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七不思議:『アヤメール』(クサカミ・アヤメ/ほか視点)

*****

しばらくして(クサカミ・アヤメ視点)


 奮闘の末、おっさん臭い着ぐるみを念力で弾き飛ばした私は、その中身おっさん(保健室のペンペン)ごと、机で組んだ檻に閉じ込める。


―がぁもう!あとでお前のところのシャワー使わせてもらうからね!―


 途中でリカに、手製の石鹸を分けて貰わないと。

 あの子、科学実験とかそっち方向に強いから、助かるわぁ。……そうそう、もうすぐ中庭のグリーンカーテンからヘチマ水が取れるんだった。予約しとかないと。


―はっ、美容に耽ってる場合じゃなかった!奴らは!?―


 今回の獲物たちの事をはっと思いだし、連中を探す。

 けれど、手遅れだった。


「よし!完成だ!」


 あの自称:ワタシの創作者、テルヤマ・モミジが、天に拳を突き上げていた。

 その手には、昔懐かしいガラケーが握られていて……。


―ん?あんた達っ、いったい何を!?―

「何って、決まっているだろう?お前の物語を、完結させたのさ」


 ワタシの物語、『七不思議その四:アヤメール』を完結?何をバカな。ワタシは元々完結した物語の言霊だぞ。

 そうだ、ワタシは凶悪な殺人犯に殺され、いや捕まって……?いやいや、校舎裏に生き埋めにされて?じゃあ何で教室でケータイを見ながら死んだんだ?あれ?そもそもケータイだったか?スマホではなかったか?


 ワタシの頭の中の記憶設定が、グチャグチャと入り乱れる。


ーおかしい、どれが、どれが本当のワタシなんだ!?ー


 それが、ワタシの隙となってしまった。


「よーく聞けよ!『クサカミ・アヤメの死の真相、それは、執筆中の事故死だった』」

―っ!?なんだそれは?事故死したのはお前だろうっ!―


 いや、違う。奴らの語りを聞いた途端、記憶の一部が鮮明になる。

 そうだ、ワタシは大雨の日に、この教室で部誌の執筆をしていたんだ。


「『クサカミ・アヤメは、誰かに殺されたのではない。なぜなら、当時は内側から鍵がかけられ、その鍵はアヤメ自身が持っていたのだから』」


 あぁ、思いだした確定した。誰にも邪魔されないように、先生にお願いして、鍵を貰っていたんだ。


「『書いていた小説とは、学校の七不思議。しかし、原稿用紙には、場面の描写を何度も書き直した跡があった』」


 そうだ。ホラー小説は、言葉で怖さを表現しなければならない。だけどあの時、怖がらせる表現が思いつかなかった。


「『そんなとき、外は激しい雷雨となった。これは使えるな、と考えたアヤメは、窓を開け放ち、空を観察し始めた』」


 嵐のせいで閉じ込められる、ミステリーやホラーの世界では定番の状況だ。

 だからワタシは、雷の落ち方や雲の形、動きをよく観ようとした。


「『しかし、屋根が迫り出していて、よく見えなかった。そこで、机の上に登り、窓から身を乗り出して空を覗いた』」


 古い校舎だったから、雨どいがなく、その分屋根の端が窓から遠ざけられた造りだった。

 それが邪魔で、ワタシは机を足場にし、窓の外へ身を乗り出したんだ。

 だけど……


「『しかし、先ほどから窓を開けていたせいで、どしゃ降りの雨が室内に入り、机の上もずぶ濡れだった。

 そこへバレーシューズで登った結果、アヤメは足を滑らせ、床に頭から強く打ち付けられた』


 何てバカな事をしたんだろう。靴下が濡れるからと、シューズを脱がずに足を乗せ、そして、つるりと滑った。


グキリ


 首に一瞬、衝撃が走ったあと、首から下の感覚が無くなった。

 唯一、右手だけが僅かに動いて、ワタシが落ちた衝撃でポケットから出たケータイに触れた。

 そして、誰でも良いから助けてほしくて、なれた手順で適当な相手に、メールを打とうとした。


「『首の怪我は致命傷で、結果、クサカミ・アヤメは、「たすけて」の四文字を打ったところで力尽き、送信ボタンは押されなかった』」


―あぁ、アアアアアァァァァ!?―


 全て、全て思いだした(成立した)

 犯人なんて居なかった。ワタシが自分のヘマで落ちただけだ。

 そしてそれを、彼女達は解き明かしてくれた。


―あり、がとう―


 スッキリした気分だ。恨むべき相手なんか無い。残ってしまった未練は果たせた。

 あぁ、雨が、上がる。

 

 そしてワタシの身体は、暖かい光に包まれ、溶けていった。


******

3年C組教室(八重視点)


