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七不思議:『アヤメール』(出雲視点)

*****

異界 奥津城おくつき高校三階

3年C組 教室前廊下(出雲視点)


 私と照山先輩が階段を駆け昇り、『3ーC』という札の掲げられた教室の前にたどり着くと、そこには深山先生、兄さん、日暮ちゃんの3人が先着していた。


「っ、出雲!」

「出雲先輩っ!」


 2人が駆け寄り、私たちは抱き合った。


「良かった、無事で……」

「自称ベートーベンの下手な演奏を聞かされはしたけどね。それより、そっちの彼女は?」


 兄さんはふと、私の後ろに居た照山先輩を見る。

 ……あれ?兄さんは、彼女を知らない?

 私が違和感を抱く一方で、照山先輩は、兄さんの顔をまじまじと観察し、呟く。


「君が八雲くんか。なるほど、見事なまでにバカマキリの遺伝子を継いでしまっているな。……ドンマイ♪」


 めっちゃ笑顔で、照山先輩は兄へサムズアップを向けた。


「なっ!失敬な!この顔でも慕う物好きが、少なくとも1人はいますわ!」


 日暮ちゃん、日暮ちゃん。それ、フォローになってないから。


「この顔……物好き……」


 と、ショックを受ける兄さんを他所に、照山先輩は、次に深山先生の方へ向かう。

 先生は、先輩を知っている様子だった。けど、その態度はどこかぎこちなく感じられた。


「紅葉……」

「やぁ、八重。久しぶり、と言っても、毎年お盆には帰って来てたんだけどな?」

「お盆?それって……」


 私の中で、違和感の正体が一つ思い浮かんだ。

 でも、それじゃ先輩は……

 その時だった。私たちが昇ってきたのとは別の階段の方から騒がしい声が届く。


―おらっ、ニンゲン!もっと腰入れて早くだっペン―

「おまっ、だったらもっとやせろや!ぬいぐるみの癖に、見た目と重さがつりあってねぇんだよぉ!!」

「もうむりぃ、腕千切れるぅ」

「明雄と、雛子?」


 視線を向けると、2人は一抱えほどの大きさの、ペンギンのぬいぐるみを左右で持ち上げながら現れた。

 そして私たちの姿を見つけると、ペンギンを乱雑に床へ落とした。


ガツン!


―ペヒョッ!?ごるぁ!てペーンらぁ、七不思議はもっと丁寧に扱えっペン!―

「「「しゃ、じゃべったぁ!?」」」

「はぁ、はぁ、ウッサイ!自分で階段昇れねぇ奴が文句垂れるな……あっ、先生!部長も!」

「……てぇ!?照山紅葉ぃ!?」


 明雄と雛子は、私たちの方へ駆け寄りかけるが、照山先輩の姿を認めて、急ブレーキをかける。

 そんな2人を安心させるように、深山先生は優しく告げた。


「安心して、2人とも。()()()、男女問わずセクハラしてくるし、体育会系の癖に文学バカだけど、悪い奴じゃないから」

「いやぁ、照れるなぁ」

「いや誉めてねーし。そしてさらっとお尻を撫でるな!」


 親友の様に漫才を始める先生と先輩を、私たちオカ研一同は、ポカンと見つめた。

 というか深山先生、言動が20年ばかし若返ってない?


「ったくもう。そんなことより……みんな来ちゃったのね。付き合う必要ないのに」


 私たちを見回して、深山先生はため息をついた。

 けれど、それに兄さんが反論する。


「いえ先生。この異変が『七不思議』だというのなら、僕達だって関係者です!」


 明雄と雛子も、兄さんに続く。


「俺も協力しますよ。先生独り残して逃げるなんて、男じゃねぇですから!」

「アタシだって!腹から内臓溢れた女子とか、トラウマ植え付けられた仕返ししたいし!5500円の敵討ちだし!」


 すると、日暮ちゃんも、普段の彼女から想像できない、強気な姿勢を見せた。


「わ、私も残りますよっ!ホントは怖いけど、ここで逃げたら、『あぁ、やっぱりキラキラネームな奴はダメだな』ってバカにされるから!うっさいやい!こちとら『立派でたけだけしい』って意味で『偉武』だ!名前負けなんて言われてたまるか!」

