第238話 兄弟喧嘩
深夜の1時
ベッドを時雨に取られた領は大人しくハンモックで眠りにつき、ベッドで眠る時雨は閉じていた目を開ける。
「.......」
ハンモックで目を開けながら寝ている領を見つつ机の上に置いてある変身アイテムと缶を手に取ると、音を立てず領の家から出る。
昼とは違い涼しい風の吹く夜の街に体を伸ばしながら進んでいると足音が聞こえ、時雨は舌打ちしながら後ろを振り返る。
「うぜえなてめぇ、どれだけ俺の邪魔をしてえんだ」
目を細めながら睨みつける先には領が居た。
「お前こそ何考えてんだよ、行く当てもないのに外に出るなんて、ホームレスでもやるのかよ」
「俺がどこ行こうとも俺の勝手だろ」
「どうせあれだろ、ボコボコにしたやつに仕返しに行くとかだろ、もう少し頭使えよその傷で何ができるんだよ」
「黙れこんな所で引き下がれるか」
「下がれよバカ、誰と喧嘩してるか知らないけど死んだら元も子もないだろ」
「お前に何がわかる、俺の目的は復讐だその復讐のために死ねるなら本望だ」
「家族が悲しむぞ」
「黙れ家族はもう死んでる、何も言わないし、これは家族のためだ。下手な同情すんなよ何の悩みもなく育った温野菜が」
「何の悩みもないだと」
「ないだろ」
「お前何も知らないくせによく言えるな、俺が…何の悩みもないだと、ずっと追いかけてた夢が突然崩れ去った、その気持ちがお前にわかるか!!」
「不幸自慢でもする気かお前、追える夢があるだけいいじゃねえかよ、俺は夢も何もかも消え去ったぞ」
「だからって自殺かよ、あきれた」
「自殺だと」
「自殺じゃないならなんだよ、確実に負ける戦いをして殺される、これのどこが自殺じゃないって」
「俺が負けるだと、もういっぺん言ってみよろ!!」
「自分の状況理解しろよ、返り討ちにあってボコボコにされて間違いなく殺される」
「俺をバカにしてんのか」
「してるぜやっと気づいたか、自分の傷すら把握できずに無駄に死のうとする大バカ者だって」
「その大バカ者が死のうがてめぇには関係ないだろ」
「関係ないだと」
「ないだろ、どこか知らないところで赤の他人が死ぬだけだ」
「他人でも過去を知った、家族全員死んで苦しんでるやつをほったらかしにできない」
「黙れよお前、お前に何がわかる」
「とにかく頼れる大人に相談しよう、嫌いかもしれないけど魔法少女だって協力してくれ...」
「危ない!!」
何かに気づいた時雨は領に飛び掛かり押し倒すと銃声が鳴り響き先程まで居た場所に弾丸が突き刺さる。
「じゅ...銃」
「だから帰れって言ったんだよ」
時雨は文句を言いながらドロップスに変身しながら領を持ち上げ立たせると腹を蹴る。
「うお!!」
蹴られて後ろに下がるとその2秒後に先程頭があった位置を弾丸が通り過ぎ、驚いてしりもちをつく。
「クソが」
ポケットからパワー缶と書かれた缶を取出し、缶を振ると念力を使用できるようになるピンクの飴玉が飛び出し、それを口に入れる。
念力で飛んできた弾丸を掴むと屋根に向かって投げ返す。
投げ返された弾丸は上に居たスナイパーの手に当たり銃を落とす。
「いったーい、なもう...手から血が」
「なんだ」
「来やがった」
黒フードを着た何者かから女の声が聞こえ2人は上を見上がる、女はフードを外して姿を現しながら打ち抜かれた手を能力で再生する。
「あ、あいつ...って配信者のふりしてた魔法少女もどき」
屋根の上に居たのは時雨の姉であり元魔法少女の千歳だった。
千歳は指につけるマジカルリングを見せるように手を広げながら満面の笑みを浮かべる。
「もどきって酷くない、一応元魔法少女だし今もそうだよ」
「魔法少女ってなに言ってんだあれ、と言うかお前が戦ってた相手ってあの魔法少女もどきか」
「そうだよ、魔法少女マジカルセンプルス」
「待てよ、センプルスってピンクの前の世代の魔法少女だよな」
「そして俺の姉貴だ」
「え?おい待てよあれが話してた姉なのか」
「そうだよ、私がそれのお姉ちゃん、まったく似てないよね...種が違うのかな」
「今すぐ降りて来いよ、イカレ女がすぐに顔面の形変えてやるよ」
「ま、待てよ、なんて兄弟で殺し合いなんてしてるんだ」
「あんな奴姉貴でもなんでもねえ」
「血のつながりを感じさせるね、私も同じこと考えてた」
2人は睨み合い殺意がぶつかり合う中千歳がしゃがんで屋根に落ちた銃を拾った瞬間、念力で引き金を引き銃口から放たれた弾丸は足を貫き、屋根上で体勢を崩した千歳はそのまま真っ逆さまに落下する。
ぐしゃっ そんな音が鳴りながら家の塀に頭から激突し、大量の血があふれ出し首が90度曲がる、顔が血で真っ赤に染まりながらゆっくりと塀から落ちアスファルトに力なく倒れる。
「この...」
念力で銃を手に引き寄せると強く握りしめ引き金を引こうとする。
「おいやめろ」
領は時雨の手を掴みとどめを刺すのを止める。
「邪魔だどけ」
「そこまでしなくてもいいだろ、お前の姉だろ」
「すっこんでろ、この女にけじめをつけさせる」
「なんだよケジメって」
「両親の足と腕をへし折り、椅子に縛り付けて家を放火したのはこの女だ」
「なっ」
「この女が両親を殺した、あの男に好かれるためだけに」
バン!! と銃声が鳴り響く、しかし時雨の指は動いていない。
アスファルトに倒れる千歳が隠し持っていた拳銃を取出し引き金を引いた、弾丸は時雨の脇腹に突き刺さり溢れ出す血を押せえながら千歳を睨む。
「おっきい魚がかかった」
90度に首が折れている時雨が立ち上がると同時に頭に手を当てて折れた首を真っ直ぐに戻すと血が流れだす傷口が塞がる。
「な、なんで」
「1丁しかないと思った、残念でした2丁ありましたぁ、拾いに行けば1丁しかないと思って油断すると思ったよ」
「ク...そ...だからトドメを...さす...べきだったんだ」
「さてお仕置きの時間だぞ」
どうも最近腰と言うか背中が痛い作者です、なんでこんなに痛いのが疑問ですね。