5.魔王城にて
転移魔法の光に包まれたリアムが目を開けるとそこは広い部屋の中だった。
とても豪華な作りになっていて置かれている机や椅子なんかも高級感が漂っていた。
「この部屋は?」
「私が使っていた部屋だ。見た感じ、私がいない間もしっかり掃除してくれてたみたいだな」
「魔王城の中に転移したんですね」
「ああ、ここが一番イメージしやすかったからな」
ディオネが部屋を使っていたのは千年前だが、部屋には埃一つなく綺麗に手入れされていた。
千年間欠かさず掃除していたか、誰か新しい人が使っていたのだろう。
そんなことを考えていると部屋の扉が開いた。
魔人族の男が部屋に入ってくる。
「貴様ら、何者だ。どうやってこの部屋に入った」
男は腰に刺している剣に手をかけ、こちらを警戒している。
その様子は明らかに歓迎しているようには見えなかった。
「私はディオネだ。転移魔法でここに飛んできた。すまないがリリードはいるか? すぐ呼んできて欲しいのだが」
「ディオネだと……」
そう言うと男はリアムへと視線を移した。
「魔人王様の名を語るなど不届きなやつだ。ディオネ様が復活に使われる召喚魔法の陣は発動していないのだぞ。それに見たところそっちの男は人間だろ。気高き魔人王様が人間ごときと一緒におられるはずがないだろ」
「そう言われても私は本物の魔人王だよ。そしてこの男は私を復活させた恩人だ。無礼な振る舞いはやめろ。とにかくリリードを呼んでくれればわかるから。はやくしてくれ」
「そんなことが信じられるか。だがリリード様は呼んできてやろう。ーー貴様らを拘束した後でな!」
その瞬間、男は剣を抜きリアムへと切りかかろうとした。
しかし、その切っ先がリアムへと届くことはなかった。
男が剣を抜き一歩前へ進んだ瞬間。ーーディオネが男の剣を奪い取り男を地面へと組み伏せた。
地面に倒れ込んだ男はなにが起こったのか理解が遅れていた。
そしてディオネは奪い取った剣をまだ呆けている男の眼前に突き立てる。
「言ったはずだぞ…… 私の恩人に無礼な振る舞いはやめろと」
ディオネは鋭い眼差しで男を見下ろしていた。
「面倒だ、このままリリードがいる場所を教えろ。自分たちで探しにーー いや、その必要はないようだな」
ディオネがそう言い終わると同時に扉が開き一人の男が入ってきた。
「一体何事ですか」
入ってきたのは執事服を身にまとい、黒色の長髪を後ろでまとめた人間でいうと五十歳前後の渋い雰囲気の男だった。
部屋に入るという所作だけでも、その男ができる執事だと言うことがわかった。
そんな男がディオネの顔を見た瞬間、動揺を感じさせた。
「まさか、ディオネ様でいらっしゃいますか…」
「ああ、そうだ。久しぶりだな、リリード。まあ少し話があるんだ」
「伺います」
リリードはすぐに落ち着きを取り戻しディオネに対して返答をしていた。絶対的な忠誠心を感じさせるやりとりだった。
その後ディオネとリアムは復活の経緯などこれまでのことをリリードに話した。
「お話はわかりました。ディオネ様が復活なされて嬉しく思います。そしてリアム様。我が主人を復活させていただきありがとうございます」
「いえ、自分は大したことはしていないので。リリードさんはディオネの執事なんですね」
「左様でございます。ディオネ様が留守にされていたこの千年の間は、執事長を務めさせていただきました」
「この城の使用人のまとめ役ってことか。ならさっきの男の処遇はお前に任せるよ」
「恐れ入ります」
「あとはリアムがしばらくここで暮らすからその手配と、会議の準備も頼む。さっきみたいなことが無いように私が復活したこととリアムのことを知らせておく必要があるから」
「かしこまりました」
リリードは部屋に別の使用人を呼び指示を出した。
「一時間後には会議を始められると思います。それまでお二人はごゆっくりなさってください。部屋の前に使用人を置いておきますので、何かあればお申し付けください。それでは失礼いたします」
リリードが準備に向かい、リアムとディオネは部屋で待つことになった。
ただ、ゆっくりしてくれと言われてもリアムはどうにも落ち着かなかった。
「どうした、そんなにそわそわして」
「いや、こんなすごい部屋だと落ち着かないよ。それに魔人たちが外に大勢いるって考えると余計にね」
「まあ、そこはおいおい慣れてくれればいいさ」
「ところでさっきのリリードって人、ディオネに仕えてたってことは千年前から生きてるんでしょ。魔人族がそんなに長生きするなんて初めて知ったよ」
「普通の魔人族はそんなに長い間生きないよ。寿命は人間とさして変わらない。リリードは特別なんだよ」
「特別?どういう意味ですか?」
「リリードは原初の魔人なんだよ。言葉の通り最初に存在した魔人族のことだ。他にも何人かいるんだがそこから魔人族は始まったんだよ。原初の魔人たちは特別で未だに生きているんだ。あと言うまでも無いが私も原初の魔人の一人だ」
「原初の魔人…… じゃあディオネは魔人王だし、その中でも一番強かったの?」
この質問にディオネは困ったような笑顔を浮かべた。
「そうだ。ーーと、言いたいんだが私は二番目だったよ」
「ディオネより強い人がいたのか」
「ああ、私の一番の友だった女だ。だがそいつは自分には魔人王なんて似合わないからお前がやれと言われてな。『弱者は強者の言うことを聞くものだぞ』なんて笑いながら言って私に押し付けてきやがった。いい迷惑だったよ」
「その人に会ってみたいな」
リアムが何気なく口にした言葉だったが、ディオネはまたも苦笑いのような笑みを浮かべた。
「私も会わせてやりたかったけど、残念だがそいつは死んでしまったよ」
リアムは失言をしたと思い謝ろうとしたがそれをディオネが制止した。
「気にすることはない」
そう言ったディオネの顔は少し寂しそうだった。
気まずい沈黙が少し流れたが、扉がノックされた。
「失礼いたします。会議の準備が整いました」
「わかった。それじゃあ行こうか」
こうしてリアムたちは会議の場へと足を運んだ。
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