鳴久野さんは少し泣き虫で―――尊い。
自分たちの教室に行くまでに、助けた女の子の名前を聞いた。
鳴久野花音。さらさらしてそうな腰まで伸びたストレートヘアー。身長は平均的だが全体的に小柄で、抱きしめたりしたら折れてしまいそうだ。
顔も小さく、パッチリ二重の目も大変可愛らしい。
のだが……
「助けていただいて……ぐすっ。本当に、ぐすっ……ありがとうございます。ぐすっ…」
「うんうん。もう十回越えた辺りで数えるのやめたくらい聞いたから、本当にもういいよ」
泣き止まない!なんだこの子?教室に着いてからもずーーーっとお礼言ってくるし泣いてるし、隣では裕理さんが鳴久野さんの頭ナデナデしているし……なんて尊いんだ…(百合好き)
じゃなくて。どうしたら泣き止んでくれるのだろうか?
さっきからこれから一年クラスメイトとしてやっていく人たちが奇異な物でも見るかのように視線を飛ばしてくるから、凄く居心地が悪いのだよ。
俺も頭撫でる?セクハラで訴えられちゃうね。
笑かしてみる?お笑いセンスゼロなのに?
マジックでもしてみる?いや相手は小さな子どもじゃないんだからっていうかマジックなんてしたことないだろ……ん?待てよ。
俺にはイマジネーションがあるじゃないか!とラノベの痛い主人公みたいな思い出し方をして、いっちょマジシャンを想像してみる。
マジシャンは閲覧注意なマジックをやってる人ばかり見て来たから、どうしてもそれを先に思い浮かべてしまうな…。
でも流石に人体切断マジックみたいなことやったら余計に泣かしてしまうだろう。
なので俺氏、考えました。
イマジネーションっていうのは、かなり体力を使うけど無から物を作りだすことも出来る。
具体的にどれだけ疲れるかというと、100メートルを全力疾走した時みたいな感覚だ。まるでオn……おっと。これ以上はいけない。
とにかくイマジネーションというのは、爺ちゃんが言った通り想像すればなんでも具現化させることが出来る。
だから錬金術のように無から生み出すことが可能。自分の体力以外に等価交換が必要ないとか、錬金術師は涙目だね。
「もう花音、いい加減泣き止みなさい。聖人さんが困ってるでしょ?」
「わかってるよ。わかってるけど……怖かったのと助けてくれたのと、私のせいで怪我させちゃったかもっていうのがぁ~……ぐすっ…」
「さぁさぁお立会い!」
鳴久野さんは心優しい女の子のようだ。別に怪我はもう治したから気にしなくていいのに、こんな風にずっと俺のことを想って泣いてる。
それは嬉しいが、可愛い子に涙は似合わないんだぜ?
「見てください。ここにトランプがございますね?」
「え?いつの間にそんなの出したの?」
裕理さんは「同級生なのにいつまでも敬語なのはおかしいわよね?」と言って、今ではすっかりタメ語で話してくれている。
俺も気にせずタメ語が使えるから安心だ。
「そしてさらに、ズボンのポケットを叩くと大根が出てきました」
そう言って、俺はポケットからなかなか太い大根を生み出した。普通ポケットなんかに絶対こんなの入らないよ。
「「「えええええぇぇぇぇぇ!?」」」
大根をポケットから取り出した俺に、クラスの皆は大騒ぎ。
ははは。入学式の朝に何やってんだろ俺(笑)。
「どどど、どうやって出したのそれ!?」
「おーっと。驚くにはまだ早いぞ?」
俺はトランプの束を机の上に置いて、一番上のトランプ一枚を持つ。ちなみにこの机は俺のだから安心しな(?)
「裕理さん、鳴久野さん。大根の端っこを持ってもらっていい?」
「いいけど……え?本当に何が始まるの?ていうかなんで大根なんて持って来てるの?」
「えっと……こう、ですか?」
「おっけー!」
くっくっく。どうやら大根があまりにも衝撃的過ぎて、泣き止んだようだなぁ?
今度はその驚いた顔を笑顔に変えてやるから覚悟しろ(悪い顔)。
「皆さん見てください、もう見てるみたいだけど。なんとも立派な大根でしょ?当たり前だけど包丁でもないと切れないよね。でも大丈夫。俺ってば魔法使いだからね。新しく出来た友達と遊ぶ為に持って来た、このトランプさえあれば大丈夫。RPGみたいに魔法でトランプの攻撃力を上げれば……ふんッ!」
なんかそれっぽい口上を述べながら見振り手振りをして、トランプを真っ直ぐ大根の真ん中に振り下ろした。
するとなんの抵抗もなくすり抜けたではありませんか。
「「えっ?」」
間近で見ていた鳴久野さんと裕理さんが、真っ先に反応する。
どちらからともなく大根を引っ張る……しかし、大根は真っ二つに別れない。
二人は一見トランプで切れた様に見えていたから、また困惑する。ただのすり抜けマジックなのかと思ってるだろう。
いやすり抜けでも凄いと思うけど…。
しかしここで、俺は机の上に置いておいたトランプの束を刀の鞘のように持ち、大根を切るのに使った一枚のトランプをゆっくり戻していく。
「またつまらぬ物を、切ってしまった」
そう言うと同時に、今度こそ大根が真っ二つになった。
「「「おーーー!」」」
クラスは思わず拍手を送ってくる。ははは。気持ちがいいが、少し恥ずかしいな…。
「すごっ!どうやったの!?」
「凄い凄い!不知火さんって器用なんですねっ!」
「器用?で良いのかな…」
くっくっく。笑顔になった笑顔になった……そうだ、もっと笑顔になりやがれ。
可愛い子は笑顔が一番似合う!
