3.魔人王
「なんで魔人王なんかが俺の召喚に応じたんだ? というか、お前は本当に魔人王なのか?」
目の前に魔人王と名乗る者がいる。
しかもそいつは自分が召喚した。
リアムは急に起こったことに動揺を隠しきれなかった。
激しく動揺していたがゆえに、わかりきったことまで質問してしまった。
目の前の美少女が纏う雰囲気。オーラ。先ほど見せた恐ろしい強さ。
いずれをとっても魔人王だからと言われてしまえば納得せざるを得ない。
本当はリアム自身も彼女が魔人王であると直感で理解していた。
そして、理解すると同時に心の奥底では怯えていた。
「正真正銘の魔人王である。まあそう怯えるな。別にお前のことを取って喰おうなどとは思っておらん。安心せい」
リアムは自分の中の怯えを感じ取られたことを恥ずかしく思ったが、《安心してくれ》という言葉に込められた優しさを感じ取り落ち着きを取り戻した。
落ち着きを取り戻したが完全に信用したわけではなかった。
(とりあえず、色々話を聞いてみるとするか…… 彼女にも事情があるみたいだし)
「ええっと…… ディオネさんでしたっけ。なんであなたは俺の召喚魔法に応じて召喚されたんですか?」
「私は本来は魔王城に仕込んであった召喚魔法に呼応して目覚める手はずだった。ただどういうわけかリアムの召喚魔法と酷似していたみたいでな。今までリアムが召喚魔法を使うたびに呼ばれて、それは拒否していたんだが、今回は全力で魔力を込めていただろ? だから逆らうことができなかったのだ」
「なるほど…… ほかにも気になることはあるけど一つ聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
リアムは震える喉からなんとか言葉を絞り出す。
「あなたは千年前に人間を滅ぼすために勇者と戦った。--復活した今、また人間を滅ぼすために戦いを起こすつもりですか?」
リアムの言葉を聞いてディオネは眉をひそめた。
ディオネが次に発する言葉を予想して、身を固くする。
だが、その口から放たれた言葉は予想とは全く違う言葉だった。
「私は勇者と戦ってもいなければ、人間を滅ぼそうとしたこともないぞ」
「え…… でもあなたは勇者と戦って消滅したと俺たちには伝えられていますよ」
「千年もあったんだ。伝承が少しづつ変化していったんだろう。お前たちに伝わっている話も真実に似てはいるからな」
「というと?」
「勇者と戦って消滅したのではなく、勇者とともに戦って消滅したのだ」
ディオネの言葉を聞いてリアムは自分の耳を疑った。
「勇者と魔人王がともに戦った!? 人間を滅ぼそうとはしてなかった…… 魔人族が人間と協力したなんて信じられない」
リアムはディオネが言ったことをとても信じることはできなかった。
だが、自身が口にした言葉を思い返してあることに気がつく。
ともに戦ったということは敵がいたということ。
人間と魔人族の共通の敵。
そしてその敵は……
「--あなたと勇者が手を組んで戦わなければならないほど強大な敵がいたということですか……?」
「よく気が付いたな。そうだ。やつらはヴァンパイア。当時、勇者が討伐に動いていたんだ。ヴァンパイアどもは我らの領地でも怪しげな動きを見せていてな。そこで勇者に助力して奴らを倒そうとしたんだ」
「それでヴァンパイアを倒すことはできたんですか?」
「ああ。勇者と協力することで何とか倒すことはできた。ただ奴らは想像していたより強くてな。私は戦いの中で深い傷を負ってしまった。魔力もほとんど使い果たしてしまっていたから傷も治せず、あのまま生きることは不可能だった」
「だから眠りについて回復に専念することにしたんですね」
ディオネは静かに一言だけ「そうだ」と言った。
そしてさっきまでの真剣な目つきとは打って変わって朗らかな顔つきになった。
「さて、私は魔王城に帰るつもりだが、お前はどうする? 私と一緒に来るか?」
「俺が魔王城に一緒にですか?」
「ああ。曲がりなりにも私を呼び出した男だしな。歓迎するぞ」
リアムはどうするべきか迷っていた。
おそらくアルベルトたちは自分のことを死んだと思っている。
それに王国に戻ったとしても魔人王を復活させてしまったことがバレてしまえば、例えディオネが敵対していないとしても処刑される可能性が高いだろう。
それなら王国に戻らずディオネについて行った方がいいのでは無いか……
それにリアムにはやらなければならないことがあった。
「ディオネさん」
「ディオネでいいぞ。それに敬語じゃなくていい」
「ああ、じゃあディオネ。俺が魔王城について行って、また王国に戻ることはできるか?」
「できるぞ。その様子だと王国ですべきことでもあるのか?」
ディオネはリアムの様子を見て意図を汲んでくれた。
「話が早くて助かるよ。いずれ王国には戻らないといけない。でも今戻っても多分魔人王を復活させた責任を取らされて処刑されるだけだと思う」
「リアムも大変なんだな」
「元々大変だったけどディオネのおかげでもっと大変になったよ」
リアムの軽口にディオネは一瞬、頬を膨らませてムスッとしたがまたすぐに真面目な顔に戻った。
「まあ戻らなければいけない理由は後で聞くとして…… 王国に今すぐ戻れないのなら尚更私と一緒に来た方がいいんじゃないか?」
「まあそうなんだけど…… というか人間が魔王城に行っても大丈夫なのか?」
「その点は安心してくれ。私の客人として丁重に扱わせてもらうよ」
ディオネは可愛らしい笑顔で任せてくれと言わんばかりに右手で自分の胸を叩いた。
「んー。それならお願いしようかな」
「よし、そうこなくては! それじゃあ早速行くとしようか!」
「行くってどうやってですか?」
「転移魔法を使う。魔王城の位置を確認するからちょっと待ってくれ」
なんだか随分嬉しそうだな。
しゃべり方が最初の方は威厳を感じるものだったのに、若干崩れてきてる気がする。
表情も整いすぎていて近寄りがたい雰囲気すら放っていたのに、今は人懐っこい笑顔を浮かべている。
さっきまでより数段魅力的に見える。
これが彼女の素なのかもしれないな。
そんなことを考えているうちにディオネが準備が終わらせていた。
「よし、魔王城を見つけた。転移するぞ」
ディオネがそう言うと同時にリアムとディオネは光に包まれ、魔王城へと一瞬で移動した。
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