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宵越しの金を持ちたい

作者: ノッペ

この作品は短編です。

その目は獲物を捕らえるために鋭く吊り上がり、

その歯は獲物を逃がさないためにギザギザと尖り、

その背は獲物を狙うために猫のように曲がっている。


その人間こそが、この海に囲まれた人工の島にある眠らない街、カジノシティ"サンセティア"で、一度もギャンブルで負けたことがない男"ランディ"である。


この街でその名前を知らないのはよほどの大馬鹿者かただの無知か、それぐらいまでに有名である。


そんな有名な話とは関係なく、今日も今日とてランディにはお客さんがやってくるのであった。


  ・

  ・

  ・


「はぁ はぁ もっと逃げなきゃ、、、、」


雨の中、ボロボロのワンピースを着て、腰まであるブロンド髪をした16歳ぐらいの少女が裸足で路地裏を走っていた。

綺麗な顔立ちをしているが、雨と泥のせいで台無しに、

元は白色であったであろうワンピースは汚れて、少し灰色になっていた。

さらに走り慣れていなさそうな華奢な脚には、途中でこけたのかすり傷がたくさんできていた。


「いたっ!」


少女の足元にはガラスの破片が散らばっており、どうやらそれを踏んでしまったようだ。

ガラスは足の裏に深く刺さっており抜きたいが、抜いた後どうすればいいのかわからずそのままにするしかなかった。


周りを見ると近くの壁にちょうど隠れられそうなスペースがあったので、そこに隠れて休むことにした。

幸いにも雨をしのぐことはできたが、濡れていたため寒気がしていた。

ひざを抱きかかえるような格好で横になり、少しでも体があったかくなるようにしながら隠れていた。

しばらくすると、長い間逃げてきた疲れからか眠気に襲われそのまま眠りについてしまった。




目が覚めると、そこにはパンツ一丁の男が道の真ん中で大の字になって寝ていた。

雨は止んでおり、空は晴れていた。

あまりにも無防備で気持ちよさそうに寝ているので、少女は足の痛みと不安を紛らわすためか一切の敵意が見られないその寝顔を見ながら、ついほっぺをつついて遊んでいた。


遊びながらその男をよく見ると寝ていてもわかる吊り目、ギザギザした歯、それは少女が憧れている“ランディ”に特徴が酷似していた。それに気づいて少女は一瞬ドキッとしたようだが、伝説のしかも憧れの人がパンツ一丁で寝てるわけがない。しかもちょっと酒臭いし…と自分自身を説得して落ち着かせていた。


落ち着かせている最中に、一発強めの“ツン”が入ったようでさすがにパンイチ男の目も覚めた。


「あ? 朝か? ここどこ?」


と寝ぼけているのか、上体を起こして目をこすりながら周りをきょろきょろしている。

少女はとっさに隠れてしまい、パンイチの男の視界から消えていた。


「うわっ!また、パンイチかよ! くっそ!!!」


頭を掻きむしりながら、わぁわぁ叫んだあとにまた大の字に仰向けになった。

少女はどうしたのかと気になり、微妙に動いてしまい少し物音を立ててしまった。


そのパンイチ男は物音の方を振り向いて、訝しそうに物陰を凝視して、

「誰かいるのか?」


と呼んだが、少女は息をひそめて隠れていた。

パンイチ男は気のせいだと思ったのか、その場からいなくなっていた。

少女はそれをみて、ホッと一息ついた瞬間、


「やっぱりいんじゃねぇかよ。」


少女の真横にパンイチ男がうんこ座りで、膝に肘をついた格好で頬杖をつきながら言ってきた。


「っひゃああ!!! いった!」


素っ頓狂な叫び声をあげて、後ろに飛んだ拍子に怪我した足の裏を軽くこすってしまい痛みが走ったようだ。

足の裏を抱えるようにして、


「なんだよ、ケガしてんのかよ。パンイチ男で嫌かもしんねぇけど、担いでやっからこっちに来な

 ふわぁ」


あくびをしながら手を差しのべて少女に移動の提案をした。

少女は警戒しながらも、自分のどうしようもない状況を見てあきらめたようにパンイチ男の手を取った。


「よっしゃ、とりあえず馴染みの店に行くから、しっかりつかまれよ!」


そう言いながら、少女の手を引っ張って持ち上げ、お姫様抱っこをした。

少女は酒臭いのを我慢しつつ、お姫様抱っこの恥ずかしさも我慢しながら、こくりとうなずいた。


パンイチ男は路地裏をしばらく歩くと、ある扉の前で足を止め、扉を足で開けて中に入った。

中に入ると、縁の細い丸眼鏡をかけ白いシャツに黒の蝶ネクタイ、黒のズボンを着ており、鼻下にちょび髭をはやしている気の弱そうな男がおどおどしながらもこちらに向かってきた。


「ど、ど、どうも。きょ、今日はいつもと違いますね。。

 な、何かご入用ですか?」


話しかけてはくれたが、相変わらずおどおどしていた。


「よっ! いつもわりぃな! 

 いつものやつと、今日はお客さんもいるから、あっちの部屋借りてもいい? あともろもろ使わせてもらうよ~」


「わ、わかりました!  ほっ、ほかに何かあれば仰ってください。」


気弱な男はパンイチ男に深々と頭を下げて、もとの場所にそそくさと戻っていった。


「あいつの名前はケリーつっていいやつなんだよ。

 よし、とりあえずケガした足だしな。」


あっちの部屋と指していた部屋の中に入って、少女を椅子に座らせた後少女に向かって言った。


部屋の中は、今入ってきた扉ともう一つ扉があり、もうひと部屋があることが見て取れた。

部屋自体は6畳ほどの大きさで、木材の床で、壁は白色の塗料が塗られているが全体的にくすんでおり、この部屋ができてからだいぶたっていることがうかがえる。

部屋の中には医療品用の大きい棚が2つあり、どれも医薬品のケースなどが大量に入っていた。

また、キッチンもあり、簡単な料理ならできそうだった。

部屋の真ん中にはテーブル1つと椅子2つがあり、入り口側に少女は座っている。

パンイチ男はキッチンで手を洗ってから、その棚を物色した後に消毒液と包帯などを持ち出して、少女の隣に椅子を置いて座った。


少女はパンイチ男の言う通りに、けがした方の足をパンイチ男が指さした木箱の上に乗っけた。

傷口を見ると幸い膿んではいなかったようで、パンイチ男は慣れた手つきで、少女の治療を終わらせて話を切り出した。


「んで、どうしてこうなったか聞いてもいいか?」


少女は戸惑いつつも口を開いたが、


「...それよりもどうしてこんなことをしてくださるの?

 みづ知らずの...しかもあんな路地裏に隠れているよくわからない人ですよ!?」


と、興奮した様子で男に向かって疑問を投げつけた。

しかしすぐに我に返り、軽く咳ばらいをして落ち着かせてから続けた。


「...失礼いたしました。お礼を先にすべきでしたのに...非礼をお詫びいたします。」


そう言うと、少女は頭を深く下げた。


「この度は助けていただきありがとうございました。

ですが、これ以上はご迷惑をおかけできないので、わたくしはこれで失礼いたします。」


感謝の言葉を続けていったが、その後突き放すように立ち去る意思を示して、立ち上がろうとした。

しかし、ケガを負った足を床につけた瞬間に激痛が走ったのか、よろめきこけそうになってしまった。


パンイチ男は咄嗟に少女の腕をつかんでこけるのを防いだ。


「ほら、まだ足いてぇんだから無理すんな。 

 ...はぁ、もう少しゆっくりしてきな。

 あんたが何かしらの事情があって、それを言いたくないのはわかったから。

 けが人をそのまま放っとくのは夢見がわりぃから、行くとこねぇならここ使ってけって」


と少女の腕をつかんだまま、肩をすくめて事情については聞くことをあきらめたような表情を浮かべながら言った。


「ありがとうございます。 もう少しだけお言葉に甘えさせていただきます。」


そう言った少女の表情は少し哀しく悔しそうであった。


「とりあえず、隣の部屋にシャワー室があるからスッキリしてきな。

 あと、包帯巻いちゃったけど、外しちゃっていいから傷が染みるのが嫌だったら、足をこのビニール袋に入れて使いな。

 服はシャワー室の手前にクローゼットがあるから、そっから適当に着ていいよ。

 なんかあったら部屋についてる電話で0番にかけてくれ。 一旦こっから離れるわ、んじゃ」


少女の気持ちを落ち着かせるためか、少女を一人にするために一旦部屋から離れることを伝えると、少女の回答を聞く前に部屋を出て行ってしまった。


少女は部屋に一人きりになってしまい戸惑っていたが、シャワーを浴びたい欲求には抗えず、男の言う通りにシャワーを浴びることにした。

服を脱ぐときに着ていたワンピースがボロボロになっているのを見て、クローゼットをのぞいてみると、クローゼットにある服はスーツ系が多く、ちょうどサイズが合いそうなものは、灰色のパンツにジャケットと白シャツという組み合わせのものしかなかったので、それを着ることにして、シャワーを浴びた。



しばらくしてシャワーを浴び終えパサパサだったブロンドの髪の毛もさらさらとなり、着替えも終えて、すっきりした状態で元の部屋に戻ると、パンイチ男がピシッとした黒色のスーツを着てキッチンに向かって何やら料理をしているみたいだった。

少女は気になって男のそばに行くと、酒臭さもなくなっており、逆に香水をつけたのかほんのりと上品な甘みと温かみのあるいい香りがした。


男が少女に気づいたが、ちょうど作り終わったみたいで、テーブルの上にお皿を置き、そのお皿にフライパンで作っていたベーコンエッグを移したりとテキパキと食卓の準備を済ませた。


ピシッとしたスーツではあったが、正面を見るとネクタイはなく、白ワイシャツも第二ボタンより上を閉めていない着崩した感じになっているが、それよりも、準備のテキパキ具合があまりにも洗練された動きだったので、少女は服装のことなど気にならず、その動きに感動して呆然と立ち尽くしてしまっていた。

しかし男はそんなことになっているとは夢にも思わず、少女に向かって席に着くように言った。


「腹減ってんだろ?座んなぁ、飯食おうぜ。

 ...えっと、あんたの分も作ってあっから。」


男はそう言った後に少し考えてから、


「...んー、それよりもなんて呼べばいい?

 ずっとあんたって呼ぶのも味気ないっつうか」


とポリポリと頭を掻きながら少女に向かって質問した。

少女は男に言われて"ハッ"とした後、何もしていないことに申し訳なさを感じながら、食事を準備してくれたことに感謝を述べつつ答えた。


「エリーと呼んでいただけると幸いです。」


「おっけー、じゃあエリー、座って食べようぜ

 何をするにしても飯食って脳みそに栄養を与えないと、肝心な時に動かなくなっちまうからな。」


男はエリーの名前を聞けて、少しハニカミながらそう言った。

エリーは席につき、


「ありがとうございます。

 あの、わたくしもあなた様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


とテーブルに置いてあるフォークをとる前に、男に向かって聞いた。


「ランディ」


男は一言そう言うと、そのままいただきますと言いベーコンエッグを一口食べた。その間にエリーから一切反応がないので気になり、エリーを見るとランディと名乗る男を見て固まっていた。


「え?どうした? 食いたくなくなった?」


ランディと名乗る男がそう言うと、エリーはハッとして我に返ったかのように首を軽く横に振った後、


「まさか"あの"ランディ様ですの!? 」


と興奮するように言った。


「"あの"ってなんだ?」


ランディと名乗る男は、何を興奮しているのかがわかってないような表情をして首をかしげながら、エリーに聞いた。

それに対して、エリーは目を丸くした。


「この街で"ランディ"様という名前がどういうものかご存知ではないのですか!?

 ギャンブルで一度も負けたことがないという伝説を持ち、その力を利用しようとする人、あこがれる人が後を絶たない存在なのですよ!!

