エピローグ
「有能な妖退治屋と妖鬼討伐部隊のエリート副官、か」
ここは聖華学習院のとある一室。
「 "理事長" 。大日本国警察隊の方がすでにお見えになっているようです。お会いになりますか?」
理事長と呼ばれた男は、机上のモニターから部屋扉へと目線を移す。
「いや、君がもてなしてくれ。私はこれから長男と会議なんだ」
「承知いたしました」
執事の足音が部屋外から遠ざかった後、男は再びモニターを見やる。画面には若い男女が何やら怪しげな笑みを浮かべ、優雅にワルツを舞う様子が映っていた。
「彼らがこれほどに親しくなるのは予定外だったな」
男は立ち上がり、執務机の後方にある窓側へと移動する。窓外の下方へと視線を向けると、そこには先日に仮面舞踏会が行われていた建物が在る。
「だがどんな人間であれ、纏う仮面は一枚や二枚ではない」
男は振り返ってモニターの電源を切る。そして机上にある一枚の写真を見つめた。
そこに写っているのは、優しげに微笑む一人の美しい女性。
「三大悪妖の一人、妖狐が死んだよ。残るは一体…… いや、"二体" だ。早く、早く貴女に会いたい」
男がそう呟いた時、再び部屋扉がノックされた。
「父さん、俺です。入ってもよろしいですか?」
男は視線を上げ、ふっと一度息をついてから「どうぞ」と答えた。
彼の執務室へとやって来たのは、その女性の面影を残しつつも、いつも眉間に皺を作っている青年だ。
「頼まれていた資料を作成してきました。あと、相談……というか、報告がありまして」
「分かっているよ。あの子と彼のことだろう?」
「……やはり、すでにご存知でしたか」
「はぁ」とため息をつく青年を見つめながら、男はくすりと笑った。
「二人の今後が楽しみだ。君もそう思うだろう?」
「……少しの安心と己の不甲斐無さが入り混じっています」
「ほう」
「あの人なら、あいつのことを悪いようにはしないと思って託しました。でも本音は、弱い自分が情けないという思いでいっぱいです。自分の身は自分で守るべきなのに」
「なるほど。逆に言えば、それほどに彼を信頼しているんだね」
「……あの人は、あいつの素顔を受け入れてくれましたから」
「ふむ」
拳を握りしめている青年を見つめながら、男は顎下へと右手を添える。
「まあ、その話はまたおいおいにしようか。早速、作成した資料を見せてもらえるかな」
「ああ、はい。でも正直、俺はあまり気乗りはしませんよ。聖華学習院役員らとの親睦会なんて」
「妖狐の件があったからね。今までの低級妖魔らではなく三大悪妖が姿を現した。しかも彼らの子女たちが通っている学校に。当然、親御さんたちは不安に苛まれている」
「……仕方ないですね。我が家主催のパーティーになることですし、必ずご満足いただけるよう全力を尽くします」
再びため息をついた後、青年は切り替えるようにしてふんっと鼻息を鳴らし、鞄から資料を取り出していた。
「……彼が、あの子を見限る日が来なければいいね」
「? はい? 何かおっしゃいましたか?」
「いや、今夜の月は三日月だったかなと思ってね」
「? どうでしょうね?」
沈みかけた夕日を、男は目を細めて見やった。
(互いの "真の素顔" を知り得てしまった時でも、君たちはそうやって笑っていられるだろうか?
……なあ千理、東郷君)
そう思いつつ、男は口元に弧を描く。
今夜昇るであろう、三日月形のような。




