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片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~  作者: 佐賀崎しげる
第二章

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第55話 片田舎のおっさん、剣を受け取る

「よし、今日はこんなところで終わっておこうか」

「はいっす!」


 クルニと打ち合いを演じてしばらく。日も高くなり、幾分か西に傾こうかといった頃合で、一旦今日の修練は終了とする。


 ここら辺の生活リズムというべきか、修練の時間に関してはビデン村で剣を教えていた頃と同じようにしている。

 騎士団庁舎自体は基本いつでも開いているが、俺自身の生活ペースを乱したくなかった、というのが大きな理由だ。この年になると寝る時間と動く時間がずれるとしんどいんです。


 朝起きて、身体を動かして、午後はのんびりする。

 このリズムが俺には染み付いている。

 無論、何かイレギュラーが起きた際にはこの限りじゃないが、まあ早々俺が引っ張り出されるイレギュラーなんて出てこないだろう。ミュイの一件は本当に例外だったのである。


「じゃあ着替えてくるっす!」

「はいはい、焦らずにね」


 鍛錬の途中からテンションの高かったクルニだが、現在進行形で今もテンションが高い。

 あまりおっさんの買い物に付き合わせるのもなあと思うが、まあ本人が良いと思っているのなら良いのだろう。俺も一人で向かうよりは、賑やかな連れが居た方が楽しめるというものだ。

 そのまま更衣室に消えてしまったクルニを尻目に、俺も出掛ける準備をする。とは言っても、やることって汗を拭うくらいだけども。女性と違って男性はどこまでも気楽でいいな。


「さて……」


 通常であればこの辺りでアリューシアがススッと出てくるところだが、今日はどうやら居ない様子。

 朝の鍛練にも参加していなかったし、恐らくルーシーをはじめとした人たちとの話し合いで忙しいのかな。

 気にはなるが、俺から突っついてもしょうがない類の話題だ。いずれ公表できる段になれば俺にも情報は入ってくるだろう。


 なので、俺は気にせず出来上がっているはずであろう新しい剣に思いを馳せるのみである。いやー、楽しみ楽しみ。



「お待たせしましたーっす!」

「大丈夫、そんなに待ってないよ」


 庁舎前で待つことしばし。いつも通り動きやすい服装で現れたクルニを迎える。

 しかし首都バルトレーンに来てからというもの、女性と外出する機会が大いに増えた。まあそのお相手のほとんどは元弟子なわけだけれども。


 おやじ殿の突き上げも、物理的に距離が離れてからは食らわなくなって久しい。しかし、やはりそこら辺もちゃんと考えた方がいいのだろうか。こんな枯れたオッサン相手にお熱になる女性が居るとも思えないが。


 まあいいや。今はそんなことより大事なことがある。俺の色恋情事なんて、それこそ些事として片付けていい問題だ。


 さて、バルデルの鍛冶屋は確か中央区にあるんだったか。

 一週間と少し前に一度行ったきりなので、少し道のりが怪しい。その点から言ってもクルニが付いてきてくれるのはありがたい、迷子にならずに済む。


「どんな剣なんすかねー」

「さてねえ。ロングソードだから、そこまで奇抜なものにはなっていないと思うけど」


 道すがら、一つ二つ雑談を交わしながら歩く。

 バルデルに鍛冶の依頼を出したのはスレナだが、内容としてはあくまでロングソード。そこまで突飛なものは出来上がらないと踏んでいるものの、素材が素材である。俺も鉱石で作った剣以外は握ったことがないから、一体どんな一品が出てくるのか、楽しみ七割、不安三割といった塩梅だ。


