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片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~  作者: 佐賀崎しげる
第三章

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第96話 片田舎のおっさん、考え込む

「――総員、傾聴」


 翌日の騎士団庁舎。

 アリューシアの凛とした声が広場に響く。この光景ももう見慣れたもんだな。

 ただ、その声には凛々しさこそ感じれど、昨日までのような覇気というか、力強さは若干鳴りを潜めているようにも感じた。


 なんだろう。見る限り体調が悪い、というわけではなさそうだ。となると、何かのっぴきならない事情が生まれたと見るべきだろうか。


「まず結論を述べる。グレン王子の御遊覧だが、本来の予定通り続行となった」

「えっ」


 マジで?

 思わず声が漏れ出てしまった。話を聞いていた騎士たちもざわついている。


 昨日、王子と王女を王宮まで護衛した後、アリューシアやガトガを含めて会議が行われたはずである。

 俺はその後すぐに帰っちゃったから、実際にどういう話し合いが行われたのかまでは知らない。

 しかし、事前の予測では十中八九中止だったはず。何がどうなって続行の結論に至ったのか。


「昨日の事件は皆も知っての通りだ。各員、一層の警戒をもって任務に当たってほしい」

「はっ!」


 騎士たちの返事は初日から変わらず力強い。

 あんな襲撃があって護衛対象が怪我を負いました、あるいは殺されました、なんてなってしまったら、それは即ちレベリオ騎士団の力不足だからである。

 皆それぞれが騎士団に誇りを持っているからこそ、襲撃なぞに負けるわけにはいかない。そういう思いが、返答の力強さから感じられる。


 それ自体は良いことだろう。皆が仕事に対して、やりがいと誇りを感じているということだ。

 しかし、彼らは腕も立つが頭もいい。ただ腕っぷしが強いだけで騎士にはなれないのだ。そうなると、どうしてこんな判断になってしまったのか、という疑問が頭に浮かぶのも尤もではある。


 皆の士気は高い。

 しかし、そこに疑問がないかと問われるとちょっと難しい。

 そんな空気であった。


「では、移動開始!」


 若干のざわつきはあったが、アリューシアの声で場が整う。それと同時に、いつも通り騎士たちが移動を開始した。


「……アリューシア」


 思わず声を掛けてしまったのは、どうしても事情を知りたいという心情からだろうか。

 ルーシーから昨日、スフェンドヤードバニアについてのあれやこれやを聞いている分、余計に今回の判断が気にかかってしまった。


「グレン王子たっての希望です。……今は、これ以上は」

「そうか……分かった」


 どうやら彼女も、これ以上を話すつもりは今はないらしい。分かったのは、この御遊覧がグレン王子たっての希望で続行されたということのみ。


 どういう理由でその意思が固いのか、少し考えてみる。

 第三者的に見れば、命を狙われているというこの現状、イベントを継続させる理由はない。如何に国事とはいえ、誰だってイベントの成否よりも己の命の方が大事だからだ。それが一般市民一人二人、ならともかく、王族となれば余計にである。


 つまり、今回のイベント継続は言ってみればグレン王子の我が儘だ。

 それに付き合わされるサラキア王女の心中も如何程かという話にはなってくるが、そこはまあ俺たちが頑張るしかない。王族に被害が出ないように努めるのが騎士団の役目でもある。


 で、だ。

 グレン王子がこの御遊覧を是が非でも継続させたい理由。俺程度の知識と頭では碌な答えは出てこないが、やはり昨日のルーシーの言葉が気にかかる。


 即ち、グレン王子の王位継承が近い、という予測だ。


 王子の御遊覧は数日間を予定されているが、俺たちレベリオ騎士団が護衛に付くのは日程の最終日前日まで。

 最後の日は、騎士団の護衛を必要とする場面に居ない。より端的に言えば、外に出ない。その日のスケジュールはすべて王宮内で片付けられるものとなっている。


 具体的にどういう予定が入っているのかまでは知らない。

 知らないが、国政に関わる何事かが来訪の締めとして予定されている、と考えると、ルーシーの推測と辻褄が合う。そして、グレン王子が強行する理由も無理やりだが繋がる。


 と言うか、こういう繋げ方以外俺には思いつかない。

 まさか、サラキア王女に最後まで良い格好を見せたい、なんて俗な理由じゃないだろう。そんな理由であれば、周りの誰かが止めているはず。

 あの王子が暗愚とは思えなかった。多少若いところは見え隠れすれど、周囲を慮る心も持ち合わせているはず。


 であれば、その理由は私情とは離れたところで見出すべきだ。

 つまりは、国の運営に関わる事情である。


 あーやだやだ。無論、護衛任務を任された以上は全うするつもりではあるが、上の考えていることってのは、やっぱりよく分からんね。

 俺なら尻尾巻いて母国に帰っているところだ。繰り返しになるが、普通は誰だって命が惜しい。狙われていると分かっているのなら、わざわざ身を危険に晒すこともない。


 ……いや、待てよ。

 俺やルーシーの予測通りにいけば、国に帰っても狙われるのか。

 逆にレベリオ騎士団も護衛に付いている今の状態の方が、総合的な危険度は減る、のか?


