百合の間に入ろうとするナンパ野郎は〇すべし
サブタイトルがストーリーとの関連性にあまりない。
遅れたので三話分詰め込みました。
「あれ?不知火さんって癖っ毛?横の髪跳ねてるよ」
「え。マジで?どこ」
「えっと、私から見て右の……」
電車に揺られながら、鳴久野さんに髪の毛のことを指摘されて、そこを手櫛で直す。
跳ねてた部分は綺麗に無くなったようで、鳴久野さんは笑顔で「もう大丈夫」と言ってくれる。
「ありがとう鳴久野さん。今日という時に限って寝癖が凄くてな」
「ど、どういたしまして…」
彼女に釣られて笑顔でお礼を言うと、頬を僅かに赤くしながら裕理さんの後ろに隠れてしまった。
鳴久野さんはやはり人見知りな性格みたいだ。二人きりの時はなんだかんだ話せているが、裕理さんがいる時の癖になってるのか、裕理さんの後ろに隠れてしまうことがある。
今みたいに俺が笑ったりすると特に。
ここだけ見ると、鳴久野さんは俺のことが気になってるように見える。
しかしこの不知火聖人。そんな自惚れた考えなどせぬ。
鳴久野さんが俺を見る目は、僅かに怖い物を見ているかのように感じるから。
人見知りもあるんだろうけど、恐らく男にあまり良い思い出がないから緊張が勝ってしまってる状態なんだろう。男の笑顔に騙されたことがあるのかもしれない。
そんな彼女が俺の為に頑張ってお礼しようとしてくれてるのだ。故に彼女の好意を間違った解釈で受け止めてはならない。
今日を機に男という存在に慣れてくれたら幸いだ。
「聖人さんって結構キッチリしてそうだけど、寝癖残しとかするのね」
「あ~……実は女の子と一緒に遊ぶのは初めてだからさ…。緊張で寝れなかった」
「あ。じゃあ服選びじゃなくて単純に寝坊しただけ?」
「いやいや!確かに寝坊もしたけど、それでも約束の一時間前には起きれたし、身支度の少ない男にとってはそれで十分だぞ。だけどやっぱ服装は気を遣った方がいいかと思って……でも友達と遊びに行くだけだし~……ってなってたら、時間ギリギリに」
これは本当のことだ。結局時間ギリギリまで服装に悩んでいたし、それでイマジネーションでワープを使う羽目になったんだからな。
それで駅前を想像しながらワープしたら、ベンチに座ってる二人の真ん前……マジで焦った。前向かれてたらアウトだった。
イマジネーションはあまり人にバレてはいけない。改めてそれを肝に銘じて使っていかなければと、反省しております…。
「ふ~ん。まぁいいけど。それだけ私たちが魅力的だったってことでしょ?ねー花音♪」
「えっ!?裕理ちゃんはそうかもだけど……わ、私はそこまで―――」
「ああそうさ。俺はこんな可愛い女の子二人と一緒に遊ぶのが楽しみ過ぎて緊張しているのさ、今も!」
「だってさ」
「はぅ~……不知火さんのバカ…」
自己肯定感の低い鳴久野さんが自己否定する前に、俺がそれを上書きするように言うと、鳴久野さんは顔を赤らめて完全に裕理さんの後ろに隠れてしまった。
ふぅむ。俺に慣れる前に、まずは自分に自信を持ってもらうことが先かもしれない。
―――しかし顔を赤らめた美少女にバカと言われるのは凄くキュンキュンするな。可愛い。
「はぅ~~~…」
「今の声に出てたわよ、聖人さん…」
「えっ?マジで。どこが出てた?」
裕理さんに呆れられてしまった。しかしこのジト目、なかなか良いかもしれない(真顔)。
――――――――――――――――――――――――
デパートに到着した我々一行。
このデパートは四階建てで、一階が食品コーナー。二階が服やアクセサリー、ゲームセンター。三階が飲食店や店内を借りて営業している出店などが並んでいる。
そして四階だが、なんと映画館がある。今日は映画を見る予定はないが、いつか一緒に観に来たいものだ。
女の子との映画デート……例え相手が友達であろうとも、一度は経験してみたいものだ。
「それで花音を助けてくれたお礼だけど……本当にご飯を奢るだけで良いの?男の子だってオシャレはしたいでしょ」
「普通の男はそうなのかもしれないけど、俺はオシャレさんじゃないからな。服とかアクセサリーとかはどうでもいいのよ。俺のことは気にせず、二人はショッピングしたくなったらしてもいいよ。荷物持ちも出来るし」
「花音の恩人に荷物持ちさせたくないわね…。それじゃあお昼まで適当にお店回って―――」
きゅる~―――。
「ん?」
「え?」
「……………(かぁ~)」
裕理さん仕切りのもと、これからの予定を決めようとしたその時。何やら可愛らしい音が聞こえて、俺と裕理さんは思わず目を合わせる。
その後二人して鳴久野さんを見ると……なんと顔を真っ赤にしてお腹を抑えてらっしゃるではありませんか。
「ち、違うよ?別に準備に追われて、朝ご飯を食べ忘れた訳じゃないよ?」
鳴久野さん。貴女ハッキリ答え言っちゃってんのよ…。
でもどうする?ここは気付いてない振りをしてあげるのが紳士の嗜みか?それとも軽く摘まめる物でも三階の店で買うべきか?