「きっとメチャクチャかっこいいやつっす!」

「ははは。俺の身の丈に合う剣でお願いしたいね」


 かっこいいロングソードとは。

 あまりゴテゴテの装飾が付いた剣なんかは振りたくないところだ。バルデルならそこら辺は分かってくれそうではあるが。


「そういえば俺の剣もそうだけど、クルニのことも報告しないとね」

「ほえ? 私っすか?」

「ほら、ツヴァイヘンダーのこととか」


 クルニの得物はバルデルの鍛冶屋で気付きを得て、ショートソードからツヴァイヘンダーに切り替えた経緯がある。

 まだ一週間とそこらだし、扱いも粗削りな部分も多く見える。しかしまあ、上手く扱えているようにも思う。伸びしろがあるってのは大事なことだからな。


「そっすね! なんか私もしっくり来てる感じがあるっす」

「そりゃよかった」


 ツヴァイヘンダーは俺がお勧めしたところもあるし、これで合わないとか言われてたらちょっと凹む。

 前も思ったが彼女にはまだ餞別の剣を渡せていないから、それが渡せるようになるくらい、改めてクルニのことを鍛えてやりたい。親心にも似た感覚だな、子供いないけどさ。


「到着っすー!」


 そうやって雑談を交わしながら歩いていると、見覚えのある建物が目に入る。

 そうそう、こんな感じの店だった。やや小ぢんまりとした、しかししっかりとした風情を感じる店構えだ。


「お邪魔するよっと」

「お邪魔するっすー!」


 二人で歩を揃えて店内へとお邪魔する。


「おぉ、先生とクルニじゃねえか」


 所狭しと並べられた武具に囲まれたカウンターの中、バルデルは一本の剣と睨めっこしていた。こちらを視認したバルデルは、にかりと歯を見せて鷹揚に笑う。


「そろそろ依頼した剣が出来る頃合だと思ってね」


 まあ依頼したのは俺じゃなくてスレナなんですけど。今になって少し遠慮する気持ちが湧いて出てきたぞ。いや、出来上がっている以上は受け取らないと意味がないってのは分かっちゃいるのだが。


「おう、そいつなら出来てるぜ。自信作だ! ちょっと待ってな先生」

「あ、ああ」


 何かリアクションを返す前に、バルデルはカウンターの向こうへいそいそと引っ込んでしまった。少しばかり慌てていたようにも見える。うーむ、自信作というあたり俄然楽しみにはなってきた。


「……先にクルニのツヴァイヘンダーの話をするべきだったかな」

「あっはは、別にいいっすよー私は」


 ばたんばたん、とカウンターの奥から響く音を耳にしながら、バルデルを待ちながら零す。彼も気合を入れるとは言っていたが、ここまで熱が入っているとは思わないじゃん。所詮俺の剣だしさあ。