 うーん、しかしどうだろう。

 俺の考えの前提は、グレン王子が狙われている、という一点にある。これがもし、サラキア王女側が狙われていて、それでもなおグレン王子が御遊覧の続行を希望している、となると話が変わってくるな。


 駄目だ、よく分からん。どれが正解なのかも分からない。

 やっぱり俺なんかが頭回してても駄目だな。ここは素直に命令を遂行することだけを考えよう。


「先生?」

「――ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていた」


 ああでもないこうでもない、と考えに耽っているところ、アリューシアの声で我に返る。

 いかんな、ない頭で考え込んでしまうのは悪い癖だ。こんなおっさんが脳みそを回しても大勢に影響はないし、切り替えていこう。


「さて、今日はどうなることかね……」

「何事もなく過ぎ去るのが最良です。たとえ何かが起きても、我々がそれを堰き止めなければなりませんが」

「仰る通りで」


 そうだよなあ。

 あんな事件があった後だ、何事もなく御遊覧が終われば御の字。それ以上は望むべくもない。

 何かが起こってしまえば、それはもう俺たちが何とかしなければいけないわけで。で、その何事かが起きる可能性は、事前の予測で言えば極めて高い。


「頼むから、これ以上の面倒事は勘弁してほしいもんだ」


 地上の出来事なんぞ露知らず、といった感じに、今日もまったく良い天気である。

 雲一つ見当たらない晴天から、何事もなければさぞ素晴らしい一日になるだろうってくらいの陽射しが降り注ぐ。


 そんな俺の呟きも、晴れ上がった空に溶けて消えていった。



「では、本日もよろしくお願いしますね」

「はっ」


 場所は変わって王宮前。

 昨日と同じようにサラキア王女とグレン王子を出迎え、警備に付く。ただ一つ違うとすれば、王子や王女の表情が先日に比べるとやや浮かないところだろうか。


 まあ、自分の命が狙われているとはっきりした状況で呑気に笑っていられるほど、彼らも間抜けではないということだろう。その緊張の理由は俺でも十分理解できる。

 ただ、本当にびびっているのなら素直に遊覧の予定を崩せばいいのに、とも思う。


「ガーデナント」

「ん? ああ、ガトガさん」


 今日からは、俺も外での警備だ。馬車の中でのんびり、とはいかなくなった。

 ずっと座っているよりは歩いた方が健康にもいいか、なんて少し場違いなことを考えていたところ、ガトガから声がかかる。

 その表情は、王子や王女に比べても分かりやすく変化していた。


「少し、耳に入れておきたいことがある」

「……?」


 声は小さい。みだりに外部に聞こえ漏れないように、ということなのだろうが、それなら話す場所をもうちょっと考えてほしいとも思った。

 とはいえ、俺とガトガが出会う場所はここ以外にないわけで、そう考えると仕方がないことでもあるのだが。


「昨日の襲撃……恐らくだが、下手人は俺らの元身内だ」

「……ふむ。それは、ヒンニス、という方のことで?」

「そうだ。ロゼの前に副団長だった男だ」


 ガトガが昨日呟いた言葉は、どうやら俺の予測と違わないらしい。

 しかし、教会騎士団の元副団長が王族狙いの犯人候補とは、世の中どうなっているのやら。ただ、ここでガトガを詰問してもあまり意味はない。合わせて言えば、ここで犯人の名前が分かっても、警備にもあまり意味がない。


「やつが出たら、俺が責任をもって仕留める。……それを伝えておこうと思ってな」

「……分かりました」


 騎士としてのプライドとか、体裁とか、まあ色々とあるんだろう。俺には縁のない立場だが、彼の言い分は理解は出来る。


「それは、アリューシアも?」

「ああ、知っている。昨日話した」


 確認を取ってみれば、どうやらアリューシアにも既に情報は行き渡った後らしい。

 ふーむ。それなら、俺がどうこう口を挟むものでもないか。アリューシアとガトガ、それぞれの騎士団長がそれを是とするのなら、俺としては従うまでである。

 身内の不出来を自身の手で始末をつけたい、という気持ちも分からんでもないしね。


 そうこう話している間にも、グレン王子とサラキア王女が馬車に乗り込み、いざ出発といった様相であった。

 さて、ガトガ側の事情は分かったが、さりとて油断が出来るわけでもない。どこから何が飛び出してくるかも分からんのだ。気合を入れていこう。

コミカライズ版第1巻、大好評発売中です。

お手に取って頂いた皆さん、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
教会騎士団の元副隊長なら教皇の為に動いても不思議はないかも。王子も立太子する前にここでの婚約とかするんじゃないか?
[良い点] ごめんなさい 舐めてました ☆4くらいかな? とか思っていました。 文句なく☆5です。化けましたね・・・  [気になる点] 現状 皆無
[気になる点] 『イベント継続は王子の我儘』だとベリルは考えていますが、レベリス王国の国王が承認しているからこそ継続しているはずです。 何故ならば、自国内で他国の王族が害されたとなれば、それはレベリス…
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