表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

第一章 入学の日、始まる闘い

 プロローグ

 ドカーン! ボカーン! ドゴーン!

 地区のあちこちで大きな爆発が発生している。

 地区のあちこちには、全長八メートルを超える真っ黒な生物が無数に闊歩している。あちこちで発生している爆発は、この巨大な生物達が起こしているようだ。

 そんなとある場所に、巨大な生物と対峙する一人の少年がいた。

 その少年は、すでに体中に怪我をしており、腕や足、額や口など、様々な箇所から血を流していた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 少年は乱れる呼吸を整えている。

「グルギャァァァァァァァァァァ!!」

 少年が対峙している真っ黒な巨大生物。巨大な羽を生やし、まるで鳥のような姿をしたその生物は、少年に対して雄叫びを上げた。

 その雄叫びは、聴く者の意識を奪ってしまいそうなほどに耳障りだ。

 だが、少年は耳を塞いだりせず、ただただその生物を鋭い目で見据えていた。

『ギャーギャー!』

 鳥の生物の頭上に、同じ姿をした生物が複数出現した。どうやら先程の雄叫びは仲間を呼ぶためのものだったようだ。

 しかし、少年は動じない。 ”右手に炎が揺らめいたような大きな剣を持ち” 鋭く複数の生物を見上げている。

「諦められるかよ……」

 少年は、誰にも聞こえない小さい声で呟く。そんな時だった。

己敦(みつる)君!」

 少年を呼ぶ声がした。

「あ、マル!」

 身長が低く、顔立ちが女の子みたいな ”少年” が、ボロボロの少年の元へと走ってきていた。が──、

「マル、来るな!」

「え……?」

 そう言われ、走ってきていた少年は足を止めた。

 空を飛ぶ生物が、走ってきていた少年の元へ急降下を開始した。獲物を捉え、殺そうとしているのだ。

「うわっ!?」

 生物が少年を襲う寸前──、

「オラァ!」

 ボロボロの少年が、持っていた剣を投げ生物を攻撃した。

「グギャ!?」

 生物の頭部に剣が刺さり、真横へと吹き飛ぶ。

 その隙に少年は、ボロボロの少年の元へと向かって行く。

己敦(みつる)君! ありがとう!」

「あぁ。大丈夫だったか? 怪我は?」

「ううん。僕は大丈夫。それより、己敦君の方こそ凄い怪我してるじゃん!? 大丈夫!? 見るからにボロボロだから心配だよ……」

「大丈夫大丈夫! こんなのかすり傷程度だぜ!」

「そんな訳ないよね!?」

 少年のボケにすかさずツッコミを入れる少年。こんな状況でもふざけ合えるのは、この二人が ”数々の戦場をくぐり抜けて来た” からなのだろう。

「それよりも今は、あの大群をどうするか、だな。今日は大切な日だってのに……」

「そうだね…… ”卒業式” が始まる前には戻らないと」

「あぁ。マル、力貸してくれるか?」

「もちろん。当たり前でしょ。だって僕達は──」

「あぁ、俺達は──」

「「相棒だから!」」

 二人は、生物の大群へと立ち向かって行った。

  一人の少年が、車の後部座席に座り窓の外を眺めている。

 その瞳に宿るのは、希望か、期待か、それとも……。

 一時間半かかり、目的地に到着した。

「じゃあ、千魔金ね」

「え? 駅からここまでだと、一万は越えますよね?」

「君、新入生でしょ? おじさんからの入学祝いのサービスサービス」

「いいんですか?」

「あぁ、もちろん。大人の申し出はありがたく受け取っておくものだよ」

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 少年は、ポケットからウィザーフォンと呼ばれるスマホのような物を取り出し、そこに内蔵されているアプリ【魔金アプリ】をタッチした。

