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作者: 秋本 翔

夏が来た。

僕はこの時期になると昔の事を思い出す。


僕の、甘くてすっぱくて、少し苦い、夏の思い出。



「またそんなとこで寝てる!夏だからって風邪ひいちゃうよ?」

「大丈夫だよ、僕は風邪をひかない」

幼なじみの親切な忠告を聞き流し、空をぼんやりとながめる。

これ以上何言っても無駄だと悟った幼なじみは寝転がっている僕の横に座り、同じように空を見上げる。


「なんだかこういうのいいね」

「……そうだね」

「また、来ようね」

「うん…」


その短い会話以降、二人はしばらく話すことなくただ空をながめていた。


話す事柄がないというわけではない。

お互いよく知った間柄だし、この時間がひどく心地よかった。


どれくらいの時間が経っただろうか、いつの間にか空は少し赤く染まり、買い物袋を持った人や、ボールを持ってはしゃぎながら走り去る少年達、はたまた仕事帰りの疲れた顔をした人が前の道を通って行く。


「そろそろ帰る?」

「……うん」

僕は上半身を起こし、のびをして一つあくびをした。

幼なじみはそんな僕をみて、猫みたいと笑った。

その笑った顔は楽しそうで幸せそうで、可愛いと思った。

笑顔につられて僕も笑う。


僕達は同じ道を笑いながら帰った。



ある夏の日。

その日はいつも以上に暑かった。


「え……?」

突然突きつけられた事に驚きを隠せない。

「だからね……あの子は、もう居ないの……」

居ない……?

居ないってどういうことだ?

いや、どういうことかはわかってる。

けど信じたくなかった。

だって、あいつは……


こんなにも綺麗な顔で眠ってるから……


今にも目を開けて、「おはよう!」ってあのいつもみたいに明るくて見慣れた笑顔で言いそうなのに。


「なあ、起きろよ……いつもはお前が僕を起こしてるのにさ……」

言葉が続かなかった。

いつまでも寝たままの幼なじみの顔に雫がこぼれ落ちた。

無意識のうちにに僕は泣いていた。


今までせき止められていた感情が、涙と一緒に溢れだして、止まらなかった。

僕はわき目もふらず、泣いた。



死因は交通事故だったらしい。

信号無視の車に轢かれて彼女は死んだ。


今思えば彼女が僕の初恋だったんだろう。

忘れたくなくても時間とともに少しずつ薄れてく彼女との記憶。

それでも忘れない、彼女の笑顔。

「またね、彩夏……」

思い浮かべて呟く、大好きだった人の名前。



終わってもまためぐりくる夏の季節。


空が、笑った気がした。


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