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33.輝く未来を(2)



 二つ目は、大きな出来事とは言えないかもしれない。愛音に友達が増えたのだ。夏休みが明けてすぐ、律斗との件でクラスの女子数人に囲まれた。そこには吹部生の姿はなく、今まで喋ったこともないような子達ばかりだった。誰も彼も好奇の目で愛音を見つめていた。


「なんですか?」


 愛音は露骨に嫌な顔をしないよう努めながら、聞いてみる。


 最初は律斗との関係を尋ねられた。そこから、ジャズの話、吹奏楽部だった時の話、愛音個人の話に移り変わっていく。


 なんなんだ、この人たち。


 律斗との関係を否定しても去っていかない女の子たちに少し戸惑った。今、話した話は全てあとで悪口に変わるんだろうな、と想像ができる。本当に嫌だ。


 だけど、それは杞憂だった。


「時松さんって面白いね!」


 女の子のうちの一人が言う。岩浦さんだ。


「わかる! ズバッと物事を言い切る感じ? 聞いてて気持ちいいよね」


「時松さんっていつも男の人に呼び出されたりしてて、特別な人なのかなぁと思ってたら、案外普通の女の子だし」


 五人くらいの女の子たちが、愛音の机を中心にして、わかるわかる、と頷いている。赤べこがヘコヘコしているみたいで、ちょっとだけ面白かった。


「実は、私たちね、ずっと時松さんのこと気になってたの。ホラ、いつも先輩に呼び出されてたり、はたまた、学年一のイケメンと言われる江幡くんとお付き合いしてるって噂が流れたり……。なんだかすごい人だなって」


「そうそう。実は凄腕の男性キラーなんじゃないかって噂だって流れてるもんね」


 モヤモヤする。本当になんなんだ、この失礼な人たちは。全て誤解だし、野次馬根性丸出しだし、聞いていて気持ちいいものではない。


 言い返そうとした時、


「でも、佐和ちゃんにね、『愛音はそんな器用な子じゃないよ。勝手な憶測で好き勝手言わないで』って怒られちゃったんだ。あの大人しくて優しい佐和ちゃんにだよ? だからその、私らみんな、時松さんに余計に興味もってさ。それと、その……」


 岩浦さんが言いづらそうに口をもごもごとさせる。


「その、好きに騒ぎ立てて、根も歯もないような変な噂の流布に加担しちゃったから、時松さんにきちんと謝りたいって思って。ほんと、ごめんね」


 少女たちが口々に謝罪の言葉を述べる。


「あ、いや。謝らないで。誤解が解けたなら、よかったし……」


「よかった! でも、本当にごめんね。……それと、あの……。時松さんさえ良ければ、私たちと友達になってください!」


 今度は「お願いします」と少女たちが頭を下げる。

 愛音は戸惑った。こんな大人数にいきなり友達になってくださいなんて言われたのは初めてだ。それに、根も歯もないような噂を信じていたから、出会い頭に質問攻めしたくせに。


 まだ、彼女たちに対するモヤモヤが残っていた。だけど、ここで「いやだ」なんて言ったら角が立つのもまた事実だ。だから、愛音は深くは考えず、「こちらこそ、よろしくお願いします」と、頷いた。


 それから、彼女たちとそれなりに話すようになったし、一緒に行動することも増えた。彼女たちのグループに所属したのだ。それが正解だったのかわからない。それでも、一人でいるよりはマシだと思った。


 それに、彼女たちのおかげで、佐和ちゃんとの友好関係も改善されたのだ。


 あの日、佐和ちゃんが愛音を庇ってくれたと聞いた日。本当は飛び上がるくらい嬉しかった。


 今思えば、佐和ちゃんは愛音のことをずっと気にかけてくれていた。チラチラと心配そうにしている視線を何度も感じていたし、何度も挨拶をして、話しかけてくれていた。


 それでも、吹奏楽から逃げた劣等感から、中途半端な受け答えしかできていなかった。


 佐和ちゃんたちに対して、勝手に気まずく思って、勝手にギクシャクして、勝手に距離を取っていたのは、愛音自身の問題だったのだと気かついてからは早かった。


 愛音は気まずいながらも、佐和ちゃんたちのグループ(みんな吹部生だ)に挨拶をするよう心がけるようになった。話しかけるようにも努力した。毎日挨拶をして、話題があれば一緒に話す。そうしているうちに、愛音と佐和ちゃんたちは、昔のように話せるようになったのだ。


「愛音ちゃん、そこのプリント取って」


「これ?」


「そう! ありがとう。あ、そういえば、昼休み明けの授業って体育だよね? バレーの練習で二人組になるやつ、あれ一緒にペア組も」


「オッケー。てか、次、バレーか。最悪。腕痛くなるじゃん」


 というような具合に、愛音たちは自然ととりとめのない会話を交わし、良好な友好関係を築けている。


 上手く三組に溶け込めてる。


 このクラスになって初めて感じた。友達は多い方じゃないけれど、それでも、夏休み以前よりも断然楽しい学校生活を送れるようになったと思う。まだまだ残暑な高校一年生の秋の初め、悪くないスタートだった。




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