まるで魔法のよう
俺は今、自分の頭にいきなり隕石が落ちてきたかのような衝撃を受けている。落ちてきたことなんてないし、そんな目に遭ったら普通死んでるから、例として上げるのは相応しくないかもしれない。
でもそれくらい衝撃的なことが起こったんだ。
……夢でも見ているのか?
そんな風に疑うが、しっかりこれは現実だとわかるくらい視界は色づいている。
夢の中って何色か判別出来るけど、無色に見えてるし。
そんな意味のわからない思考がぐるぐるするくらい、目の前で起こっていることが衝撃的過ぎるんだ。
「ゆう、た…?」
「……………?」
酸素マスクを付けて、床に伏していた裕太君。
そんな彼だったが、今は身体を起こして不思議そうな顔で、俺と裕理さんを交互に何度も見つめて来る。
「……お姉ちゃん?まさとお兄ちゃん?」
酸素マスクを付けているので、くぐもった声だ。
だけどさっきよりもハッキリと聞こえる。子どもらしくて、可愛らしい声だ。
「裕太…。えっ?大丈夫なの?」
「……うん。身体、どこも痛くない。全然苦しくないよ…?なんだか、身体が軽く感じる…」
「裕太……裕太ーーーっ!」
急に元気になった裕太君に抱きつく裕理さん。
……マジで、何が起こった…?ありのまま起こったことを話すぜ。
いきなり裕太君の身体が、淡い光に包まれたと思ったら、それが収まると同時に裕太君が身体を起こした。
何を言っているのかわからないと思うが、俺も何言ってんのかわけわかめ!?さっき起こったことを思い返すと頭がおかしくなりそうだっ!
「一体……何が起こったんだ…」
今の謎の現象に、担当医の先生も困惑している様子だ。
そりゃそうだろう。もうすぐ死ぬと思われていた人間が、急に元気になったんだからな。
なんなんだ今の光は!?まるで本当に裕太君が魔法をかけられたみたいに元気になったぞ!
どっかの偉人が『人間は想像した物を創造出来る生き物だ』みたいな言葉を残しているけど、いくらなんでも魔法なんて出来る訳ねぇだろ!?常識的に考えて!
―――あー…。ダメだ、考えれば考えるほど頭が痛くなって思考回路がおかしくなりそうだ…。
俺は痛くなってきた頭を抑えながら、一つ深呼吸をする。自分を落ち着かせる為に。
……仮に今のが魔法だったとして、一体誰がその魔法が使えたんだよ…。いや、魔法だなんて漫画のような話を考えるからいけないんだ。もっとこう……現実味のある考えをだな……
「まさとお兄ちゃん!」
思考の渦に吞まれつつあった俺に、裕太君が話かけてくる。
顔を上げると、こちらに思い切り抱き着いて来た。その勢いで、酸素マスクが外れてしまった。
「ありがとう……ありがとう、まさとお兄ちゃん!」
しかし裕太君は、酸素マスクなんて必要ないくらい元気で……目からたくさんの涙を流しながら、お礼を言ってきた。
「ありがとうって……俺は何もしてないぞ?」
「ううん。お兄ちゃんのおかげだよ!だって僕の左手を握っててくれたのはお兄ちゃんでしょ?まさとお兄ちゃんの手から、すっごく温かいモノが流れてきたんだ。そしたら、さっきまでのが噓みたいに苦しくなくなったの!」
「はぁ?」
なんだそれ?それじゃまるで、俺が魔法をかけたみたいじゃねぇかよ。
うちの家系は異世界転生してきた訳じゃないぞ…。
「だからありがとう!まさとお兄ちゃん」
俺の顔を真っ直ぐに見つめて、可愛い笑顔を向けてくる裕太君。
……その笑顔を見たら、もうなんでもいい気がしてきた。だって、原理はわからないけど、こうしてまた笑えるようになったんだから。
裕太君の笑顔につられて、俺も笑顔になったところで、病室の扉が開かれた。
どうやら、裕太君と裕理さんの両親が戻ってきたようだ。
――――――――――――――――――――――――
あの後、裕太君は両親からいっぱい抱き締められた。
涙を流して、何度も名前を呼び、「良かった……良かった…」と。本当に嬉しそうだった。
自分の子どもが元気になったんだから当然だし、裕太君をずっと励まして応援して来た俺も嬉しい。
でもやっぱり……疑問が残る。
なんで裕太君が急に元気になったんだ?裕太君は俺のおかげっつうけど、それは気のせいだろうし。
「あの……聖人君、よね?息子のことをずっと励ましてくれて、本当にありがとう」
裕太君の母親が俺に声をかけてくる。
裕理さんに話したなら、当然両親にも話しているか。
「いえ……俺は別に、何も…」
「そう謙遜しなくていいよ。僕らは裕太が病気で苦しんでいる間、何もしてあげられなかったからね…」
しかし父親の方が、俺の何もしていないという言葉を否定する。
話を聞いたところ、家族から何を言っても、裕太君は笑顔を見せなかったそうだ。
どれだけ励まそうと、ずっと暗い顔のままだったらしい。
そんな裕太君だったが、俺の話をしている時だけは、以前のようによく笑うようになったらしい。
「裕太は起きている時、あの竜の折り紙をずっと手に持っていたんだよ。ほら、今も持ってる」
