不思議な日常の始まり
息抜きようの新作です。完全不定期更新です。
もうすぐ高校生になるという、三月。爺ちゃんが死んだ。しかし、悲しみが湧いてこない。
別に爺ちゃんが嫌いとか、仲悪かったとかは無い。寧ろ俺は爺ちゃん子だったと思う。
爺ちゃんちはうちから二軒先の近所だし、よく遊びに行っていた。爺ちゃんといると、いつも楽しかったから。
中学に上がっても、そしてもうすぐ高校生になるって時でも、もうすぐ疎遠になるであろう友人より爺ちゃんを優先して毎日お見舞いに来ていた。
楽しいから。
というのも、爺ちゃんは昔から器用で、一枚の折り紙から竜を作ったり、プロのシェフにも負けないくらい美味い飯が作れたり、偶に目の前に雷が落ちてくる予言をしたり。
とにかく色々と器用な爺ちゃんだから、一緒にいて飽きない。
爺ちゃんは凄い人なんだな、そういう人なんだなって小さい頃から植え付けられた認識。
だから不思議に思いつつも、あまり疑問に思うことは無かった。いや、思わないようにしていた、というのが正しいか…。
「……だけど、流石にこれはないだろ…」
爺ちゃんが死んだ。もう一度言うが、悲しみが湧いてこない。正確に言うと、悲しみよりも驚きが勝ってるという感じだ。だって爺ちゃん……
「なんで仁王立ちしながら死んでんの…?」
どこぞの世紀末の王のように拳を突き上げ、仁王立ちしながら、笑って死んでいた。
――――――――――――――――――――――――
仁王立ち死にの件から数日。爺ちゃんの葬式の日。
爺ちゃんの葬式は、たぶんかなり普通からかけ離れている。
たぶん、と言ったのは、これが俺の初めて葬式だからだ。しかしそんな俺でも、これは明らかに異常だとわかる。
だって今、爺ちゃんの葬式場で―――宴が開かれてんだもん…。
飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。爺ちゃんのことをよく知らない親戚の人たちは、開いた口が塞がらない様子だ。
しかしその反面、爺ちゃんの家族や旧友、仲が良い親戚たちは、大泣きしながらも笑いながら、盛大に宴を楽しんでいた。
「宮臓!先に逝きやがってこの野郎!テメェの遺産で飲む酒なんか、酒なんか……うおーん!」
「よさねぇか。笑え!それがアイツの望みなら、叶えてやるのが俺たちの恩返しってもんじゃねぇか!?う、うぐぅ~~~…」
「ああ、宮臓さん……アンタは死んだあとも、宮臓さんで……安心して見送れるってもんさね…」
特に爺ちゃんの旧友の人たちは、爺ちゃんの遺書に従って、悲しみに暮れながらも精一杯楽しんでいる。
爺ちゃんの遺書には、こう書いてあった。
『俺の葬式では、遺産の三割を使って宴を開け!しみったれた空気は嫌いなんだ。テメェらが俺の遺産で楽しく飲み食いする姿を見たら、俺は安心して三途の川を渡れるってもんだ―――』
これが爺ちゃんの遺言。昔から爺ちゃんは破天荒が服を着たような人で、しかし誰からも好かれるような人だった。
そしてその爺ちゃんなんだが……
「はっはっはっはっはッ!いいぞぉ!食えっ!飲めっ!歌えーっ!俺の葬式はっ、こうでなくちゃなー!」
下半身が透明の状態で、供え物の酒と食い物を手に、俺の隣で騒いでます。
……はい。なぜか俺には見えています。爺ちゃんの幽霊が…。
「なんか、最近俺の周りで、不思議なことが起き過ぎてる…」
――――――――――――――――――――――――
俺の周りで不思議なことが頻発し始めたのは、爺ちゃんが死ぬ三日前のことだ。
俺は毎日爺ちゃんのお見舞いに行っている。そのお見舞いに行く前に、爺ちゃんが毎日やっていた、神社への参拝を代わりに行っていた。
今鳥居を潜ったところだ。
これは爺ちゃんから頼まれたことで、毎日五円玉を山の近くにある小さな神社に賽銭して、二礼二拍手一礼を行う簡単なもの。
この為だけに、爺ちゃんは五円玉を大量に貯金している。一体毎日、何をお祈りしていたのか…。
だけどこれ、地味に面倒くさい…。爺ちゃんが入院してる病院と神社の場所は反対なんだ。
参拝に来たら、軽く一時間は歩く距離だ。自転車?なにそれ美味しいの?
