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第7話 片田舎のおっさん、思い出す

「ひ、人違いでは?」

「い、いや! 見間違うはずもない!」


 いきなり先生呼ばわりされて戸惑う俺から出来たのは、人違いではないかという問い掛け。しかしリサンデラは食い下がり、俺の元へと駆け寄ってくる。


 どうしよう。マジで記憶にない。

 先生と呼ぶからには彼女も誰かに師事していたのだろうが、俺にはこんな見目の活気溢れる女性に剣を教えた記憶はないのである。

 多分いやきっと人違いだろう。ベリルなんて名前そこそこありふれているし、どっかの誰かさんと勘違いしているんだな。


 ていうかブラックランクの最上位冒険者に間近で絡まれるプレッシャーがヤバい。顔が近い。下手したら腰ぬかしそうである。


「すまないが、君のような女性に心当たりがないんだ」

「ま、まさか……覚えていらっしゃらないのか……?」


 迷いと困惑に、絶望に近い色を加えた赤熱の瞳が俺を射抜く。

 いやそんな顔されても困る。記憶にないものはないのだ。


「……もう二十年も経っているからな……いや、しかし!」


 がっくりと肩を落としたリサンデラが零す。

 二十年……随分と昔だ。俺もまだ師範として道場に立ち始めた直後くらいだな。

 ということは、彼女は随分と前に誰かに師事していたことになる。あの頃は俺も教えるという立場に必死だったからなあ。


 そんなことを考えているとリサンデラは俺の肩をがっしと掴み、声量は控えめながら必死の形相で俺に語り掛けてきた。


「先生、私です。スレナ・リサンデラです。遠い昔に身を窶した幼子を拾い上げ、剣を教えた記憶はありませんか」

「んん……?」


 身を窶した幼子……? スレナ……?


「あっ」


 もしかして。



 あれは確かに言う通り、二十年近く昔。

 ある日俺は見回りがてら村の周囲を回っていたところ、体中に怪我をこさえ、足を引きずりながら村にたどり着いた小さな子を発見した。


 周囲に大人の人影は見えず、子供一人だけ。

 ただ事ではないとその子を保護したまではいいものの、引き取り手の連絡先なども終ぞ分からず、一時うちで養っていたことがある。


 俺の道場はおやじ殿の代からそこそこの門下生は居たし、それなりの生活は出来ていたから、子供一人を養うくらいは問題なかった。

 まさか子供一人放り投げるわけにもいかず、また俺に子供が居なかったことから両親も面倒見よくその子を可愛がっていた。


 多分、商人か旅人か、そういう類の子だったのだろう。

 怪我の様子から喧嘩などで起きたものではなく、モンスターか野生の動物に襲われたものだという察しは付いた。


 このご時世、そしてこんな田舎とあれば頻発するとまでは言わずとも、そこまで珍しいことでもなかったのだ。


 しばらくはずっとふさぎ込んでいたから、気分転換になればと道場の子供たちに混ぜて剣を教えたりしていたな。当時の彼女はそれはもう大人しく、名前を聞いてもただ一言、スレナとしか返ってこなかったくらいである。


 だが、剣に関しては彼女の興味を惹いたようで、俺の指導を忠実に守って愚直にこなしていたことを覚えている。

 俺としても本気で鍛えるつもりはなかったのだが、両親を亡くし、身よりもないとあっては他に打ち込むこともなかったのだろう。過去の悲しみを振り切るように熱心に取り組む姿には俺も目頭が熱くなったものだ。


 うちで預かっていたのは三年程だったか。

 おやじ殿が首都に赴いた時にそういう機関と話もしていたから、養子として引き取り手が付いた後は元気で暮らしていることを祈っていたのだが。


 アリューシアがうちの道場に通い始める時よりも随分と昔の出来事だ。



「もしかして……あのスレナかい?」

「! そうです! 貴方に拾われ、剣を教えてもらったスレナです!」


 俺がそう告げると、彼女はぱあっと表情を明るいものに変えて元気よく答える。

 マジでか。世の中何がどう繋がってるのか分かったもんじゃないな。


「いや、見違えたよ。こっちに来てからアリューシア含め何人か弟子にも会ったが、その中でもいっとう見違えた」


 てっきり首都で慎ましく暮らしているのかと思ったら、まさか世界を股にかける冒険者になっていたとは。おじさんびっくり。

 それに当時は本当に大人しくて、庭先で花を愛でているのが似合う少女だったのに、こんな獅子もかくやといった容貌になっていることも驚きに輪をかけている。


「報せに行きたかったのですが、冒険者として動き始めてから中々その機会に恵まれず……思いがけぬ再会でした」

「そう気にしなくてもいい。元気な姿を見れて俺も嬉しいよ」


 眼前の女性から来るプレッシャーは健在なものの、中身があのスレナだと分かれば精神的に余裕も出てくるというもの。

 ところでいい加減その掴んだ肩を離してくれませんかね。


「しかし、先生は何故バルトレーンへ?」

「ああ、それは――」

「リサンデラ。先生は本日付けでレベリオ騎士団の特別指南役として就任され、騎士団の鍛錬に協力頂くことになっています。なのでその手を離しなさいさあ早く」


 まーた食い気味にきやがってアリューシアめ!

 いや説明自体はそれで合ってるからいいんだけどさあ。


「先生が、レベリオ騎士団に……?」

「その通り。国王御璽印章付きの任命書もあります」


 俺の肩を掴む手に力が入る。痛い痛い痛い。流石ブラックランクの冒険者、パワーが尋常ではない。というか早く離して。


 主にスレナのせいで瞬く間に剣呑な雰囲気に包まれる土産屋。店主さん本当に申し訳ない。いや俺のせいじゃないんだけど、何か謝っておかんといかん気がした。


「……チッ、国璽入りか。偽物ではないようだな」

「嘘を吐いてどうなるというのです」

「ス、スレナ。手を離して欲しいんだが」


 このままでは色々とマズい。というかさっきからずっと距離が近い。スレナ自身は男勝りな美人と評して差し支えない見目だが、今の俺の心境は獰猛なモンスターに睨みつけられた小動物である。


「あ、ああ。すみません先生、つい」


 ようやっとスレナが俺の肩から手を離してくれた。

 そらまあ久々の再会で相手が覚えていないってのは中々ショッキングなことだとは思うけども。ていうか端的に言って変わりすぎなので、ぱっと見で同一人物に重ねる方が難しい。



「先生、首都に来られたのなら是非冒険者ギルドの方にも寄ってほしい。私なら色々便宜を図れるし、何なら私が案内しよう」

「いえ先生はこれから私とともに街を見て回りますのでリサンデラの出番はありません」

「何だと? 先生は騎士団の特別指南役とやらになったのだろうなら今後も顔を合わせるだろうがここは久々の再会を果たした私とだな」

「いいえ先生は首都に来るのも久し振りで地理も把握されておりませんここは首都に拠点を置く我ら騎士団が案内するのが筋というもの」


 何かアリューシアとスレナが息継ぎ無しで口喧嘩し始めた。

 だれかたすけて。

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― 新着の感想 ―
愛され師匠だぁ
[気になる点] 王都から半日の場所にいる「気になる人」に20年間一度も会いにいってないんだ?
[一言] スレナはアリューシアと張り合う中なら、今後は姉弟子と呼ぶように、とかマウント取らないのかなw
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