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片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~  作者: 佐賀崎しげる
第二章

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第60話 片田舎のおっさん、依頼を受ける

「ま、待ってください。どうして俺に?」


 一から十まで意味が分かりません。

 宵闇に魔装具を流していた黒幕がスフェン教の司教だった。そこまではいい。でもそれをどうして俺が捕えねばならんのだ。

 話の流れが飛び過ぎている。それこそルーシーなりが出張れば終わる話じゃないのか。何故俺のようなおっさんにこんな話が飛び込んでくるんだ。


「君しか選択肢がないんだ。我々も体裁、というものはそれなり以上に大事でね」

「……」


 教会が体裁を大事にするのは分かる。レベリオ騎士団もそうだが、そういう組織が外面やメンツといったものを重要視するのは仕方がない。騎士団も教会も、民からの支持があってこその組織だからだ。

 だが、そこから先の人選の訳が分からない。


「まず、わしが動けん。魔法師団がスフェン教と事を構えるとなるとな」

「……まあ、それは分かるよ」


 ルーシーがため息とともに零す。

 彼女が動けないのはまだ分かる。魔法師団と言えばレベリオ騎士団と双璧を成すレベリス王国の切り札だ。その長がスフェン教と一悶着を起こしたとなれば、小さくない問題に発展するだろう。

 スフェン教は隣国、スフェンドヤードバニアの国教だ。国際問題にも発展しかねない。


「アリューシアも今は動けん。騎士団は今、レビオスを参考人招致するために、その準備をしとる」

「ふむ……それで解決、じゃダメなのかい?」


 宵闇への尋問で手に入った情報だけでは証拠としづらい、というのは分かる。だから騎士団も逮捕ではなく、参考人招致という名目で動くのだろう。

 しかしそれならそれで、レビオスとやらを呼び付けて話を聞けばそれで終わりじゃないのだろうか。


「レビオス司教はスフェンドヤードバニアの人間だ。やましいことの自覚があれば、レベリス王国からの亡命は容易い」


 俺の疑問に、今度はイブロイが答えた。

 なるほどね、レビオスさんはレベリス王国の人間ではないのか。恐らく、スフェン教の司教として布教のために来ている人間だろう。


「では、イブロイさんが話をつけに行けばいいのでは……?」


 続けて出た俺の疑問は、じゃあお前が動けばいいじゃん、といったものだった。

 宵闇という盗賊が関わっていたとはいえ、この話の本質はスフェン教の教会勢力内部でのゴタゴタだ。わざわざ俺なんかに話を通さずとも、教会で動けばいい話のように思うんだが。


「僕は司祭だよ。物的証拠もなしに司教様を拘束するのはなかなか難しい。それに、スフェンドヤードバニアの教会騎士団も動かせない。国境を越えて彼らを動員するとなると、相応の立て付けが必要だし、何より時間が足りない」

「教会騎士団、ですか……」


 (ほぞ)を噛むように、イブロイが言葉を発する。


 教会騎士団、というのは俺も名前だけは知っている。レベリス王国で言うレベリオ騎士団みたいなもんだ。

 スフェンドヤードバニア自体が宗教国家だから、その直下の戦力というのも当然、教会勢力の指揮下にある。その筆頭が教会騎士団。

 詳しくは俺も知らない。戦力を保持する組織としての名前を知っている程度だ。

 その腕前が如何程かも未知数だが、まあそう弱い組織ではないだろう。宗教国家と一言で言っても、その内情はつまるところ(まつりごと)だ。単純な構造であるはずがない。


 スフェンドヤードバニアはレベリス王国と比べると国土も狭く、国力も高いわけじゃない。

 だが小国と侮ることなかれ、国という組織は物凄く膨大な人の数と思惑を束ねている。それらの実働戦力として構える教会騎士団が、ただのお飾りというわけがない。いや別に戦うつもりでもないんだけどさ。


「……宵闇とレビオスは、ある契約の下で動いとった。教会勢力から魔装具を横流しする代わりに、魔法の素質を持つ者、あるいは死んでも影響のなさそうな者を融通する契約じゃ」

「それは……」


 ルーシーの言葉に、思わず口を噤む。

 宵闇とレビオスのやり取りは、明らかに違法だ。間違っても表沙汰に出来る内容じゃあない。この内容が明るみに出てしまったら、スフェン教、ひいてはスフェンドヤードバニアという国そのものが強烈な批判を受けることになる。