「ひ、日暮ちゃん……」


 彼女が名前にコンプレックスを持っていたのは知っていた。だから皆、彼女を名字で呼んでいた。

 でも、何かあったのか、今の彼女はそれを打ち払おうとしている。


 皆、それぞれに決意を固めて、『クサカミ・アヤメ』を倒そうとしていた。

 当然、私も同じだ。


「先生。私も付き合いますよ。先生の親友夫婦の娘ですから」

「……、もう!あなた達に何かあったら、私が立夏と氷雨に殺されちゃうのよ?」


 口ではそう言いつつも、先生は私たちの先頭に立つ。その隣に、照山先輩が並んだ。


「ま、そうなったら私が付き添ってやるから、安心してくれ、八重」

「いや、逆に不安になってくるから……。さぁ、行くわよ!」


*****

3年C組 教室内


「……うっ、なにこれ」


 深山先生と照山先輩を先頭に中へ踏み込んだ私たちは、その瞬間、異様な気持ち悪さに襲われた。

 部屋に満ちた空気はベットリと重く、窓の外は紫一色に染まっていた。


 そして、机と椅子が隅へと片付けられ、広く空いた前半分の空間に、『クサカミ・アヤメ』は居た。


―あら?いつもは『花子』の奴がこそこそ逃がしているのに、今回は違うのね。皆そろって、ワタシに殺されに来たの?―


 長い黒髪は手入れされずにボサボサで、肌はゾンビのような土気色。こちらを見つめる目は濁り、青紫の唇からは、ねっとりとした声が漏れた。

 コレが、『クサカミ・アヤメ』……

 直感が告げてくる。目の前にいるのは、この世の悪意が一つに固められた存在だと。

 しかし、それに、堂々と立ち向かう人が居た。


「いいや?私たちはヒントをコツコツ回収して、ハッピーエンドまっしぐらなんだ。私の親友とその教え子達を、家に帰してもらうよ」


 照山先輩だった。

 悪霊を前にしても動じることなく、仁王立ちになった先輩は、まっすぐに『クサカミ・アヤメ』を見据えた。

 そして、その効果は抜群だった。余裕を見せていた『クサカミ・アヤメ』が、あからさまに動揺したのだ。


―あなた、何?ワタシが連れ込んだのは、そこの6人だけなんだけど?―


 すると先輩は、高らかに宣った。


「3年C組、照山紅葉!出席番号は、ヤクルトのペタジーニと同じ9番!好きなものは、親友への身体計測と小野不由美作品!そして、お前の産みの親だ!」

「やっぱり!?」


 照山先輩の後ろで、私は思わず声をあげた。

 先輩が、『アヤメール』の創作者。でも七不思議は、深山先生と両親が20年前に・・・。

 先生の方を振り向くと、彼女は先輩に小声でツッコミをいれていた。


「バカ、あれはセクハラだっつーの。それに、ペタジーニはとっくに引退してるわよ」


 先生の視線は、どこか懐かしむようで、それでいて寂しげだった。


―ワタシの、何ですって?どう見てもワタシの方が年上なんだけど?―


 『クサカミ・アヤメ』は不快感を露あらわにし、先輩を睨み付ける。

 しかし、見た目は渡地たちと同年代な先輩は、それをもろともせず朗々と語る。


「いいや?間違いなく、お前は私が創った七不思議だ。『クサカミ・アヤメ』、漢字で書くと『草紙・菖蒲』。名字の由来は日本古来の書物を意味する『草紙(そうし)』と花の『菖蒲(あやめ)』から。