乗れねぇんだよ。事故が怖くて。
いや運転することは出来るぞ?でも小学生の頃に習った、自転車事故が怖くて乗れなくなった。
子どもの俺が人を轢いた時に親が伴う、責任が怖くてな…。
「だったら徒歩で我慢する…」
そう呟きながら、俺は五円玉を神社に投げ入れた。
そして大きな鈴をガランガラン鳴らして、二礼二拍手一礼をする。これを爺ちゃんが入院してから、二ヶ月くらい続けている。
爺ちゃんの頼みじゃなかったら、三日坊主で終わっていた自信がある。
「さて、今回も無事終わりと……病院行こ」
―――リーン…。
神社に背を向けると同時に、綺麗な鈴の音が聞こえた。
気になって周りを見渡す。だけど……何も無かった。誰もいなかった。
「……気のせいか?」
そう思ったが、すぐにそれは違うと気付かされた。
―――リーン…。
また鈴の音が聞こえた。不思議に思い、近くに鈴が落ちてないか探してみるが、やはり鈴らしき物は見付からない。
怪奇現象か何かか?と思ったら――
―――リーン……リーン……リーン。
連続して鈴の音が聞こえる。
段々と鈴の音が大きくなっていき、近寄って来ている気がした。
俺は怖くなり、思わず振り返って走りだそうとすると――
「あのー?」
振り返ったら目の前に、女の人がいた。
「ぎゃーーーーーーーーッ!?!?!?巨乳美少女のお化けーーー!?」
「え!お化けぇ!?どこ!どこですかっ!?」
「ぎゃーーー!?」
「きゃーーー!?」
「ぎゃーーー!?」
「きゃーーー!?」
この後、互いに落ち着くまで五分も二人して騒いだ。
――――――――――――――――――――――――
「すんませんした。鈴の音が不気味で不安になり、お化けかと勘違いしました…」
「い、いえ。気にしないでください。その……美少女と言われたのは、嬉しかったので…。巨乳は余計でしたけど」
「いやマジすんません。素直な性格なもんで」
「素直過ぎな気がします…」
お互いが落ち着いて、ただいま彼女の家の畳の部屋で正座で向かい合っていた。
この人はこの神社に住んでいて、次期宮司として働く巫女で、仙孤さんというらしい。
宮司っていうのは神社の責任者のことだそうだ。つまりこの神社の後継ぎだな。
なぜか年齢まで教えてくれて、22歳だそうだ。胸以外は高校生に見えるぜ。
……マジでなんで年齢を教えてくれたんだろ…。
鈴の音の正体は、この人が付けている簪に付いている小さな鈴だったようだ。
だけどなんで最初の音の時に、この人の存在に気付けなかったんだろ?影薄いのかな、仙孤さんって。
「それにしてもすみません、怖がらせてしまって。その様なつもりはなく、ただ様子がおかしかったので心配で…」
「ああ、はい。そのお気持ちはとてもありがたかったので、気にしないでください。こうしてお茶も頂けたことですし」
なぜ仙孤さんの家に入れられたのかというと、怖がらせたお詫びに、ということだ。
マジでさっきは生きた心地がしなかった…。俺はホラー系がとにかく苦手だからな。振り返った瞬間に人がいたら、相手が巨乳美女でもビビりまくるくらいには…。
「そういえば不知火さんは、ここ最近ずっと神社に参拝しにいらっしゃいますよね?どなたか好きな方でもいらっしゃるのですか」
あ。向こうは俺のこと知ってたのね。
そりゃそうか。窓から俺の姿を見ることもあるだろうからな…。
「好きな人?なんでそうなるんですか」
「え?だってここは縁結びの神様が住まう神社ですし、ここに参拝に来る方は皆さん、想い人と繋がりたいという方が多いのですよ。……まさか、そうとは知らずに…」
……仙孤さんの言う通り、俺は何も知らずに毎日参拝しに来ていた。
この神社、縁結びの神様が住んでんのか…。
「俺は入院中の爺ちゃんに頼まれて、参拝しに来てるだけですよ」
「お爺様……もしかして片目に傷痕がある、白髪を尖らせている方ですか?」
「ああ、そうそう。ツンツン頭の爺ちゃんっす」
やっぱり爺ちゃんのことも知っていたのか。
「それで五十五日間も、毎日参拝しにいらしてたんですね。宮臓お爺様の代わりに」
「俺が参拝に来た回数、数えてたんですか…。あれ?爺ちゃんとは知り合いなんですか」
「はい。小さい頃、よく一緒に遊んでくれたんですよ」
へぇー。てことは爺ちゃん、今の宮司とも知り合いなのかな?
