第162話 虹がその手に
【皆さん落ち着いて、慌てず騒がす急がないで】
「こっちだ!!ゆっくり」
「大丈夫かな」
「くそ、なんて日だよ」
翼が作り出した透明シールドの中で、一般人が文句や不満を言いながら避難場所まで進んでいく。
シールド越しに見える綺麗な虹を見る余裕も無く、子供はうつむき涙を堪える。
「くそ・・急ぐなって言われてもな」
「おい!!先頭!!早くしろよ」
【喧嘩しないで、落ち着いて、私がなんとかしてるからほら笑って】
そう言いながら笑顔を向ける翼を舞台裏に居るメフィスは気が気ではない表情を浮かべながら、落ち着かないようで同じところをグルグル歩いていた。
「「リスかなんかかよ」「落ち着けてよ問題ないんだし」「そうそうここはいっぱいお茶でも」」
「落ち着いてられるわけがないじゃん!!ばかじやないの」
「「そこまで言われるなんて」「俺ちゃん困っちゃう」「何をそこまで不安がってるの」「先輩が姿を明かしたのがそんなに嫌か?」」
「そ、そうじゃない、吾輩が気にしてるのは心臓のことだ」
「「心臓?」「なに?病気なの」「そうには見えませんね」」
「知らんの」
「「知らないから聞いてるんだよ」「バーカバーカ」「ごめんなさいこんな感じで」「よければ教えて下さりますか」」
「アイドル辞めたんわ、病気なんだよ心臓の!!」
「「なんでキレたんだテメェ」「テメェはないでしょ」「そうだよ女の子相手にそれはない」「ただの低身長の大人を女の子って」「年齢とか関係ないから」」
「な、なんか喋りづらいな貴様」
「「そう?」「フレンドリーで愉快だろ」」
「全然、で先輩は手術で心臓を機械的なものに変えたんだ、だから激しい運動がダメなの!!」
「「まて、激しい運動って…」「こんな大規模にバリアなんて貼ってたら」」
【はぁ…はぁ……くっ】
翼は辛そうに胸を押さえながらもアイドル時代の無敵な笑顔を一般人に投げかける。
「やばいやばいやばい、先輩死ぬって…どうしようどうしよう、3D配信ですらかなり危なかったのに」
「「おい…やばいぞ」「なんかヒビ生えてない」「どうにか出来ないのかこれ」」
翼は貼った透明なシールドをフリーは破壊しようと何度もシールドを攻撃する、無敵のシールドと思われていたがヒビが入っていた。
キラキラと輝く光の粒が、無数に降り注ぎ、光は地面に落ちる前に空中で消える、人々は呆然と空を見上げ、その粒の正体を考える事なく理解した。
「おい急げ!!」
「何ちんたら歩いてんだ」
「ちょっと早く行きなさいよ」
ポタリポタリと翼の目や鼻からは血が流れ誰がどう見ても限界なのは確かだった。
【はあ、はあ】
「どうしようどうしようどうしよう」
「「いつまでもつかな」「希望を持って後5分だとしても」「全員は逃げれない」「こりゃ終わりだな」「そんなこと言わないの」「きっと先生が何とかしてくれる」「来るわけがない」」
「もうなんなんだよさっきから、貴様なんでそんな変な喋り方なんだ」
「「ならなんでリアルでも一人称が吾輩?」「やめなさい」「キャラ付けのため」「やめなさいって」」
「・・うぅなんか騒がしい」
「あ、起きた」
膝枕されていた暫はゆっくりと起き上がった。
「「ようおきたな」「可愛い寝顔だったよ」「そうかそうでもないだろ」「やめようよもうこういう時に」」
「・・どんな状況、と言うか逃げないとだめじゃないの」
「そうだよ吾輩達こんな所に居るべきじゃないんだって」
「・・・誰?」
「あ、吾輩メフィスって言います」
「メフィス?あぁ〜あの名前が長い人だ、これはどうも探偵助手の暫です」
「え?助手が2人もいるの」
メキメキ とシールドに穴が開きその粉がパラパラと落ちる、翼のおかげで避難は進んだがフリーの移動速度を考えるとまだ全然進んでいない、しかし翼はもう限界の様子でマイクのスタンドに必死にしがみついていた。
「もう限界だよあれ」
「魔法少女達は」
「「主犯を止めに行った」「全然帰ってこないけど」「これは死んだななーむ」「やめなさいってそういう縁起でもないことを言うのわ」「取り敢えずもい一回寝る」」
「でも来なかったら吾輩達」
「「本当にまずいな」「辞世の句でも考えておくか」」
「私に力があれば」
「あってどうすんの!!ある奴らが倒されてるの!!」
暫は顎門の手をどかし、立上り息をこぼす。
そんな絶望と不安が広がるシールドの空で虹が眩く輝き、暫はその虹を見つめる。
「・・・あれは」
「虹だろ、そんなのどうでもいいから!!早く逃げないと!!」
「「虹が虹が」「空にかかって君の君の気分も晴れてってか」「きっと明日はいい天気でしょ」「明日なんてないけど」」
「歌ってんじゃねえよ!!」
シールドの破片が雨のように降り注ぎ誰もが上空を見上げた。
バタン!!
