表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

二話 聖女、アリア・ロスチャイルド



 サキカ・アクスロイドは、目の前の光景に唖然とした。


「ははあ、めちゃくちゃ人多いですねぇ」

「たしかに、これは多いわね......」


 進級生が続々と集まる外は、さすがは王立魔法学院というのだろうか、ぎゅうぎゅうになっている。 

メイドのネモも顔をしかめながら、辺りを見る。


「これじゃあの子達がいるかわかんないな......。どこにいるんだ?」

「あれ、お嬢様、誰探しているんですかあ?」

「言ってなかった?私の友人の、アリ」

「サキカ!!」


 サキカがいいかけたその時、一人の少女がサキカにぶつかってきた。


「どうわぁあああぁっ!!っなに!?何が起きて...」

「サキカ!ごめんなさい、ぶつかってしまって!怪我はない?」

「って、アリア?いや、怪我はないけど」


 アリアという名前を聞いて、ネモは目を見開く。


「アリア......。ああっ!聖女のアリア・ロスチャイルド様ですよね!」

「そんな、聖女と言っても私はまだ遠く及びませんし」


 アリア・ロスチャイルド。茶色の髪に透き通った水色の瞳。柔らかな笑みを浮かべた彼女は、ラスクリード王国の聖女だ。

 聖女の中でも、さらに使えるものが少ない高度な光魔法を得意とし、聖女の中でもトップクラスの称号『大聖女』の有力な候補でもある。


「しかもまだ十三歳なのに、去年飛び級でここに入学したんですよね!さすが聖女様というべきか......」

「ちょっともう、ネモったら相変わらずうるさい」

「ええぇ、すみませぇん」


 しょんぼりしたネモをアリアが慰める。


「大丈夫ですよ、ネモさん。私のことを褒めてくださって嬉しいです!」

「アリアさまぁ......!」

「はいはい、そこまで。ところで、()()()は?まだ来てないの?」


 感激しているネモを放っておき、サキカはアリアに尋ねる。


「ああ、そういえば。まだなんでしょうかね?」

「うーん、もしかしたらもう中入ってるのかも。とりあえず、クラス表見に行く?」

「そうしましょう」



  ◇◆◇ 



 クラス表が貼ってある壁に向かうと、更に人が増えていた。ただ人が群がっているだけではなく、誰かを囲んでるようだ。

 ネモが目を細めながらぱたぱたと足でジャンプする。


「おわぁ、人たくさんですねぇ、ちょっと様子見てきますぅ」

「よろしく。…それにしてもなんなのこの人だかり…」

「でも見に行くしかないでしょう?」

「だね......。通れそうなとこは…だめだ、なさそう」

「どうしましょう?」


 その時、ちょうど見に行ったネモが早足で帰ってきた。


「駄目ですねぇ、なんか誰かを囲ってるみたいですぅ。それでこんなにいっぱい人がいるようですよぅ」

「もう何なの、こんなところで集まるなんて、もっと違う場所で群がりなさいよ」

「お嬢様ぁ、虫が群がるみたいな言い方しないでくださいよぅ」

「ちょ、ちょっと、僕は人を待ってて......」

(ん?)

 聞いたことがある声だった。


「この声ってもしかして」


 生徒たちをかき分けるようにして進んだ先には、大量の女生徒に言い寄られている男子生徒がいた。


「王子殿下ぁ、今度私の家にぜひおいでに......」

「いえわたくしのところに!王家教育について語り合いましょう!」

「いやだから僕は」

「アオイ殿下!」

「アオイ様!」


 鬱陶しそうな顔をしていた男子生徒は、呼びかけたサキカたちの顔を見て、目を見開く。


「アリア!」

「アリア様ですって!?」

「なんですって、アリア様が!?」


 女生徒の間にざわめきが広がる中、アリアは男子生徒の前で膝折礼(カーテシー)をする。


「久しぶりでございます、アオイ殿下」


 アオイ・ラスクリード。その名の通り、ラスクリード王国の第一王子、そしてアリアの婚約者でもある。   成績優秀で、まさに才色兼備と言えるような存在だが、モテているにもかかわらず彼は、アリアしか愛していないため全ての女性の相手を断り続けている。


「ああ、久しぶりだね」

「国の若き太陽、アオイ殿下に祝福を。アクスロイド家のサキカ・アクスロイドでございます」

「メイドのネモでございますぅ」

「サキカさんか。去年は色々迷惑をかけたね。その......、僕とかアリアとか」

「...いえ、気にしておりませんので。覚えていてくださり光栄です」


 ちらりと横を見ると、すでに取り巻きの女生徒たちは去っていた。


「それじゃあ、僕はここで失礼するよ。またね、アリア」

「はい」


 ぺこりとお辞儀をして顔を上げた二人は、再度辺りを見渡す。


「やっぱりいませんねぇ……」

「うーん、もう上行っちゃう?」

「そうしましょうか」

「あっ、そうだ。その前にクラス表」


 ラスクリード王国魔法学院には、二つの組分けがある。一つ目はβ(ベータ)クラス。一般的な学力を持った生徒で、一番人数が多い。二つ目はα(アルファ)クラス。βクラスよりさらに成績が高く、ごく少数の者しか入ることができない。


「そうね。ええっと…、私はいつも通り、αクラスだわ。サキカは?」

「私も。まあずっとおんなじクラスだし、そんなに特別感もないけど」

「何言ってるんですかお二人とも!αクラスなんて上澄みの上澄みなんですからねぇ!そんな当たり前みたいに言わないでくださいぃ!」


 先ほどまで静かだったネモが急に声を上げる。サキカはその声の大きさに顔をしかめる。


「だからうるさいってば。分かった分かった、じゃあもう私たちは教室に行くから、それでいいでしょ」

「んむぅ……」


 ぶつくさいい続けるネモを後ろに、サキカとアリアは教室へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