七不思議:『アヤメール』(クサカミ・アヤメ/ほか視点)
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しばらくして(クサカミ・アヤメ視点)
奮闘の末、おっさん臭い着ぐるみを念力で弾き飛ばした私は、その中身おっさんごと、机で組んだ檻に閉じ込める。
―がぁもう!あとでお前のところのシャワー使わせてもらうからね!―
途中でリカに、手製の石鹸を分けて貰わないと。
あの子、科学実験とかそっち方向に強いから、助かるわぁ。……そうそう、もうすぐ中庭のグリーンカーテンからヘチマ水が取れるんだった。予約しとかないと。
―はっ、美容に耽ってる場合じゃなかった!奴らは!?―
今回の獲物たちの事をはっと思いだし、連中を探す。
けれど、手遅れだった。
「よし!完成だ!」
あの自称:ワタシの創作者、テルヤマ・モミジが、天に拳を突き上げていた。
その手には、昔懐かしいガラケーが握られていて……。
―ん?あんた達っ、いったい何を!?―
「何って、決まっているだろう?お前の物語を、完結させたのさ」
ワタシの物語、『七不思議その四:アヤメール』を完結?何をバカな。ワタシは元々完結した物語の言霊だぞ。
そうだ、ワタシは凶悪な殺人犯に殺され、いや捕まって……?いやいや、校舎裏に生き埋めにされて?じゃあ何で教室でケータイを見ながら死んだんだ?あれ?そもそもケータイだったか?スマホではなかったか?
ワタシの頭の中の記憶設定が、グチャグチャと入り乱れる。
ーおかしい、どれが、どれが本当のワタシなんだ!?ー
それが、ワタシの隙となってしまった。
「よーく聞けよ!『クサカミ・アヤメの死の真相、それは、執筆中の事故死だった』」
―っ!?なんだそれは?事故死したのはお前だろうっ!―
いや、違う。奴らの語りを聞いた途端、記憶の一部が鮮明になる。
そうだ、ワタシは大雨の日に、この教室で部誌の執筆をしていたんだ。
「『クサカミ・アヤメは、誰かに殺されたのではない。なぜなら、当時は内側から鍵がかけられ、その鍵はアヤメ自身が持っていたのだから』」
あぁ、思いだした確定した。誰にも邪魔されないように、先生にお願いして、鍵を貰っていたんだ。
「『書いていた小説とは、学校の七不思議。しかし、原稿用紙には、場面の描写を何度も書き直した跡があった』」
そうだ。ホラー小説は、言葉で怖さを表現しなければならない。だけどあの時、怖がらせる表現が思いつかなかった。
「『そんなとき、外は激しい雷雨となった。これは使えるな、と考えたアヤメは、窓を開け放ち、空を観察し始めた』」
嵐のせいで閉じ込められる、ミステリーやホラーの世界では定番の状況だ。
だからワタシは、雷の落ち方や雲の形、動きをよく観ようとした。
「『しかし、屋根が迫り出していて、よく見えなかった。そこで、机の上に登り、窓から身を乗り出して空を覗いた』」
古い校舎だったから、雨どいがなく、その分屋根の端が窓から遠ざけられた造りだった。
それが邪魔で、ワタシは机を足場にし、窓の外へ身を乗り出したんだ。
だけど……
「『しかし、先ほどから窓を開けていたせいで、どしゃ降りの雨が室内に入り、机の上もずぶ濡れだった。
そこへバレーシューズで登った結果、アヤメは足を滑らせ、床に頭から強く打ち付けられた』
何てバカな事をしたんだろう。靴下が濡れるからと、シューズを脱がずに足を乗せ、そして、つるりと滑った。
グキリ
首に一瞬、衝撃が走ったあと、首から下の感覚が無くなった。
唯一、右手だけが僅かに動いて、ワタシが落ちた衝撃でポケットから出たケータイに触れた。
そして、誰でも良いから助けてほしくて、なれた手順で適当な相手に、メールを打とうとした。
「『首の怪我は致命傷で、結果、クサカミ・アヤメは、「たすけて」の四文字を打ったところで力尽き、送信ボタンは押されなかった』」
―あぁ、アアアアアァァァァ!?―
全て、全て思いだした!