きゅる~―――。
「ひぅ…」
「あはは……ごめん聖人さん。先にご飯でもいいかしら?花音がこのままだと倒れちゃいそう」
「あ、ああ。そうだな。不思議なダンジョンも腹を空かせたままにしたら倒れるもんな。かく言う俺も、朝飯食わずに出て来たから、実は腹ペコ…」
「そ、そうなんだ。じゃあまずは三階に行きましょ!ジャンクフードでもイタリアンでも、好きなお店選んで良いわよ!私と花音の奢りだから」
「わかった。じゃあお言葉に甘えて」
「うぅ~。恥ずかしい…」
裕理さんが鳴久野さんの頭を撫でながら、俺たちは三階へ向かった。
しかしここで問題が発生。今日は何の日だ?そう!土曜日、休日だ。社会人は出社しているところも多いが、休みにしている人も多いだろう。だって基本的に学校が休みの日だから!
つまり子連れが多いねん。主に入学祝いで有給取ってると思われる人たち(偏見)。
時刻は11時手前。お昼にはちょっと早いが、様々な店が並ぶこのコーナーでは結構ピークらしい。
どこの店も結構な列が出来てる。
「あちゃ~。これは長くなりそうね。どうする?お昼過ぎるの待つ?」
「それも良いが、こんなに美味しそうな匂いが漂ってると……」
ぐぎゅる~―――。
「俺の腹も我慢出来なくなってくる」
「え?し、不知火さん、本当にお腹空いてたんだ」
「俺は気を遣う時以外、あまり噓は吐きたくないからな!」
「そ、そうなんだ…」
鳴久野さんに自分の正直さを謎アピールしつつ、三人で店を回っていく。
裕理さんから好きな店を選べと言われたが、ぶっちゅけ今の俺は食えればもうどこでも良いモード。
だってあっちこちの店が人でいっぱいなんだぞ?そうなると俺はもうどこでも良いってなるタイプだ。
こうなると俺は優柔不断気味になるからな。ここは二人の様子を観察して、店を決めた方がいいな。
裕理さんはザッと店を横目で見る程度で、特に「あれ良いかも」みたいな反応を見せる様子がない。
彼女も俺と同じで、どこでも良いってなってるのかもしれない。あと会話の様子から、朝飯はしっかり摂って来たってのもあるのかも。
鳴久野さんも裕理さんと一緒で、ザッと見ている感じだ。だけど「どこか良いお店ないかなー?」としっかり探してる様子だ。
なので店内を見渡しつつ、そんな彼女を観察し続けていると、鳴久野さんがあるお店に釘付けになったのがわかった。
その店はイタリアンの店で、オシャレな雰囲気が漂っているが、表の食品サンプルに書かれてる値段はかなりリーズナブルで、割と庶民向けのお店っぽい。
まぁデパートの店で高級レストランとかある訳ないだろうけど。
俺は鳴久野さんが見つめているイタリアンの店に指を指しながら、二人に声をかけた。
「あそこの店行きたいな。あの如何にもイタリアンな店って感じの」
「ん?ああ、あそこね。確かに良さそうかも。花音は?」
「う、うん!賛成!」
鳴久野さんは満面の笑みで賛同すると、テクテクと我先にと店の列に並んだ。可愛い。小動物みたいだ。
ここは他に比べると人は少なめだし、割とすぐに順番が来そうだ。
「楽しそうだな、鳴久野さん」
「うん!私、あまりこういうお店入ったことないから、すっごく楽しみ」
キラキラと星でも舞ってるかのように可愛い笑顔だ。思わず心臓が跳ねてしまったよ。
全くなんて罪作りな子だ。無意識に俺を落としに来やがって。本気になっちまうぞ?