 そんな御方と同名の方がこのギャンブルシティにいらっしゃったら、ご本人と思ってしまいますわ!」


と驚きながら、ひとしきり"ランディ"ついて熱く話して、ランディと名乗る男にこの噂の張本人なのかを問い詰めた。


「あ~その話か。 一度も負けたことない...かぁ

 どうなんだろうな。 おれもギャンブルはやってけど、朝っぱら見ただろ?

 ほら、パンイチになってた姿。 あんな恰好をしたやつではないんじゃない?」


「確かに言われてみればそうですわね...。

 ですが、噂と同じ特徴の目に歯に猫背...

 本当にランディという名前は同名ですの?」


男に言われて少し冷静になりつつも、戸惑いながら彼女は質問を続けた。


「まぁ本名だかんな。普通に同名なんじゃね?」


質問中でも関係なく、男はベーコンエッグを食べながら答えた。


「...そうでしたか、名前を聞くなり失礼な反応をしてしまい申し訳ございません。」


そういって頭を下げると、男はフォークを持ったままひらひらとシッシッと追い払うようなジェスチャーをして


「気にしてねぇから、そんな堅苦しくなんなよ。」


とエリーに向かって面倒くさそうに言ったが、

エリーが困った表情を浮かべていたので、慌てて付け足して言った。


「ま、まぁ、言いやすい方でいいんだけどさ。

 とりあえず、冷める前に食べちゃいな。」


「はいっ!ありがとうございます、ランディ様!」


気持ちを切り替えられたのか、先ほどまでの困り顔が嘘のようにハツラツとした表情で返事をした。

その後、久しぶりに食べたご飯は美味しかったみたいで、エリーは半分泣きそうで半分喜んでいるなんともへんてこな顔を食べ終わるまでしていた。


食べ終わった後に食器を二人で洗い、片付けが終わって落ち着いたタイミングで、改めてテーブルに向き合ってお互い座り、ランディが今後についての話を切り出した。


「エリーは今後どうすんの?

 足の傷が治るまでは、ここにいるとしてもずっとここにはいられないだろ?」


先ほどまでヘラヘラしていた表情とは一転して、真剣な表情でエリーに本題を投げかけた。

エリーも先ほどまで緩んでいた表情から真剣な表情になり、


「いえ、大変ありがたいのですが、足が治るまでお世話になるなんてことはできません。

 わたくしはとある事情で逃げている最中でして、なるべく早くお父様にわたくしが捕まったけど逃げれたということをお伝えしないとならないのです。」


と答えた。ランディは悩みながらエリーに提案をした。


「詳しい事情は言いたくないと思うから聞かねぇけど、なんか誰かに捕まったんだよな?

 もしお父様に会うまでに、エリーを捕まえたやつっていうやつらにあったらその足じゃ逃げれないと思うけどどうすんの?」


ランディは言葉を考えながら話しているようで、眉間に右手の親指をトントンと当てながら話していた。


「たしかにわたくしを捕らえた方々にあったら逃げれる自信はありません。

 ですが!何も考えがないわけではないんですわよ?」


少し得意げそうにエリーはランディに向かっていった。


「へぇ、マジ? どんなの考えてんの?」


「今ありがたいことに貸していただいたスーツを着ておりますよね?

 わたくしを捕らえた方はワンピース姿のわたくしを追っているはずですわ!

 ということは今の恰好でなら走って逃げる必要がないので、この足でも問題なく逃げ切れるはずですわ!」


とエリーは自分の完ぺきな作戦を披露してドヤ顔をしていた。


「まぁ確かにすぐにはわかんねぇかも知んねぇけど、相手もそんなにバカじゃねぇだろ。

 逃がしている時点でバカなのは確定しているけどよ。

 そもそもエリーの髪色はだいぶこの街だとだいぶ目立つからすぐにわかっちゃうんじゃねぇの?」


髪色のことを指摘されて、エリーはそれは盲点だったと言わんばかりの表情をして髪の毛を束ねて髪型をポニーテールにして、「どう?」と見せてきたが、ランディは「ムリムリ」と言いながら手を振って首も振った。


「せめてカツラがないとどうしようもねぇだろ。

 カツラ売っている場所とかって知ってっか?」


「それを仰るならカツラではなくウィッグですわね。

 そもそも売ってる場所ってありますの?」


ランディは「やっぱりな」というようなしたり顔をして、


「あるよ。 ここら辺にある店はほぼ全部顔なじみだから、なんの店があんのかぐらいは把握してんぞ。 買ってきてこようか?」


「いえ、わたくしが必要なものなので、わたくしが買いに行きます。

 ...ですがこの辺について疎いので、できれば案内をお願いしたいです。

 お願いしてもよろしいでしょうか?」


エリーは少し恥ずかしそうに、申し訳なさそうにランディに言った。


「おーけー。 そんじゃ今昼ぐらいだから夕方に出かけるか。」


「なんで夕方からですの? 今からじゃダメなのですか?」


「今からだと髪色がはっきり見えるだろ? 夕方は視認性悪くなっから、髪色が目立とうがあんまり関係ないんだよな。 ここら辺西日きついからなおさらだしな。」


エリーはなるほどと納得し、ランディの言う通りに動くことにした。

一瞬ランディが賢そうに見えたが、今朝のパンイチ姿を思い出して、エリーはすぐに考えを改めた。





西日が強くなり始めた夕方に入りかけたころに、二人は行動を開始した。

夕方になる前に、エリーはランディからもらった塗り薬と痛み止めを使っており、歩くだけならほぼ痛みは感じず、問題なく動けるようになっていた。


2人の恰好はというと、ランディが黒色のスーツに白のワイシャツを第二ボタンから上を留めず、ネクタイもつけない格好をしており、エリーは灰色のスーツに白のワイシャツ、第一ボタンまでしっかり留めていて、髪型はポニーテールという恰好をしている。


借りていた部屋から出るときにはじめてそこが洋服のお店だということを知った。

木造のお店の内装は古めかしいが美しいという印象を得られた。

床は暖かい色合いの木材で覆われており、壁は薄いクリーム色の塗料で塗られていた。

店内には丁寧に手入れされたアンティーク家具が置かれており、照明は柔らかく、温かみのある光を放ち、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

ランディのスーツはここで用意したものらしいが、エリーの服はここの服ではないみたいだった。

店から出るときに店主であるケリーが見送りをしてくれた。

ケリーは相変わらずおどおどとしていたが、エリーが感謝を述べて握手をするとデレデレし出したので、それを見てランディはあきれながらエリーを連れ出した。


店を出ると、日が落ちてきてだいぶ西日がきつくなっていて、まぶしいからか顔をあげている人が見当たらなかった。

ランディの提案で、なるべく日が当たる道を歩くことにしたため、この街の大通りの1つである、西の大通りの"ラスベンガル"を歩いている。

この通りはきれいに舗装されており、一定の間隔で街灯がたっていて裏路地とは違い、とてもきれいで高級感が漂う通りになっている。

通りには、高級カジノ、ラグジュアリーホテル、レストラン、大型ショッピングモールが並んでいた。

高級感が漂ってはいるものの大通りなだけあり、人が多くにぎわっていた。


そんな通りを抜けて、一つ隣の小さい通りに出てきた。

そこもきれいに舗装されているものの、大通りほど賑わいはなく静かな通りになっていた。

そこにひときわ目立つお店があった。


ピンクと黄色のネオン色と色合いだけでも目立つが、さらにハートや目玉、唇などいろんなものがごちゃ混ぜになったお店の外観となっていた。

そのインパクトにエリーは驚いていたが、さらに驚くことにランディがその店の中に入っていったのであった。

驚きつつもランディについていくしかなかったため、エリーもおそるおそるランディの後をついてお店の中に入っていった。


店内に入ると、外のド派手さを引き継いでおり、全体的にピンク色をしていて、少し甘ったるい香りもした。

どこかの異世界に迷い込んでしまった感覚になったが、美容院であることは一目でわかった。


ランディは店員と会話をしていて、会話が終わるとエリーの方に店員がやってきた。

言葉を選ぶならとても濃く化粧を付けて黒色のドレスを着ていらっしゃる、お姉さんのような男性がやってきた。

髪色は黄色で髪型はショートボブと女性っぽさが前面に出ているが、夕方ということもありうっすらと青髭が見え始めていた。


「まぁ可愛らしいお客さんねぇ。

 あいつガサツなタイプだから疲れたでしょ?ゆっくりして言ってね。


 ここは女のオアシス!疲れた体を癒して、キューティクルでビューティフル!!

 マダム・ココノアのヘアサロンへようこそ。

 わたしはこの店のオーナーのココノアよ!よろしくね!」


と、このお店の決め文句であろうセリフをウィンクをして決め顔でエリーに決めた後、

エリーにきれいな花柄のコップを渡した。

コップの中にはティーが入っており、とてもフルーティな香りがして、飲むととてもリラックスできた。


「今日はエリーちゃんの変装用のウィッグが欲しかったってことでいいわよね?」


「はい、できるだけ目立たないような黒髪とかだとありがたいです。」


「ふ~ん、もったいないわねぇ。

 せっかくの変装よ? ちょっと私に任せなさいな。」


ココノアに言われるがまま変装用のウィッグを付けたが、依頼していた黒髪ウィッグではなく、ピンクの髪色をしたトップノットヘアーのウィッグだった。

ピンクの髪は頭頂部にまとまり、小さいタワーを形作っており、目立たないという要望とは真逆の髪になってしまっていた。

ココノアが言うにはこの街ならこれが普通だと熱弁されてしまい、エリーは何も言い返せずそのままウィッグを付けることになった。


ウィッグを付けたエリーを見たランディは、頭にはてなマークがたくさん浮かんだような顔をしていた。


「おい、変装すんのになんでそんなに目立つ格好してんだよ。

 あの野郎毎回変にこだわんだよなぁ...」


「あらランディずいぶんじゃない。

 誰のことが"野郎"ですって??

 いい度胸してんじゃない、そのねじれ曲がった根性を猫背と一緒にまっすぐにしてやろうかぁ!?」


ココノアは最後にドスの効いた声でランディに向かって言ったが、

ランディは面倒くさそうに


「悪かったよ。 今日上乗せで贈ってやったから、それで勘弁してくれって」


とココノアに言った。

それを聞いたココノアは、落ち着きを取り戻しモジモジしながら髪の毛を手櫛でとかしながら


「もう、いじわるなんだから、それなら許してあげるわ。」


「はいはい。 それよりも...エリー、そろそろ店出んだろ?」


ランディがエリーを見ると、店の出口近くでココノアとランディの方を向いてお辞儀していた。


「はい、ココノア様、ウィッグでオシャレな変装を用意していただきありがとうございました。

 このウィッグの代金については必ず払いに戻ってきます。

 ランディ様もここまで送ってくださりありがとうございました。

 ここからはわたくし一人で行きます。」


「おう、気を付けて帰んなよ。」


エリーが丁寧にあいさつをしたが、ランディは軽い感じで挨拶をすまして手を振った。

ココノアは、お辞儀が終わったエリーに近づいて両手を握って、


「代金なんて気にしないでいいわよ!

 私も事情なんて聞かないから、何かあったらすぐにここに逃げ込みなさいよ!

 いつでも助けになるから!!!」


エリーはココノアの熱いやさしさに目頭が熱くなるが、ぐっとこらえて再度感謝の言葉を述べてココノアとハグをして店を出た。


店を出る直前にエリーは後ろを振り返って、お店にある椅子に座っているランディに向かって


「本当にありがとうございました!」


満面の笑みで挨拶をして店を出ていった。



エリーが店を出てすぐに、ココノアがランディに

「本当に一人で大丈夫なの?」

と聞いたが、ランディはケロッとした顔で、「たぶん大丈夫じゃない。」と言った。


「じゃあ、なんで一人で行かせたの!?」


ココノアは少し怒ったような口調で言った。


「まぁ考えてあるから大丈夫だよ。 後で説明はするから

 っということで、ちょっくら行ってくるわ。」


ランディは立ち上がりながら言った。


「あんたもしかして、さっきまでケリーの店にいたね?