 付き合わせてしまったクルニに若干の申し訳なさを感じていると、カウンターから筋骨隆々の巨躯が勢いよく飛び出してくる。


「さあ先生! 受け取ってくれ!」


 現れたバルデルが、鞘に収まった一振りの剣を俺に突き出す。

 これか。これが俺の新しい剣か。なんか緊張してきた。ここ数年、剣を新調するということが無かったために、俺的にはちょっとした一大イベントだ。


「ありがたく頂戴するよ」


 バルデルから剣を受け取り、鞘から抜き出す。さしたる抵抗もなく表れた抜身のそれは、店に差し込んだ日の光に当てられ、微かに赤く煌めいていた。


 刃渡りは目算だが百センチ前後といったところか。全体的なサイズ感で言えば、俺が長年愛用していたロングソードとあまり変わりはない。

 ただ、従来のそれよりはいくらか細身で、斬撃のほか刺突も問題なくこなせそうだ。ざっくばらんな感想だが、スマートだなあという印象を第一に受けた。


「刃は諸刃、芯にゼノ・グレイブルの骨を使ってある。その上からエルヴン鋼でコーティングした形だ。フラーは浅目に彫ってある。元が柔軟性のある素材なんでな」

「へぇ、エルヴン鋼」


 俺も名前しか聞いたことがない鉱石だな。とりあえず貴重だってことくらいしか分からん。

 フラーというのは、剣に走っている溝のことだ。これがあることで柔軟性と斬撃力が増すと言われている。使っている身としてあまり実感は湧かないが。


「特別討伐指定個体の骨を削っていくのは文字通り骨が折れたが、楽しかったぜ!」

「そ、そうか。それはなにより」


 骨を削る作業って楽しいのかな。俺には分かりません。

 ただまあ、それが鍛冶師となれば捉え方も変わってくるのだろう。とりあえずバルデルが楽しかったということなので良しとしておく。


 剣身が仄かに赤いのは、そのエルヴン鋼とやらの作用かな。

 鋼と言えば俺は単純な鈍色(にびいろ)しか思い浮かばないから、これはこれで物凄く新鮮だ。真っ赤というわけではなく、あくまでほんのり色立つ程度だから、そこまで目立たないのも高ポイント。

 うーん、細身な剣身も相まってかなりオシャレな一品に思える。俺みたいなおっさんには少しばかり不釣り合いな気がしないでもない。


「グリップと鞘にはゼノ・グレイブルの皮を使った。皮というには素材がちと固いがな。ガードにはエルヴン鋼を使って、中心に牙を埋め込んである」

「ふむ……」


 グリップの手触りが少し独特なのは、ゼノ・グレイブルの皮を使っているからか。触り心地は物珍しいものだが、感触は悪くない。滑りも程ほど、良い振りが出来そうだ。

 剣身と同じく、握りと鞘の部分もゼノ・グレイブルを象徴する赤色。鍔の部分もエルヴン鋼ということで、硬度は期待出来そうである。安物だとここら辺の作りが雑だったりするんだが、まさかバルデルがそんな仕事をするわけもあるまい。


「――うん、いい剣だと思う」


 軽く振ってみると、ヒュン、という風を切った音とともに剣先が空を滑る。

 空気抵抗をほとんど感じることもなく、しかし確かな重みを感じるこの剣は、一言で言って業物だ。俺もそこまで目利きが出来るわけじゃないが、それでもこいつが相当な代物であるということは分かる。


 やはり素材と鍛冶師の腕が良いと良い武器が生まれるのだろう。それは自明の理であるはずなのだが、いざこうして業物が自分の手に収まると、なんとも言えない緊張感と高揚感がある。


「こいつぁ先生の剣だ。遠慮なく貰ってくれ」

「……うん、そうさせてもらうよ」


 バルデルの言葉に押されて、というわけではないが、少なからず持っていた遠慮の気持ちが、今の言葉で上手く消えてくれたようにも思う。


 そうか。こいつが俺の剣か。これからよろしく頼みます。


「綺麗な剣っすねー!」

「ははは、俺みたいなおじさんには少し似合わないかもしれないね」


 剣身を見ていたクルニが横から一言。やはり赤みがかった剣身というのは物珍しいのだろう。俺みたいな冴えないおじさんにはちょっとばかし眩しい一品だ。


「料金……は、なしでいいんだったよね?」

「おう、全額スレナ持ちだぜ」


 念のため最後に確認を飛ばしてみれば、返って来たのは快活な返事。

 この剣の作成にいったいいくらかかったのか。あまり考えたくはないし、きっと考えない方がいいはずである。素直に結果だけ甘受しておこう。


 年上としてどうなのかとかはなしの方向でお願いします。

おっさんは なんかすごい剣 を 手に入れた!(ピコーン

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― 新着の感想 ―
[一言] 鞘も赤かったりして いや、紅かったりして…………… 夕日に映えて紅いんじゃなくて、元から紅い(笑) 朝、良~く見たら、Σ( ̄□ ̄)!紅い?え、紅い? とか(//∇//)
[気になる点] >あまり考えたくはないし、きっと考えない方がいいはずである。素直に結果だけ甘受しておこう。  ◇ ◇ ◇  『甘受』は「甘んじて受けること」で、「仕方のないものとして受け入れる」「…
[一言] ふむ、おっさん主人公物結構好きなんだけどなんだかダレてきましたね。 自己肯定感が低いってのも良いけどいい加減少しだけでも自覚するシーン訪れても良いんじゃないかなと思いました。
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