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イマジネーションはもう発動している

もう使いこなしている?

 黒い制服で身を包み、姿見でおかしいところがないか確かめる。

 なるほど。これが高校の制服というものか。中学のと見た目はあまり変わらないな。

 中学じゃテストや特別な行事以外では全てジャージだったが、これからは体育以外では基本制服で学校生活を送ることになる。窮屈で動きづらいったらない。


 こんなことならもっと精一杯勉強して、私服オーケーな私立高校に受験すればよかった。

 え?後悔する点がおかしくないかって?

 気にするな。俺は昔から変わり者なのだ。だから普通の人とは見る視点や気になる点が異なるのだよ。さぁ草でも生やしたまえ(氷河期)


「さて。意味わからん独白はここまでにして、さっさと飯食って入学式に行くか」


 部屋から出てリビングに行く。すると親父と婆ちゃんが真っ先に褒めてきた。


「おー!似合ってるじゃないか聖人」

「えっえっえ。昔の爺さんを思い出すねぇ」


「そりゃどうも。窮屈だから今すぐにでも脱ぎたいけど」

「あー。それはわかるわ。私も制服は窮屈で嫌だった」


 俺の言葉に母さんが同意見だと言う。

 性格は結構違う気がするが、言動は割と母さんに寄ってる気がする。

 まぁ俺は爺ちゃん似らしいからな。その娘である母さんとも似ていておかしくないな。


「いただきます。……そういえば、今日母さんの運転で行くって言ってたよな?」

「ええ。入学式には私とお母さんが出席するしね」


 んで、親父は仕事で来れないと。

 てことは結構余裕を持って行けるな。でも少しだけ早く出たいな。


「行く時なんだけどさ。道中にある神社に寄ってほしいんだ。参拝しておきたい」

「なに?お父さんの真似事?別にいいけど、それだったら少し早く出なきゃね。ほら、急いで食べちゃいなさい」

「まだ三十分くらい余裕あるんだから、そこまで急かさんでも…」


 そういえば、仙孤さんは朝に仕事あるのかな?境内の掃除くらいはしてそうだ。

 ここんとこ爺ちゃんの遺産の片付けと手入れに明け暮れてて、五円入れて来るだけの参拝しかしてなくて、まともに話してないんだよな。

 出来れば挨拶くらいはしておきたい。


 ……そうなると、やっぱりもう少し余裕持って出た方がいいか。


「ずずー……味噌汁うめぇ」


――――――――――――――――――――――――


 朝飯を食い終わり、一足先に出勤する親父を見送った後。

 俺と母さん、婆ちゃんも車に乗って学校へと向かう。

 神社の参拝は済ませたが、残念ながら仙孤さんには会えなかった。くそーあの巨乳を拝んできたかゲフンゲフン、下心などないよ(ダウト)


 桐咲高校は特段大きい訳ではないが、それなりに広い敷地を持つ高校だ。

 しかし今日は入学式だというのに、野球部の朝練が見えるのだよ。この高校は部活に力を入れていると言うが、特別野球部が強いなんて話聞いたことないんだが?

 まぁ部活は良い物だ。俺は中学帰宅部だったが、毎日汗水垂らして頑張る彼ら彼女らは見ていて気持ちいい。大変そうだが、同時に凄く楽しんでいるのが伺えるからな。

 思わず見ているこっちまで楽しくなる。そんな経験、ないかね?


「それじゃ、私たちはこっちからだから」

「んー。じゃあまた後でー」


 母さんと婆ちゃんは職員玄関へ向かい、俺は生徒玄関へ向かった。

 生徒玄関はグラウンドが横にあるから、楽しそうに朝練している野球部がよく見える。


 ―――カキーン!


 ピッチャーが投げたボールを、バッターが打ち上げる。

 しかしそれは明らかにファールボールで、友達と談笑しながら歩いている女の子に吸い込まれ―――いかーーーん!


「危ねぇッ!」


 そう叫ぶと同時に、足に力を入れて思い切り地面を蹴る。一足飛びで、女の子の前に行く想像をしながら。


「え?」


 想像通りに上手くいき、女の子の前に立つと、ボールは文字通り目と鼻の先。

 ゴッ!と鈍い音が聞こえると同時に、目の前がチカチカしだす。それと同時に、強い風が通り抜けていく感覚もあった。俺が高速移動したことで起きた風かもしれない。


「あいッ、た~…」

「きゃーッ!」


 面白いくらい顔面にクリーンヒットした顔を抑えると、庇った女の子が悲鳴を上げる。

 鼻折れたんじゃね?これ。

 しかし女の子に怪我が無くて良かった。女の子は傷を残しちゃダメだからね。


「あ、あの…。大丈夫ですか?」

「ちょ、救急車!誰か救急車呼んでっ!あと救急箱と一応AED!」


 助けた女の子は俺を心配し、その友達は救急車と救急箱、AEDの手配を周りに頼む。

 友達の方は出来た子だなぁ。気絶以外でAEDが使えるのか知らんけど。

 ……ん?色々手配した人の声、なんか聞いたことあるな?