 エリーの事情もすべてわかってて動いてるってことね?」


ココノアはランディをキッとにらみながら言った。


「まぁな。 ただおれの解決できる方法をとるだけだからよ」


そう言って、ランディは店を出ていった。



店を出たエリーは、東の大通りにある"ガーデンベルク社"に向かっていた。

この会社は、先月この街に進出してきた会社で物流を主流とした会社である。

会社自体は本土で10年以上続いており、ようやく念願のカジノシティに進出することができたのであった。

企業がこのカジノシティに進出したがる理由の1つがお金である。

このカジノシティ"サンセティア"には、お金が非常に多く集まりこの街に会社があるだけでネームバリューもくっつき、経済効果は計り知れない。

"サンセティア"では年間数兆の規模でお金が動いていることもあり、商売人だけでなくマフィアやヤクザも入り込んでいる。

特にカジノについては、各マフィア、ヤクザが裏に必ずついており、その覇権争いは日々行われている。


店を出たときには日はほとんど沈んでおり、西日はそこまで強くなかった。

エリーは人通りの少ない通りを歩くよりも、人通りの多い大通りを歩く方が安全だと考え、先ほど来た道を一旦戻って、西の大通りに出た。


エリーの予想通り大通りには人がたくさんおり、人ごみに紛れてバレずに逃げられそうだった。

ホッとして、大通りを歩いていると背後から肩をつかまれて、横の通りからそのまま路地裏に引っ張るように無理やり連れていかれた。

びっくりして声をあげようとしたが、口に布をあてられて声を出せなかった。


路地裏につくと、口をふさいでいた手が離れ、両肩をつかまれて後ろに無理やり振り向かされた。

咄嗟に声をあげようとすると、そこには見慣れた姿があり、口に指をあてられて静かにするようにというジェスチャーをされていた。


少しすると黒スーツを着た男二人が慌てた様子で、路地裏を駆け抜けていった。

路地裏は通りよりも薄暗かったこともあり、エリーともう一人は路地裏に置いてあったゴミ箱の裏に隠れてやり過ごせた。


しばらくして、追いかけてきた男たちが遠くに行ったことをこっそり見送って、ゴミ箱の裏から出てきた。

エリーは一緒に隠れていた人に向かって、


「はぁ、どこか行きましたわね。

 ところでなんでいるんですの?」


と驚きつつ言った。


「まぁ念のためって感じ、無駄骨ならよかったんだけどなぁ~」


ため息交じりにエリーに向かって言った人物は、猫背で歯がギザギザしており、吊り目の男だった。


「ランディ様、説明になっていませんわ!

 ど・う・し・て!ここにいらっしゃるんですか!」


エリーは人差し指をランディに向けて問い詰めるように近づきながら言った。


「た、たまたまだ...って言っても信じねぇよなぁ~」


ランディはエリーの勢いにたじろぎつつ言った後に、ため息をついた。


「エリザベス・ガーデンベルク」


ランディがそう言うと、エリーはドキッとして驚いた顔をしていた。


「なんで?」


「わりぃな。 ケリーの店って情報屋でもあるんだよ。

 さすがにあんな場所でボロボロの格好したやつをそのまま放置って訳にもいかねぇしな。」


頬をポリポリとかきながら続けた。


「ガーデンベルク社の社長マーティ・ガーデンベルクの一人娘、エリザベス・ガーデンベルク。

 それがエリー、おめぇの本名だろ。

 今回誘拐したやつらは、"ギャンブリオン"っていうマフィアで、最近本土の方で規模が大きくなってきてこの街に進出しようとしているって感じらしい。

 まぁガーデンベルク社に付け入る材料をゲットしようってことなんじゃね? わかんねぇけど。

 とりあえず、ガーデンベルク社までバレないように行けりゃいいと思って、こっそり付いてきたんだけど、バレてたっぽいから出しゃばっちまった。」


少しばつが悪そうな顔をしてエリーに向かって言った。


「そこまで把握していらしたのですね。

 目的はお金ですの?」


「んなわけねぇだろ。

 パンイチだったけど、そこまで金には困ってねぇよ

 最初に言ったろ? ボロボロいたらほっとけねぇよ。何なら最初に絡んできたのてめぇだろ」


エリーが少し警戒するが、笑いながらランディはツッコミを入れた。


「まぁなんでか知んねぇけど、エリーの変装がバレてるっぽいから一緒に行動すんぞ。

 一つだけ安全な場所知ってっから、しっかりついて来いよ。

 最悪走るわ」


「わかりましたわ。ただ、なんで変装がばれたのでしょうか? 

 服も髪型も変えたのに...」


「うーん、たぶんケリーに聞けばわかるやつだろうなぁ

 まぁ今は気にしても仕方ねぇから...行くぞ。」


エリーは変装までしっかりしたのに、バレていたことに不安を感じていたが、

それを気にしてなさそうなランディのいつもの気怠そうな雰囲気に、気にするのもバカらしくなった。


エリーとランディは周囲を警戒しながら路地裏をこっそりと歩いていた。

既に日は落ちきっており、路地裏には通りにある街灯から漏れてくる光のみで、全体的に薄暗くなっていた。

その暗さのおかげで、ランディが行こうとしている場所の近くまでたどり着くことができた。



現在、エリーとランディは路地裏の道をくねくねと歩き、東の通り側からようやく街の中央区画まで出ることができたのであった。


「あの、ちなみになのですが、安全な場所っていうのはもしかしてあそこだったりします?」


路地裏から中央区画の開けた通りに出ようとするときに、エリーはある建物を指さしながらランディに向かって不安そうに質問をした。


「そうそう、サンセティアカジノ。そこに向かってるよ。」


それに対しケロッとした表情でランディは答えるが、エリーは内心驚いているようで、


「確かにあそこなら安全かもしれませんが、あそこも十分危険ではございませんの?

 そもそもスーツではありますが、入ること自体出来るかどうかわからないではありませんか。」


と焦りながらランディに聞いた。


全ての大通りが繋がる中央区画は、"サンセティア"の心臓と呼ばれる場所で、そこにはこの街で一番大きいカジノがあり、そのカジノの名前は"サンセティアカジノ"。

それが、ランディの目指している場所である。


それを知ったエリーはとても焦った。

焦った理由というのも、そのカジノを経営しているのが、この街最大のマフィア"ロイヤル・ディーラーズ"だからだ。

ただでさえマフィアに狙われているのに、マフィアが経営しているカジノに行くなんて頭がおかしいとさえ思ってしまっていた。


「今回エリーを狙っているマフィアは"ギャンブリオン"だから、別のマフィアの島に逃げ込めば一旦やり過ごせるだろ。

あとは、ケリーからの情報だとエリーを追っているのは"ギャンブリオン"の幹部"ザッツ"の部下の"ブッチョ"ってやつらしいんだが、割と血の気が多いっぽい。

 ってことで、それを利用できればいいかもなぁって感じもあったりなかったり」


とランディはニヤニヤしながらエリーの質問に答えた。

基本カジノはカジノを経営しているマフィアの治外法権となっており、ほかのマフィアは手を出してはいけないという暗黙のルールがある。

そのため、いったん安全な場所というランディの考え自体は間違っていないことはエリーも理解できたが、それ以上に最大のマフィアのカジノに入るということに不安を抱いていた。


ランディはそんなことはお構いなしという感じで、もじもじしているエリーの手を引いて路地裏から中央区画の通りに出てきた。


目的のカジノまでは、現在地からだいたい500mぐらいだが、エリーの足のけがを考慮すると約10分ほどかかる距離であった。


ランディとエリーが通りを歩いてしばらくすると、後ろから先ほど追いかけてきた男たちと同じような黒いスーツを着た男が2名ほど付いてきていることが明らかにわかった。


「わざとバレるようにつけてるから、後ろだけじゃなくてほかの場所も注意して走る準備しとけよ。」


ランディは小声でエリーに向かって言うと、カジノに向けて少し早足に歩きはじめた。


尾行の2人は、ランディとエリーの歩くペースが上がったことに気づき少し慌てたようすをしたが、すぐに同じようにペースを上げて尾行を続けてきた。

さらにランディとエリーの進行方向から黒スーツでグラサンをかけた男二人がやってきて、挟まれるような形になってしまった。

ランディは咄嗟にエリーの腕を引っ張って、通りの横道に駆け足で逃げこんだ。

横道に入ってからは、ランディは道を右に行ったり、左に行ったりと路地裏の細い道をくねくねと進んでいて、その際エリーの足を気遣ってか、最初の横道に入るときに駆け足になっただけで、それ以外は早歩きで進んでいた。

追手の男たちも追いかけて横道に入るが、すぐに二人を見失ったのか、路地裏を手当たり次第に探している状況になっていた。


というのも、この"サンセティア"は大通りや通りについては理路整然としており、通りに面する部分についてもきれいに作られていて、とてもきれいで華やかな街並みになっている。

しかし、一歩通りの横道にそれてしまうときれいな通りとは打って変わって、さまざまな建物が入り乱れていて、まっすぐな道を探す方が大変なぐらいぐちゃぐちゃな道になっている。

なぜそのようなことになっているのかというと、それはこの島に"サンセティア"という街をつくった際に、お金の匂いにつられてやってきた人々が我先にと家を作り始めたのが原因とされている。

さらに、様々なマフィアもいることによって、勢力争いなどでより一層建物の乱立がなされ、今では、裏取引用の店や、マフィアの隠れ家、もぐりの医者など様々な建物が建っている。

中央区画については、最初に作られた区画ということもあり、ほかの区画よりも乱立さが際立っていて、迷子になると出てこれないと言われるほど迷宮化されている。


そんな中でもランディは特に迷うことなく歩いており、エリーがはぐれないように手首をつかんだ形で歩いていた。

途中、人の家を抜けたり、診察室を通ったり、水槽の上を歩いたりとどういうルートを歩いているのかがエリーは理解できなかった。ただ、それは追手も同じみたいで、追いかけてくる気配などは一切感じられなかった。


路地裏のよくわからない道をしばらく進むと、高級なアパートのおそらく3階ぐらいの廊下についた。

廊下は赤いカーペットが端から端までしっかりと敷いており、壁は木製で漆を使っているのか高級感漂う光沢のある焦げ茶色をしていた。

ランディはその廊下のある部屋の前で止まり、ポッケの中から鍵を取り出し部屋の鍵を開けた。

部屋の中はとても質素で、生活に必要な最低限のものしか置いてなかった。

ランディは部屋の中を見向きもせずに、窓のところまで突っ切っていった。エリーも慌ててついていき、ランディと一緒に窓からベランダに出た。


ベランダに出ると目の前には、サンセティアカジノに続く石造りの階段があった。

その階段を続く先を見るとカジノがあり、そのカジノの大きさを見たエリーは息をのんだ。

サンセティアカジノの外観は大聖堂のように荘厳で大きい建物で、カジノというより教会という方がしっくり来た。

エリーはカジノに見とれている一方で、ランディは横でごそごそと何かをあさっていた。


「あの、この部屋ですが、ランディ様の部屋なのですか?」


我に返ったエリーは、ランディに質問をした。


「いや、ここはケリーの隠れ家の1つで、さっきケリーの店出るときにちょっと鍵を借りてきた。

 お、あったあった。」


そう答えたランディの手には梯子があり、ベランダの手すりに梯子を引っ掛けて、サンセティアカジノに続く階段にガシャンと、橋を架けるような感じで梯子をかけた。


「よしっ!行くぞ!」


ランディがそう言うと、ベランダの手すりに足をかけて梯子に登った。

ランディはエリーに手を差し伸べて、梯子に登るように促した。

エリーは地上から3階ほどもある高さの梯子に登ることにおびえていて、最初ランディの手を取ることをためらうが、目をぎゅっとつむり意志を固めるようなことをした後に、キリッとした表情でランディの手を取り梯子に登った。