 お前は、ある嵐の日、奥津城高校の3年C組で不審死をとげた。その時に助けを求めるメールを送り損なったことから、亡霊として化けて出るようになった。そして、未練を晴らすためにメールで、人を呼び寄せ、死の真相を探させるんだ」


 先輩が語ったのは、私たちも知らない、『アヤメール』の全てだった。

 その事に、『クサカミ・アヤメ』は狼狽する。


―な、なんなのよ。本当に、あなたがワタシの……?し、信じないわよ!そんな……だ、だったら!ワタシの死の真相を教えてみなさいよ!産みの親なら、当然知っているでしょ?―


 その追求にも、先輩は動じなかった。

 そして、先輩の口から、真実が語られた。


「もちろん知っている。『クサカミ・アヤメ』の死の真相、それは……『()()()()()()()()()()』だ!なんせ、その部分を考えてる最中に、()()()()()()()()()()()()()、のだからな」

―……、……はぁ!?―

「うそっ!?」


 予想だにしない答えに、私達も『クサカミ・アヤメ』も、言葉を失った。

 でも一番ショックを受けていたのは、深山先生だった。


「待ってよ。なによそれ?うっかり死んじゃったって、どう言うことなのよ!?紅葉ぃ!」


 慟哭しながら掴みかかった先生を、先輩はされるがまま、無抵抗で受け入れながら語る。


「私だって、あんな事になるとは思わなかったんだよ。あの日、放課後の教室で『アヤメール』の原稿を書いてたら、丁度どしゃ降りの雨になって。あ、これは冒頭シーンに使えるなって、窓から顔をだして空を観察してたら、滑って落ちてしまったんだ」

「そんな……、そんな間抜けた死に方があるかぁ!!私たち皆、あんたが何で死んだのか、事故か自殺かも解らなくて、メチャクチャだったんだから!原稿だって、最後の仕上げがまだで、でもあんたの遺作だからそのまま出してって、紅葉のおば母さんが頭下げて……。そのおばさんもおじさんも、あんたの部屋を片付けないまま、去年事故で死んじゃったんだよ!!」

「うん、知ってる。言ったろ?毎年お盆には帰って来てたって。それに、三途の川で2人に会ってさ、メチャクチャ怒られたよ」

「バカァ!!紅葉の大バカァ!!もっペん死んじゃえ!!」


 先生はそのまま、先輩の胸を拳で叩きながら、その場に崩れた。


―ちょっとあんたら、ワタシを放って悲劇のワンシーンとかやんないでくれる?―


ゾワリ!


 『クサカミ・アヤメ』は怒りを込めた声で告げると、全身から黒いオーラを放つ。

 すると、隅に合った机の1つが、ガタガタと震えながら宙に浮かび、先生たちに襲いかかった。


「っ!危ない先生!!」

「八重っ!」


 私の叫びで気づいた照山先輩、いえ紅葉さんが先生を抱き寄せ、自分の背中で庇う。

 しかし、カバーの外れた鉄製の足が2人を直撃する直前、私達の中から飛び出した黒い影が、それを受け止めた。


―ペペーン!本来の仕様と違うが、サービスだっぺん!―

「君は、……氷雨(ひさめ)の考えたペンペンか?」


 紅葉さんの呟きと同時に、机の足が正面からめり込んだペンギンのぬいぐるみが、床に落ちる。


ガシャン!


 衝撃で転がったペンペンは、胴体部分が裂けていた。

 しかしぬいぐるみの七不思議は、それをものともせずに、プラスチックの口をカパカパさせてしゃべる。


―ペペン、おい『クサカミ・アヤメ』!おいらの身体を、破ったな?―

―はぁ?あんたの自滅でしょうがっ!……まさかっ、しまっ……―


 何かに気づいた『クサカミ・アヤメ』が、ぬいぐるみから距離を取ろうと後ずさる。

 しかし、その前に、ペンペンの身体が大きく膨らみ、着ぐるみサイズとなる。


―もうオそイ。ヌいグルみハぁ……、大事ニシロォォ!―


ビリビリビリビリ!