 『クサカミ・アヤメ』は、光の粒子に包まれ、満足げな笑みを浮かべて消えた。

 同時に、教室内に立ち込めていた重苦しい空気は消え失せ、窓の外には、美しい金色、黄昏の空が見えた。


―(ジジジ)キーンコーンカーンコーン

 まもなく、下校の時刻となります。

 校内に残っている生徒は、帰り支度をしてください―


 ノイズ混じりの校内放送が聞こえる。

 すると、誰からともなく、歓声が上がった。


「やった?……やったぁ!!」

「部長!助かりましたね!」

「あぁ、我々の勝利だぁ!」

「アハハハ、アッキー大好き!結婚してあげルゥ」

「バカ、ヒナ。はえーよ」

「良かった。よかったぁぁははぁん!」


 ふふ、出雲ちゃんたら号泣しちゃって。ホント、母親にそっくりなんだから。

 安堵の心持ちで皆を眺めていると、ポン、と肩を叩かれた。


「ありがとう、八重。おかげで、最期に良い作品が書けた」


 紅葉は顔を赤らめながら、20年前と変わらない笑顔で、そう言った。

 不意にその顔が、涙で歪んだ。


「何よ、私は隣で観てただけよ?」

「それが良かったんだ。君たちを必ず助ける。それが筆、もとい指をすすめてくれた。20年前のあの時は、私だけで書いたから、途中で詰まったんだ」

「そう言えば、氷雨と立夏がコンビで書くって聞いて、対抗心燃やしてソロで書いてたんだっけ?」

「あぁ、おかげで、賽の河原で無限の石積みをさせられたよ」

「親より先に死んだ罰として、川原で石の塔を独りで作るやつ?本当だったんだ」

「あぁ、しかも完成間近で、見張りの鬼に蹴り崩される。まさに苦役だった。お盆の間だけは、恩赦で解放されたんだけどね」


 そう言えば、8月13日……今日からお盆休みなんだった。


「それで、助けに来てくれたの?」

「あー、うん。……イエスって答えられたら格好良かったんだが。いつもどおり、君や立夏達の様子を観に来たら、偶然巻き込まれたらしい。目覚めた最初は、自分が死んだ事も忘れてたぐらいで、びっくりしたよ」


 そこへこれまた偶然、出雲ちゃんが合流して、話を聴く内に記憶が戻った紅葉は、彼女達に素性を黙ったまま、事件を解決しようとしたらしい。


「これから、どうするの?」


 また来年会える、そんな答えを期待していたのだけど。

 紅葉は言いにくそうにしながら、最後に意を決して言った。


「実は、現世への里帰りは、今年で最後なんだ」

「え、どうして?」

「ほら去年、父さんと母さんがこっちに来たろ?それで、2人から早死にした事について説教を食らったあと、閻魔様に恩赦を貰ってね。この盆が終われば、照山紅葉は本当に、今生とのお別れになる。記憶も何もかも消えて、別の人間として転生するんだ」

「そんなっ!せっかく会えたのに!!」


 あぁ、駄目だ!我慢できない。

 あの葬式のあと、もう泣くまいと決めていたのに。


「……ごめん、こんなことなら、会わなければ良かったね」

「バカ!あんたは悪くないわよ!これは私が弱いせいなんだから!」

「やれやれ。でも、その通りかもな。八重、後ろ後ろ……」


 言われて振り向くと、オカ研の皆が、私達を静かに見つめていた。


「先生……」


 出雲ちゃんが、涙を堪えながら、私を待っていた。

 すると、後ろから紅葉が、私の頭を両手で挟み振り向けないようにする。

 そして、私の耳元で囁いた。


「もう、私の事は忘れてくれ。過去()よりも、()を、そして未来(彼ら)を、大事にしてくれ」

「……なーに上手いこと言ったつもりだ?このやろう」

「ハハハ、『野郎』は男に対するののしりだぞ。文芸部なら言葉は正しく使わないとな。変な言葉を使っていると、『言霊』が化けて出てくるぞぉ」

「解ってるわよ。親友の幽霊まで出てくるしね」


 ふと、頭に添えられていた手の感触が無くなった。

 だから無意識に、私は紅葉へと振り向いた。

 すると彼女は、もう、胸から下が消えてしまっていた。


「あー、バレたか。今度こそ、お別れだ。自分が元スケバンだからって、不良に甘くするなよ、深山八重先生♪」

「っ、待って!紅葉!!」


 とっさに手を伸ばす。

 けれど私の腕も、指先から順に、光の粒になって溶け始めていた。

 そして、あっという間に、私達は眩しい光に包まれ、意識が途切れた。


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