「目的の察しは付く。恐らくは……スフェンの奇跡の再現だろう」


 スフェン神の伝説に残る最上級の奇跡、死者蘇生。

 レビオスという司教は、多分敬虔なスフェン教の信者なのだろう。この事態を敬虔という言葉で片付けていいのかという別の問題はあるが。


「し、しかし、それなら冒険者ギルドなどの国に拠らない組織への依頼も……」

「ベリル君。国家を跨ぐ大組織である冒険者ギルドに、スフェンドヤードの恥部を晒せと? なかなか難しい問題だね」


 冒険者を頼るという手段もダメ。

 言われてみればその通りだ。冒険者ギルドに依頼を出すということは、当然ながらその内情を伝えるということ。

 ギルドだって馬鹿じゃない、依頼情報の裏付けは取るだろう。そうなればイブロイの言う通り、国の恥を全世界に晒す結果になる。


「僕としては、教会内部の悪事をみすみす逃したくはない。確たる証拠はないが、その宵闇とやらだって、あてずっぽうでレビオス司教の名前を出したわけじゃないだろう」


 確かに、ただの盗賊がスフェン教の司教の名を出すってのもおかしな話だ。そもそも普通関わりを持っていると思えない。何らかの繋がりがなければ、その名前は出てこないはずだ。


「現状、レビオスは犯罪者ではなく推定容疑者じゃ。それも証拠がない。じゃから騎士団も強硬手段には出られん。精々が呼び出し程度じゃの。しかし、そうやってまごついとる間に逃げられれば、真相は闇に葬られる」


 ルーシーが珍しく、少し苛立ったような口調で語った。

 彼女の怒りは分かる。魔法に対して誰より真摯に接してきた人物だ。蘇生魔法という奇跡が伝説にあるにしろ、現在あるべき魔法の姿を人道に反してまで歪めようとした者を許せないのは尤もだろう。

 個人的には、諸手を挙げてとまでは言わないが、彼女の思想には賛同出来る。


 だが、それにしたって彼らの頼みには無視できない問題があった。


「俺も一応、レベリオ騎士団の特別指南役なんですが…」


 そう、俺の肩書の問題だ。

 百歩譲って、これがただの田舎町の剣術道場師範であるならまだ話は通るかもしれない。しかし、現実そうではなくなっている。ちょっと前までは確かにそうだったが、今の俺はレベリオ騎士団の特別指南役。

 アリューシアの贔屓で引っ付いてきた肩書ではあるが、それでも国王御璽付きの任命書がある以上、ただの人という扱いは難しいんじゃないだろうか。


 騎士団が今、参考人招致のために動いているということは、正式な活動としてやっていることだろう。それを尻目に特別指南役である俺が勝手に動いてしまうのは、どう考えてもまずい気がする。


「お主、叙任は受けておらんじゃろ? 指南役とはいえ、実態はただの雇われ人。それに、お主を特別指南役と認識しとるのは、騎士以外にはそうおらんはずじゃ」

「む、無理やりだね……」


 なんかめちゃくちゃ都合のいい言葉を並べられている気がする。

 いやまあ、確かに俺は王からの叙任を受けていない。なので騎士ではないし、忠誠を誓っているわけでもない。

 こじつけにも近い道理だ。しかし、こじつけでも何でもいいから、何とか通せる筋を見極めようとした結果にも思える。その辿り着いた先が俺ってのはどうにも納得がいかないけれど。


「ちなみに、このことをアリューシアは……?」

「無論、認識しておる。その上での提案じゃ」


 頼みの綱として出したアリューシアの名も特に効果はなかった。

 そりゃまあ、宵闇を捕えているのは騎士団庁舎だ。この事情についてアリューシアが知らない方がおかしい。とっくに話は通っていたということか。


「実際に突っ込んで捕えろという話でもない。どちらかと言えば、逃げようとしたら捕えてほしい、と言った方が近いね。レビオス司教が素直に参考人招致に現れてくれれば、それに越したことはない」