 すると、今ある残金が表示され、そこには【10万魔金】と書かれている。その下にある【魔金払い】をタッチすると、幾ら払うのか入力する画面が表示される。

 少年は【1,000】と入力。【OK】をタッチ。すると、ピコンと言う音が鳴り、残金が【9万9,000魔金】へと変動した。これで支払いが終わったのだ。

「はい。ありがとうね」

「そういえば、今どき珍しいですよね。有人自動車って」

 少年はウィザーフォンをポケットにしまいながら言う。

「そうだね〜。有人でやってるのはもう私くらいなもんだね。他は全部無人になったからね」

「でも俺、おじさんの運転、好きです」

「そうかい? ありがとうね。でも、実は今日が最後なんだよね」

「え……? 引退するんですか?」

「あぁ。もう年だし、有人は古いし、時代の流れには乗らないとねぇ」

「そうでしたか……。長い間、お疲れ様でした。そして、最後にも関わらず、安くしていただいて、ありがとうございます」

 少年は、座ったまま姿勢を正し、頭を下げる。

「ふふ。礼儀正しいいい子だね。最後に乗せたのが君で良かったよ。学院生活、大変な事もあるだろうけど頑張ってね」

「はい! ありがとうございます」

 少年は車を降りる。

「じゃあね。またどこかで会えたら、気軽に声かけてね」

「はい!」

 車はそのまま走り去って行った。

 少年は走り去る車っを見届け、後ろへと振り返り、大きな建物を見る。

「ここが、皇暗学院」

 少年がやって来たのは、この国【エンペラークカントリー】で一番の実力を誇る学院【私立(しりつ)魔導(まどう)皇暗学院(こうあんがくいん)】。

 魔力を持つ者【魔導者(まどうしゃ)】を育成する教育機関だ。

【エンペラークカントリー】には五つの学院が存在する。が、その五つの中でも【皇暗学院】は一番生徒数が多く、魔導者としての実力も確実だった。

 よって、新たに魔導者として学院に入学しようとする者は大抵が【皇暗】にやって来る。

【皇暗】を選ぶ者達の理由は様々。

・院舎が広大で過ごしやすい。

・寮があり、学院に通いやすい。

・寮も広大で、暮らしやすい。

・制服が可愛い、格好いい。

・最強と呼ばれる魔導者がいるから。

 などなど【皇暗】を選ぶ理由は沢山ある。

 新入生の少年は【皇暗】をいかなる理由で選んだのか。それは本人にしか分からない。

「よし。行くか」

 少年は門をくぐり、学院の敷地内へと入って行った。

【私立魔導皇暗学院】の敷地はとにかく広い。言葉では言い表せないくらいにだだっ広い。

 東京ドームが何個も連なっているとイメージしていただけると、分かりやすいかもしれない。

 院舎の隣にある寮も、院舎と同じ大きさ、広さだ。

 少年がどこに行っていいのか分からず、とりあえず歩いていると──、

「はぁ〜美しいわ……」

 新入生の女子学院生達が、とある場所を見ながら惚けていた。少年は気になりそちらに視線を向けると ”十三人” の女子学院生達が廊下を歩いていた。

「すげぇな。なんかオーラが違うな」

花恋(かれん)魔団(まだん)リーダーの蜜華(みつばな)花恋(かれん)先輩……。すごい……本物だ……」

「ん?」

 少年が隣から声がしたのでそちらを見ると、ポニーテールがよく似合う、黄色髪の少女が立っていた。その少女も他の女子と同じく、廊下を歩く女子学院生達(正確にはその中の一人)に目を奪われていた。

