エピローグ 前
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9月某日 午後
(東雲出雲視点)
七不思議『アヤメール』をめぐる事件から半月が経ち、今日から二学期が始まった。
あの日、『クサカミ・アヤメ』が消えてしばらくしてから、私達も謎の光に包まれ、気がつけば元のオカ研部室に戻っていた。(ついでに、行方不明だった私のスマホは、部室の床に落ちたままだった事も伝えておく)。
すぐに皆で確認したけど、届いていた『アヤメール』や私にかかってきた電話の履歴は、全て消えていた。
だけど、深山先生が花子さんの力で送ったメールは残っていて、あの旧校舎での体験が事実であった証拠になった。
だけど、『クサカミ・アヤメ』の痕跡の他に、消えたもの、いえ人がいた。
照山紅葉さん。
図書室で七不思議に襲われた私を助けてくれた恩人は、深山先生や私の両親の同級生だった。
そして20年前、『アヤメール』の物語を執筆中に、窓から転落して亡くなっていた。
思い返せば、色々と噛み合わないところがあった。
着ていた制服のデザインが違っていたり、スマホや十二国記シリーズのアニメ化を知らなかったり。
(あのアニメ、調べたら放送されたのは19年前。紅葉さんの死後だ)
兄の、『バカマキリ』というあだ名を知っていたのは、顔がそっくりな父と間違えていたから。
(あの日の帰宅後、お父さんにあだ名のことを尋ねたら、無言で部屋に籠ってしまった)
だけど、幽霊であっても恩人であることは変わらない。その恩人に、私はお礼を言えないまま、永遠に、会えなくなってしまった。
深山先生も、かなりショックを受けたようだ。
帰還した後、気丈に振る舞っていたけれど、その表情に差していた陰を、私は知っている。
それから、会う機会は一度だけあったけど、どう過ごしているのかは、よく解らない。
さっき始業式の席で見かけたけど、どこか上の空な様子だった。心配だけど、私達に出きることはない。
と、暗い話ばかりになってしまったけれど、もちろん、良い知らせもある。
『アヤメール』が原因と思われていた行方不明者達が、次々に見つかったのだ。
というか、実際に『アヤメール』に返信してしまい、『花子』さんに救出されていたのは、たった2人だけ。
残りは、ネット上の噂を利用して、借金取りから逃げたり、有名になる為に自分で隠れていたり、つまりは『やらせ』だった。
「まったく。人騒がせというか、自己中心的というか」
とは、バカマキリ改め八雲兄さんのコメント。
人は困難で成長する、とはよく言うけれど、兄さんは凄く成長した。
まず、あれほど絶体絶命だった部誌を、期限内にサクッとまとめあげてしまった。
おまけに、メガネをコンタクトに変え、名実ともにバカマキリを卒業したのだ。
他の皆もそうだ。
雛子は段ボールの上でサボらなくなり、主に明雄とコンビを組んで、部活にも積極的になった。
明雄も、雛子に勉強を教えながら、自分でも難しい参考書を調べ始めたという。
(ただ、部室内でイチャイチャするのだけはやめてほしい。おのれ吊り橋効果、リア充爆発しろ!)