その言葉を聞いて、聴診器を当てられている裕太君を見る。傍には裕理さんもいる。
ぶふっ!本当だ……万歳しながら両手に持ってる…。
今度新しいの作ってきてあげよう。あんな歪なのじゃなくて、爺ちゃんみたいに綺麗なやつを。
「本当に、ありがとうね…」
「ありがとう。聖人君」
裕太君の両親二人から、再度お礼を言われる。
俺はそれを、今度はちゃんと受け取った。
――――――――――――――――――――――――
「すっかり遅くなっちまったな~…」
病院から出て、一番星が見え始めた空を見上げる。おまわりさんに見つかったら補導……は、まだされる時間じゃないか。
送ってあげる、と裕太君の父親から言われたが、丁重にお断りさせていただいた。
俺も四月からは高校生。中学は帰宅部だったが、もしかしたら高校では何か興味のある部活が見つかるかもしれない。
だったら今のうちに夜道に慣れておこう。俺はお化けが怖くて夜道が嫌いだが、いつまでもそんな子どもみたいな言い訳を持っている訳にはいくまい。
社会に出たら絶対に苦労する…。
「あのっ!」
さて帰るか、と足を踏み出したところで声がかかる。
振り返ると、そこには裕太君の姉である、裕理さんがいた。
彼女は長い髪を乱しながら、少し息を切らしている様子だった。どうやら慌てて追いかけて来たようだ。
「どうしました?裕理さん」
「えっと……改めて、お礼を言いたくて…」
「ああ……別にもういいっすよ。そう何度も礼を言われたら、逆に疲れる」
俺がそう言うと、裕理さんは視線を右往左往させる。
俺の言葉を聞いて、なんとかお礼を言わずにお礼を言おうとしている…?
「……そういえば受験生って話でしたけど、どこを受けたんすか?」
「えっ?桐咲高校ですけど…」
「へー。桐咲……俺も同じ高校を受けましたよ。結果は合格」
「え!?てことは、私たち…」
「そっすね。同じ高校の、同級生っすね」
俺がそう言うと、彼女は口元を抑える。
「それじゃあ…」
「これからいくらでも、俺にお礼する機会はあるってことで。それでこの場はもう解散しませんか?なんか色々なことがあり過ぎて、俺も疲れちゃったし。裕理さんも疲れてるでしょ?」
「そ、そうですね…。―――でも、やっぱり…」
裕理さんは胸の前で手をキュッと握り、真っ直ぐ俺の顔を見ながら言葉を紡ぐ。
「やっぱり、お礼を言わせてください。裕太のこと、本当にありがとうございました。聖人さんがいなかったら、裕太はたぶん、今頃…」
「……………」
「ですから、改めてお礼を言いたかったんです。その……聖人さんは、これからもここに…?」
「……ええ。老い先短い爺ちゃんの見舞いがあるんで」
裕理さんのお礼の言葉を受け取って、俺は微笑みを浮かべながら言う。
……ん?なんか今、爺ちゃんの盛大なくしゃみが聞こえた気がする。いかんな……幻聴が聞こえるくらい疲れてんのか…。
こりゃあさっさと帰って、さっさと病院の菌を洗い流して、さっさと飯食って寝た方がいいな。
「それじゃあ、もう行きますね」
「あ、はい。……その、また今度、ゆっくりお話しませんか?」
「ん?構わないっすよ。俺も受験終わって暇なんで」
裕理さんのお誘いを、快く引き受ける。
裕理さん可愛いし、やはり男としてはその申し出を断れない。
しかし決して下心だけではないぞ?裕太君のお姉さんだからお誘いを受けたんだ。これがよく知らない人だったら、例え同級生でもお断り……ごめんやっぱ無理かも。
裕理さんのような美少女のお誘いは断れない自信しかなかったわ……もう!男って本当にだらしないんだから!
まぁ過度な期待はしないさ。これは所謂社交辞令のようなもの。実際に話すことがあっても、友達以上になれることはないだろう。
俺としては美少女と仲良くなれるだけでも幸せなので、友達でも全然あり!
それに彼女の様子からして、俺に気がある訳ではないは明らか。
漫画じゃねぇんだから、これくらいで恋に発展するなんてことはねぇんだわ。現実は非情だ…。
「ありがとうございます。それでは、失礼しますね。帰りはお気を付けて」
「はい。さようなら。裕理さんもお気を付けて」
まぁ気を付けるのは車を運転する父親だろうけど。
そうして裕理さんに背を向けて歩き出す。
帰りが遅くなった俺を叱るであろう、母さんのことを想像しながら…。
高校生活始まるまでまともなギャグが書ける気がしない…。
まぁ無理にギャグ入れても変になるだけですし、ここは衝動を抑えつつ書いていきたいと思います。
この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。
次は『陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル』を投稿します。
https://ncode.syosetu.com/n8186go/