なんてキモイ心の声は汚ねぇ脳の奥底にしまい込むとして、やはり俺も一人の男。美少女の笑顔には打たれ弱い。
今日は奢られる立場だというのに、あとでコッソリ自分の金で会計を済ませたくなってしまうじゃないか。
男キラーだぜこれは。まだまだ未熟な男の子たちが彼女に言い寄って怖がらせてしまうのもわかってしまう。本当に男にトラウマがあるのか知らんけど。
ふぅ。これは鳴久野さんの友達として責任重大だな。変な気持ちは抱かず、ちゃんと一人の友達として接する。
おいおい、思春期の男子高校生になんて拷問を虐げてくれてんだ。(自分で自分を苦しめてるだけ)
「―――ん?おいおい、マジかよ」
「でさーって、どうしたの?聖人さん」
美少女二人の雑談になんとか付いて行こうと相槌を打っていたら、突然尿意が襲ってきた。
なんてことだ。列も進んであと5分くらいで入れるかもしれないという時に…。
「すまない二人とも。お花積みに行ってきていいか?いきなり襲われてしまって…」
「ああ、なんだ。深刻そうな顔してどうしたのかと思ったらそんなこと……良いわよ全然。我慢は身体に毒よ」
「すまん。逝ってくる!」
「え。今なんか字がおかしかったような?」
突然の尿意があまりにも激しかった為、逝ってくると言ってしまった。
この年でそんなことにはならないだろうけど。てかなりたくない。
――――――――――――――――――――――――
不知火さんがお手洗いに行って、裕理ちゃんと二人きりになる。
不知火さんと一緒にいるのが嫌って言う訳じゃないんだけど、緊張が少し解けていくのを感じた。
「大丈夫、花音?やっぱり男の子と一緒にいるのは怖い?」
「ううん!怖いとかじゃないの。今朝言った通り、緊張してるだけだから。……おかしいよね?学校だとそこまでだったのに、さっきからずっと緊張しっぱなしで…」
「う~ん。見た感じ、聖人さんが男だから緊張してるっていう風には見えないけど」
「え?どういうこと?」
裕理ちゃんは上手く言葉に出来ないのか、首を傾げてしばらく考え込む。
やがてピンと来たのか、私の緊張の理由を教えてくれる。
「今日は聖人さんにお礼をする為のお出掛けじゃない?」
「うん。入学式の日に身を挺して守ってくれたし、それにいつまでも泣いてた私を元気付けてくれて…」
野球ボールから守ってくれたり、まだ慣れてないマジックをしてくれたり……その日会ったばかりの私にあそこまでしてくれた人に、どんな形でも良いからお礼がしたかった。
それで今日、不知火さんの希望に沿って、飲食店でご飯を奢るってことになったんだもん。
……でも、本当にそれだけで良いのかなって思ってしまう。
「花音はさ。ご飯を奢るだけじゃ不満なんじゃない?」
「え?……うん。そうかも」
やっぱり長い付き合いだけあって、裕理ちゃんには見透かされてたみたい。
「今はこれでいいのよ。本人が望んでないのに、物を贈るのはさすがに重いわ。あと、自分のせいで聖人さんに不快な思いをさせないかって不安なんでしょ?ここが一番の理由と見た」
ニヤリと悪そうな笑みを浮かべる裕理ちゃん。図星から顔を逸らしながら頷く。
彼女には何もかもお見通し過ぎる…。まるで私の心を読んでるみたい。
「そんなに緊張するなっていう方が難しいんだろうけど、もう少しだけ聖人さんを信用してあげたら。たぶんだけど、あの人はちょっとやそっとで不快に思ったりしないわよ」
「う、うん。そうだね……じゃ、じゃあ、もう少しだけ勇気を振り絞って―――」
「お嬢ちゃんたち。二人?良かったら俺たちと遊ばない?」
「えっ?」
不知火さんともう少し積極的に話してみる、と意気込もうとすると、突然髪を金髪に染めた二人組の男の人が話しかけてきた。
それを見た私は怖くなって、反射的に裕理ちゃんの腕に隠れてしまった。
これってナンパ……だよね?
