第29話 【配信開始】 変幻自在の配信者 ファラント
時に運命はどうしようのない道を示す時がある、敗北が決まっている道や崖っぷちや地獄の入り口を示す時もある。
少女は明るかった、誰とでも仲良くできて友達になれた、しかし昨日友達になった子供は少女を知らなかった、と言うより少女が友達だとわからなかったのだ、その少女の顔や声が全く別物に変わっているのだから。
それでも少女は諦めずに友達を作った、顔が全てと言うつもりはないが人は顔が1番大切で顔で全てを判断している、毎日変わる顔や声に子供の友達は良い気持ちを抱かなかった。
次第に少女は関わりを持つのをやめ、現実の世界から逃げ、狭い世界に閉じこもり顔が必要とされない世界にのめり込んでしまったのだ、これは致し方ないことで自然な話だ、だが時に運命は面白い選択肢を突きつける時がある。
[君の力が必要なんだ、僕と契約して魔法少女になるんだ]
このまま引きこもりとして一生を狭い世界で生きるか、それとも魔法少女になるか。
「む 無理だよ そもそも私はムイナじゃなくて そ そのと とにかく私はムイナじゃない魔法少女になる資格なんて」
[そんなことないさ、君には才能があるムイナじゃなくても君は変身できるんだ、さあ僕の手を握って]
クラフトは小さな手を差し出す。
ホノカの体は震えていた、その震えが恐怖や緊張から来るものなのか本人は分からなかった、だけどホノカの脳裏に浮かんだのは父親の姿だった、こんな自分に優しい父親、大切で一生一緒に居たいそんな父親の顔だった。
そんな父の事を考えていると気付けば少女はクラフトの手を握り締めていた。
[すまない、君をムイナと勘違いしていた、だけど君には無限の可能性があるムイナを超える変幻自在な可能性が]
「わ 私なんかが ですか」
[そうさ、君の小さな勇気は大きな光になるだろう、一歩踏み出すのさその一歩が君の未来さ]
クラフトの体がまばゆく光輝く、手にカイロを当てたような熱が手のひら全体に伝わり、ほのかに温かいオレンジ色の煙があがり、今にでも泣き出しそうなホノカの顔が自然と笑顔に変った。
「温かい」
[人によって違いのさ、能力の持たない人間は能力を埋め込むから熱いけど、能力者の場合はその必要がないから温かいんだ]
「そうなん だ」
[さあ準備が済んだよ]
オレンジ色の煙はホノカの手首に巻き付くと黒のバンドに変化する、そのバンドが光りピンク色のスマホを作り出した、そのスマホは市販で販売されているものとは違い玩具のスマホみたいに大きくスマートではなかった、スマートなフォンでスマホならこれはスマホじゃないと思うが大体の形やボタンの位置はスマホと同じ。
アイコンもアニメみたいなポップなアイコンで全体的に可愛らしく子供のような物だった。
その可愛いアイコンの中に1つメイクアップと書かれた見慣れないアイコンが1つ異彩を放っている、ホノカはそのアイコンを押すとスマホの画面から虹色の光が溢れ出す。
「あぁ、なんだあれ」
「ミスティもしかしてあの光」
「まさか穂乃花ちゃん」
その光はホノカの体を包みホノカの能力を拡張させる、拡張された能力は顔や声や姿だけでじゃなく着ている服も変えた、どこかの貴族を思わせる白の格好で目は青く腰までの長さの青色の髪、そして首には変身に使ったスマホをぶら下げ頭に冠を付けたお姫様の姿に変身した。
まるで舞踏会に出るお姫様みたいな格好、長いヒラヒラのスカートにコルセットにやって作られた細い体、その姿は少女が配信で使っている【リード・ファンエスタ】と全く同じ、瓜二つだった。
「こ これって」
「あれってVtuberのファンさんだよね」
「誰だいそれ」
[魔法少女に自身の思い描く自分自身の姿さ、うそ偽りない君の姿だよ]
「私の思う自分自身の姿 もう今の私はリードなんだ」
「危ないファンさん!ドロップスがそっちに」
厄介そうなやつは早めにつぶしておこうの精神でドロップスは変身したばかりのホノカに殴った、この拳は顔面に命中しただがグニャグニャとホノカの顔が弾みドロップスをはじき返した。
「なに」
「え 全然痛くない え 私殴られたよね」
「ふざけやがって」
「こ こないで」
怖い顔をしながら近づいてくるドロップスに怯え拳を振るう、だがホノカとドロップスの距離は2mほど離れていてそんな所にいる人間に拳が当たる訳がないはずだった、拳を振った瞬間ホノカの腕がびよーんと伸び、ドロップスの顔面を殴ったのだ。
「え えええええええええええええ!!!!!!」
「伸びたよ、ねえねえミスティ腕が伸びたよ」
「見てたからあんまり揺らさないで、怪我してるから」
驚きながらも腕を戻し戻ってきた手を見るとその手が柔らかい手ではなく固い石に変化していたのだ。