慎重に梯子を渡ると、先ほど見ていた石造りの階段に到着し、エリーは梯子を渡るときの緊張から解放されて階段に座り込んだ。


「さすがに怖かったですわ。 下を見ないように心掛けましたが、足の感覚がなくなったみたいですわ。」


「ハハッ、でも渡れたじゃねぇか。もっと渋るかと思ったわ。」


「そうですわね。支えてくださりありがとうございました。」


ランディはエリーをみてハニカミながら言った。

エリーはランディの顔を見て少し照れながら立ち上がり、尻餅をついて座っていたのでお尻の汚れを払っていた。


サンセティアカジノの階段は長いが、ランディとエリーは、階段の頂上に近いところで、あと少しでカジノの入り口につく場所にいた。

2人が登り始めようとした瞬間、階段の下の方で大きな声がして振り返ると、とても身体つきがふくよかでスキンヘッドでグラサンを付けている、黒スーツの男がランディとエリーを指さして何やらわめいていた。

エリーはスキンヘッドの男を見ると少し震えて、絞り出すような声で


「あ、あれはわたくしを誘拐した方ですわ。スーツの方々からブッチョと呼ばれていましたわ!」


「マジか、あのデブが...ほんとに名前の通りじゃねぇか。

 ほら、ビビッてねぇでカジノに逃げんぞ」


大丈夫だと言わんばかりにヘラヘラと笑いながら、ランディはエリーの手を引いて階段を登って行った。

後ろからマフィアの男たちがブッチョから怒鳴り散らされながら追いかけているが、あまりにも長い階段のせいもあり、追い付いてくる気配が一切なかった。


そうして二人は悠々と階段を登り切り、カジノの入り口が見える大きい広場に出た。

広場は一面白い大理石でできており、中央にはとてもきれいな噴水もあり、これからこの街一番のカジノに入るのだと意識せざるおえないほどの気品が漂っている広場になっていた。


これだけの品のある場所だったこともあり、エリーは内心自慢のドレスを着てこの場所に来たかったと残念に思いつつ、今の灰色のスーツでカジノに入ることに不安を抱き始めた。


「ランディ様、この服装で問題ないのでしょうか? もっとドレスコードしてこないとダメとかないのでしょうか?」


ランディに小声で尋ねると、


「スーツなら基本大丈夫だから気にしねぇでいいよ。

 ドレスコードではあるけど、最低限の恰好なら文句言われねぇから」


と答えて、カジノの入り口に向かった。


カジノの入り口には受付担当と思われる青年がたっていた。

2、3人ほど並んでいたので、ランディは大人しく後ろに並んだ。

エリーも急いでカジノの中に入りたい気持ちを抑えてランディと一緒に並ぶことにした。


「もうウィッグとってもいいよ

 正直ここまで来たら関係ねぇから」


「そうしたいですが、ウィッグをしまう場所がありませんわ。」


とランディから提案されエリーも頭が蒸れてきていたので外したかったが、しまう場所がなかったので外せないでいた。

それを見て


「んなもん捨てちまえばいいだろ。」


とランディにだるそうに言われたので、エリーは食って掛かって


「せっかくココノア様から頂いたこのウィッグを捨てるなんてことできませんわ!」


とランディに向かって言うと、


「エリー。おめぇの上着の背中みてみ

 あ、内側な。」


とランディはエリーの上着を指さして言った。

エリーはランディの言葉通りに上着の背中の内側を見ると広めのポケットがあることに気づいた。

ランディはそこにウィッグを入れればいいと言っているみたいで、顎をくいくいとしてポケットに入れちまえと言いたげなジェスチャーをしていた。

エリーはランディの素直じゃないところにクスっと笑って、ポケットの中にウィッグを入れて上着を着なおした。

その後ランディに感謝を述べると、ちょうど受付の順番が回ってきたようだった。


受付にいた青年は、とても上品な立ち姿をしており、格好も白いシャツに黒の蝶ネクタイ、黒のスーツズボンに黒のサスペンダーを付けていた。

ランディとその男の背丈はほぼ同じで、サラサラの黒髪で真ん中で分けているセンターパートの髪型をしており、肌は白くまつげは長い、一言でいえばその男はイケメンだった。


だが、先ほどまで、カジノに入るお客様に対してクールな面持ちで、とても落ち着いた対応をしていたのだが、ランディがその青年の前に行くと、見るからに緊張してなのか、きょどり始めた。


「よお、元気してた?」


ランディが青年に話しかけると、「ひゃい」と裏返った声で返事をするほどより一層きょどってしまっていた。

「ラ、ランディ様!きょ、今日はお連れの方がいらっしゃるんですね!」


「おう、いつもみたいに訳ありよ。

 わりぃな、いつも面倒かけちまって」


「め、滅相もございません!ぼ、僕は、あなたの大ファンなので!

 ほ、本日も楽しんできてください!」


青年は緊張してきょどってはいたが、きらきらした目でランディを見ながら中に入る手続きを済ませて、中に案内してくれた。

案内する際に、エリーに対してさわやかにウィンクしながら


「ラッキーですね。ランディさんと一緒なら万事解決ですよ。

 カジノを楽しんでくださいね。」


と言って中に入れてくれた。先ほどまできょどっていた人とは思えない切り替わり方に、エリーは唖然としてしまっていた。


中に入った直後、後ろから汗だくのブッチョとその取り巻きの姿が見え、またしても遠くから怒鳴り散らして叫びながら近づいてきていた。


「エリザベスぅ!!! 逃げられると思ってんじゃねぇぞぉ!!!!」


ようやく声が聞こえたが、受付の青年がさわやかな笑顔でエリーに

「気にしないでください。」

と言って、入り口の扉を閉めた。


エリーは受付の青年のことを心配して、扉に駆け寄ろうとしたが、ランディがそれを止めて


「大丈夫だって、マフィアのルールがあっから死にやしねぇよ

 あいつの仕事の邪魔すんな。 ほら、行くぞ。」


ランディがエリーを説得すると、受付の青年の心配をしながらもエリーはランディについていった。


サンセティアカジノの入ってすぐのエントランス部分は、吹き抜けになっており、外から見たときの見上げるとくらくらするほどの高さがあった天井を中からそのまま見ることができた。

壁は白い大理石でできており、エントランスに天井からつるされている、とんでもなく大きいシャンデリアの光できらきらと輝いていた。

床は一面に赤い絨毯が敷いており、ところどころに金色の刺繍が織り込まれ、土足で踏んでいいのかをためらってしまうぐらいのきれいな絨毯だった。


とても落ち着いた雰囲気で、どこからか薔薇のようないい香りがしてくるのだが、エリーはその桁違いな豪華さに頭がくらくらしていた。

ランディに呼ばれてようやく正気に戻ると、ランディの後ろに急いでついていった。

ランディは木製の大きな扉に向かっており、ランディとエリーが扉に近づくと、2人のボーイが扉を丁寧に開けてくれた。


中に入ると、先ほどまでの落ち着いた雰囲気が嘘のように騒がしく賑やかな場所になっていた。

一面キラキラしており、エントランスも豪華だったが、中は中でまた違った豪華さが際立っていた。

部屋のいたるところに各種ギャンブルをするスペースがあり、スロットマシンはすべて金ぴかで、ルーレットの台も装飾が華やかで素材が何なのか想像もできなかった。

犬や猫によるレースも行われており、金持ちが持ち寄った自慢のペットを走らせているみたいだ。

飼い主はみんな指輪やネックレスなどをふんだんに身に着けており、THE金持ちという恰好をしていた。

ポーカーをしている台は対照的に落ち着いた雰囲気で、葉巻をくわえた紳士淑女がたしなんでいた。

天井はエントランスほど高くはなく、先ほどの高さを考えると2階があることがうかがえるが、十分に高さはあり、このにもシャンデリアがつるされており、エントランスほどの大きさはないものの、部屋のいたるところに設置されていた。


エリーはまたしてもその規格外の雰囲気に圧倒されていたが、ランディはすぐにスロットマシンに向かって、金貨を慣れた手つきで挿入したと思ったら、次の瞬間には画面には"7"が三つそろっており、スロットマシンの上部に設置されている"JackPot"の看板が輝いていた。

エリーがけたたましい音に驚くと、音の元にはランディがおりランディの目の前のスロットマシンからは大量の金貨を吐き出し金貨の山を作っていた。


唖然としているエリーの反応とは逆に周囲の人達からは感嘆の声が上がっており、先ほどまでよりもカジノの会場全体のボルテージが一段階上がったように感じられた。


ランディはカジノのアテンダントからもらった金貨用の袋をぱんぱんにして、エリーの元にやってきて


「ほら、次行くぞ」


と平然とした表情で言ったランディは、ポーカーのテーブルに向かって歩こうとしていたが、エリーがランディの袖を引っ張り、カジノの騒音の中で聞こえるように耳元で


「こんなに遊んで、しかも目立ってしまったら先ほどのマフィアたちに見つかって大変なことになってしまいますわ。」


とエリーは言ったが、


「それでいいんだよ」


と何か考えていそうな雰囲気を出した後に、ニカっと笑って


「ま、ギャンブルたのしもうぜぇ~

 やっぱギャンブルはいいなぁ~

 つ・ぎ・は、ポーカーポーカー」


と先ほどまでの何か考えていそうな雰囲気はどこかへ消えたかのように、陽気な感じでポーカーのテーブルに向かって行ってしまった。

ランディがギャンブルを楽しんでいる姿を見て、エリーもギャンブルを楽しみたい気持ちはあったが、それ以上に心配事が多すぎてそれどころではなかった。

ただ、1人でいるのは不安なので、ランディのことを追いかけることにした。


エリーがランディのところにつくと、ランディのポーカーしている姿を見る観衆ができており、エリーは隙間を縫ってようやくランディの近くに行くことができた。

ランディのことを見ると、ランディの目の前にはチップの山ができており、ランディがカードをオープンすると再度大量のチップがランディの目の前に積まれていった。

チップが積まれるたびに、対戦しているお客は頭を抱えるもどこか満足そうな表情をしており、周りの客も、「次は俺だ!!」と息巻いてランディに挑戦しようとするものもいるぐらい熱狂していた。

エリーはその光景を見て、スロットに引き続き唖然とし、自分の目を疑っていた。


エリーはその光景を見ていると、ランディというのは伝説の方との同名ではなく、本人なのではと思ったその瞬間。

後ろからエリーは腕を思いっきり引っ張られた。


腕がもげるかもしれないほどの強さと衝撃で観衆の中から引っ張り出されたエリーは、そのまま放り投げられて尻餅をついた。

勢いで周囲の観衆も何人かこけていた。


「いったぁ...」


思いっきり引っ張られた右腕をさすりながら、エリーは引っ張った人物を見上げた。

そこには身長は2メートルはありそうな黒スーツを着た大男がたっていて、樽のように大きな腹に、スーツをまくって見える腕は丸太のように太く、こげ茶色の肌はうっすらと汗でてかっており、スキンヘッドの頭はマグマのように真っ赤で息切れしていた。


「ぜぇ...ぜぇ...ようやく捕まえたぜぇ...

 こんなクソカジノにまで逃げやがって...」


息も絶え絶えに大男はエリーに言った。


「ブッチョ様もしつこいですわね。いい加減にしてくださらないですか?

