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9. 狐の罠 ①



悠真、新之助、孝太朗。



私が聖華学習院に編入した時からずっとつるんでいる、愉快な友人たち。


普通の男子高等部生らしく、四人で気になる女生徒の話をしたり、流行はやりの遊びは一通り全部こなしてみたり。


彼らのそばは居心地が良い。冗談は言い合えど、真にやっかみや嫉妬心を向けられたことは一度もない。



しかも、今回に関しては私のことをひどく心配し、身体を張って妖魔から助け出そうとしてくれているのだ。


……してくれているのだが。




「わあああああっ、千理ーーーーっ! だ、大丈夫っ、僕たちが守ってあげるからーーーー!」


「悠真うるせっ。てか千理、手離すなよ! 絶対俺らから離れるな!」


「千理、何も心配しなくていい! 私たちは君を一人にしたりしない!」




「……うんうん。ほんとありがとね、三人とも」




悠真は私の首に、新之助と孝太朗は私の両腕に、それぞれしっかりガッチリしがみついている。……いやいや、守ろうとしてくれている。




"手" たちに土の中へと引きり込まれた私たちは、今もなお地中に落ち続けていた。



(あの大穴から地中に完全に埋まる瞬間まではまだ身体に土の感覚があったのに、今は底のない空洞の中をひたすらに落ちていってるみたいだ)




今は "手" に掴まれている感触もない。私はふぅ、と小さく息をついた。



「みんな、絶対私から離れないでね。えっと、怖くて怖くて仕方ないから。私たちが地中ではぐれることだけは避けよう」




こちらとしては、彼らの背をさすりながら優しく抱き寄せている気分。



「あ、当たり前だよっ……! 絶対千理のこと離さないよ!」


「ったく、怖いなら一人で雑木林の中なんかうろつくな!」


「恐れなくていい。こうなった限りはとことん、運命を共にしよう!」




まだ昼前だが、土の中は暗闇に覆われている。なので三人の表情は見て取れないが、おそらくは慣れないこの状況に顔を青ざめさせているに違いない。



(全く、怖い思いをしてるのは君たちでしょ。……ほんと、仕方ないんだから)




友人たちの心遣いが何ともくすぐったい。そして少し、心苦しい。



「千理、今日また学校休んだでしょ? しかも探しに来てみれば妖魔に捕まっちゃってるし!」


「お前の親父さんや姉兄が知ったら卒倒するぞ。仮にも家の第二後継者だろ?」


「いくら君が男でも、こんな人気ひとけのない場所へ供も付けずに来てはいけない」




純真な心をぶつけてくれる彼らのことを、私は騙し続けているのだから。



私は穴中の空調を読み、底地まであと百メートルもないと判断すると、身体に勢いを付け穴の側面へと移動する。



(私は花梨崎の正式な人間じゃない上、妖専門の退治屋なんだ)




そして、穴中の壁を左右に蹴りながら底地へと舞い降りた。辺りはまだ真っ暗である。



(それに、本当は "男" でもないんだよ……)




地に足が着いたおかげが、友人たち三人がやっと私から離れた。



「つ、着いた? みんな無事?」


「無事無事。てか着地、案外うまくいったじゃねーか!」


「落ちている途中、何やら左右を行ったり来たりと移動しているようにも感じたが……気のせいだったのだろうか」


「ね、千理。君も大丈夫だった?」




「……うん。えっと、みんなごめんね? 巻き込んじゃって」




私を心配して付いて来てくれた彼らに、まだ今はこの言葉しか伝えられない。



「何言ってるの! 千理だって被害者でしょ?!」


「けっ、俺たちは好き好んで巻き込まれてやってんだよ! 抜刀講座なら全員、学年上位五位以内に入ってるしな!」


「万年首位の千理には敵わないが、私たちも多少の戦力になるはずだ」




友人たちの頼もしい言葉が胸を突く。私はそれを聞きながら腕を交差させ、両腰元に手をやった。そして短剣たちのグリップにそっと指を添える。




『ひい、ふう、みい……おや? 来るのは一人ではなかったのかえ? 何故か増えておるのう』


『陰花はどれじゃ? 早く食いたい!』


『待て待て、一先ずは全員捕らえ、御母堂のお手前に連れて行かねば』




しかしあれこれ作戦を立てる間もなく、この闇に紛れるようなひそひそ声が、再び辺りから聞こえ出す。



(思ったよりも数が多そうだな。でも、こっちも捕まるわけにはいかない。柴狐さんを見つけたらすぐに撤退しないと)