 そして、破けた穴が内側から更に広げられ、中から白い綿タイツに腹巻き、タンクトップ姿の禿げたおっさんが抜け出てきた!

 

「「「へ、へ、変質者ぁ!?」」」


 我々オカ研一同、声をそろえてツッコんだ!


―いやぁ!こっちくんな!!―


『クサカミ・アヤメ』は、完全にパニックになり、尻餅をつく。

 一方のおっさんは、自分が出てきたペンギンを持ち上げ、それを『クサカミ・アヤメ』へと狙い定めながら、野太い声で言った。


―ヌイグルミを破る悪い子は、お仕置きだっペン!―


 そして、中年の男性が自分の入っていた着ぐるみ(?)を、少女に投げつけるという事案が発生した。


 運悪く、あるいは狙いどおりに、巨大ペンペンは『クサカミ・アヤメ』を直撃し、彼女はおっさんの出てきた穴から、逆にすっぽりと中へ入り込んでしまった。


―いやぁぁぁ!臭い!生ぬるい!ベトベトするぅ!!―


 内側から断末魔と、必死にあがく音が漏れ聞こえてくる。

 その様子に、私達がドン引きしていると、更なる追撃が加わる。


―おらぁ、じたばたすんじゃねぇペン!―


 中身のおっさんが、持ち上げられそうなペンペンのボティの上へ飛び乗り、重石となったのだ。

 そしておっさんは、私達に向かって叫ぶ。


―今の内に、『クサカミ・アヤメ』が退治される結末を創作しろペン!『言霊』を倒すには、『言霊』の力を使うんだっペン!―


「っ!そうか!この現象がネットで広まった創作によるものなら、それを否定する創作で上書きすれば良いんだ!」


 からくりを察した兄さんが、皆にそれを伝える。

 よく解らないけど、アレが倒される物語を書けって事?

 

「でも、ここには原稿用紙もペンも……」

「おいおい、君たちは私より20年先を生きているんだろ?文明の利器を使え!」


 そう投げ掛けたてきたのは、紅葉さんだった。

 彼女と、その腕に支えられながらも復帰した深山先生は、共にその手に携帯端末を持っていた。(先生はスマホ、紅葉さんはいわゆるガラケー)


「私達の頃は、ワープロか、ケータイのメモ帳機能で執筆していたものさ」

「画面もボタンも小さいし、変換が面倒だったけどね」

「なら、紅葉さんが入力してください!私、アイデアまとめます!」


 これも何かの縁なのか、私は図書室で、即興小説のやり方を、紅葉さん自身から学んでいた。


「(今回のテーマは、悪霊退治。必要なのは、相手の正体、その原因、解決法……)」


 正体は女子生徒『クサカミ・アヤメ』の亡霊。

 彼女が化けて出たのは、死の真相を知るため。

 そして解決方法は、未完の状態で作者が死んでしまったから存在しない。

 ……ん?待って。『クサカミ・アヤメ』の死の状況って、紅葉さんが亡くなった時と似てない?

 紅葉さんは、小説のネタを考えてる最中に、誤って転落ししてしまった。

 でもその事を、深山先生たちは知らないまま、20年が経って……


「紅葉さん、あなたの実体験、ネタにさせてください!」

「私の?……あぁ、なるほど!」


 私の意が伝わった紅葉さんは、大きく頷いた。

 けれど、その直後


「良いとも!その代わり、君の胸を測定させt…ぎゃふん!?」

「てめぇの親友(ダチ)のガキにまで、手ぇ出すな!」


 器用にガラケー片手に指をワキワキさせた紅葉さんを、深山先生が締め上げた。

 深山先生、もしかして昔はスケバンだったのでは?

################

[イメージ図]


ブンッ・・・

(ノ-_-)ノ~  ヽ(;゜;Д;゜;; )ギャァァァ


     ↓↓↓

       ボスン

(ノ-_-)ノ~  =[|∈|●❯    

         ﹀ 


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