 借りていたお金ならすでに完済していたはずですわよ?」


エリーは左手で自分の右腕をぎゅっとつかんで、キッと大男の"ブッチョ"をにらみつけながら言った。


「へっ!しらねぇよ。

 てめぇらは借りたのを返して終わりだと勝手に思っていたみてぇだがなぁ、それで終わりなわけねぇだろぉがぁ!!!」


ブッチョは頭に血管を浮かばせて、キレながらエリーに怒鳴って言った。

エリーは咄嗟に耳を手で塞いでいたが、それでも軽い耳鳴りがするぐらいうるさかった。


カジノの中での騒ぎを聞きつけて、すぐさま"ロイヤル・ディーラーズ"のマフィアたちが周囲を取り囲んでいた。

ブッチョは鼻息を荒げてマフィアをにらみつけていた。



「おいおいおいおい、ずいぶん舐めた真似してくれんじゃねぇかよ。」


突如として渋い深い声がカジノ全体に響いた。

カジノ部屋の奥にある白い大理石でできている大階段から葉巻を加えた男二人が、階段を下りてきていた。


1人は、40代前半ぐらいの見た目で、恰幅がよく彫りが深い顔立ちをしている。白いスーツを着用しており、そのスーツはシワのない洗練されたものであった。彼のオールバックの髪は、黒い鉱石のように光り、彼の鋭い視線と相まって、周囲の人々を圧倒する存在感を放っていた。


彼の指には、右手に2つ、左手に1つのサイコロのついた指輪が輝いている。その指輪は、隣の男と同じもので、付けている数は隣の男よりも少ないが、立ち居振る舞いからマフィアの幹部であることがうかがえた。


そしてもう一人の男は、50代後半から60代前半の中年男性で、やや太り気味の体型をしているものの、白いスーツを着用し、そのスーツは幹部のものと同じくシワのない高品質で洗練されたものであった。彼の顔には、髭が生い茂り、いかにもマフィアのボスらしい威厳を醸し出していた。

彼の髪もオールバックに固められ、手入れの行き届いた黒髪が、男の顔立ちを更に引き立てていた。


彼の指にも、右手には3つ、左手には3つの金色のサイコロがついた指輪が輝いていた。

幹部っぽい男の振る舞いから、この男がこのマフィア"ロイヤル・ディーラーズ"のボスだと感じられる雰囲気を醸し出していた。



2人の異様な存在感で先ほどまでの活気が嘘のように静まり返っていた。

ブッチョについては相変わらず、ロイヤル・ディーラーズの組員に囲まれて、下手に動けない状況でいたが、場が静まり返るなり、


「舐めた真似だと!? お客様にこんな対応しておいて何言ってやがんだ!!

 こちとら知り合いを見つけてちょっと引っ張っただけじゃねぇか!

 それをお前らは邪魔者だとおもうのかよ! え!」


と怖気づくことなく啖呵を切って言った。

幹部っぽい男がブッチョに近づいていくと、取り囲んでいたマフィアの組員は頭を下げながら、幹部っぽい男の道を開けた。

幹部っぽい男は、尻餅をついているエリーに近づきしゃがみこんで、手を差し伸べながら


「大丈夫か?ケガはないか?」


と渋いがとてもやさしい声でエリーに言った。


「ありがとうございます。 けがは...大丈夫ですわ!」


エリーもその手を取って立ち上がり、とっさに腕をあげて問題ないことをアピールした。


「そりゃ安心した。

 しっかりランディの側にいろよ」


幹部っぽい男は、最後に小声で言ってエリーの背中をそっとランディの方に押してくれた。

ランディはマフィアの囲みのそばまで来ていて、エリーが引っ張られたときに気づいて駆けつけてくれていたみたいだった。

その姿を見たエリーはそのままランディの元に駆け寄り、ランディの胸の中に飛び込むと安心したのか、そのまま泣いていた。

ランディはおろおろしていたが、エリーの肩が震えているのを見て、照れくさそうにしながらそのまま胸を貸していた。



ランディがおろおろしている中、幹部っぽい男は、ランディの姿を見て鼻で笑った後、ブッチョに対して敵意を向けた眼差しでにらみながら切り出した。


「おめぇはどこのもんだ?

 ここがどこかわかっててやってんのか?」


ドスの効いた声でブッチョに対して言ったが、ブッチョは一切ひるむことなく逆に幹部っぽい男をにらみつけていた。


「俺様はギャンブリオンのブッチョ様だ!!!

 ここがどことか関係ねぇんだよ!

 てめぇらは俺らよりちょっと早くこの街にいついただけだろうが!!!偉そうなツラしてんじゃねぇぞ!!」


相変わらず耳鳴りがするくらい大きな声で怒鳴りながら言っていた。

少しあきれながら、幹部っぽい男はブッチョの前に歩いていき、咥えていた葉巻をどこからかやってきた組員が持ってきた灰皿に入れて、首をコキコキと鳴らしてからブッチョに


「ギャアギャアうっせぇな。

 血の気多いやつはほんとにめんどくせぇな。

 おめぇがよそもんなのはよくわかったよ。」


そう言うと、新しい葉巻に火をつけてふかし始めた。

葉巻にしっかりと火がつき、一息深く吸い込み味わった後に煙を吐き出してから、再度ブッチョを見て


「だけどな、カジノでは暴力御法度なのよ、ギャンブルで解決これ街のルールなんだわ。

 目的はあの子なんだろ? あの子を賭けてギャンブルしろよ。相手はあの子をあやしているあの男でいいだろ。」


幹部っぽい男は最後にランディの方を見て不敵に笑いながら言った。

急に話を振られたランディは、「はっ?」と言いながら幹部っぽい男に向かって


「いやいやいや、おめぇらのシマで暴れてんだから、ちゃっちゃと片付けらんねぇのかよ」


と苦言を言うと、幹部っぽい男が観衆の方を顎で指してランディにアイコンタクトをした。

ランディは幹部っぽい男の目を見てあきらめたようにうなだれた。


「わかったよ。ただ、ちょっと待ってろ。」


ランディはそう言うと、胸の中に居るエリーの両肩を持って軽く引き離した後に、エリーの目をしっかりと見て


「いいか?よく聞けよ。

 エリー、お前はこれから賭けの対象になる...もし俺が負けたら、ブッチョに引き渡されることになる...

 選択肢はほぼねぇんだけど、覚悟は決めておけよ。いいな?」


と神妙な面持ちだがどこか優しい声色でエリーに言った。


「ランディ様になら...お任せできますわ。

 できればパンイチになるようなことは避けていただけるとありがたいですわ。」


エリーはちょっと腫れた目でランディを見つめ返して、しっかりとした声で笑顔で答えた。

それを見たランディは、笑顔で軽くため息をついた後に、幹部っぽい男に


「ルチアーノ待たせたな。 出汁になっからその分頼んだかんな。」


「ははっ!おうよ!任せときな!!」


ルチアーノと呼ばれた幹部っぽい男は、満面の笑みを浮かべて両手をあげて喜んだ。

ブッチョについてはすでにギャンブルに了承していたのか、無理やり了承させられたのか定かではないが、不服そうな顔でポーカーの席についているのが物語っている。


ルチアーノはボスっぽい男のところに行き、耳打ちをした後にがっしり握手して笑っていた。


ひとしきり終わると、ルチアーノは再び渋い深い響く声で観衆に対して呼びかけを始めた。


「騒がせてすまねぇな! これから行う勝負で勘弁してくれ!」


ルチアーノがそう言うと会場の天井から巨大なモニターが出てきた。


「今日の勝負はこいつらだ! 存分に賭けてくれ!」


続けてルチアーノはカジノの会場全体に向かって、新しいギャンブルを提示した。

モニターにはランディとブッチョの姿とギャンブルが行われる場所が表示され、モニターを見た人々は興奮して、我先にとポーカーのテーブルの周りに集まっていった。

ロイヤル・ディーラーズの組員は押し寄せてきた客を慌てて制止し、ポーカーのテーブルの周りを囲むように誘導をした。

誘導以外にも、賭けのチケットを販売する組員もおり、軽いお祭り騒ぎになっていた。


ランディは席に着くと、エリーもその後ろについて立っていようとすると、組員が椅子を用意してくれてそこに座った。

ルチアーノたちは降りてきた大階段に高級っぽい椅子を置いて、そこに座って2人して談笑していた。


しばらくするとピエロの衣装を着た組員と思われる人物がテーブルにやってきた。


「レディースアェーーンドズゥウェェェェェントォルルルルマァァン!!!!!!」


ピエロは癖のある口上を述べて、観客に挨拶を始めた。

ピエロの名前は"ジャック"と言うらしいが、ただの組員ではないことが右手のサイコロが付いている金色の指輪を見れば自然とわかった。

ピエロのジャックは今回のギャンブル勝負の司会進行役として、出張ってきたとのことだった。


ギャンブル勝負はポーカーで、ルールはテキサス・ホールデムに則ったルールになる。

プレイヤーはランディとブッチョの2人で、ディーラーは先ほどからこのテーブルにいたディーラーが引き続き行うことになっている。


ジャックがこのカジノのテキサス・ホールデムのルールの説明を念のためしてくれた。


・ディーラーがカードを配り、プレイヤーには2枚のカードが配られる。

・フロップと呼ばれる共通のカードが場に公開される。

・フロップに公開されるカードは3枚。

・フロップ公開後、プレイヤーは自分の手札とフロップのカードを見て、役を作るかどうかを判断する。

・プレイヤーが役を作るためには、自分の手札と共通のカードを組み合わせて、役を作る。

・フロップ後、ターンと呼ばれる共通のカードが1枚場に公開される。

・ターン公開後、再びプレイヤーは役を作るかどうかを判断する。

・ターン後、リバーと呼ばれる共通のカードが1枚場に公開される。

・リバー公開後、プレイヤーは最後の判断を行う。

・最後に、プレイヤーが役を作った場合、役の強さによって勝敗が決まる。


プレイヤーのカード2枚と共通のカード計5枚の中から、5枚で相手より強い役を作るのがこのゲームとなるという説明も丁寧にしてくれた。

役の強さについても、通常のポーカーの通りのランキングとなっているとのことだった。


さらに、今回の勝敗については、互いにチップを20枚持ち、それが先になくなったほうが負けということで、まず、最初に1枚チップをベットし、各フロップ、ターン、リバー、ショーダウンのタイミングで、チップを上乗せしたり、逆に降りる選択もすることが可能とのことだった。


一通りジャックの説明が終わると、ディーラーがそれぞれにカードを配り始めた。


ブッチョはカードを受け取るとすぐさまカードをめくり、カードを食い入るように見つめていた。

エリーはその様子を見ながら、少し違和感を覚えていた。

それはブッチョの袖が先ほどまでまくっていたはずなのに、しっかりと伸ばしていたからだということに気づいたが、エリーはギャンブルの時は身だしなみを少し整えるのかと思い気にしないことにした。


対してランディはというと、渡されたカードを軽く見てテーブルに伏せたまま頬杖をついていた。

ランディにエリーが小声で尋ねた。


「なんで、そんなにダルそうな感じなんですの?」


「いや、いつもやってっから癖なんだよな。 ビシッとした方がいいか?」


チップをいじりながらエリーに聞き返した。


「いえ、やりやすい格好でお願いいたしますわ。 ただ勝負はビシッと決めていただきたいですわ。」


エリーはそう言うとランディにガッツポーズのようなポーズをした。

ランディはそれを見てちょっと笑った後、いじっていたチップをそのまま前に転がしてチップを1枚ベットした。


観客はランディとブッチョの一挙手一投足に盛り上がっていた。


ブッチョはフロップのカード3枚を見て悩みながらもチップを1枚置き、ランディもそのままチップを置いた。

ランディとブッチョはそのままお互いにターン、リバーのタイミングで1枚ずつチップをベットしていった。


その後、ショーダウンを行う際にさらに1枚ずつチップをベットし、計5枚ベットされている状態で、互いにカードをオープンした。


カードの役がお互いにわかった瞬間会場は騒然とした。


ランディの役はA【エース】3枚と2が2枚のフルハウス。

ブッチョの役は2が4枚のフォーカード。


「ガハハッ!ついてるぜ!!!」


ブッチョが喜んでいるのとは逆に会場は、ランディが負けたことに対して異様な空気になっていた。

ルチアーノたちも先ほどまで団らんをしながら観戦していたが、ランディが負けたことで前のめりになってみるようになった。

そんな中、エリーだけは変わらずに相手のカードの強さに驚きつつも、ランディを励ましていた。


「大丈夫ですわ、わたくしのことは気にせずやってください。」


ランディはそれを聞いて少し微笑んでから、


「わかってる。まぁ、気長に見ててくれ」


そう言って、次の配られたカードを先ほどと同じように見ると、参加料のチップを1枚ベットした。


ブッチョも同じく先ほどと同じようにカードを食い入るように見つつ、参加料のチップを1枚ベットした。

先ほどと同じく、ランディとブッチョはお互いにフロップ、ターン、リバー、ショーダウンで1枚ずつ追加していき、再度計5枚を賭けることとなった。


ブッチョのイケイケの姿勢に会場の一部は湧いていたが、何人かは怪しみ始めていた。

その何人かには、ルチアーノもおり、近くの組員に何か耳打ちをした後組員は急いで会場の外に走っていった。


一方ランディとブッチョの今回の勝負は、またしてもブッチョはフォーカード、ランディはフルハウスとまたしてもブッチョが勝ったことにより、チップの枚数はランディが10枚、ブッチョが30枚となり大幅にブッチョがリードする形になってしまった。


「おいおい、このままじゃ勝っちまうぜ。

 おまえ今日ついてねぇんじゃねぇのかぁ??」


ブッチョがランディの方を向いて煽ってきていた。

ランディはそれをものともせず、ただじっくりとブッチョを見て


「まぁついてねぇのかも知んねぇけど、それだけじゃないかもなぁ。

 今日はさみぃしな、袖は伸ばしてしかるべきだよな」


にやけながらブッチョに言うと、ブッチョは少し焦ったような口調で


「な、なんだよ、ギャンブルなんて運だろうが!