日暮ちゃんは、何があったか解らないけど、名前へのコンプレックスを払拭できたらしい。あと、音楽に目覚めたらしく、いわゆるボカロPを始めた。
(なぜか兄さんと、やたら2人っきりに成りたがるのかは……うん、そこは詮索しない方がいいだろう)
そして私、東雲出雲はというと……。
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津城高校 部活棟 オカルト研究部 部室
「(カタカタカタカタ、タン)よし、終わり」
PC画面に表示された『投稿完了』の通知を眺め、私は姿勢を楽にした。
この半月をかけて、私は一つの物語を、ネットのアマチュア小説サイトに投稿した。
タイトルは、『奥津城高校 七不思議 完全版』。
そう、深山先生達が創りあげた七つの物語に、あの日紅葉さんが完結させた分を追加した完全版を、ネットの海へ投じたのだ。
兄さん達から聞いた話をまとめると、今回の事件は、『アヤメール』がネット上の悪意ある『言霊』に歪められた事で起きたらしい。
ならば、七不思議の本当の姿を表すことで、それを打ち消せるのではと考えた。
もちろん、亡くなった紅葉さん以外の創作者、両親や深山先生に許可は取ってある(先生に一度だけ会えたのはその件で、だ)
両親は事情を追及することはせず、快諾してくれた。まぁ、自分達が保管していた部誌を押入れから掘り起こして、ここはこうしろ、これは削除しろって、自分の黒歴史に七転八倒しながら注文をつけてきたけど。
深山先生も、二つ返事で許してくれた。そして、先生からも、一つの注文を受けた。
「『赤井花子』の出没スポット、トイレよりマシな所に変更してあげて」
と、いうことで、『七不思議その一』は、『トイレの赤井花子さん』から、『校舎裏の赤井花子さん』に配置替えとなった。
「お、ようやく完結かい?」
「あ、兄さん」
八雲兄さんが、パソコンを覗きにきた。
今部室にいるのは、兄さんと私の2人だけ、他の3人は私用で休みだ。
「ふむ……『言霊』、か」
ふと、遠くを見る目で、兄さんは呟く。
「うん。こんな事に巻き込まれなかったら、考えもしなかったね。言葉が、こんな風に人を傷つけるなんて」
ネッチケットとか、リテラシーとか、『人を不快にさせる行為はやめましょう』なんて、小学校の頃から飽きるほど教わってきた。
もちろん、自分から誰かに嫌がらせしたり、裏サイトに書き込んだりなんて馬鹿丸出しな事は、これまでしてこなかったし、そういうコメントや投稿に賛同することもしなかった。
でも、本当の意味で言葉の力、『言霊』の怖さを解っていなかったのかもしれない。
SNSで友達とやり取りを交わす時や、呟き投稿サイトを使う時、その場その時の気持ちや何かを、軽い気持ちで言葉にし、見直しもせずに送信ボタンを押していた。
でも本当は、言葉はそんな気軽に紡いでいいものじゃない、送信ボタンは、軽はずみに押してはいけないんだ。
言葉は物事を自由に表現できる、一つの言葉から何通りもの解釈を生むことができる。
でもそれは同時に、誤解やすれ違いを生むということだ。
言葉を紡いだ人間と、それを受け取った人間が、同じ解釈をするとは限らない。
特にSNSのような、短文でしか伝えられない環境では、たった一言でトラブルに繋がる。
そして、日常のやり取りですらコレなのに、ネット上には更にわざと誤解や欺瞞する言葉を発し、またそれを扇動する連中がいる。
―〇〇市の####って、**事件の犯人の親らしいぜ―
―逮捕された####って、芸能人の****にもクスリ売ってたんだって―
―##人は害悪だ!日本から追い出せ!―
デマ、フェイクニュース、迷信、ヘイトクライム。
悪意に満ちた言葉は、今日も電子の世界に蔓延している。
そして、そこから生まれた『言霊』が、現実世界で犯罪や紛争を引き起こしている。
「どうすれば、『クサカミ・アヤメ』みたいな『言霊』を無くせるのかな?」
「それは、考え方そのものが間違っているよ、出雲。人が言葉を使うかぎり、良くも悪くも『言霊』は存在し続ける。僕たちに出来るのは、『言霊』を消すことじゃない。悪しき『言霊』が生まれても、それを育まないことだ」
『言霊』を育まない?
「ネットの情報を、信用しない、広めない。この二つを心がければいい。そもそも、インターネットなんて、誰かから聞いた話を発信しているのがほとんどだ。又聞きの更に又聞き。……知ってるか?人間は一つの事実を見聞きしてそれを他人に話すとき、全体の七割しか正しく伝えられず、残り3割は空想で補完するそうだ」
「えっと、じゃあネットの情報は、そこから更に七割しか事実が語られていない事になるのよね」
(1×0.7)×0.7=0.49→0.49×100=49(%)
つまり、ネット上で交わされる情報には、事実が半分もない、空想で溢れていることになる。
「僕たちに必要なのは、その空想を剥ぎ取って、事実だけを広い集める能力だ。そしてそれは、現実の物事をたくさん見聞きしないと身に付かない。だから僕たち子供は、勉強させられるのさ」
「あ、今の兄さん、ちょっと賢くみえた」
「みえるんじゃない!実際に賢いんだよ!そういうところだぞ!」
と、兄妹で漫才をしていた、その時だった。
コンコンコン
部室の入り口の戸が、ノックされた。
「誰だろ?・・・どうぞ、開いてますよ」
「・・・お邪魔するわね」
と、ためらいがちに入ってきたのは、深山先生だった。




