夢のような力…?
「ふぅー。良い湯だな~」
無事に帰宅して、母さんから少しばかりのお叱りを受けた。どうも、不知火聖人です。
不知火っていいよね。漫画のキャラみたいな苗字で。
俺が知ってる不知火といえば、めだかなんとかっていう奴くらいだけど。
母さんのお叱りが少しで済んだのは、婆ちゃんがいたからだ。婆ちゃんが間に入ってくれたおかげで、母さんも怒りの鉾を納めてくれた。
婆ちゃんは99歳。爺ちゃんよりも長生きしている。だから何かあったら困るから、爺ちゃんが入院した二ヶ月前からうちにいる。
だが99歳と侮るなかれ。あの婆ちゃんも爺ちゃんほどじゃないが、スーパー元気だからな。背筋は真っ直ぐだし、喋り方は悠長で穏やかだが、全然ボケてない。
なんなら走るしなあの人…。
「それにしても、今日はすげぇ疲れたな~」
巨乳美女の仙孤さんにビックリしたり、神社から病院までワープ(たぶん)したり、励ましていた重い病気を患った子が天国に逝きかけてると思ったら急に元気になったり……まるで夢でも見てるかのような一日だった。
そんなことを考えながら、湯水を顔にぶっかける。実は湯船って汚い菌でいっぱいらしいが、うちはそれを98%綺麗に除去してくれる洗剤を使っているので問題なし!
―――そういえば、あんな不思議なことが起こり始めたのって、仙孤さんと会ってからだよな?まさか彼女が俺に何かしたんじゃ……
「いや、ないないっ。それこそ漫画やアニメの世界の話じゃないか。中三になってからすっかりアニメにハマったせいかなぁ。現実をアニメ脳で考えるのは封印、封印」
などと考えてみるが、やっぱり不可思議なことが多過ぎる気がする。ていうか他が衝撃的過ぎるせいで霞んでるけど、なんか聴覚もおかしくなかったか?
裕太君の病室前で、先生と裕太君の両親が話しているのが聞こえるのはまだわかる。やけにハッキリと聞こえてたけど、百歩譲ってそこは気にしない方向にする。
だけどその後の裕理さんのすすり泣く声、そして裕太君の今にも天国へ旅立ってしまいそうなくらい辛そうな呼吸。
病室の扉がしまっていたのに、そこまでハッキリと聞こえたのは明らかに地獄耳過ぎる。てか俺の聴力は一般より少し上程度だったはずだ。
聴力を鍛える方法はあるらしいけど、俺はそんな特訓はした憶えはない。急に聴覚が発達しだしたようにしか思えない。
でも今は特にこれといって「それここまで聞こえる?」みたいなことは起こっていないから、聴覚覚醒説もなさそうだよなぁ…。
「……ちょっと耳を澄ませてみるか」
もしかしたら耳を澄ませば何か聞こえるかなと思い、耳に意識を集中してみる。すると―――
「―――ジュー…」
「ッ!?」
い、今の音は……フライパンで肉を焼いている音?
てことは、母さんが飯を作ってる音か。確かに俺が風呂に入ってる間に、飯を作っておくって言ってたけど……え?マジで?
そのまま耳を澄ませていると、フライパンの音だけでなく、扉が開く音も聞こえた。
この扉の音は……玄関の扉を開けた時の音だったような…?それに小さな足音も一緒に聞こえる。確かこの足音は……
「ただいまー、早苗。帰りに早苗さんの好きなシュークリームを買って来たよ」
「あらありがとー、柊さん。冷凍庫に入れておいて」
「あははは。相変わらず冷凍シュークリームが好きなんだね」
「ええ。アイスシューはちょっと硬いのが難点だけど、本当に美味しいもの」
やっぱり親父(アニメの影響で親父呼び)だった……うせやろ?会話までバッチリ聞こえるんだけど…。
俺の耳、超進化でもした?ワープ進化しちゃった?耳だけそんな超常的進化されても、使い道なんて刑事になって張り込みするくらいしか思い付かないぞ。
いや十分使えるやんっ!怪しい奴らの声を聞いて、「先輩!証拠品はどうやら、○○の○○という所に隠したみたいですっ!」って大活躍間違いなし!