 なんかイチャモンでもつけようってのか? てめぇの運がわりぃのを人のせいにしてんじゃねぇぞ!

 おい!ディーラー!さっさと次よこせ!!」


とランディとディーラーに怒鳴った。

ブッチョの方が優勢ではあるのだが、ランディの方は余裕がある態度をしていたため、はたから見るとどちらが優位なのかがわからなかった。


次のカードが配られ、お互いにチップを1枚ベットすると、先ほどまでとは変わり、フロップではブッチョが1枚追加するだけで、ランディは追加をせずに降りることを選択した。


「どうした?ビビってんのか!?」


ブッチョから挑発されたが、ランディは無視して先ほどと変わらない態度でそつなく次のゲームに臨んでいた。


「へっ、すましたって変わんねぇんだよ。

 ここで俺様は勝てば幹部になれんだ。ぜってぇつぶす。」


ブッチョはそう言うと、手に力が入り配られたカードを折り曲げてしまっていた。

先ほどと同じようにランディとブッチョは最初に1枚チップを置いた。


続いてのフロップでは、先ほど降りていたランディもチップを1枚かけ、そのまま次のターン、リバーでも1枚ずつチップをベットした。


ショーダウンの際に、さらに1枚ずつベットした後にお互いにカードをオープンした。


「手持ちがA【エース】とK【キング】で場にはAとKが1枚ずつだからツーペア」


ランディが手持ちのカードをオープンして言うと、ブッチョがにやにやしながら、


「手持ちがAが2枚、場にAが1枚だからスリーカードだ」


と手持ちのカードを放り投げてオープンした。


ブッチョはこのランディとの勝負をすでに勝ちを確信したかのように、両手を仰ぎ観客に向かって大声で言った。


「カジノシティっつうからどんなもんかと身構えてたけど、たいしたことねぇな!

 ギャンブルですべてを決めるつって息巻いてわざわざ観客もいるってのに、こんなんじゃ話になんねぇじゃねぇかよ! なぁ!!!」


言い終わるとランディの方を向くが、ランディはブッチョが出したカードを回収しようとしているディーラーを止めてカードを拾い上げた。

ディーラーが慌てて回収をしようとしたが、後ろで見ていたルチアーノに声をかけられてあきらめたようにうつむいた。


「イキってんのもいいけどよ、おまえこのカードどっから持ってきたもんだ?」


ランディがブッチョに対して拾い上げたカードを放り投げて静かに言った。


「なんだぁ?勝てねぇからってイチャモンつけてんのか!? あぁん!?」


ブッチョは一瞬で顔が真っ赤になり、ランディにつかみかかろうとした瞬間、組員3人がブッチョの首と胸、つかみかかろうとしていた腕の3か所をそれぞれ押さえた。

筋肉ダルマのブッチョでさえ、3人にも抑えられ尚且つ急所も一部抑えられていたのでなおさら動けなくなっていた。


「てめぇら、何のつもりだ! 動けねぇじゃねぇか!クッソが!!」


暴れそうになるブッチョをさらに複数人の組員が取り押さえるようにつかみかかった。

一切動けなくなったブッチョを見て、ランディが口を開いた。


「おまえ、始まった時配られたカード握ってただろ、しかも力強くなぁ

 それなのによぉ、このカードきれいだよな?

 なんでだ?」


取り押さえられているブッチョに聞きながら近づくと、ブッチョの腕をつかみ袖をめくり始めた。

袖を触られた瞬間ブッチョは焦ったようにわめき散らしたが、気にせずにランディは袖を一気にめくった。

するとポーカーで使用されているカードと同じものが大量に出てきて、カードが床に散らばった。

そのカードの中には、先ほど握っていたであろう、折れ曲がったカードもありイカサマをしていたことは明白だった。


ルチアーノがゆっくりとブッチョのところに歩いてきて、おもむろに拳銃をスーツの内側から取り出して、ブッチョの眉間に銃口をあてた。


「人様の賭場でイカサマするってことは覚悟できてるってことだよなぁ?

 あんなにイキってたから、ちょっと期待しちまったじゃねぇかよ。くだらねぇことしやがって。

 さっさとあの世に行っちまえ」


ルチアーノが拳銃を撃とうとした瞬間、ランディがそれを黙って止めに入った。


「なんのつもりだ?」


ルチアーノはランディにすごんで言ったが、ランディが珍しく険しい表情をしていたのを見て、ルチアーノは拳銃をしまい両手をあげて、手のひらをプラプラとしながらあきらめたようにランディに向かって釈明を始めた。


「わかったわかった。悪かったよ。 こっちも気がたっちまってよ。

 これはおめぇの話だもんな、こっちでやんのは野暮ってもんだよな。


 おい!!ディーラーはあいつを呼べ!! そこのディーラーは海に捨ててこい!!どうせギャンブリオンのもんだろ。」


先ほどまでテーブルにいたディーラーはルチアーノに言われた通り組員につかまれて、会場の外に運ばれそうになっていたが、大声でルチアーノに訴え始めた。


「なっ!なぜですか!? イカサマはブッチョがやっただけではないですか!!

 わ、私は普通にやっていました!!!それなのにどうしてですか!!」


情けない叫び声で、ルチアーノに訴えかけるも冷たい表情でディーラーを見て組員に指示を出して外に連れて行かせた。


ルチアーノが元の席に向かう際、エリーの横を通りすぎるタイミングで、エリーはおびえながらもルチアーノに質問をした。


「ど、どうしてディーラーの方を連れ去るのですか?」


「へぇ、一応度胸あんだな。それならランディの連れってのもあるし、今回は特別に教えてやるよ。

 うちはなぁ、そもそもディーラーになるのに特殊な訓練をしてんだよ。

 だからあの程度のイカサマを見逃すようなやつがいること自体問題なんだよ。

 カジノはイカサマなしの運勝負!それがこのカジノのモットーってわけ。

 そんなカジノにイカサマを未然に防げないディーラーは不要だから海に捨てるってことだ。」


「で、ですが、あなたの部下じゃありませんの?」


エリーの目にはカジノを運営するために、仲間であろうが平気で殺す非道な人にしか見えなかったこともあり、やるせない感情があふれてしまっていた。

そのため、ルチアーノにさらに問い詰めようとしたが、ランディが間に入ってエリーに説明をした。


「まぁ落ち着けって、あのディーラーだけどよぉ、たぶんロイヤル・ディーラーズの組員ですらねぇと思うぞ。

 この底意地の悪いルチアーノっていう極悪非道な人間はわかっててあえておれにぶつけたってわけ。

 そうすりゃグレーな存在を処分できるし、ついでに見世物にもなるから一石二鳥ってことを考えたんだと思う。 

 めっちゃ不愉快な話だけどな。」


ランディがそういって、ルチアーノの方を見ると笑いながら席に戻ってった。

それを見たランディはため息をついて、エリーに向かって席に戻ることを促した。


「というわけで、ある程度あってるみたいだから席に戻ろうぜ。」


「で、では、あの方はどこの方だったんですか?」


エリーはある程度納得はしたが、結局ディーラーの正体がわからずじまいになりそうな雰囲気だったので、ランディに質問をした。


「ギャンブリオンだろ。連れ去られる時もブッチョの方を見てたからほぼあってると思うわ。

 まぁブッチョの方はそれどころじゃなかったから、目くばせに気付かなかったみたいだけどな。」


ランディがそう答えると、エリーはその後質問をせず、うなづいて少し落ち込んだように席に戻った。


一方ブッチョは組員からの拘束が解かれ、上着は首や腕をさすりながら席に戻りながらランディに向かって先ほどとは違い落ち着いた口調で話しかけてきた。


「なんでかばったんだよ。あのままおれが死ねば賭けはてめぇの勝ちにもなったじゃねぇか。」


「あ? かばう? 勘違いしてんじゃねぇよ、これはおれとてめぇの勝負だろ?

 外野に茶々入れられて、はいそうですか。で終わっていいもんじゃねぇだろうが。

 イカサマ野郎だろうが何だろうが勝負を受けた以上、しっかり勝負で終わらせねぇとな。」


ランディはブッチョにあきれたように、でも真剣な表情で言った。

ブッチョはそれを聞いて面食らったような表情をして大人しく席に着いた。



お互いに席に着くと、新しいディーラーがやってきたのか、組員に囲まれて一人の人物がやってきた。

通常のディーラーとは雰囲気が違い、銀色の仮面をつけており、その銀色の仮面の額には"Ⅶ"のマークがついていた。


「おいおい、本場のディーラー連れてきたのかよ。」


観客からそう言った声が聞こえ、エリーがランディに小声で聞いた。


「すみません、本場のディーラーと言われているみたいなのですが、あの方は何者なのでしょうか?」


「あの銀仮面はサンセティアの公認ディーラーのみが付けられる仮面なんだよ。

 一応カジノを売りにしてっからフェアじゃないと客こねぇだろ? クリーンなイメージを定着させるための制度の1つらしいわ。

 大方、ルチアーノがさっきと同じことは絶対に起きないってことをアピールするために呼んだんだろうな。」


「ということは、これでイカサマが起きることはないということですわね!」


エリーがランディに嬉しそうに言うと、ランディはゆっくりとうなづいて見せた。


銀仮面のディーラーがテーブルに着くと、ブッチョとランディを見てお辞儀をした。


「お初にお目にかかります。 あ、ランディ様はお久しぶりですね。

 わたくしはサンセティアより派遣されてまいりました、セブンと申します。

 これよりディーラーを務めさせていただきます。わたくしがディーラーでのイカサマ行為は何であれ許されるものではございませんので、ゆめゆめお忘れないようにお願いいたします。」


セブンと名乗るディーラーは丁寧な口調だが、しっかりと圧のある声でプレイヤーの2人に言った。

ランディはいつも通りの反応をしていたが、ブッチョは「もうやるもんがねぇよ」とイカサマがもうできないことを小声でぼやいて反応していた。


セブンは2人の反応を見て、よし!と両手をパンと胸の前で合わせて言うと、

腰から綺麗な装飾が施されたカードケースを取り出した。


「こちらはサンセティア特製のトランプになります。市場には出回っておりません特別なものになりますので、自前のトランプですり替えをすることはできないようになります。

 まぁ念のためと思っていただければと...」


セブンはそう言うと、カードケースからカードを取り出しプレイヤーにカードをすべて見せておかしいことがないことを確認してもらってから、シャッフルを始めた。


セブンの動きはとても洗練されており、カードの高級感も相まってとても気品あふれる雰囲気を醸し出していた。


ランディの申し出により勝負は先ほどの続きということになったが、最後のイカサマ分をランディの勝ちとして処理することになり、ランディのチップは14枚、ブッチョのチップは26枚となっていた。


エリーは枚数差があることもあり、時間がかかると思っていたが、

その予想とは逆にイカサマがなくなったギャンブルはランディが圧勝する形で終わった。


最初の5枚掛けで、ブッチョがスリーカード、ランディがストレートフラッシュを出してからブッチョが動揺し始めた。

次は3枚掛けで、ブッチョとランディはともにツーペアだったが、ランディはA【エース】とKで、ブッチョはKとQで、ハイクラスのカードを持っているランディの勝ちとなった。


その後もランディの方が役が強く、ブッチョのチップがなくなるまで全勝という形でこの勝負は幕を閉じたのだが、

ブッチョはギャンブルはイカサマありきだと考えていることもあり、ランディがここまで勝つことに納得がいかないでいた。


「おいおいおいおい、さすがにおかしいんじゃねぇのか!?