「いや、それよりもこれ治すか」


 鼻に触れた感じ、完全に折れてる。長っ鼻の狙撃手だけで良いだろ、こんな面白い怪我すんの…。


 この数日で、イマジネーションは色々試したんだ。治療系はタンスにぶつけた小指の痛みくらいしか治したことしかないけど、骨折くらいすぐに治せるだろ。

 つうか重病人を治せて骨折は治せないとか無いだろ…。


「あー。ちょっと待ったっ。俺は大丈夫だから、救急車はいらないよ」

「何を言ってるんですか!頭に野球ボールが当たったら、救急車を呼べって習わなかったんですか!?」

「いやマジで大丈夫なんで!ほれ。無傷!」


 手を避けて、自分の顔を見せる。

 すると彼女たちと一部始終を見ていた人たちは、驚いたような顔をする。いや実際驚いてるか。


「え?でもさっき当たったように……あれ?貴方は……」


 庇った女の子の友達と目が合う。その子は、見知った顔だった。


「あれ?裕理さん。これはお久しぶりです。なんだかんだ、全然会えませんでしたね」


 その子は俺が治した重病人、裕太君の姉である裕理さんだった。


「え?あ、はい。お久しぶりです……じゃなくて!本当に大丈夫なんですか!?顔を抑えてましたけど」

「ええ。この通りピンピンしております。当たったのはボールじゃなくて、自分の手の甲なんで。鼻に当たったから思わず抑えただけですよ」


 そう言って、俺は裕理さんに手を見せる。その手にはボールが握られていた。

 実は顔に当たると同時に、ちゃっかり回収もしてました。本当に普通にキャッチしたかったんだけど、流石にゼロ距離キャッチを想像する時間なんて無かったよ…。


「本当に、本当に大丈夫ですか?どこも怪我、していませんか?」


 俺が余裕余裕とアピールしていると、庇った女の子が泣きながらそう訪ねてくる。

 怪我しているか、していないかで言えば……していない。してはいたけど、もう完治させたからね。


「ええ。どこにも怪我は無いですよ。強いて言えば、手の甲が当たった鼻が痛いくらいで」


「……よ、良かったです~…」

「ちょ、花音(かのん)!大丈夫?」


 裕理さんに花音と呼ばれた女の子は、安心したせいか腰が抜けてしまったようだ。

 あー、涙が止めどなく流れてるのだよ…。


「すみません!大丈夫ですか!?」

「ムカっ」


 そこでようやくと、野球部の一人が謝りながらこちらに来た。

 来るのが遅すぎやしませんかね?


「いやー。大丈夫大丈夫、この通りピンピンしてるから」

「ほっ。よかったです」

「でも……」

「えっ?」


 俺はグラウンドに身体を向ける。

 そして前にテレビで見た160キロ投げるピッチャーのモーションを取り、キャッチャーに向かって思い切りぶん投げた。

 当然例の野球選手を想像しながら投げたので、ボールは剛速球となってキャッチャーに向かっていった。しかも山なりではなく、真っ直ぐ直線で。


「いぃッ!?」


 バンッ!と、通常よりも距離が開いていたおかげで、キャッチャーの人は見事受け止めることが出来た。

 そんなのを見た人たちは、啞然とした様子で俺を見ていた。まぁ今はそんなことどうでもいいけど。


「おー。案外投げれるもんだなぁ、野球未経験者でも」


 俺がそう言うと、周りがざわつく。はっはっは。ちょっと気持ちいい。

 しかしそんなざわつきは無視するように、俺は謝りに来た野球部員に向き直る。


「もう周辺に人がいる時にバッティング練習するのはやめた方がいいですよ。俺だったから良かったけど、他の人だったら取り返しのつかないことになるんで。あと、謝んなら帽子外せ」

「す、すみませんでしたッ!」


 あと二、三言ばかり小言を言って、その野球部員は解放してあげた。

 謝るなら全員で来いとか、もっと早く来いとかね。

 部活に力入れてる割には、礼儀には全く力が入ってない学校と思われちゃうよ。


「あの、ぐすっ……本当にありがとうございました。おかげで助かりました。ぐすっ…」


 野球部員が去った後、花音さんが改めてお礼を言ってくる。

 まだ涙が止まらないようなので、ハンカチを差し出してあげることにする。


「どういたしまして。はい、どうぞ。これ使ってください」

「あ……ありがとうございます」


「本っ当に!ありがとうございます!裕太だけでなく、花音まで助けてくれて…」

「いやぁ、気にしなくていいですよ。てか裕太君を助けたつもりはないんだけど…」


 裕理さんも少しばかり涙目になりながら、再度お礼を言ってくる。この人からはお礼しか聞けてない気がする…。

 裕太君は結果的には助けたことになるんだろうけど、俺自身はそんなつもり無かったんだよなー。完全に偶然の奇跡だった。


「彼女が落ち着くまで待ってあげたいけど、ここにいると怖いし、中に入りません?」


「あ。そうですね。じゃあそうしましょうか。花音、歩ける?」

「うん。大丈夫…」


 また野球ボールが飛んでこないとも限らないので、さっさと中に入ることにした。

 ちなみに教室は、全員一緒だった。シチュエーションといい、教室といい……これって運命っ!?

 ……な訳ないない。そんな想像してないのに…。


 ―――そんな馬鹿みたいな考えをして、それを否定した俺だが……とっくにそれに似た想像を二度(・・)もしていたことを、俺はまだ知らない。

まだ使いこなせていないのだよ、聖人君。

ようやく始まるラブコメ。最初のヒロインは裕理さん……ではなく、その友達である花音さんです。


この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。


次は「陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル」を投稿します。

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