鳴久野花音、遊びに誘う
本日2個目。
花音視点です
翌日。今日からいよいよ本格的に高校生活がスタートする。
いきなりだけど私、鳴久野花音は……男の子が苦手…。小さい頃から、よく男の子に泣き虫だって虐められてたから。
そんな中、私を助けてくれたのが羽柄気裕理ちゃん。
裕理ちゃんとは小学生の頃から一緒で、私が虐められてるとわかると、すぐに助けてくれた。
彼女は私にとって、ヒーローのような存在。私が困った時……虐められてた時もそうだけど、何かを無くしたりした時は、いつも一緒に探してくれた。少女漫画のヒーローみたいに。
裕理ちゃんが男の子だったら、恋していたかもしれない。
そして昨日。私はまた助けられた。裕理ちゃんではなく、この春から一緒の高校に通う一人の男の子に。
飛んできた野球ボールから助けてくれた彼は、不知火聖人さん。凄く優しくて、マジックが出来る面白い人って印象だった。
裕理ちゃんから聞いた話だと、闘病中の裕太君の話し相手になって、心の支えになってくれたらしいの。だから私が彼に抱いた印象は、合ってるんだと思う。
もう一度言うけど、私は男の子が苦手。でもいつかは克服しなきゃいけないとは思っていた。
だから私は思った。彼なら、きっと―――
――――――――――――――――――――――――
ということで昨晩日記に書いたように、お礼も兼ねて遊びに誘いたいんだけど……
「なぁなぁ。昨日やった手品、もう一度見せてくれよ!」
「俺も俺も!俺も見たい!」
「私は他のマジックも見てみたいな~。ねぇねぇ、不知火君が良かったら見せて。お願いぃ」
「動画撮って、SNSに上げてもいい?」
「僕んちにあったこのトランプでも出来る?」
「わかった!わかったからそんな一気に喋るな!?ちゃんと見せるし、顔映さなきゃSNSに上げても良いから。そのトランプ貸して。あと隣の席の子が迷惑そうにしてるから、教壇の机で見せるよ。その方が見やすいだろうし」
昨日のマジックの影響で、すっかりクラスの人気者になってしまった不知火さん。
話しかけられる機会なさそうです…。どうしよう、いつ声掛けたら良いんだろう……マジックやってる最中に話し掛けたら、ミスしちゃいそうだもんね?集中力が必要そうだし。
「これ折ってもいい?」
「うん、いいよ。もう使ってないやつだし」
「ありがとう。―――はい、ではこの折ったカードはハートのエース。これを一番下にして、机の上に置きます。さて、ここで私は教室の入り口にでも移動しましょうかね」
不知火さんは宣言通り、教室の入り口に移動する。
てっきり一番下のカードを一番上に移動させるマジックかと思ったけど、違うのかな?
「ここで俺が指を鳴らすと、ハートのエースが一番上になる……なんてのはもうありきたりだ。動画映えもしにくいだろう。なので―――パチンッ!」
不知火さんはそこまで言うと指を鳴らす。すると、私の頭に何か違和感が……
「カードが、離れた所で見ている鳴久野さんの所に移動したら、面白いと思わないか?まぁもう移動してるんだけどなHAHAHA」
「「「えっ?」」」
マジックを見ていた人たちが一斉に私を見る。それに驚きつつも、私は頭に感じた違和感を確かめる為に、手を伸ばす。
するとそこには、折った痕があるハートエースがあった。
私は啞然としながら、皆にそれを見せる。
「「「えーーーーー!?」」」
「ちょちょ、マジで無くなってるぞ!?ハートのエース!どこにもない」
「マジで!?どうなってるのそれ。移動した所は鳴久野さんが協力したとかならわかるけど、誰もこのトランプ触ってないよね?誰かが抜いたとかないよね?」
「触ってない触ってない!俺コイツと一緒にトランプ見てたけど、誰も触ってないぞ!?」
「私もトランプは視界に入れてたから、本当だと思う」
皆して不知火さんのマジックに驚いていた。私も驚いている。
だって私は不知火さんに協力なんてしてないから。それに私の後ろには、席に座りながら見ていた人がいたから、私が協力者じゃないことはそこで証明される。
