったけれど、これだけじゃ足りない。やっぱ、ホラーゲームみたく、あちこち探さないとダメっぽい?
ツンツン
と、なぜか突然、後ろから肩をつつかれる。
「何よアッキー、考え事してんだから、後で見せて」
ツンツン
「だから、後にしてってば!」
ツンツン
「もうっ!しつこいな!」
「ヒナ?さっきからなにわめいてるんだ?」
と、アッキーは向かいの机を調べながら、怪訝そうにアタシを見返していた。
……え~、と言うことは?後ろのツンツンは……
―あんだだぢぃ、よぐもあだじのがおをやいだばねぇ―
焦げ臭い匂いと黒い煤煙を身体から発した『リカ』が、アタシのすぐ後ろにいた!
「キャアアアア!でたぁ!?」
「ヒナっ!こんにゃろう、『リカ』なら理科室に引っ込んでろ!(ブンッ!)」
アッキーがB4サイズの大きなファイルをぶん投げ、それが『リカ』の燃えてない方の顔面に直撃した。
―ギャアアアア!?―
『リカ』は悶絶しながら、アタシから離れ、床に転がる。
その隙にアタシはアッキーと一緒に、職員室から飛び出した。
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職員室前廊下
アッキーと2人揃って、廊下に転がり出る。
すると遠くから、聞き覚えのある声が届いた。
「雛子!明雄!」
顔をあげると、ホコリまみれになったイズモッチが、こちらに駆け寄って来た。
アッキーも私も、バケモノの後の顔見知りとあって、我先にという勢いでイズモッチにすがりついた。
「イズモッチぃ!!」
「ここやベェよ!マジでヤベェよ!!理科室で人形が、人形にしようとしてきたんだよ!」
「人形がなに?落ち着いて!……ねぇ、他の3人は?」
あたりを警戒しながら戸惑うイズモッチに、アタシは泣きじゃくりながら、頑張って伝える。
「えっぐ……わかんないぃ。気ぃついたらアッキーと2人で理科室に居てぇ、そしたら女の子と人体模型が襲ってきてぇ、そこに逃げ込んでもまた出てきてぇ!」
「っ!?」
イズモッチも別の七不思議に遭ったのか、すぐに察してくれて、アタシたちの後ろへファイティングポーズを取った。
けれど、いくら待っても火傷した女も人体模型も現れない。
「……大丈夫、もう何も居ないよ」
イズモッチがほっと一息ついて、私たちに告げた。
それが合図になって、アタシとアッキーはその場でつぶれた。
「ほんと?よがっだぁ~」
「はぁ、はぁ、も、もう限界」
アタシはすぐに復活できたけど、体力の無いアッキーは、床に転がったままになる。
するとイズモッチは、アッキーに呆れ顔を向けたあと、アタシに尋ねる。
「ねぇ、なんで職員室に逃げたの?」
「だって、ホラーゲームのお約束じゃん。職員室とか教室とか、入れる部屋にはヒントや便利アイテムが隠されてる、って」
「はぁ、ゲーム脳かあんたら。……で、何か見つかったの?」
すると、瀕死だったアッキーが飛び起きて、イズモッチに叫んだ。
「そうだ!大発見!『クサカミ・アヤメ』のヒント見つけたんだよ!」
「本当に!?」
「あぁ、ヤツは普通の幽霊や妖怪じゃない。それどころか……」
と、不意に廊下の奥を向いたアッキーが、言葉を詰まらせて固まる。
釣られてアタシも覗くと……1人の女子生徒が暇そうに壁へもたれて、ニヤニヤとこちらを横目にみていた。
漫研の資料でみた、ウチの学校の旧デザインのセーラー服を着て、スポーツカットな髪型……って、あいつ!新聞に載ってた顔写真!?
でも、イズモッチは親しげな雰囲気で、そいつを手招きした。
「あ、そうだ紹介するね。あの人も、私たちと一緒。この現象に巻き込まれた、3年生の照山……」
「テルヤマモミジィィ!?」
アッキーが叫んだから確定!アレは20年前に死んだ、ミヤマッチの同級生だ!
「「で、でたぁぁぁ!?」」
アッキーとアタシは同時に叫び、廊下の反対側へ猛ダッシュで逃げる。
「はぁ!?ちょっと何よ!先輩に失礼でしょ!!」
イズモッチが何か叫んでた気がするけど、アタシ達の脳みそには届かない。
廊下の奥に『保健室』が見えたから、アッキーとそこへ飛び込み、立てこもった。
「あぁ、ごめんイズモッチぃ!生きて帰れたら、お墓に栗どら焼き供えてあげるからぁ」
「なんで栗どら焼きなのよ!?そもそも供えるな!……ちょっと……開けなさいよ!」