「あの人の事知ってるの?」

「え? 逆に知らないの?」

 少年が少女に尋ねると、不思議そうに尋ね返されてしまった。

「ご、ごめん……俺、魔導者とかの歴史とか、そういうのに疎くて……」

「あ、いや、私こそごめん! 私は知ってるからあれだけど、知らない人もいるよね。私基準で話しちゃってごめん……いつもおじいちゃんに注意されてるのに」

 それで、あの人はね、と続けて──。

「三年()組で花恋魔団のリーダー、蜜華花恋先輩。(はな)魔法(まほう)を得意としてる人だよ」

「へぇ〜……」

「あ、ちなみに魔団は分かる?」

「あ、うん。それは勉強した。十三人の魔導者で結成されてるチームの事、だよね?」

「そうそう。蜜華先輩はその魔団のリーダーを努めてるの」

「すげぇ、めっちゃ強いって事だよな。あんなお淑やかそうな人が」

「だよね。人は見かけによらないって本当だね。あ、自己紹介が遅れたね。私は(せん)()未来霞(あすか)。【(かすみ)魔法(まほう)】が得意です」

 少女──未来霞は、可愛らしい笑みを浮かべて自己紹介をした。それを受け、少年も自己紹介をする。

「俺は闥凪(たつなぎ)()(つる)。【(ほのお)魔法(まほう)】と【(つるぎ)魔法(まほう)】が得意です。これからよろしく」

「よろしく。ってか、魔法二つ使えるんだ! 凄いね! しかも(つるぎ)ってめっちゃ凄いじゃんん!」

「へへ、ありがとう」

 と、二人が話していると──、

「新入生の皆さん! まもなく入学式が始まります! 突き当りを右に曲がった所にある実技館(じつぎかん)へ移動をお願いします!」

 案内役の先輩学院生が、新入生の案内をしていた。それを聞き、二人は急いで向かう事にした。

「そろそろ行こっか」

「だな」

「同じ組になれたら、その時はよろしくね」

「あぁ。よろしく」

 そうして二人は、実技館へと向かった。


 ☆ ☆ ☆


 実技館では、入学式が行われていた。

 在院生がずらっと整列しており、その前、一番前にあるステージの方に新入生達が整列している。

 新入生達は緊張しているのか、顔が強張っている。

「私はこの学院の学院長、我爺(わや)難波(なんば)です。まず、新入生の皆さん、ご入学おめでとう。我が学院に入学してくれたこと、本当に嬉しく思う」

 学院長の話と言うのは大抵長いものだ。それを分かっている先輩達は、小声で私語をしていた。

「ねぇ、暗黒(あんこく)さんは?」

「いつもの場所で特訓中」

「新入生には興味なし、か」

 茶髪の少年が隣に立つ、赤と茶の二色が特徴的な髪の少年に尋ねる。と、二色髪の少年は淡々と答えた。感情が乗っていないので、会話が嫌なのかと思ってしまうが、その返答を受けた茶髪の少年は普通にしているので、これが二色髪の少年の通常運転なのだろう。

 二人がそんな会話をしている中、他の場所でも会話ではないが、独り言呟いている者がいた。

「へぇ〜。あの黄色髪の子、結構可愛いじゃん。 ”僕のコレクション” に加えたいなぁ」 

 そんな不吉な事を呟く眼鏡の少年。

 様々な人がいるが、入学式は無事に終わり、それぞれが各自の教室へと戻って行った。新入生達は少し残り、自分達がどこの教室に行けばいいのか、どこの組なのかを教えてもらった。

 そして、新入生達も各自移動を開始した。


 ☆ ☆ ☆


 一年魔組。その教室に闥凪(たつなぎ)()(つる)は入っていく。

 ウィザーフォンを取り出し、自分の席の場所を確認する。

 教室は広大で、机と椅子が楕円形になっており、一つの場所に複数人が座れるようになっている。

 本来、席は各自自由なのだが、最初だけは、教師達が定めた場所に座る決まりになっている。教師が学院生達の名前と顔を把握する為だ。

 一クラス五十人と言う大所帯。担任教師も名前と顔を覚えるのに苦労するのだ。

 己敦が自分の席を探していると──、

「あの……」

 後ろから声をかけられた。己敦が後ろを振り返るとそこには、可愛らしい小動物みたいな ”少年” がいた。

 身長はおそらく低い──150〜160センチくらいで、髪はショートボブ。黒い色の中に微かに茶色が混じっている。顔はとにかく可愛く、初見なら間違いなく ”女の子” だと思う。がしかし、己敦は一発で男の子だと気づいた。

「せ、席番号、何番、ですか……?」

「あ、えっと……」

 己敦は自分の席番号を伝える。すると──、

「あ、じゃ、じゃあ、僕の隣、ですね」

「あ、本当だ。ありがとう。えっと……」

 己敦は席を教えてくれたお礼を伝えようとするが、名前が分からず詰まってしまう。それにすかさず──、

「あ、僕は()(げき)・ソルジャー・()()です。よろしくお願いします」

「俺は闥凪己敦。よろしくな、マル」

「っ、ま、マル……」

「あ、ごめん。勝手にあだ名付けちゃって。魔撃とかって呼ぶよりもこっちの方が呼びやすいなと思って。嫌か?」

「う、ううん! す、凄く嬉しいよ! 嫌なんじゃなくてその、なんて言うか、上手く説明できないんだけど、マルって呼ばれるのが懐かしい(、、、、)って感じて……今まで呼ばれた事ないはずなのに……」