書類作成とかの他諸々の雑用が面倒そうだけど、そんなのどの仕事でも同じこと。
母さん、俺は犬になるよ。おまわりさんの。おまわりさんと刑事って違うらしいけど。
――――――――――――――――――――――――
「ふぅー。良い湯だったぁ~。母さん、飯ー」
「今出来たから自分で持っていきなさい」
「はーい」
俺は頭にバスタオルを乗せながら、キッチンへ向かう。
婆ちゃんはお茶を手に「えっえっえっ」と魔女みたいに笑いながらテレビを見ている。
いつ見ても癖が強い笑い方だ。
結局のところ、今日起きた出来事について何を考えても意味はないということで、考えるのはもう止めだ。マジで頭がおかしくなりそうだ。
てなわけで今日の晩飯はー……なんと豚の生姜焼き!それに味噌汁とほうれん草のお浸しだと!?筋肉が喜びそうなラインナップ。帰宅部だったから知らんけど。
あ。ご飯も注がれた。
「ほら、持ってちゃって。母さんは洗い物しなきゃだから」
「はーい」
最近目元に小皺が出来た母さんに生返事を一つして、料理四皿の前に立つ。
……それなりに面倒臭がりな俺は、いっぺんに持っていきたい衝動に駆られるが、そんなことしたら絶対に落とすだろう。
「腕がもう一対欲しいな」
「何言ってんの?バカなこと言ってないで、早く持っていきなさい」
「はーい」
母さんに言われた通り、ご飯と生姜焼きが乗った皿を持とうとする。
しかし皿を持とうとした瞬間、身体に違和感を感じた。
違和感というか、服が急にキツくなったような気がする。
「ん?なんだぁ?なんか、服がキツイんだけど…」
「はぁ?アンタ何言って……………」
呆れ顔で言いながら、母さんは俺を見る。が、すぐにその顔は恐ろしい物でも見てるかのような顔に変わった。
おいおい。いくら身内だからって、そんな遠慮のない視線は傷付くぞ?何に対してそんな顔してんのか知らんけど。
「ま、聖人……アンタの服、なんか動いてんだけど?」
「はぁ?服ぅー…?」
母さんに言われて、自分の身体を見てみる。
……本当だ。なんかうごうごしてる…。
「……………」
俺は恐ろしさのあまり、固まる。しかし服の中でうごうごしているモノは止まることはなく、ついにはシャツの裾からソレが出てきた。
ソレは出てくると同時にシャツの裾を脇まで捲り上げ、首周りと肩以外が上裸の状態になってしまった。
「聖人…?ソレ、何?」
「何って……腕?」
そう。シャツを捲り上げたそれは、腕だった。
俺の腕の下に、腕がもう一対……生えてきた…?
「ぎゃーーーーーッ!?」
「きゃーーーーーッ!?」
それを腕と明確に認識した瞬間、俺と母さんは同時に叫んだ。
「な、ななな、何よそれ!?なんなのよそれ!?一体どうしたのよそれーっ!?」
「知らねぇよ!?急に生えてきたんだよッ!なにこれ!?どうしたらいいの!?」
「アンタのことでしょ!?私が知る訳ないじゃないっ!」
「どうした!?ゴキブリでも出たかっ!……て、なんじゃこりゃ…」
俺と母さんが言い争っていると、身長150センチあるかないかのショタがゴキブリ用殺虫スプレーを手に入ってきた。
このショタこそ、俺の親父である不知火柊。身長だけでなく顔も幼い、よく補導されそうになる親父だ。
なんでも成長ホルモンが分泌されない病気のせいで身長は伸びなかったそうなとか紹介してる場合じゃねぇっつうの!
「柊さん!聖人の腕が、腕がー!?急いで病院に連れて行った方がいいかしら?ねぇ、柊さんっ!」
「病院!?つまり緊急手術か?嫌だぞそんなの!一生痕が残るじゃねぇか!?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!ねぇ柊さん、本当にこれどうしたら……柊さん?」
さっきから何も言わない親父に対して、母さんが首を傾げる。
すると次の瞬間、親父の口から何か白い物が出て来て……
「お、親父ーーーッ!?」
「いやー!?柊さーーーん!?」
なんと親父に、現実ではまず有り得ないはずの、漫画やアニメでよく見る「口から魂が抜ける現象」が起きた。しかも親父自身の身体も白くなっている。
一体何がどうなってんだよっ!?さっきから!
「えっえっえっ。まるで昔に戻ったかのような光景だね~。えっえっえっ」
ダメだ衝動を抑えられないギャグを書く。
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次は『俺が銀髪美少女に幸せにされるまで』を投稿します。
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