 えっこれ俺がその依頼を受ける前提で話進んでない? まだ受けるとは一言も言ってないんだけど。

 本当にこのバルトレーンに来てからというもの、どうにも俺の与り知らんところで俺への話が勝手に進み過ぎる。

 しかしまあ、教会を襲撃しろって話ではない分、まだいくらかマシではある。要は張り込みをしろってことだろう。


「ミュイのためを思って、一肌脱いではくれんか」

「その名前を出すのは卑怯じゃないかなあ……」


 いい大人がこぞって掬い上げた小さな子へのけじめ。

 そう言われると、俺も易々と退けなくなる。彼女の姉のこともそうだが、ミュイが今後、真っ当な道を歩むには、後顧の憂いをすべて絶つというのは大事だ。


「そういえば、ミュイ自身はこのことを知っているのかい」

「知らんよ。今伝えてもどうしようもない」

「まあ、そりゃそうか……」


 貴方の姉は悪徳な司教に売られましたよ、なんて伝えて益が出るものじゃないしな。


「相応の謝礼はする。何とか頼まれてくれないか」


 イブロイが態度を改めて、再度のお願いを伝えてくる。

 うーん、どうしたものか。謝礼にはそこまで興味がない。どちらかと言えば、ミュイの今後についての方が気になる。

 宵闇とその手下をいくらか捕えたとはいえ、彼女はその団体に属していた身だ。根源を断たない限り、この不安はきっとついて回る。


「はあ……」


 どう考えても俺には手に余る案件だが、かといって悠長にしてはいられない。他の誰かに依頼しようにも、俺にはその伝手がない。そもそも、この類の話を広めるわけにもいかない。


 ダメじゃん。八方塞がりじゃん。

 更には魔法師団長とスフェン教の司祭という、大物二人からの依頼を断ってしまったら、という不安もチラつく。いや、俺が害されるとまではいかないが、彼女たちの言う通り、本当に頼る先が俺しかないというのであれば、この問題の解決の糸口が見えない。

 厳密に言えば、八方好しで収まる解決法がない。どこかに必ず歪みを生じさせてしまうか、真相が闇の中に消えてしまう。


 それに、やはり一番引っ掛かるのは――


「それでも、俺が勝手に動くことの影響は無視できないと思いますが……」


 外野から見れば、スフェン教の司教に単独で身勝手なカチコミをかけたおっさんという捉え方も出来る。流石にそれで余計な被害を被るのは何としてでも避けたいのである。

 それに、騎士団を離れて単独で動くことになる以上、どうしてもそこへの大義名分が必要だ。俺だって保身を優先して考えるわけじゃないが、それにしたって俺という駒が動くには動機が貧弱過ぎると思う。


「レベリオ騎士団は参考人招致に動いている。一方、君はスフェン教の司祭から正式な依頼を受ける。これで問題ないじゃないか」

「証拠は何としても押さえたい。そのためには、レビオスを逃さんことが何より重要じゃ。その猶予は与えたくないのでな」


 イブロイとルーシーが声を揃える。

 いや問題しかないと思うんですが。俺の貧相な想像力で言えば、明らかに無理筋だ。そもそも俺という人選が合っているとも思えない。

 とんでもない賭けである。どう考えてもベットする先を間違えている気がしてならない。


 真剣に帰りたい。そしてすべての話を聞かなかったことにしたい。

 だが、事の発端は俺がミュイを中途半端に助けてしまったことにもある。であれば、最後までその責任を取るのが大人の務め、と思うべきなのか。


「はあ……分かりました。出来る限りはやりましょう」

「そうか! いや、助かるよ。ありがとう」


 結局、俺が折れる形となった。

 言う通り、この依頼が空振りで、レビオスがちゃんと参考人招致に応じてくれればこの話は丸く収まる。

 そこに期待するしかないな。いや、その期待値が薄いから俺にこの話が飛んできたってことだと思うんだけど。


「これはスフェン教からの正式な依頼として捉えてくれて構わない。万が一が起きた際も、君の身柄は僕とルーシー君が保証しよう」

「うむ、直接わしは動けんが、その辺りは安心するといい」

「ああ、そう……」


 とりあえず、俺の身は保証された、ということでいいのだろうか。まあ、気休めにはなるか。


「それで、俺はどうすれば?」


 それに受けると決めてしまえば、もうグダグダとくだを巻く必要性はない。

 やらなきゃいけないことをとっとと決めて、今日はさっさと休みたいところだ。


「騎士団からの参考人招致は明後日を予定しておる。タイミングを考えると……今夜じゃろうな」

「こ、今夜!?」


 とんだ電撃戦じゃないか。


「頼んだよ。ベリル君」

「は、はい……」


 ちくしょうめ。もうどうにでもなーれ。

無理を押して道理を引っ込ませる、時にはそういう荒さも大事だと思います(おじさんはいい迷惑

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― 新着の感想 ―
藤沢周平著の用心棒シリーズもこんな感じだね。 文句を言う読者は多いけど、それこそ大昔からあるストーリー展開なので、特に気にならない。 ヘイトに負けず頑張ってください。
途中で主人公が述べたとおりちょっと無理やり、無理筋な展開に思う。 主人公のやる気があればそれはそれで良かったんだけどそれも感じにくい。 立場、役割、依頼、サポート、意思 噛み合ってないように感じた。
これ大事なことなんですけど登場人物が受けた仕打ちは読者が受けた仕打ちじゃないんですよね だから登場人物が平気なら平気だし、ちょっと嫌だくらいの負荷ならちょっと嫌なだけなんです 客観的にどうとかって実は…
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