七不思議:『アヤメール』(出雲視点)
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異界 奥津城おくつき高校三階
3年C組 教室前廊下(出雲視点)
私と照山先輩が階段を駆け昇り、『3ーC』という札の掲げられた教室の前にたどり着くと、そこには深山先生、兄さん、日暮ちゃんの3人が先着していた。
「っ、出雲!」
「出雲先輩っ!」
2人が駆け寄り、私たちは抱き合った。
「良かった、無事で……」
「自称ベートーベンの下手な演奏を聞かされはしたけどね。それより、そっちの彼女は?」
兄さんはふと、私の後ろに居た照山先輩を見る。
……あれ?兄さんは、彼女を知らない?
私が違和感を抱く一方で、照山先輩は、兄さんの顔をまじまじと観察し、呟く。
「君が八雲くんか。なるほど、見事なまでにバカマキリの遺伝子を継いでしまっているな。……ドンマイ♪」
めっちゃ笑顔で、照山先輩は兄へサムズアップを向けた。
「なっ!失敬な!この顔でも慕う物好きが、少なくとも1人はいますわ!」
日暮ちゃん、日暮ちゃん。それ、フォローになってないから。
「この顔……物好き……」
と、ショックを受ける兄さんを他所に、照山先輩は、次に深山先生の方へ向かう。
先生は、先輩を知っている様子だった。けど、その態度はどこかぎこちなく感じられた。
「紅葉……」
「やぁ、八重。久しぶり、と言っても、毎年お盆には帰って来てたんだけどな?」
「お盆?それって……」
私の中で、違和感の正体が一つ思い浮かんだ。
でも、それじゃ先輩は……
その時だった。私たちが昇ってきたのとは別の階段の方から騒がしい声が届く。
―おらっ、ニンゲン!もっと腰入れて早くだっペン―
「おまっ、だったらもっとやせろや!ぬいぐるみの癖に、見た目と重さがつりあってねぇんだよぉ!!」
「もうむりぃ、腕千切れるぅ」
「明雄と、雛子?」
視線を向けると、2人は一抱えほどの大きさの、ペンギンのぬいぐるみを左右で持ち上げながら現れた。
そして私たちの姿を見つけると、ペンギンを乱雑に床へ落とした。
ガツン!
―ペヒョッ!?ごるぁ!てペーンらぁ、七不思議はもっと丁寧に扱えっペン!―
「「「しゃ、じゃべったぁ!?」」」
「はぁ、はぁ、ウッサイ!自分で階段昇れねぇ奴が文句垂れるな……あっ、先生!部長も!」
「……てぇ!?照山紅葉ぃ!?」
明雄と雛子は、私たちの方へ駆け寄りかけるが、照山先輩の姿を認めて、急ブレーキをかける。
そんな2人を安心させるように、深山先生は優しく告げた。
「安心して、2人とも。こいつ、男女問わずセクハラしてくるし、体育会系の癖に文学バカだけど、悪い奴じゃないから」
「いやぁ、照れるなぁ」
「いや誉めてねーし。そしてさらっとお尻を撫でるな!」
親友の様に漫才を始める先生と先輩を、私たちオカ研一同は、ポカンと見つめた。
というか深山先生、言動が20年ばかし若返ってない?
「ったくもう。そんなことより……みんな来ちゃったのね。付き合う必要ないのに」
私たちを見回して、深山先生はため息をついた。
けれど、それに兄さんが反論する。
「いえ先生。この異変が『七不思議』だというのなら、僕達だって関係者です!」
明雄と雛子も、兄さんに続く。
「俺も協力しますよ。先生独り残して逃げるなんて、男じゃねぇですから!」
「アタシだって!腹から内臓溢れた女子とか、トラウマ植え付けられた仕返ししたいし!5500円の敵討ちだし!」
すると、日暮ちゃんも、普段の彼女から想像できない、強気な姿勢を見せた。
「わ、私も残りますよっ!ホントは怖いけど、ここで逃げたら、『あぁ、やっぱりキラキラネームな奴はダメだな』ってバカにされるから!うっさいやい!こちとら『立派でたけだけしい』って意味で『偉武』だ!名前負けなんて言われてたまるか!」
「ひ、日暮ちゃん……」
彼女が名前にコンプレックスを持っていたのは知っていた。だから皆、彼女を名字で呼んでいた。
でも、何かあったのか、今の彼女はそれを打ち払おうとしている。
皆、それぞれに決意を固めて、『クサカミ・アヤメ』を倒そうとしていた。
当然、私も同じだ。
「先生。私も付き合いますよ。先生の親友夫婦の娘ですから」
「……、もう!あなた達に何かあったら、私が立夏と氷雨に殺されちゃうのよ?」
口ではそう言いつつも、先生は私たちの先頭に立つ。その隣に、照山先輩が並んだ。
「ま、そうなったら私が付き添ってやるから、安心してくれ、八重」
「いや、逆に不安になってくるから……。さぁ、行くわよ!」
*****
3年C組 教室内
「……うっ、なにこれ」