「先輩!!」
マイクが不協和音を鳴らし、翼が地面に倒れ込み口から血を吐き出し、翼の体からピーポッポが出てきた。
血を流しながら倒れる翼の元にメフィスが駆け寄り涙を流しながら翼を抱きしめる。
「せ”ん”ば”い”いいいいい、う”う”う”う”う”う”う”ぅぅぅ」
誰もがこれが定めなのかと諦めた、守ろうとした者たちが全力で対処した、1人は命に変えてでも守ろうとした、1人は老体なのにも関わらず死の危険を犯した。
1人は舞台の上で血を流しながら倒れる、誰もふざけず完璧な仕事をした。
その結果がこれなのだから受け入れるしかないと、絶望の中にほんの少しの希望を残し誰もが諦めた、しかし1人だけは違った空を見上げその空にかかる虹を見つめる。
「せ”ん”ば”い”いいいいい、う”う”う”う”う”う”う”ぅぅぅ」
「…ご……め……」
「じゃ"べらないで!!!」
「まさかあの虹は」
暫はゆっくりと舞台に向かっていく、それを止めようとした顎門だが複数の人格の一つがそれを止める。
「「お、おい」「何をする気なの」「いや大丈夫だ」「何がだよ」「行って来いつばさを広げて舞台に立つんだ」「何言ってんだお前ら」」
「うん」
暫は走り出し勢いよく舞台を飛び出し空の虹に向かって手を伸ばす、空にかかる虹は眩く光り輝くと真っ直ぐに暫の元に降り注ぎ、暫はその手に虹を掴んだ。
「誰だあの子」
「虹を掴んだ」
「いや、虹じゃない…あれは」
「力をかしてクラウン」
そう言いながら広げた手には虹ではなく5つの指輪だった、自分を含めた元魔法少女達の力が集まった指輪は1つの冠になって暫の頭に被さると虹色の光が暫の体を包み込み服をドレスに変える。
「うえ!!!!ん…え?待って、え!?噓でしょあれってねえねえ助手さん!!」
「……ふふ…きれい……な…にじ…」
「「いけ しば 」」
「チェンジアップ・マイ・プリンス」
どうも、今回の後書きは手短に行こうとしている作者です、理由としては小説を書いてたら3500文字に達していまして、これ後もう少し文章量を増やして2話で投稿した方が良くねと考え2話にして、本日の午後に投稿するからです。
なので今回はクラウンについて話します。
流石になんでクラウンがここに、なんて思う人はいないと思いますが解説しますね、まずクラウンは暫達先代魔法少女5人の力が込められている王冠です。
で、穂乃果がそれを使って偽物と戦っていましたが、その戦いの途中でいきなりクラウンがどこかに行きましたがそれは暫を助けるためだったんですね。
正直に言って穂乃果はクラウンが無い方が強い可能性があり、クラウンもそれを薄々感じ取ったのか本来の持ち主の元に駆けつけたわけです。