犯人なんて居なかった。ワタシが自分のヘマで落ちただけだ。
そしてそれを、彼女達は解き明かしてくれた。
―あり、がとう―
スッキリした気分だ。恨むべき相手なんか無い。残ってしまった未練は果たせた。
あぁ、雨が、上がる。
そしてワタシの身体は、暖かい光に包まれ、溶けていった。
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3年C組教室(八重視点)
『クサカミ・アヤメ』は、光の粒子に包まれ、満足げな笑みを浮かべて消えた。
同時に、教室内に立ち込めていた重苦しい空気は消え失せ、窓の外には、美しい金色、黄昏の空が見えた。
―(ジジジ)キーンコーンカーンコーン
まもなく、下校の時刻となります。
校内に残っている生徒は、帰り支度をしてください―
ノイズ混じりの校内放送が聞こえる。
すると、誰からともなく、歓声が上がった。
「やった?……やったぁ!!」
「部長!助かりましたね!」
「あぁ、我々の勝利だぁ!」
「アハハハ、アッキー大好き!結婚してあげルゥ」
「バカ、ヒナ。はえーよ」
「良かった。よかったぁぁははぁん!」
ふふ、出雲ちゃんたら号泣しちゃって。ホント、母親にそっくりなんだから。
安堵の心持ちで皆を眺めていると、ポン、と肩を叩かれた。
「ありがとう、八重。おかげで、最期に良い作品が書けた」
紅葉は顔を赤らめながら、20年前と変わらない笑顔で、そう言った。
不意にその顔が、涙で歪んだ。
「何よ、私は隣で観てただけよ?」
「それが良かったんだ。君たちを必ず助ける。それが筆、もとい指をすすめてくれた。20年前のあの時は、私だけで書いたから、途中で詰まったんだ」
「そう言えば、氷雨と立夏がコンビで書くって聞いて、対抗心燃やしてソロで書いてたんだっけ?」
「あぁ、おかげで、賽の河原で無限の石積みをさせられたよ」
「親より先に死んだ罰として、川原で石の塔を独りで作るやつ?本当だったんだ」
「あぁ、しかも完成間近で、見張りの鬼に蹴り崩される。まさに苦役だった。お盆の間だけは、恩赦で解放されたんだけどね」
そう言えば、8月13日……今日からお盆休みなんだった。
「それで、助けに来てくれたの?」
「あー、うん。……イエスって答えられたら格好良かったんだが。いつもどおり、君や立夏達の様子を観に来たら、偶然巻き込まれたらしい。目覚めた最初は、自分が死んだ事も忘れてたぐらいで、びっくりしたよ」
そこへこれまた偶然、出雲ちゃんが合流して、話を聴く内に記憶が戻った紅葉は、彼女達に素性を黙ったまま、事件を解決しようとしたらしい。
「これから、どうするの?」
また来年会える、そんな答えを期待していたのだけど。
紅葉は言いにくそうにしながら、最後に意を決して言った。
「実は、現世への里帰りは、今年で最後なんだ」
「え、どうして?」
「ほら去年、父さんと母さんがこっちに来たろ?それで、2人から早死にした事について説教を食らったあと、閻魔様に恩赦を貰ってね。この盆が終われば、照山紅葉は本当に、今生とのお別れになる。記憶も何もかも消えて、別の人間として転生するんだ」
「そんなっ!せっかく会えたのに!!」
あぁ、駄目だ!我慢できない。
あの葬式のあと、もう泣くまいと決めていたのに。
「……ごめん、こんなことなら、会わなければ良かったね」
「バカ!あんたは悪くないわよ!これは私が弱いせいなんだから!」
「やれやれ。でも、その通りかもな。八重、後ろ後ろ……」
言われて振り向くと、オカ研の皆が、私達を静かに見つめていた。
「先生……」
出雲ちゃんが、涙を堪えながら、私を待っていた。
すると、後ろから紅葉が、私の頭を両手で挟み振り向けないようにする。
そして、私の耳元で囁いた。
「もう、私の事は忘れてくれ。過去よりも、今を、そして未来を、大事にしてくれ」
「……なーに上手いこと言ったつもりだ?このやろう」
「ハハハ、『野郎』は男に対するののしりだぞ。文芸部なら言葉は正しく使わないとな。変な言葉を使っていると、『言霊』が化けて出てくるぞぉ」
「解ってるわよ。親友の幽霊まで出てくるしね」
ふと、頭に添えられていた手の感触が無くなった。
だから無意識に、私は紅葉へと振り向いた。
すると彼女は、もう、胸から下が消えてしまっていた。
「あー、バレたか。今度こそ、お別れだ。自分が元スケバンだからって、不良に甘くするなよ、深山八重先生♪」
「っ、待って!紅葉!!」
とっさに手を伸ばす。
けれど私の腕も、指先から順に、光の粒になって溶け始めていた。
そして、あっという間に、私達は眩しい光に包まれ、意識が途切れた。