「それ、俺も感じた。なんかしっくりくるって言うかさ。まるで昔から(、、、)呼んでた(、、、、)みたいに」

「僕も、そんな感じ、した……」

 二人はお互い見つめ合いながら首を傾げていた。

 二人が見つめ合っていると──、

「な〜に熱く見つめ合っちゃってんの!」

「痛っ!?」

 突然、己敦の背中に衝撃が。どうやら後ろから誰かに叩かれたようだ。

「誰だ!? って、君は」

「お。闥凪君じゃ〜ん! 同じ組だったんだね〜!」

「だな。こんな偶然あんだな」

 そう言って、己敦はマルの隣に、黄色い髪が特徴的でポニーテールにしている女子が己敦の隣に座った。

「偶然? いんや〜。もしかしたら運命かもよ〜? この世の中、大体が運命でできているっておじいちゃんが言ってたし。あ、さっきも自己紹介したけど、改めてもう一度」

 女子は姿勢を正し──、

「私は(せん)()未来霞(あすか)。【霞魔法】を得意としてま〜す。気軽に未来霞(あすか)って呼んでね〜。これから一年間、よろしく」

 丁寧にお辞儀をする未来霞。未来霞が頭を上げたタイミングで──、

「じゃあ、俺も改めて。闥凪己敦だ。【炎】と【剣】の二つと得意としている。俺の事も気軽に己敦って呼んでくれ。こちらこそ、よろしく」

「ぼ、僕は魔撃・ソルジャー・刃ッ羽です。【観察】と【治癒】がと、得意です。よ、よろしくお、お願いします!」

 己敦に続き、マルも自己紹介した。そんなマルを見て未来霞は──、

「うん! よろしくね〜! いや〜でも君、ちょ〜可愛ね! 女同士なのに惚れちゃいそうだよ〜!」

「え?」

「え?」

 未来霞の言葉に己敦は疑問の声を漏らした。それに対して未来霞が疑問の声を漏らした。

「未来霞、何言ってんだ?」

「何って、え?」

「マルは男だぞ?」

「え……? いやいやそんな事ないでしょ……こんな可愛くて、顔のパーツ整ってて、小柄な子、どう考えても……」

「いや、そうやって見た目で判断するのはよくないだろ。それに、周りがどう言おうと、思おうと、マルは男だ。な、マル」

 恥ずかしそうに頷くマル。

「あ〜え、えっと、その、ごめん! 本当にごめん! 私デリカシーのない事を……! こういう先入観はいけないっておじいちゃんにも言われてるのに……! 本当にごめんね……?」

 一気に顔色を失った未来霞が、慌てて謝罪する。机に額がくっついてしまうのではないかと思うほど、頭を下げて。

「そ、そんな! 僕は全然大丈夫だから! よく間違われるし、可愛いのが大好きで女の子っぽくしてるのも事実だから。それに、未来霞さんの言葉、全部すっごく嬉しかった!」

 満面の笑みを浮かべてそう言うマル。その笑顔に対し──、

「はっ♡ か、可愛い……! 可愛すぎる! もう、罪なくらい可愛い!」

「罪なくらい可愛いってなんだよ」

「可愛いのが罪なくらいって事! あ〜もう抱きしめたい! 匂いをスンスン嗅ぎたい!」

「え……?」

「はいストップ。マルが引いてる」

 未来霞が己敦を越え、マルに抱きつこうとする。が、それを己敦が未来霞の肩を押さえ阻止する。

「ごめんごめん。私可愛い子に目がなくてさ……」

「おいおい……」

 未来霞の衝撃発言に、己敦とマルは苦笑いする事しかできなった。

 この三人は今後、行動を共にし、学院生活を歩んでいく事になる。

 担任教師が教室に来るまでの間、三人は談笑を続けた。


 ☆ ☆ ☆


 己敦達は、担任教師の(さかき)(はら) (りん)から【魔導(まどう)通信(つうしん)()】と呼ばれる、イヤホンのような小型の機械を配られた。

魔導(まどう)通信(つうしん)()】は、着用者の位置情報や、安全確認などを行う物。万が一紛失してしまうと、ペナルティーが課される。そのペナルティーは身の毛もよだつほど恐ろしい。と、言われている。