「えええええええええええええ!!!!! 私の手 マイミーハンドワッツ」
[なるほどそれが君の能力だね、変幻自在でどんな物にも変化し対応出来る能力だよ]
「私の手が 私の・・・あれ戻った」
[君が思えばなんにでもなれるさ]
「ふざけるなよ」
ドロップスは殴られたほほを軽く触り睨みながら鉄パイプを握り締め殴りかかる、ホノカは腕を伸ばしてドロップスの腕に巻き付けるともう片方の腕で顔面を殴る。
「な なるほど コツを掴めてきた」
ドロップスは腕を振り払うと猛スピードでホノカの懐に入り鳩尾を殴るがまるでゴムを殴ったみたいに弾み攻撃を跳ね返された。
「うおお びっくりした」
「お前海賊のパクリかよ」
「それを私に言われても そんなことお前もでたらめヒーローのパクリじゃん」
「何年前の話をしてんだ」
キレながら殴りかかってくるドロップスの攻撃をかわしながら左腕を伸ばしドロップスの足に巻き付け転ばせる。
「くっ…」
「石になったなら こう言うこともできるはず」
ホノカの右手がメキメキと骨格どころか細胞そのものが変化し、右手が蟹のはさみに変化した、そのハサミで床に倒れ込んでいるドロップスの翼を切り落とす。
「ぐわぁぁあ、クッここは一旦」
翼から血が流れ苦しむ声を上げながらも急いで立ち上がり逃走をはかる。
「に 逃げる気」
「そうはさせない」
真琴はドロップスが逃げようとしている進行方向に壁を作り出す、その壁を咄嗟に避けようと動きが鈍った一瞬の隙に凪はワンデイの弓を引き矢を命中させる。
「が…あ……ぁ」
「やった当たった」
「この、この俺が…」
しかしワンデイの攻撃をくらってもなおドロップスは足を止めず走り出そうとする、だがホノカは腕をタコの触手に変えた逃げ出そうとするドロップスを拘束して床に叩きつける。
「捕まえた」
「まだだ、俺はまだ」
どうにかしようと藻掻くが両腕両足が使えないのだからどうすることもできない。それでも必死になって藻掻いているとボロボロな真琴とワンデイを引く凪がやって来ていた。
「く、くそ、離せこの野郎」
「動かないで、動いたら・・・えーっととにかくバーンだよ」
「君も撃たれた傷がまだ痛むだろし弾を抜かないとそこから菌が入って重症になるぞ、それにそんな状態で私達と戦ったあとに警察から逃げれるかな、とにかく今は動くな」
「くそが」
ドロップスは観念したのか口のドロップを嚙み砕き抵抗を止めた。
「それでいい、取り敢えず警察を呼ぼう、後は彼らに任せる」
「わかった、えーっとリード・ファンエスタさんでいいのかな、今回はありがとう、動画で見た時と同じ姿だけど本人?」
「え あ そのえーっと は はい」
「え本当に本人なの、えっとサイン貰ってもいい」
「え えーっと はい大丈夫 です」
[まさか配信者の中の人とは思わなかったよ、しかし魔法少女としての名前はどうしようか]
「ファンさんでいいじゃん」
[そう言うわけにもいかないな、そうだねファラントはどうだい]
「ファラント ですか」
「それ結果ファンさんにならない」
ホノカは下を向いて水の反射に映る自分自身を見つめ考える、成り行きでこの人を倒したけどなんかメンバーに入る感じになってるない、別に入るつもりなんて…と
どうしよう断ったほうがいい、それとも断らないほうがい…いや断らなかったらめんどくさいことになる、今回だって痛かったしめんどくさかったし断ろう。
でもこんな状況で断れる?でも断らないと、ホノカの脳内は真反対の意見のぶつかり合いで爆発寸断だ。
時に人は選択肢があってもその選択肢があった事に気づかずに進んでしまうことがある、その対処法は人によって違う、果たしてホノカはどう対処するのだろうか。
次回に進む。
どうも小ネタの時間です、穂乃果の魔法少女の名前なんですが、色々候補がありました、今回はそれを書いて終わりましょう。
1.ティアライズ リアライズを少しいじったんですが、意味が伝わらないと思ったのと次の追加メンバーと元ネタが被ると思い没にしました。
2.メイック メイカーとファンタスティックを組み合わせた名前です、これは他の魔法少女の正式名称が長いのにホノカだけ4文字だと浮くなと思ったのと、元ネタのことを考えるとこの組み合わせはダメなと思ったのと、なんか敵側に居そうな名前だなと思い没にしました。
3.ミス・ファンサ ダサい、元ネタの名前を少しいじっただけなので却下。
でもう深く考えない方がいいし凪がファンさんと呼んでるから略称でファンになる名前にしようと思い今のファラントになりました。
丁度元ネタの名前が入ってるので丁度いいなと思いました、ちなみに元ネタ元ネタ言ってますが元ネタがなんなのかに関しては次の話のどこかで書きます。