爺ちゃん子ども好きだからなー。さぞ良くしてもらったことだろう。
「そういえば、他に家の人は?」
「現宮司である父は、只今他の神社のお手伝いに行っております。母はママ友の方々とお泊り会を」
「あー。じゃあ今この場には……」
「はい。私だけですね。他に住み込みで働いてる方もいませんので」
なるほど。つまり二人っきり……巨乳美女と、二人きり…。
並みの中学生であれば、この状況に興奮しない訳がないよな。卒業したとはいえ、四月になっていないので俺もまだ中学生扱い。
まだ色々な妄想が膨らむ歳だ。
たとえば、このまま毎日通ったらこの人に片想いするとか。だけどこの人には婚約者がいて、それは叶わぬ恋だと打ちひしがれるところまで妄想出来る。
うわぁ…。悲しい片想いだな~。未来の俺かわいそ。
「ぶふっ!」
「? どうしました?」
「い、いえ……なんでもありません…」
「???」
――――――――――――――――――――――――
仙孤さんと爺ちゃんについて小一時間ほど話して、神社から出る。
もう少し爺ちゃんについて話し合いたかったけど、爺ちゃんももう長くない。そろそろお暇することにした。
「それでは、また明日。宮臓様によろしくお伝えください」
「はい。お茶、ご馳走さまでした」
「明日はおいなりもお出ししますね」
「お、お構いなく…」
そこまでされるとつい甘えたくなって、その内マジで恋に落ちそうだ…。
ママみという性癖は俺には早すぎる…。
「ふふっ」
「?」
まただ。この人、急に笑い出すんだよな。
昨日のお笑いでも思い出してるんだろうか。
「なんでもありません。それでは、道中お気を付けて」
「はい。それでは、また明日」
「はい。また明日」
そう言って、俺は歩き出す。
なんか自然にまた明日会う約束してしまったが、まぁあんな巨乳美女と仲良くなれるというのは男として素直に嬉しい。
たぶん俺が胸を見ていたことに気付いていただろうに、全く気にせず接してくれる、天使のような人だったな…。思春期の男の子の気持ちを理解してくれる女性って、いいよねっ。
なんかこの時点でママみを感じてしまう。
「にしても、ここから病院に行くのは面倒だな~…」
俺は徐々に迫る鳥居を見上げながら呟く。
一時間も歩くとか、慣れはしてもやはり面倒だ…。
はぁ~…。この鳥居を潜る度に思うけど……
「この鳥居を潜った瞬間に、病院の前に着いてねぇかな~……なんて…」
そう呟きながら、鳥居を潜る―――瞬間、景色が一変した。
「―――――はっ?」
目の前に、爺ちゃんが入院している病院が現れた。
しばらく啞然として、後ろを振り返ると―――そこに神社はなく、目に映ったのは病院の駐車場だった。
――――――――――――――――――――――――
「ふふふふふっ。あんな面白い男の子、宮臓ちゃん以来ですね~」
しかも素直で、とてもいい子。自分の欲に忠実な割に、別に淫らな妄想をする訳でもない。本当に中学卒業したてなのでしょうか。
私の胸を凄い見てたけど、それは男の子として当たり前のこと。見ちゃいますよね~、こんな立派なお胸。なにせG寄りのFですからね!自慢の胸です!
だからといって、ただのいやらしい視線は全力嫌悪ですが。不知火ちゃんは別です。いっそ清々しくて逆に気持ちいいくらい。
「今頃、どんな顔して病院の前にいるのでしょうねぇ~。不知火聖人ちゃんは。うっふふふふふ―――」
―――その日、神社では不気味で、しかし妖麗な笑い声が延々と響き渡っていたという。
「その力。存分に、正しく、気持ち良く扱ってくださいね。不知火ちゃん」
え?仙孤さんはヒロインなのか、ですって?
……どうしようかな…(無計画)
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次は『俺が銀髪美少女に幸せにされるまで』を投稿します。
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