【魔導通信機】を受け取った後は、寮の案内となった。が、新入生が多く、順番との事で、順番が回って 来るまでは自由時間となった。順番が来たら通信機に連絡が入る。

 三人は今、食堂を訪れていた。

「うわぁ〜! 広〜い! きれ〜い!」

 未来霞がクルクルと回転しながら、食堂の広さ、綺麗さに感激している。

 ちなみに、今は食堂を誰も利用していないので多少騒いでも問題はなかった。

 己敦とマルも、そのあまりにも広すぎる食堂に感動しているが、言葉を失っているのか黙って中を見渡していた。そんな二人に──、

「ねぇねぇ! これからお昼はここで一緒に食べようよ!」

「そう、だな。マルはいいか?」

「う、うん。大丈夫。でも慣れるまで時間がかかりそうだけど」

「だな」

 二人の返事を聞き、嬉しそうに笑みをこぼす未来霞。そして三人は次の場所へと移動した。

 次に訪れたのは、外にある【ガーデン】。いわば中庭だ。

「はぁ〜。ここ、空気が美味しいね〜」

「そうだな〜。俺はここが一番落ち着くかもな」

 三人が歩みを進めると、中庭の丁度中央に設置されている大きな木が見えてきた。

「うわ〜これ、すっごいね。めっちゃ大っきい〜」

「あ、名前が書いてあるよ。えっと【(せん)()()】だって」

「【千間の樹】か。歴史が詰まってるんだろうな……」

 己敦が感慨深そうに呟くと、それに対しマルが答える。

「うん。一万年以上生きてるんだって」

「「一万年!?」」

 己敦と未来霞が揃って声を上げた。

「スゲェ……」

「うん……これから三年間、よろしくお願いします」

 己敦は樹を見上げ、未来霞は深々とお辞儀をした。

 と、三人が【(せん)()()】を各々の思いを抱きながら見ていると──、

「あ、先生からだ」

 三人の左耳に付いている通信機に着信が。

「教室に戻ってだって。行こう」

「あぁ」「うん」

 三人は教室へと向かった。


 ☆ ☆ ☆


 教室に戻った後、副担任を務める(あり)(わけ) (しょう)を紹介された。

 章は若々しく、年は下手をすれば己敦達と同じくらいかもしれない。水色の髪が特徴的で、顔はザ・イケメンだった。

 そして、寮への案内が始まった。

 男子は章が。女子は燐が担当する。

「じゃあ、己敦君、マル君、また後でね」

「うん」「あぁ」

 そうして三人は、寮へと向かった。


 ☆ ☆ ☆


 寮案内が終わり、数時間の間が空き現在は夜の19:00。

 新入生は実技館に集まっていた。

 その訳は、入学祝い式と呼ばれる、新入生の入学を祝う宴会が開催されてるからだった。

【皇暗学院】の伝統行事で、この入学祝い式を目的に入学してくる者もいる。

 入学祝い式では、沢山の豪華な食事や、飲み物などが沢山用意されており、解散となる23:00まで自由に飲み食いが可能。

 己敦達三人も、沢山食べ、思う存分楽しんでいる。

 そんな楽しい時間。それが壊され、最悪なものになってしまうと言う事をこの時誰も、知り得なかった。


 ☆ ☆ ☆


「さてと、そろそろ始めるか」

 皇暗学院の頭上に、全身黒ずくめの男が浮かんでいた。

「”暗黒” あの日の ”約束” を果たす時が来たぞ」

 男は学院を見下ろし、とある特定の人物の名前を呼び不気味に呟いた。

「ふっ。さぁ、復讐劇の始まりだ」

 男は不敵に微笑むと、右手を突き上げた。

 すると、手を上げた男の頭上を起点に、空間が歪み始め、そこから─────。


 ☆ ☆ ☆


「う〜ん! 美味しい〜!」

 未来霞が皿に取ってきた料理を口に運び、幸せそうに満面の笑みを浮かべ言う。

「うん。スゲェ美味い」

 己敦も未来霞と同じ料理を食べ、舌鼓を打つ。一見テンションは上がってないように見えるが、単に感情が外に出づらいだけであって、本人は楽しんでいる。

「本当だ! スクランブルエッグなんて初めて食べたけど、凄い美味しいんだね!」

 マルも二人と同じ料理──スクランブルエッグを食べ、声高らかに言う。

 三人の手元の皿には、スクランブルエッグを始め沢山の ”卵料理“ が乗っていた。

「卵は貴重だから、こうして卵料理が食べれるなんて幸せだよな」

 己敦が言う。

「うん! これだけでこの学院に入学して良かったって思えるよね!」

 マルが答える。未来霞はそのやりとりに少し疑問を抱いていて、それを尋ねようとした時──、