なんならトランプが急に私の頭の上に現れてビックリしてるかも。
「ふー!成功して良かったー。すまないな鳴久野さん。急に巻き込んで」
「う、ううん!全然大丈夫だよ。私も面白かったし」
どんな種があるのか全くわからない。
どうやって私の頭の上にトランプを移動させたんだろう?そんな疑問で頭がいっぱいだった。
「それで鳴久野さん。俺になんか用事でもあったか?」
「え?」
「いや、なんか他とは違う目線で俺のこと見てたから、話したいことでもあるのかなーって。でも俺があんなに囲まれてたら、話すこと出来なさそうだったし。勘違いだったか?」
「あっ…」
気付いてたんだ。私が不知火さんに話し掛けたかったこと。
凄いなー、不知火さん。人を見る力が強いって言えばいいのかな?それにあんな状況だったのに、すぐに私と話す為の場を作るなんて……なんていうか、もう凄いとしか言いようがないや。
私の貧相な語彙力では表せない…。
「えっとね。昨日、助けてくれたお礼がしたくて……」
「ん?野球ボールの件か」
「うん。土曜日、もし暇だったら遊びに行きたいなーって」
「え?それって……」
「へ、変な意味じゃないよ!本当に助けてくれたお礼がしたくて!それに……その後、元気づけてくれたでしょ?だから……」
人見知りのせいか、段々話しているのが恥ずかしくなってきて、もじもじしながら言葉に詰まる。
だけど彼は、それを察してくれて―――
「なるほど。わかった!土曜日だな。どこで何時に集合する?」
「ほ、本当!よかった~…」
不知火さんからのフォローもあって、無事に遊びに誘うことが出来た。
……でもどうしよう。どこに行くか決めてなかった…。
「その、誘っておいて申し訳なのですが……」
「ああ。行き先決めてない感じね?」
「はい…」
「そんな落ち込むなって。俺もそういう時よくあるから」
「そ、そうなんだ…。その、不知火さんは行きたい所とか、ある?」
私がそう聞くと、不知火さんは「うーん…」と考える素振りを見せる。
「女の子と遊びに行くとか、初めてだからなー。パッとは思いつかねぇなー」
「え!?そうなのっ!」
「あ、ああ。そんなに驚くことか?」
「だ、だって、こっちの気持ちを察してくれるし、優しいし器用だし……女の子慣れもしてそうだし」
私の言葉に、不知火さんは苦い表情を作る。
……もしかして、地雷踏んじゃった?怒らせちゃった?
「ご、ごめんなさい!嫌なこと聞いて」
失礼をしたと思った私は、すぐに頭を下げて謝罪する。
「え?違う違う!そんなこと言われたの初めてだったから、戸惑っただけだ」
「そ、そうなの…」
不安になりながら、顔を上げる。
視界に映った彼は、苦笑しながらも、優しい表情で頷いた。
「女の子慣れなんてしてないよ。彼女も出来たこともないし、モテた試しもない」
「そ、そうなんだ……なんか凄く意外」
「うーん。意外なのか……まぁいいや。で、どうする?裕理さんも誘うか」
「う、うん!裕理ちゃんは後で私から誘うね」
「そうか。じゃあその時にでも行き先決めといてくれ。女の子が喜びそうな場所は、俺にはわからんからな」
「うん。でも、これは不知火さんへのお礼だから、不知火さんも行きたい所があったら言って欲しいな?」
「……わかった。じゃあ考えとく」
「おや?昨日の今日で、すっごく仲良くなってそうな二人を発見」
「あ。裕理ちゃん。ちょうど良かった~。実はね―――」
それから始業のチャイムが鳴るまで、私たちは土曜日に遊びに行く場所を話し合った。
さて、どこに行こうか…。
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次は「陰キャ男子高校生と天真爛漫なアイドル」を投稿します。
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