「俺たち今日遊ぶ予定だった子たちにドタキャンされちゃってさ~。良かったら一緒にお茶しない?奢るからさ」
「結構です。私たち、人を待ってるんで」
怖そうなナンパの人たちに、裕理ちゃんは臆することなく断る。
だけど彼らは、それだけで諦めるはずがなく……
「そんな釣れないこと言わないでよ。待ってるって友達?女の子?じゃあその子も一緒に行けばいいじゃん。なぁ?ちょっと一緒に遊ぶだけだって」
「そうそう。俺たち金持ちだからさ。オシャレなお店とかも紹介するよ」
お茶のお誘いから、遊びのお誘いに変わった。
完全にお茶だけで済まない。この人たちには絶対に着いて行っちゃいけない。
「いえ。そういうのは好きな人と行きたいので」
「え?君彼氏いんの?」
「いませんけど、やっぱり憧れみたいなのがあるんで。だから他を当たってくれませんか?」
裕理ちゃんは全く臆せず、淡々と男の人たちの誘いを断り続ける。
そんな二人は、裕理ちゃんはダメだと踏んだのか、標的を私に変えて来た。
「ねぇねぇ?後ろに隠れてる可愛らしい彼女。俺たちと遊ぼうよ」
「え……えっと…」
「ちょっと?嫌だって言ってるじゃないですか。しつこいですよ」
「今は君じゃなくて、この子に聞いてるの。ね?いいでしょ。ちょっと一緒に遊ぶだけじゃん」
ちょっと一緒に遊ぶだけ。そう言う彼らの目は、明らかにその言葉とは違う意味を持った目をしている。
私の中の恐怖心が大きくなっていくのを感じ、裕理ちゃんを掴む力が強くなる。
「い……いや…」
「えー。なんで嫌なのー?こんなに真摯に頼んでるのに」
「どこも真摯じゃないですっ。この子が怖がってるのがわからないんですか!?警察呼びますよ」
「おいおい。ただ遊びに誘ってるだけなのに、それは無いんじゃないかな?」
「はぁー。物分かりの悪いお嬢ちゃんたちですこと」
「どっちが…」
どうしよう……このままじゃ、私たち無理矢理にでも連れて行かれそう。それに列に並んでた人たちも、関わりたくないのか離れてちゃった。
それでもお昼のピークは過ぎてないおかげで、周りにはたくさん人もいるし、いきなり連れてかれるってことはないとは思う……でも、この人たちの目がもっと怖くなってきたし、万が一ってことも…。
逃げようにも、足が竦んで動けそうにない。裕理ちゃんもそんな私がわかってるからか、動こうにも動けない状態に見える。
……嫌だ。私のせいで、裕理ちゃんを危険な目に遭わせたくない。だったら……
「裕理ちゃん。逃げ――」
「おい」
私が裕理ちゃんに逃げるよう言う前に、男の人たちの後ろから声がかかった。
全員がそちらに目を向ける。
「その二人、俺の連れなんだけど。なんか用?」
そこにいたのは、不知火さんだった。
「はぁ?待ってる奴って男かよっ。堂々と二股か?」
「二股…?その二人は俺の友人だが」
「だったらその友人、俺たちに貸してくれよ。一人だけで良い思いするなんてズルいぜ?」
「そうそう。……なんなら三人で好きにしちまおうぜ?お前もこの二人狙ってんだろ?」
「は?」
とんでもない誘いをし出した男の人の言葉を聞いて、不知火さんから途轍もなく冷たい声が聞こえた。
それを聞いて、私はびくりと肩が跳ねた。
「お前らみたいなクズと一緒にするな。俺は純粋に友達として二人と付き合ってんだ。そんな邪な気持ちだけで一緒にいるんじゃない」
「なんだとテメェ!?」
「女の前だからって調子乗ってんじゃねぇぞ!」
二人が不知火さんに恫喝する。
すると不知火さんは、まるで我慢の限界でも来たかのように、二人の頭を掴んだ。
そして次の瞬間―――二人は、強制的に正座をさせられた。
「「え?」」
思わず裕理ちゃんと一緒に、変な声が漏れた。
「調子に乗ってんのはどっちだ?まともに抵抗できない女の子二人に、周りのお客さんにまで迷惑を掛けるナンパなんてしやがって……」
「え?えっと……その、え?」
「か、身体……動かねぇ…」
二人は突然のことで身体を動かすことが出来ず、大量の汗を浮かべて動揺した様子を見せる。
「今すぐここから出ていけ。じゃないと警備員を呼ぶぞ」
不知火さんの言葉に二人は顔を恐怖に染めてふらふらと立ち上がり、そのまま去っていった。
雰囲気と言葉だけでビビらすイメージで喋ってました。
この話が面白いと思ったらブクマ登録と高評価、いいねと感想をよろしくお願いいたします。
次は「俺が銀髪美少女に幸せにされるまで」を投稿します。
https://ncode.syosetu.com/n5786hn/