(けい)(れい)! 警令!』

 突如として放送が鳴り響いた。

 この学院では、緊急事態や任務の通達などがあると放送が流れるようになっている。

 その放送をする役職は【放送(ほうそう)(とう)】と言う。【連絡(れんらく)(とう)】と言う役職もあるのだが、それは別の機会に。

「な、なんだ!?」

 皆が食事の手を止め、驚きを隠せないでいた。

 そんな皆を更に不安にさせる言葉が、放送で紡がれた。

『学院内に(きょう)()が出現! その数、約四十! 動ける()(どう)(しゃ)は対処に当たれ! 繰り返す! 学院内に凶魔が出現! ────』

「きょ、凶魔が!?」

「なんで!? この学院って ”結界が張ってある” から凶魔は入ってこれないんじゃなかったの!?」

「い、イレギュラーな事態とい、言う事みたいですね。あ。せ、先生が来ました」

 新入生達が慌てふためき、ざわつき出していると、燐と章が走ってやって来た。

「みんな! 放送は聴いたな? 緊急事態だ。これから私達教師と三年は凶魔撃退に当たる。君達はこの実技館からは絶対に外に出ないように。君達は確かに魔導者だが、新人だ。まだ基礎も何も学んでいない。決して闘おうなどとは思うな。死ぬぞ。これは決して冗談ではない。いいな!」

『はい!』

 燐の指示に素直に従う学院生達。

 ちゃんと指示に従ってくれる嬉しさを胸に抱きながら、燐と章は外へと向かった。実技館の鍵をしっかりと閉めて(、、、)

「ね、ねぇ、流石にここまでは入ってこないよね?」

「だ、大丈夫だろ……多分……」

 新入生達は不安なようで、恐怖に怯えた表情を浮かべソワソワとしている。

 一箇所で固まり慰め合う者もいれば、その場にしゃがみ込み、震えながら涙を浮かべている者もいる。

 彼ら彼女らは確かに魔導者で、魔力を持ち、魔法を使い闘う力もある。だが、彼ら彼女らにはまだ戦闘経験がない。闘い方すら知らない者もいるだろう。魔法を使い、魔力を操る基礎を知らない者が多い。

 この学院に入学し、初めてその全てを学ぶのだ。だが、その全てを学ぶ前にいきなり実戦になってしまった。

 恐怖を覚えるのも無理はない。そもそも、この学院では一年、二年には実戦をさせる事はまずない。

 三年になり、実力を身に着けてから本格的な実戦をさせている。

 そんな中で──、

「みんな、怖がってるね……」

「む、無理もないですよ。きょ、今日魔導者として自覚を持ち始めたひ、人が多いですから」

 己敦、マル、未来霞の三人は落ち着いていた。それどころか、冷静に状況を見ている。

 そんな中でも、己敦はひときわ落ち着いており、辺りを隙間なく見回し警戒している。

 と、次の瞬間──、

「っ! 来る!」

「「え──?」」

 己敦の言葉に、二人が「何が」と尋ねるよりも早く。天井が大きな音を立てながら崩れ、何かが降って来た。

『キャー!?』

 その降ってきたものを見た学院生達は悲鳴を上げた。その降ってきたものの正体は──、

「きょ、凶魔!?」

 凶魔だった。しかも一体ではない。そのトータルは二十。外に出現した半分が実技館に侵入してきてしまった。

「マズいな」

 己敦達三人は脂汗を浮かべていた。

 他の学院生達は恐怖に支配され、その場から動けなくなってしまっていた。

『ギュリュリャアアアアアアアアアアアアアア!!』

 異形の怪物、凶魔の大群が一斉に雄叫びを上げた。

 鳥形の凶魔が八体。ムカデ形の凶魔が三体。狼形の凶魔が二体。サイ形の凶魔が五体。牛形の凶魔が二体。

 二十体は、獲物を探すかのように、実技館の中を闊歩している。

「このままじゃ、みんなが!」

「未来霞、行けるか?」

「もち!」

「マル、天井が崩壊した衝撃で怪我をした人がいないか確認してくれ。もしいたら──」

「治療をする。わ、分かってる、よ。二人共、き、気をつけてね」

「うん」「了解!」

 そうして、己敦と未来霞は凶魔に。マルは他の学院生達の元へと向かっていった。

「【剣魔法、グレイトフルソード!】」

 己敦がそう唱えると、己敦の右手に剣が出現した。

 その名も【(ざん)()(けん)グレイトフルソード】。全長一メートルは超えるであろう大きな片刃剣で、刃の後ろはまるで炎が揺らめいているかのような形状をしている。まるで刀のような剣で、鍔の部分が炎の陽炎のような形をしている。