深山先生と照山先輩を先頭に中へ踏み込んだ私たちは、その瞬間、異様な気持ち悪さに襲われた。
部屋に満ちた空気はベットリと重く、窓の外は紫一色に染まっていた。
そして、机と椅子が隅へと片付けられ、広く空いた前半分の空間に、『クサカミ・アヤメ』は居た。
―あら?いつもは『花子』の奴がこそこそ逃がしているのに、今回は違うのね。皆そろって、ワタシに殺されに来たの?―
長い黒髪は手入れされずにボサボサで、肌はゾンビのような土気色。こちらを見つめる目は濁り、青紫の唇からは、ねっとりとした声が漏れた。
コレが、『クサカミ・アヤメ』……
直感が告げてくる。目の前にいるのは、この世の悪意が一つに固められた存在だと。
しかし、それに、堂々と立ち向かう人が居た。
「いいや?私たちはヒントをコツコツ回収して、ハッピーエンドまっしぐらなんだ。私の親友とその教え子達を、家に帰してもらうよ」
照山先輩だった。
悪霊を前にしても動じることなく、仁王立ちになった先輩は、まっすぐに『クサカミ・アヤメ』を見据えた。
そして、その効果は抜群だった。余裕を見せていた『クサカミ・アヤメ』が、あからさまに動揺したのだ。
―あなた、何?ワタシが連れ込んだのは、そこの6人だけなんだけど?―
すると先輩は、高らかに宣った。
「3年C組、照山紅葉!出席番号は、ヤクルトのペタジーニと同じ9番!好きなものは、親友への身体計測と小野不由美作品!そして、お前の産みの親だ!」
「やっぱり!?」
照山先輩の後ろで、私は思わず声をあげた。
先輩が、『アヤメール』の創作者。でも七不思議は、深山先生と両親が20年前に・・・。
先生の方を振り向くと、彼女は先輩に小声でツッコミをいれていた。
「バカ、あれはセクハラだっつーの。それに、ペタジーニはとっくに引退してるわよ」
先生の視線は、どこか懐かしむようで、それでいて寂しげだった。
―ワタシの、何ですって?どう見てもワタシの方が年上なんだけど?―
『クサカミ・アヤメ』は不快感を露あらわにし、先輩を睨み付ける。
しかし、見た目は渡地たちと同年代な先輩は、それをもろともせず朗々と語る。
「いいや?間違いなく、お前は私が創った七不思議だ。『クサカミ・アヤメ』、漢字で書くと『草紙・菖蒲』。名字の由来は日本古来の書物を意味する『草紙』と花の『菖蒲』から。
お前は、ある嵐の日、奥津城高校の3年C組で不審死をとげた。その時に助けを求めるメールを送り損なったことから、亡霊として化けて出るようになった。そして、未練を晴らすためにメールで、人を呼び寄せ、死の真相を探させるんだ」
先輩が語ったのは、私たちも知らない、『アヤメール』の全てだった。
その事に、『クサカミ・アヤメ』は狼狽する。
―な、なんなのよ。本当に、あなたがワタシの……?し、信じないわよ!そんな……だ、だったら!ワタシの死の真相を教えてみなさいよ!産みの親なら、当然知っているでしょ?―
その追求にも、先輩は動じなかった。
そして、先輩の口から、真実が語られた。
「もちろん知っている。『クサカミ・アヤメ』の死の真相、それは……『そんな物は存在しない』だ!なんせ、その部分を考えてる最中に、私はうっかり死んでしまった、のだからな」
―……、……はぁ!?―
「うそっ!?」
予想だにしない答えに、私達も『クサカミ・アヤメ』も、言葉を失った。
でも一番ショックを受けていたのは、深山先生だった。
「待ってよ。なによそれ?うっかり死んじゃったって、どう言うことなのよ!?紅葉ぃ!」
慟哭しながら掴みかかった先生を、先輩はされるがまま、無抵抗で受け入れながら語る。
「私だって、あんな事になるとは思わなかったんだよ。あの日、放課後の教室で『アヤメール』の原稿を書いてたら、丁度どしゃ降りの雨になって。あ、これは冒頭シーンに使えるなって、窓から顔をだして空を観察してたら、滑って落ちてしまったんだ」
「そんな……、そんな間抜けた死に方があるかぁ!!私たち皆、あんたが何で死んだのか、事故か自殺かも解らなくて、メチャクチャだったんだから!原稿だって、最後の仕上げがまだで、でもあんたの遺作だからそのまま出してって、紅葉のおば母さんが頭下げて……。そのおばさんもおじさんも、あんたの部屋を片付けないまま、去年事故で死んじゃったんだよ!!」
「うん、知ってる。言ったろ?毎年お盆には帰って来てたって。それに、三途の川で2人に会ってさ、メチャクチャ怒られたよ」
「バカァ!!紅葉の大バカァ!!もっペん死んじゃえ!!」
先生はそのまま、先輩の胸を拳で叩きながら、その場に崩れた。
―ちょっとあんたら、ワタシを放って悲劇のワンシーンとかやんないでくれる?―
ゾワリ!