「いやー、どうもどうも。そうそう、裕理さん。なんで大根を持って来たのか?だったね」
「え?ああ、そうね…。あまりにコレが衝撃的だったから、その疑問が吹っ飛んでいたわ…」
「ちょっと貸してみ」
裕理さんから大根を受け取り、またトランプで今度は皮を剥いていく。
「うわー。まるで包丁みたいに。刃物でも仕込んでるの?」
「残念ながら、これ市販で売ってる至って普通のトランプなのだよ」
「すごーい!すごいすごーい!」
あまりの光景に、鳴久野さんの語彙力が死んでしまった。
まるで無邪気な子どもの様だ。可愛い(可愛い)。
皮を向いたら、裕理さんの手を出してもらって、そこに大根を輪切りにして落としていく。
「それは俺のおやつなんだよ。食べてみな?ビックリするほど美味いから。ちなみにトランプはちゃんと清潔にしてるから安心したまえ」
「えぇ…?……それじゃ、いただきます―――」
恐る恐る、裕理さんは大根を齧る。
「……ッ!?あっま!なにこれ、本当に大根!?」
「ふふん。そうだろそうだろ~?はい、鳴久野さんも手を出して」
「う、うん…」
鳴久野さんの手にも大根を落としてあげて、食べさせてあげる。するともちろん―――
「……ッ!!!甘くて美味しい~ッ!」
俺が二人に食べさせたのは、冬大根である。
前に爺ちゃんが作った冬大根を想像して創造してみました。
ああこれダジャレじゃないからな?寒がるなよ(キレ気味)
二人にもう一切れずつ渡してから、俺も大根に齧りつく。
……美味い!爺ちゃんの作った冬大根をこうして生み出せるのってマジで最強だな。
まぁマジで疲れるからそう何度も作りたいとは思わないがなHAHAHA。
「本当、さっきからビックリさせられっぱなしだわ。野球ボールを剛速球で投げたり、マジックしたり……どんな環境で育って来たのよ?」
「それはマジでそう。実は自分でもちょっと驚いてる。俺ってば、器用なんだなって」
「ボールを投げたことに関して器用で済まないと思うけど…」
「不知火さん!一体どんな種が仕込まれてるんですか?大根をポケットから出したり、トランプで切ったり」
種が仕込まれてるだなんて、こんな可愛い女の子の口から聞くとこう……おぅ。鎮まれ聖人の聖人。
一々こんなワードに反応するんじゃないよ。まるで俺がやべぇ奴みたいじゃないか。
「種だって?何を言っているんだい、鳴久野さん」
「え?」
「これはマジックなのだよ?つまり魔法さ。ていうか俺は魔法使いだと言ったではないかね」
「……ああ。種も仕掛けもございませんって奴ね」
「と、思うじゃん?通常、皆が思ってるマジックっていうのは、少なからず触れなければ成立しないのだよ。しかしだよ?私は大根やトランプには触れていたが、一切二人には触れていないよね?」
俺がそう言うと、二人は頷く。ここで俺は、また一つイメージした。
「じゃあ何故、鳴久野さんの胸ポケットに一輪の花が刺さっているのかね?」
「えっ!?」
鳴久野さんは慌てて自分の胸ポケットを見てみると、なんとそこには俺が言った通り、花が刺さっていた。
薔薇の花(トゲ無し)なのだよ。これしか思いつかなかった自分がちょっときしょい…。
「え?えーっ!いつの間にっ!?」
「だから言ったじゃないか?魔法使いだって……あ。それ鳴久野さんにあげるよ」
「……あ、ありがとう…。可愛い薔薇……大切にするね」
そう言って、鳴久野さんは可愛く目を細めながら微笑んだ。
その微笑みは、思春期男子の俺には眩し過ぎた。
「うっ!尊いっ!」
「え?」
「あーわかるわー。花音の笑顔って凄く可愛いもんね」
「おお!流石は裕理さん。鳴久野さんの友達だけあって、この気持ちがわかるのかね!」
「ええ!もちろんよ。小動物みたいで、守ってあげたくなるのよねぇ」
「なるほど!確かに庇護欲が搔き立てられる笑顔だった!」
「ちょ、やめてよ二人とも~っ!」
せっかく笑顔にしたのに、このあと鳴久野さんは拗ねてしまったのだよ。
だけど頬を膨らませながら拗ねてるから、ただ可愛いだけだったぜ(丸)
守ってあげたい系ヒロイン。
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