第218話 無謀な覚悟
薄暗い部屋の中で赤い瞳を輝かせるメフィスは凪達を止める。
「提案って…なに?」
「このままあいつに好き放題させたくない、吾輩もあいつのせいで配信できないしよ。それに下手すれば会社がつぶれかねない事態だ、だからいち早く捕まえてほしい」
「それで君の言う提案はなんなんだい」
「吾輩が囮になる」
その言葉に、部屋の空気が一瞬凍りつき、しばらくの沈黙が続いた。
「え!?」
凪の声が、その沈黙を破った。
「危険だよ、それにまたこの会社の人を狙うとは限らないんだよ」
「吾輩はドラキュラ伯爵の孫娘だ」
唐突な告白に、凪と太一は思わず顔を見合わせ、首をかしげる。
「あ〜あぁ…はいはい、設定の話はいいですから」
「違げぇよ、アバターの設定じゃなくて、実際に吾輩はドラキュラ伯爵の息子とサキュバスクイーンの間に生まれた子供なんだよ。ほら!さっきも天井にぶら下がってただろ!!」
「ご、ごめんって、そんなに怒らないでよ」
「と言うか前にも話しただろこれ!!」
「でもそれがアーケーダーと何の関係があるの」
「なるほど、アーケーダーはデスゲームの主催者である前にヒーローズハントの協力者だ、もし君の正体がわかればハントは君の捕獲を考える。そうなればアーケーダーも捕獲に動く可能性がある」
「そう言うことだ、アーケーダーじゃなくてもそれに近い奴が吾輩を捕まえに来る、そいつから手がかりが手に入るかもだろ」
「ねえねえ叔母さんドラキュラ伯爵の孫娘ってそんなに凄いの?」
「そもそも吸血鬼が稀少種だし、伯爵は夜の支配者とも呼ばれてる。それの血縁関係者と言うだけでも凄いことだ」
「だから吾輩はそのことを公表する、そうなれば奴は吾輩を無視できないはずだ」
「自分から公表するなんて危険ですよ、ファンさんも今それで苦しんでるし、それに情報ならもう持ってる可能性もありますよ」
「それなら何で狙わないの」
「それは・・・なんでだろう」
「そもそもゲームの情報公開に関して少し不可解な点が多い」
「え?さっき大体わかったって言いませんでした」
「私の考えがあってるとは限らない」
「でもさ、それあれだろ、ゲーム会社の奴が情報流したんだろ、仕事するうえで個人情報とか会社が渡してるはずだし」
「それはあり得ないな」
「なんで?」
「天野天馬のラインだよ、ゲーム会社の社員がそんな情報を持っている訳がない」
「なら誰がリークしたんだよ」
「そこらへんはおいおい話す、まず問題は君の提案を受け入れるかどうかだ」
吸血鬼であるメフィストが自身の情報を公開すれば、ヒーローズハントに属しているアーケーダーはメフィストをターゲットにする可能性がある、だが情報を公開すればメフィスの人生が大きく崩れることになるだろう。
ハントだけじゃない別の脅威から狙われる可能性もある、下手すれば永遠に配信者として活動できなくなるだろう。
それに相手は常識が通じない狂人、死ぬ危険なんて当然のようにある、生きて帰れる保証はない。
「はっきり言うが、私は賛同しかねる、危険すぎる」
「だからそれはお前たちが吾輩を守れば・・」
「守り切れる保証はないし、そもそもアーケーダーが狙うという確信もない、狙わなかった場合君はただ個人情報をばらして、自分の身を危険にさらしただけのバカだ」
「バ、馬鹿ってなんだこのちんちくりん」
「私と変わらんだろ」
「でもアーケーダーを捕まえる手がかりはこれしかないですよね」
「時間をかけたら犠牲者が増えるだけだよ」
「リューターそれは彼女を犠牲にすることに変わりない、アーケーダーが襲ってくるとして、それから彼女を守り切れなかったら、その責任は誰がとる」
「・・・だからってチャンスを逃すんですか」
「これはチャンスでも何でもない、所持金100円でパチンコするみたいな賭けだぞ」
冷静な真琴の声に、凪は拳を握る。
「でもやるしかない」
「そうだ少なくとも吾輩はやるつもりだからな、なんと言われようがやるからな」
「死ぬ覚悟はできているのかい」
「それは・・その・・」
真琴に睨まれるメフィスは真琴から目をそらす。
「大丈夫です私達が守りますよ」
「本気で行ってるのかいマジカル」
「はい、私は本気ですよ。アーケーダーは自分が正しいと思ってる、その正しさを証明するために暴れてる、そうなれば行動はあの時より過激になる、過激になればよりひどい事が起こる、そうなる前に止めないと」
凪は真っ直ぐ真琴を見つめる。
「・・・」
「・・・」
「私も止めたくないわけじゃない、危険すぎると言うだけだ」
「必ず守ります」
「吾輩からも頼む、仲間がひどい目に合って、他の皆も迷惑してる、このまま勝ち逃げなんてさせたくないんだ」
「叔母さんやるしかないよ」
「だから叔母さんはやめなさい。やるなら私達が全力で守る、だけど命の保証はできない、それでもいいなら協力する」
「最初から分かってる、覚悟は・・で、出来てる」
「・・・どう転んでも君は途轍もない被害を受ける、言っておくが必ず後悔することになるぞ」
そう言いながら真琴は手を差し出すと、メフィスは迷いがありながらもその手を強く握りしめる。
どうもライバルズでボロ負け中の作者です、見事なまでに勝てない、今だにシルバーから抜け出せません。