 こんなに連勝するなんてことがあってたまるか!!

 てめぇらグルになってイカサマしてんじゃねぇのかよ!!!」


ブッチョがブチギレてディーラーとランディに向かって怒鳴りテーブルに拳をたたきつけた。

ランディの後ろからすすり泣く声が聞こえ振り返ると、そこにはエリーが泣いていた。


会場が混沌としてきたのを感じたランディは、エリーはブッチョを怖がって泣いているのだと思い慰めようとすると、


「ち、違いますの...薄々そうだと思ってはいたのですが、ギャンブルをしているランディ様を見て、最初に聞いた質問は正しかったんだと気づきまして...

 噂通りの強さで驚きと嬉しさで涙が止まらないんですわ。」


「いやいやいやいや、おれあの噂認めてねぇし微妙に違うんだよ...

 うーん...えーっと、とりあえず隠してて悪かったよ。」


そう言って涙を流すエリーを不慣れな様子でなだめようとするも、その横ではブッチョは怒鳴り散らかしており、このカオスな空間にランディはあわあわとしていた。

そのランディの慌てている姿を見てルチアーノとボスっぽい男は腹を抱えて笑う始末だった。


その状況に耐えられなかったブッチョは、顔を真っ赤にしたまま恐ろしい速さで、泣いていたエリーのことをつかみ腕で首を絞めるような形でとらえた。

咄嗟の出来事で組員もランディも反応できなかった。

会場はイカサマが発覚した時以上にピリついた空気になっていた。


「てめぇらが俺様をなめて話を聞かねぇのがわりぃんだぞ。

 イカサマをしたんじゃねぇのかって聞いてんだよ!!!」


ブッチョは空いた手でランディを指さして言った。

その際、後ろで組員がばれないようにこっそりとブッチョを捕獲しようとしていたが、ブッチョに気づかれてしまい、エリーの首を絞めている腕に力が入った。


「バレねぇと思ってんのか?

 言っとくがなぁ、女の首なんて凶器なくても簡単に折れんだよ!

 変な動きすんじゃねぇぞ!!」


ブッチョに言われ組員も動こうにも動けなくなってしまったのを見て、ルチアーノは組員に待機するようにジェスチャーで命令をした。

ブッチョはそのジェスチャーを見て、腕の力を少し抜いたことがエリーの表情からわかりランディは安堵した。


「落ち着けって、そもそもイカサマなんてするわけねぇだろ。

 てめぇはここの住民じゃねぇから知らねぇんだろうがなぁ、ありえねーんだよ。

 この銀仮面たちは絶対にイカサマしねぇし、許さねぇ奴らなんだよ。」


ランディが説得を試みるも、ブッチョの心はすでに猜疑心が渦巻いてしまっており聞く耳を持たなかった。


「じゃあ、証明して見せろよ!

 てめぇがイカサマしてねぇっていう証拠をよお!!」


「無茶言うなよ、存在しないものの証明なんて不可能だろうが。

 そもそもお前の場合何しようが疑ってくるだろ。」


ランディはそう言いながらどうしようかを考えていると、ブッチョがポッケの中から金貨を1枚取り出してランディに見せつけてきた。


「これならどうだ! これなら純粋な運だけだろ!

 表と裏! 二分の一! コイントスだ!」


ブッチョはそう言うと持っている金貨をエリーに無理やり持たせた。


「俺だと疑うだろ? フェアにこいつに投げさせてきめようじゃねぇか。」


「どの口がフェアって言ってんだよ。」


ブッチョはしたり顔でランディに言ってきたことに、軽くツッコミを入れつつ腹を決めたような顔をしていた。


「まぁどのみちやるしかなさそうだな。 ディーラー、今何時かわかる?」


「えーっとですね、ただいまの時間は23時17分です。」


「ありがとう。 おいブッチョ!! 勝負受けてやるよ。

 何回勝負だ?」


ランディは時間を確認した後にそう言うと、ブッチョにコイントスの回数を確認した。


「1回勝負だ!!」


ブッチョは間髪入れずに言うと、エリーの首を絞めていた腕を解き、エリーをブッチョの前に立たせた。


「1回限りだ、思いっきりコイントスしろよ。

 それでてめぇの人生は決まるんだからよぉ、気合い入れてコインをはじけよ?」


震えるエリーに耳打ちをし、エリーはさらにおびえてしまっていた。


「エリー!大丈夫だ! おれが外すわけねぇだろ?

 安心して思いっきりやりな!! コインは...」


「おっと!まちな! 今決めちまったら何かしら対策されちまいかねねぇからな。

 決めんのはこいつがコインをはじいてからだ。

 おい、てめぇの人生がかかってんだからしっかりとコインをはじくんだぞ」


プレッシャーをかけるようにブッチョがエリーに言うと、エリーはぎゅっと拳を握ると金貨を持っている手を前に出して


「や、やりますわ! なるべく上に飛ばしますので、ゆっくりと決めてくださいね。」


エリーはランディに向かってそう言うと、コインを親指ではじく姿勢になった。

このコイン投げに観客も集中しており、会場は静まり返っていた。


「で、では行きますわよ。」


そう言ってエリーはランディを見ると、ランディは小さくうなづいて見せた。

それを見てエリーは親指に力を入れて、ピンッ!と金貨を上に高くはじき飛ばした。


金貨がくるくると回りながら頂点に達するぐらいのタイミングでランディが大きな声で、


「表!」


と宣言をした。


「なら、裏なら俺様の勝ちってことだな。

 ほんとにてめぇの運が本物かどうかがこれでよくわかるってもんだ!」


金貨の行方を会場全体がほんの数秒ではあったが、固唾をのんで見守っていた。

エリーは会場が静寂にもかかわらず、心臓の音のせいでとてもうるさく感じつつ心の底からランディの宣言通りになることを祈っていた。


そんな中金貨は回転しながら床に落ちた。

数回床からはねて金貨は表か裏のどちらかの面を上にして床に落ち着いた。


金貨の一番近くにいたのはエリーで、エリーは心臓が飛び出るような感覚を覚えながら、金貨をのぞき込んで声をあげた。


「コ、コインは、おもて!!おもてですわ!!!」


金貨の表が見えた瞬間、満面の笑みでランディに向かってそう言うと、ランディの方に向かって駆け寄って泣きながら抱き着いた。


「...ありがとうございます!...ありがとうございます!!」


ランディはエリーの感情の豊かさに驚きつつも、なんとかなったという安心感からホッとして泣いているんだろうと考えて、ランディは優しく背中をポンポンと叩いた。

ブッチョはというと負けたショックで金貨を呆然と眺めていた。


ブッチョのその姿をを見た組員たちがブッチョを取り囲もうとした瞬間、1人の男性が間に入った。

その男性は頬は痩せこけて、ひょろひょろで押せば倒れそうな体つきをしていたが、なんとも言えない圧を感じる存在だった。

髪は銀色の長髪で、杖をついており、黒のハットをかぶり、ブッチョたちと同じように黒のスーツを着ていた。


「すみませんね。うちのものが。

 はぁ...ブッチョ君...君はほんとうに脳筋ですね。

 君が賭けを挑んだ方がどういった方なのかわかっていないでしょう。」


そのひょろひょろの男はハットを片手で抑えながら、嘆いているブッチョの顔をのぞき込んであきれて言った。

ブッチョはその男の声を聞くと顔をあげたが、男の顔を見ると青ざめて今まで見たこともない情けない表情をしていた。


「す、す、すみません...」


ついさっきまででかい態度をとっていたのが嘘のように弱気な態度にランディ含め会場にいる全員があっけにとられていた。


「フフフ...謝罪は不要ですよ。

 部下のけつを拭くのも上司の務めですからね。

 あ、ちなみに、あなたが相手にしていたのはランディ・ウィンですよ。

 名前を聞いてもピンと来てなさそうですね...不勉強なのは考えものですね。

 ギャンブルで無敗を誇るギャンブラーです。しっかりと覚えといてくださいね。

 喧嘩を売るときはしっかりと相手を見て喧嘩を売るんですよ?」


「は、はい。」


「よろしい。」


ひょろひょろな男は流暢にブッチョへの説教が終わったところで、ルチアーノやランディのいる方に向いて一礼をした。


「改めましてごあいさつさせていただきます。

 わたくしギャンブリオン幹部のザッツと申します。

 この度はわたくしの監督不行き届きでご迷惑をおかけしました。

 お詫びと言っては何ですが、ルチアーノ様、ダイス様、こちらをお納めください。」


ザッツはそう言うと、片膝をつき杖を持っている反対の手から小包を持って献上するような姿勢をとった。

ザッツからダイスと呼ばれたのは先ほどからいるボスっぽい男のことのようで、ダイスはゆっくりとザッツのところに行った。


「おまえさん、ずいぶん都合がいいなぁ~

 暴れるだけ暴れて、これ渡してはいどうぞってわけにはいかねぇだろうがぁ~。

 おまえさんがギャンブリオンの幹部だろうが何だろうが関係ねぇわなぁ~。」


「仰る通りだと思います。

 ですが、こちらにも切実な事情がありましたのもご理解していただきたいのです。

 ですので、ご迷惑をおかけしたお詫びとして、このように持参させていただいた次第でございます。

 もしこれでは満足いただけないようでしたら、その際は改めてお伺いさせていただきたいです。」


ダイスのドスの効いた声を聞いても、ザッツは特に動揺することもなく落ち着いた声で淡々と話をした。

そのままダイスに小包の中身を見るように促した。


ダイスは言われるがまま、小包を開けるとダイスは目の色を変えた。


「これはどうやって手に入れたんだぁ~?」


「本土の方で少々手をまわして手に入れました。」


ザッツは不敵な笑みを浮かべながら言った。

それを聞いてダイスはしばらくあごひげをさすりながら考えた後、ルチアーノを呼んで耳打ちをし、そのままダイスはランディや観客に挨拶をして大階段を昇って帰っていった。


「ボスが言うには大人しく帰るなら、今回はあれで許すらしいわ。

 もちろん余計なことをしたらどうなるかは、わかってるだろうけどよ。」


「そうですね。今回はこのまま引き下がらせていただきます。

 ブッチョ君、行きますよ。 今回の件はしっかりと教育が必要になりますね。」


ルチアーノがダイスからの言葉を伝えると、ザッツもこれ以上ことを荒げる意思はないことをルチアーノに伝え、ブッチョを連れて帰っていった。

ブッチョは入ってきた時とは正反対にうなだれるようにして、ザッツにくっついて帰っていった。



「というわけで、もろもろイベントは終わったが、まだ残ってることがあるよな?

 さすがにギャンブリオンとつながられんのはなぁ。」


ルチアーノはザッツたちが帰ったのを見計らったのか、新しい葉巻を吸いながらランディの方に近づいて切り出した。

ランディは気難しそうな顔をして頭をかきながらエリーのことを見た。

エリーは下唇をキュッとかみしめてうつむいていた。


「まぁそれについては一理あるかもだけどよぉ、エリーは娘ってだけで関係ねぇだろぉが

 あんま…」


「ちょぉぉおっと!!いいぃいぃかぁしらぁ~~~?」


ランディがため息をつきながらそう言うと、突如観客の後ろから大声が上がった。

会場がざわざわする中、颯爽と現れたのは黒いドレスに黄色のショートボブと女性。っぽい姿の男が現れた。


「ココノア様...」


エリーが声を絞り出した。


「あらあらあらあら、エリーちゃんスーツがよれよれじゃない...

 んもぉ!だれ? エリーちゃんをこんなに悲しい表情をさせたのは!!