「未来霞、そっち頼んだ」

「りょ! まっかせて〜!」

 己敦と未来霞は、左右に散らばり、それぞれ凶魔と対峙する。

 己敦が対峙したのはムカデ形三体、狼形二体、サイ形五体、牛形二体の計十二体。

「せっかくの入学祝い式を台無しにしやがって。絶対に許さない。【剣魔法、スラッシュ!】」

 己敦は剣を構え、凶魔に向かって魔法を繰り出した。その魔法は、剣の刃に魔力を集中させ敵に向かい閃光を放ち斬り裂く。

「あんた達の相手は私よ!」

 未来霞が対峙するのは鳥形の八体。

 なぜ、己敦が未来霞に鳥形を任せたのか。それは──、

「まさか、瞬時に適性を見抜くなんて。すごいなぁ己敦君は。その期待には応えますよ〜! 【霞魔法、、ヘイズ・イリュージョン!】」

 未来霞がそう唱えると、未来霞の周りに霧がかかり始めた。

 その霧が未来霞の姿を包み、見えなくさせた。

『ギ、ギィ……?』

 鳥形の凶魔達は、いきなり姿が見えなくなった獲物に驚き、辺りをキョロキョロと見回している。

『こっちよ』

『ギィ!?』

 突如、鳥形の凶魔達は何もない空間を攻撃し始めた。

『そっちじゃないよ。こっち』

『ギィ!』

 また。

『こっちだって』

『ギィギィ!』

 また。

 先程から凶魔達は、何もない所を攻撃するばかり。すると──、

『ギィギャ!?』

 突然、凶魔達が吹き飛んだ。まるで何者かに攻撃されたかのように。いや、実際されていた。

 未来霞の手によって。

『ギ、ギィ……?』

 凶魔達は何が起こったのか理解できていないようだった。

 霧が晴れ、姿を現した未来霞。

「何が起こったか、特別に教えてあげる。私の魔法【霞魔法、ヘイズ・イリュージョン】」

 そう言うと、再び未来霞の周りに霧が現れ姿を消してしまった。

 しかし、未来霞の姿は床に倒れている凶魔の背後(、、)にあった。

『ギィ!?』

『ふふ。驚いた? あそこにある霧は単なる囮。まぁ私の本体はあそこにあるから、攻撃されたらヤバいんだけど。でもその代わり、私の体はどこにでも行けるの。そう、空にもね』

 そう。これこそが未来霞の魔法。

 未来霞自身の体を霞で隠し、見えなくする事でそこから消えたと敵に錯覚させる。そして、幻影となった未来霞の体が様々な所に現れ敵を錯乱。攻撃を加える。実体を伴わないので、攻撃力は落ちると思われるが、攻撃力の低下はしない。それどころか増す。

 それは【霞魔法】の特徴だった。

【霞魔法】は、使用者の命を危険にさらす代わりに一撃一撃が、他の魔法よりも強力になっているのだ。

 しかもそれが幻影ならば、威力は倍になる。

『それをすぐに理解した己敦がすごすぎるんだけど。まぁ、とにかく今は早くパーティーを再開したいからあんた達は、秒で片付けさせてもらうわ! 【霞魔法、ヘイズ・レイ!】」