『クサカミ・アヤメ』は怒りを込めた声で告げると、全身から黒いオーラを放つ。
すると、隅に合った机の1つが、ガタガタと震えながら宙に浮かび、先生たちに襲いかかった。
「っ!危ない先生!!」
「八重っ!」
私の叫びで気づいた照山先輩、いえ紅葉さんが先生を抱き寄せ、自分の背中で庇う。
しかし、カバーの外れた鉄製の足が2人を直撃する直前、私達の中から飛び出した黒い影が、それを受け止めた。
―ペペーン!本来の仕様と違うが、サービスだっぺん!―
「君は、……氷雨の考えたペンペンか?」
紅葉さんの呟きと同時に、机の足が正面からめり込んだペンギンのぬいぐるみが、床に落ちる。
ガシャン!
衝撃で転がったペンペンは、胴体部分が裂けていた。
しかしぬいぐるみの七不思議は、それをものともせずに、プラスチックの口をカパカパさせてしゃべる。
―ペペン、おい『クサカミ・アヤメ』!おいらの身体を、破ったな?―
―はぁ?あんたの自滅でしょうがっ!……まさかっ、しまっ……―
何かに気づいた『クサカミ・アヤメ』が、ぬいぐるみから距離を取ろうと後ずさる。
しかし、その前に、ペンペンの身体が大きく膨らみ、着ぐるみサイズとなる。
―もうオそイ。ヌいグルみハぁ……、大事ニシロォォ!―
ビリビリビリビリ!
そして、破けた穴が内側から更に広げられ、中から白い綿タイツに腹巻き、タンクトップ姿の禿げたおっさんが抜け出てきた!
「「「へ、へ、変質者ぁ!?」」」
我々オカ研一同、声をそろえてツッコんだ!
―いやぁ!こっちくんな!!―
『クサカミ・アヤメ』は、完全にパニックになり、尻餅をつく。
一方のおっさんは、自分が出てきたペンギンを持ち上げ、それを『クサカミ・アヤメ』へと狙い定めながら、野太い声で言った。
―ヌイグルミを破る悪い子は、お仕置きだっペン!―
そして、中年の男性が自分の入っていた着ぐるみ(?)を、少女に投げつけるという事案が発生した。
運悪く、あるいは狙いどおりに、巨大ペンペンは『クサカミ・アヤメ』を直撃し、彼女はおっさんの出てきた穴から、逆にすっぽりと中へ入り込んでしまった。
―いやぁぁぁ!臭い!生ぬるい!ベトベトするぅ!!―
内側から断末魔と、必死にあがく音が漏れ聞こえてくる。
その様子に、私達がドン引きしていると、更なる追撃が加わる。
―おらぁ、じたばたすんじゃねぇペン!―
中身のおっさんが、持ち上げられそうなペンペンのボティの上へ飛び乗り、重石となったのだ。
そしておっさんは、私達に向かって叫ぶ。
―今の内に、『クサカミ・アヤメ』が退治される結末を創作しろペン!『言霊』を倒すには、『言霊』の力を使うんだっペン!―
「っ!そうか!この現象がネットで広まった創作によるものなら、それを否定する創作で上書きすれば良いんだ!」
からくりを察した兄さんが、皆にそれを伝える。
よく解らないけど、アレが倒される物語を書けって事?
「でも、ここには原稿用紙もペンも……」
「おいおい、君たちは私より20年先を生きているんだろ?文明の利器を使え!」
そう投げ掛けたてきたのは、紅葉さんだった。
彼女と、その腕に支えられながらも復帰した深山先生は、共にその手に携帯端末を持っていた。(先生はスマホ、紅葉さんはいわゆるガラケー)
「私達の頃は、ワープロか、ケータイのメモ帳機能で執筆していたものさ」
「画面もボタンも小さいし、変換が面倒だったけどね」
「なら、紅葉さんが入力してください!私、アイデアまとめます!」
これも何かの縁なのか、私は図書室で、即興小説のやり方を、紅葉さん自身から学んでいた。
「(今回のテーマは、悪霊退治。必要なのは、相手の正体、その原因、解決法……)」
正体は女子生徒『クサカミ・アヤメ』の亡霊。
彼女が化けて出たのは、死の真相を知るため。
そして解決方法は、未完の状態で作者が死んでしまったから存在しない。
……ん?待って。『クサカミ・アヤメ』の死の状況って、紅葉さんが亡くなった時と似てない?
紅葉さんは、小説のネタを考えてる最中に、誤って転落ししてしまった。
でもその事を、深山先生たちは知らないまま、20年が経って……
「紅葉さん、あなたの実体験、ネタにさせてください!」
「私の?……あぁ、なるほど!」
私の意が伝わった紅葉さんは、大きく頷いた。
けれど、その直後
「良いとも!その代わり、君の胸を測定させt…ぎゃふん!?」
「てめぇの親友のガキにまで、手ぇ出すな!」
器用にガラケー片手に指をワキワキさせた紅葉さんを、深山先生が締め上げた。
深山先生、もしかして昔はスケバンだったのでは?
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[イメージ図]
ブンッ・・・
(ノ-_-)ノ~ ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァ
↓↓↓
ボスン
(ノ-_-)ノ~ =[|∈|●❯
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