 ランディ!あんたなの??」


エリーの恰好と表情を見て、ココノアは憤りを隠さず、エリーを悲しませた犯人を捜したが、ランディが慌てて説明した。

その場に犯人はいなくなったこと、ランディが賭けでエリーを守ったことを聞いてようやくココノアのランディへの怒りは収まった。


次にココノアはエリーをどうにかしようとするルチアーノに対して矛先を向けた。


「あんた、もしかしてだけど、このか弱い女の子に何かしようって考えてたんじゃないでしょうね!!」


「ったく、仕方ねぇだろうが。

 こっちのシマの足掛かりになりそうなことやってんだからよぉ。」


「はんっ!! そんなことはマフィア同士でやんなさいよ!

 そもそも女の子をいじめるんじゃないわよ!!」


「そんなに言うなら、ガーデンベルクに対してどう落とし前付けるのか考えられてんだろうなぁ?」


ココノアのすごみに気圧されそうになるのを、ルチアーノはぐっとこらえて言うと、後ろから一人の50代くらいの男性がゆっくりと歩いてきた。

髪はエリーと同じ色の金髪で、しっかりとセットしていたであろうオールバックの髪型は乱れており、おしゃれな灰色のスーツもところどころ汚れていた。


「エリザベス...無事だったんだな...

 よかったっ...よかった...!」


男性はエリーに駆け寄ると抱きしめながら涙を流していた。


「...お父様!...もう会えないかと思ってましたわ」


抱きしめられたエリーも泣きながらそう言った。

ランディは初め誰だかわからない男性がエリーに近づいたので間に入ろうとしたが、ココノアに無言で止められた。

そのあと、父親との再会だとわかってランディは落ち着いてエリーを見守っていた。


しばらく親子の再会に酔いしれていると、父親が決心したような顔つきに変わりエリーをゆっくりと優しく引き離して立ち上がった。


「今回の一件大変ご迷惑をおかけした。 申し訳ない。」


そう言うと、ルチアーノに向かって頭を深々と下げて言った。


「わたくしの名前はマーティ・ガーデンベルクと申します。

 今回の一件はわたくしの浅慮から招いた結果です。

 なんでも償いますので、娘だけはどうか見逃していただきたいです。」


マーティはルチアーノに頭を下げながら懇願した。

ルチアーノはその姿を見た後に、エリーの方をちらっと見てからランディをじっと見て、気難しい顔でマーティを見直した。


「やっぱり家族がかかると人ってのは変わるもんだなぁ。

 そもそもおめぇがギャンブリオンとつるんだのは、この街に進出するための資金調達が目的ってことまではわかってんだよ。

 わかってっけど、そもそもその説明をまずするのが筋なんじゃねぇのか? なぁ?」


ルチアーノがマーティにそう言うと、マーティは頭をあげて乱れた髪を少し整えてから説明を始めた。


マーティから語られた内容は、本土ではこの街に進出することが1つの成功の形とされていて、マーティは当初そのことには興味がなかったのだが、マーティの妻が亡くなったことをきっかけに仕事に没頭してしまい、仕事での成功を考えるようになったそうだ。

そこで以前話に聞いていたサンセティアへの進出を目指すことにしたのだが、あまりにもサンセティアに進出するのが困難であっという間に資金不足に陥ってしまった。

そこで声をかけてきたのが、先ほどのギャンブリオンのザッツだった。

ザッツから資金援助をしてもらい、無事にサンセティアに進出することができ、ギャンブリオンにも借金は全額返済したのだが、完済するタイミングでザッツからサンセティアの足掛かりとして、ガーデンベルク社のケツ持ちをしたいという話を出された。

これにマーティはサンセティアのルール上、ケツ持ちはサンセティアの地区ごとに決まっており、勝手に決めることは許されていなかったことからザッツの話を断った。

ザッツはその場ではすぐに引き下がったが、すぐに違う手段を用いて動いた。

それがエリザベスの誘拐に繋がったというのが事の顛末とのことだった。


マーティの説明が終わるタイミングで、ランディのそばにひょっこりとケリーが現れた。


情報屋でもあるケリーはマーティの説明の後に続けて、

ザッツはブッチョを経験積ませるために今回任せたのは良かったけど、ランディのことを知らなかったり、この街のルールを知らなかったりと世間知らずが予想以上に酷いことに頭を抱えていたみたいだったと補足の説明をした。


ルチアーノはその話を聞いた後、ゆっくりとマーティに話を切り出した。


「まぁあんたからしたら、金を返したから終わったのにずるずると引きずられたって感じか。

 ただマフィアに頼ったあんたもあんただよなぁ。マフィアの俺がいうことじゃねぇけどな。」


ルチアーノは苦笑いをしながら言った後、葉巻を一服してから続けた。


「だけどなぁ?おめぇ東地区に会社があるわけだろ?あっちは管轄じゃねぇんだよ。

 そういったこともろもろ含めて穏便にすましてぇなら、こんぐらいは必要になるなぁ。

 もちろんこの件はすでに街全体に話は広がっちまってるから、会社も撤退せざるおえねぇと思うけどなぁ」


ルチアーノが続けて言いながら、組員がルチアーノに持ってきた紙を軽く見てから、マーティにその紙を渡した。

マーティがその紙を見るとみるみるうちに顔が青ざめ、よろめいてしまったところをエリザベスが咄嗟に支えた。

エリザベスもその紙を見て驚愕したようで、目を何度もパチクリしていた。


ココノアがその様子を見てエリザベスが見ている紙を見させてもらうと激怒してルチアーノに食って掛かっていった。


ココノアがギャアギャアと怒っているのを眺めていたケリーとランディだったが、ココノアが怒っている拍子に紙を落っことしてしまったみたいで、ランディの足元にやってきた。

ランディはその紙を拾い上げてケリーと一緒にその内容を見るととんでもない額が記載されていて、ケリーと顔を見合わせて驚いた。


その後もココノアの怒りは収まることはなくルチアーノにがなり立てていたが、ココノアを後ろからエリーがドレスの腰部分を軽く引っ張りココノアを止めた。


「わたくしたちのために怒ってくださり、本当にありがとうございます。

 ですが、もう大丈夫です。

 これからお父様と本土で頑張ってやり直します。ルチアーノ様が提示した額もおそらくですが、会社を売れば何年かかかるかわかりませんが、返済できない額ではございません。」


エリーはココノアのやさしさに目をうるうるとしながらも泣くのをこらえて言った。


「ダメよ!そんなことあたしが許さないわ!!

 なんであなたがそんなこと考えないといけないのよ!そもそもマフィアが勝手に吹っ掛けてるだけじゃない!真に受けちゃダメ!!」


ココノアはエリーの気持ちを汲むことはできたが、エリーの未来を考えると我慢ができなかった。

ココノアの発言に苛立ちを見せた組員の数人が腰につけている拳銃を取り出そうとしているのを見て、エリーはすかさず言った。


「お父様と決めたことなので、これ以上は本当に大丈夫です!

 今回家族が無事だっただけでわたくしにとっては幸せなことです。

 ココノア様が声をあげてくださっただけでわたくしは満足です。

 ありがとうございました。」


エリーは言い終わるとココノアに頭を下げた後、紙の所在が分からなくなったことに気づき、

周りに訪ねたところ、ケリーが紙を持っていたことがわかり紙を受け取った。

その紙にマーティがサインを書いて、ルチアーノにその紙を渡した。


ルチアーノはその紙を見て少しうなづいてから、組員に紙を持って行くように命じた。

組員は紙を受け取るとそそくさと会場の外に出ていった。


その後その場はお開きというような空気になり、最後の方は観客もほぼおらず観客だった人々はすでにカジノを楽しんでいた。

エリーとマーティは二人で会社に戻ることになり、ルチアーノが護衛のために組員を二人付けて送っていた。

ココノアとケリーも二人を見送ったが、その時にランディの姿はなかった。

エリーはとてもさみしそうな顔をしていたが、ココノアとケリーに感謝を伝え、ランディにも伝えてもらうようにお願いをした。


ココノアはランディが来ないことにあきれていたが、「まぁあいつのことだから、なんかしてると思うわ。安心しなさい、最後には何とかなるから。何かあったら、また私のお店にいらっしゃい。」というと、エリーの背中を優しく押した。

エリーが振り返るとココノアとケリーは手を振って見送っている姿が見え、手を振り返した。



翌日エリザベスとマーティは本土に向かう準備をしていた。

二人の準備が終わり、荷物を持って駐車場に行くと、そこには大量の袋が積んであった。


何かと思い二人は袋を触ると、ジャラジャラと音がしたので、袋の1つを開けてみるとその中には、大量の金貨が入っていた。

他の袋もすべて同じように金貨がぱんぱんに入っており、二人して驚いていた。


エリザベスが積んであった袋の間に紙が一枚挟まっていることに気づきそれを読むと、

「好きに使いな」と一言だけ書かれていた。


エリザベスはそれを読んで涙を流して、一言「ありがとうございます。」とつぶやいた。


「エリザベス、これはいったいどういうことかわかるかい?」


マーティは目の前に金貨が大量にある状況についていけず、エリザベスにダメもとで聞いてみると、フフフっと笑ってから


「この金貨は心優しい、本当にお優しい方がわたくしたちを助けてくれたんですわ。」


紙を大事そうに抱えながらそう言って、


「これで一緒にやり直しましょう。やり直して今回お世話になった方々にお返ししていきましょう。」


「ああ、うん、そうだな...!」


そうして、エリザベスとマーティは二人してサンセティアを後にした。

その後、ルチアーノに記載された額を渡し、二人で協力して会社を改めて経営していくのであった。





一方昨夜ランディはというと、エリザベスとマーティが渡された紙を見て、すぐにギャンブルに戻っていた。

そこで、ギャンブルに勝ち大量に金貨をゲットした。

その後、ケリーとココノアに協力してもらい、金貨をガーデンベルク社に運び、駐車場に置いたのであった。

置き終わった後、その場からすぐに離れようとしたランディに


「あんた見送りとかもしてなかったけど、本当に何にも言わないで良かったの?

 しかも今回なら、お金も持ち越せるんじゃない?本当に良いの?」


ココノアがそう言うと、


「いいんだよ。それで

 そんなんで、克服できてもうれしかねぇよ。」


ランディはそう言って、ケリーたちにばれないように紙を一枚袋の間に突っ込んでいた。


「あらまぁ男らしいこと、せっかくギャンブルに100%勝てても勝ったお金は翌日に持ち越せないって言う

 あんたの変な体質からおさらばできたかもしれないのに...」


「しゃあねぇ、今に始まったことじゃねぇしな。

 あとは、お前らがいてくれるからなぁ。感謝してるぜぇ~。」


ココノアの言葉にランディがそう言うと、ケリーとココノアはきょとんとした表情になった。


「なぁにぃー、あんた変なもんでも食ったの? あ、なんかむずがゆいわ。

 お礼ならあんたのその体質が治った時にしなさいな!」


「わ、わたしは...う、うれじいでず...」


ココノアは照れ、ケリーは泣いてしまい、大変面倒な状況になったのを見て、ランディは今後は感謝を言うのは控えようと心の中で誓ったのであった。

最後まで読んでいただき本当にありがとうございます。

読みづらい部分とかもいろいろあったと思います。

それでも最後まで読んでいただけて本当にうれしいです。ありがとうございます。


ここからは、今回小説を書いての感想です。

色々とふわっとした内容になってしまったと反省しています。

想像の3倍長い話になったなと思い、自分の見通しの甘さ、文章を書くペースの遅さなどなど、残念に感じることが多くぶっちゃけ萎えました(笑)

この作品ですが、時間のある時に加筆修正できればなとは思っています。(正直あんまり納得いってはいないです。)


ただ、次の作品も考えているので、今回の反省はまず次の作品で活かそうと思います。

もっと話の波や、構成、キャラ設定、読みやすさなど考えて作っていきたいと思いますので、温かく見守っていただければ幸いです。


以上、最後まで読んでいただきありがとうございました。

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