 未来霞は八体の凶魔に【霞魔法】の攻撃用魔法を放った。

 幻影の方からではなく、霧がかかっている本体の方から閃光が放たれた。そして、八体の凶魔は閃光に包まれ、消滅した。

 八体の凶魔の消滅を確認した未来霞は、幻影を消し本体にかかっている霧も消失させた。

「ふぅ〜。学院での初戦がこんな形とはね。さて、己敦君は〜……もう終わるね」

 その未来霞の言葉通り──、

「【炎魔法、バーニング!】」

 右手に炎を纏わせ、牛形の凶魔二体を殴り飛ばす。二体は消滅。

「【剣魔法、スラッシュ!】」

 グレイトフルソードで狼形の凶魔を二体斬り伏せていく。二体は消滅。

 すると、己敦が狼形凶魔を斬り伏せる為に上空へ飛び上がり、床に着地しようとした瞬間を、サイ形の凶魔が狙っていたかのように突進してきた。しかも五体が一斉に。

「舐めんな! 【炎魔法、ブースト・エンジン!】」

 己敦は真下に向け魔法を放つ。すると、己敦の足から炎が勢いよく噴射され、己敦の体を浮かせた。よってサイ形凶魔の突進の直撃は免れた。

「続けて! 【剣魔法、スラッシュロー!】」

 己敦は、グレイトフルソードを放り投げた。グレイトフルソードはサイ形凶魔五体の元に回転しながら移動。次々と切り裂いていく。そして、五体は消滅。

「っと。さぁ、残すはお前らだけだ、ムカデ野郎共!」

 己敦は、ブーメランのように戻って来たグレイトフルソードをキャッチし、残っているムカデ形凶魔三体に向かって剣を構えた。

「一気に決める。【炎魔法、バーニング・スマッシュ!】」

 己敦は、グレイトフルソードを一旦背中に収め、ムカデ形凶魔二体に、両手に纏った炎の拳を打ち付けた。攻撃を受けた二体のムカデ形凶魔は消滅。二体の消滅を見た残りの一体は、怒り狂ったかのように己敦に襲いかかってくる。

 それに対して、己敦は背中に収めていたグレイトフルソードを抜き、そのまま斬りつけた。

「ハァ!」

 その攻撃で凶魔は消滅。その攻撃は魔法を纏わない普通(、、)()攻撃(、、)だった。

 己敦は一年生であるにも関わらず、一人で十二体の凶魔の撃退に成功した。

「よし。未来霞は……終わってたか」

「お疲れ〜!」

「おう」

 二人は合流し、グータッチを交わす。

「二人共!」

「お、マル!」

 そこに、新入生たちの治療に当たっていたマルも合流。

「大丈夫だった?」

「私達だもん! 全然大丈夫! 楽勝よ!」

「まぁ、そうだな」

「それよりマルはどうだ? 怪我とかしてないか?」

 己敦は、マルの身を案じた。

「う、うん。大丈夫。ふ、二人がま、守ってくれたから。あ、ありがとう、二人共」

「良かった」「どういたしまして♪」

 ここで撃退したのは二十体。外には残りの二十体が存在している。だが、教師や先輩に任せておけばそう時間はかからず終わるだろう。そもそも、一年生が二十体の凶魔を撃退できる方がおかしい(、、、、)のだが。

 なにはともあれ、無事終わった。己敦達を含め学院生達は全員、ホッと安堵の表情を浮かべた。もう大丈夫だと。

 だが、その時──、

「へぇ〜、新入生の割に結構やるじゃん」

「「「っ!?」」」

 突如、ステージの方から声が聞こえてきた。

 己敦達がそちらを向くと、そこには全身黒ずくめの男が座っていた。

「お前は、誰だ……!?」

 エピローグ

「あと一時間か……」

 とある少年は、左耳に触れ目の前にウインドウを出現させ、時間を確認した。

 現時刻は12:30。

 確認を終えた少年はウインドウを消す。

「俺は卒業式には ”参加できない” だろうな……」

 少年は、どこか諦観の念がこもった目をしながら、遠くを見つめている。

 そんな時、少年の左耳に付いている通信機に着信が。それに出ると──、

(あん)(こく)さん! 大丈夫ですか!? 応援は!?』

「いや、いい。俺一人で十分だ」

『し、しかし! いくら暗黒さんでも一万(、、)の軍勢を前に一人では──』

「平気だ。それよりもお前達は卒業式の準備をしておいてくれ。気持ちよく卒業したいからな」

『で、でも──』

「いいから。…………俺を信じろ」

『………………分かりました。どうか、ご無事で』

 通信はそこで切れた。

「ごめんな」

 少年はそう呟き、目の前に広がる怪物の大群に向かって行った。ボロボロの体で。


 ☆ ☆ ☆


 13:30。

 卒業式が始まる時刻。

 卒業式が行われている会場には、静寂が流れている。

 卒業の寂しさによる沈黙……ではない。

 学院生達の目の前、ステージの上にあるウインドウに先程、一万の軍勢に向かって行った少年が映し出されている。

「暗黒さんの、嘘つき……!」

 先程、少年に連絡を取った学院生が、拳を握りしめ涙を流している。

 その周りの学院生達も同じく、涙を流している。

 まるで ”ウインドウに映る少年が亡くなってしまったかのよう”。

「暗黒さん……俺、貴方の後を継ぎます……!」

 一人の少年は、ウインドウに映る少年に向かって一人密かに誓いを立てた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