辺り一帯には無数の "火" が灯り出す。


拳ほどの大きさの、どこかおぼろげなそのともしびたちは、青光を放ちながらゆっくりと私たちの方へと近付いて来る。その様子はまるで、火自身が意思を持っているかのようだ。



『のう、どういうことだ? 何故、陰花と陽土の匂いが混じり合っておるのだ……?』




すると、灯の一つが突如として女の姿に変わった。いや、女の姿に化けている "狐" と言うべきか。その目は恐ろしいまでに吊り上がり、しかも口が耳下まで裂けている。



『まさか、陰花ではなかったのかえ? 確かにだんだんと陰花の匂いが薄くなってきている……』


『待て……この鼻を突くような悪臭は、陽土の血肉ではないのか?!』


『おのれ、騙したのか! 陽土の気は嫌いじゃ……!』




"狐火" が次々と人型へと変わっていく。ざっと見渡したところ、軽く百体は超えていそうだ。



(やっぱり獣人型や動物の妖は通常の妖魔よりさらに嗅覚がするどいな。もう陽土だってバレた)




両隣に目をやると、友人らは既に大刀を構えていた。



「 陽土? 僕たちの中に陽土がいるの?!」


「マジか、奇跡! なら、ちょっとはこっちが優勢になれるか?」


「油断はするな。落ち着いて、一体一体片付けていくぞ」




言葉は平然としていたが、彼らの身体は心ばかり震えている。


当然だ。授業ではない実戦など、友人たちにとってはこれが初体験だろう。私の初狩りは確か十歳だったが、毎度毎度心臓がまろび出るかと思っていたし。



( 女狐たちの霊力はそれほど高くないし、悠真たちなら何とかやり合えるはず。……でも)



 

『キェェェェ! キェェェェ!』




とある人型の妖魔が、おどろおどろしい奇声を発しながら女たちの間を掻い潜り、私たちの目前へとやって来る。



( "こっち" との戦闘は絶対駄目だな。生きててほっとしたけど、どうやら "血を飲まされた" みたい。はあ、やっぱり落とし穴じゃなくて一発やり返す方にしておけば良かった)




心の中で盛大なため息をつく。私たちの目前に現れたのは、あの傲慢人間・柴狐だった。



(一時的に妖魔に変化へんげさせられた、 "生きている人間" っていうのも、結構戦いにくい相手なんだよね。純粋な妖じゃないからか、陽土の血肉がそれほど嫌いっていうわけでもなさそうだし)




柴狐の姿は未だ人型だが、獣の耳が生え、口元に牙と指に鋭い爪が備わっていた。さらに言えば、四つ足で立っていた。



(思ってたより面倒臭いことになったな)




だが、こうなった以上戦闘は避けられない。兎にも角にもここを突破して、とっととこんな所から這い出よう。そして皆を無事、各家へと返さなければ。それが私の、今の使命である。




「みんな、いけそう?」



「あ、あったり前だよ千理!」


「けっ、すぐに片付けてやらあ!」


「いつでもいけるぞ。千理、合図を頼めるか?」



「分かった。女狐たちは低級の妖魔っぽいし、抜刀授業通りに動けば多分大丈夫。柴狐さんは私が何とかするから」




柴狐は殺せない上、元の状態に戻す方法を考えながらやり合わなくてはならない。私は腰に下げた鞘から双剣を抜いた。



「それじゃあ、何とか頑張ろうか。絶対に五人で地上に戻ろう!」




友人たちがコクリと頷いたのを確認した後、私は先陣を切り、地を駆け出した。




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