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片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~  作者: 佐賀崎しげる
第二章

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第36話 片田舎のおっさん、忘れる

「……よっと。こんな感じっすかね?」

「そうだね、悪くないと思う」


 俺の薦めでツヴァイヘンダーを構えたクルニが、不安げに声を漏らす。

 道場で持っていたのはほとんど片手用の木剣だった。今もショートソードを得物にしているくらいだから、その教えの延長で剣を選んだのだろう。いきなり両手剣を持たされて困惑する気持ちはよく分かる。


「持ってみてどんな感じだい?」


 ただまあ、俺だって何もツヴァイヘンダーを押し付けたいわけじゃない。あくまでクルニに合う武器を探すのが目的だからな、これで所感が悪ければまた別の剣を探すのみである。


「んー……。軽くはないっすけど、言う程重くもないっすね」

「ふむ。悪くないんじゃないかな」


 両手剣持って重くないって凄いな。お前いつの間にそんなゴリッゴリのパワータイプになったの。それこそ剣に収まらず、ハルバードとかポールアックスとか持っても似合いそうで怖い。

 クルニの感覚で言えば、ショートソードなんてそれこそ枯れ枝くらいにしか感じなかっただろう。そりゃ剣に力を上手く伝えられないはずだ。


「このリカッソ? て言うんすかね、特徴的っすね」

「そうだね。普通の両手剣とはちょっと使い勝手が違う」


 クルニが色々と持ち方を変えながら一言。

 ツヴァイヘンダーは普通の両手剣と違い、刃の無い持ち手、リカッソがあることが特徴だ。ここを支点にすることで、斧槍のような使い方も可能になる。

 普通の剣と比べ、戦術の幅が広い武器と言えよう。


「似合ってんのはいいけどよ、お前代金払えよ代金」

「あ、そうっすね。幾らっすか?」


 様子を見ていたバルデルが当然の催促をしていた。

 そりゃ武器はタダで手に入るわけじゃないからね。鍛冶師のバルデルからしたら紛うことなき飯の種である。おいくらぐらいするんだろうな、これ。


 ていうか俺は割と気軽にこれでもどう? みたいな感じで薦めたんだが、さも当然のようにそれで決まりみたいな空気になっている。いいのかそれで。おじさんはもうちょっと考えた方がいいと思う。


「そうさな……割り引いて八万ダルク。それが限界だな」

「むー……ちょっと持ち合わせが足りないっす……」


 バルデルの提示した金額に渋面を返すクルニ。

 八万ダルクか。武器の種類と品質を考えたら大分安いとは思うが、まあ元々研ぎのつもりで来たんだ。そこまでの持ち合わせがないってのが正直なところだろう。


 ダルクというのは、レベリス王国で扱われている通貨の単位である。

 住む場所、生活レベルにかなり左右されるが、例えばビデン村のような田舎で一ヶ月過ごそうと思えば大体十万ダルクあれば十分生活出来る。

 バルトレーンのような都会だと諸々の物価も高いし、家賃も含めて十五万から二十万ダルクくらいは要るだろう。


 その金銭感覚で行けば、八万ダルクは安い買い物ではない。無論、新品の武器を買うとなればかなり安い方なのだが。バルデルが割り引いて、と言ったのも頷ける金額だ。


 ちなみに、俺の取っている宿は一晩三千ダルクで契約している。長期滞在ってことで結構割引してくれているらしい。

 ていうか、宿じゃなくてどっか借家借りた方がいい気がしてきた。

 そこら辺もまた考えるか。


「仕方ねえな、ちょっと待ってろ」


 クルニの持ち合わせが足りないと分かるや否や、バルデルが一言置いて工房の奥に引っ込む。

 と思ったらすぐに出てきた。その手には同じような、しかしやや刀身の短いツヴァイヘンダーが握られている。


「こっちなら二万ダルクでいいぞ」

「えっ! 本当っすか!」

「そりゃ安い」


 あまりの安さに思わずそのツヴァイヘンダーを見る。

 うーん、見る感じ別に不良品って訳でもなさそうだ。目に見えて分かる範囲では欠けや刃毀れも見当たらないし、よく研がれているようにも思う。


「なんでまたそんなに安価で?」


 なので、気になって聞いてみた。どう考えても、二万ダルクで出していい品物ではないと感じたからだ。


「ああ、こいつぁ昔手慰みに作ったやつでよ。言ってみりゃ試作品みてえなもんだ。刀身もちょいと短いだろ? 工房で埃被ってるだけだったんだが、クルニが使うなら格安で譲ってやろうと思ってな」

「なるほどね」


 バルデルの説明に、頷きを返す。

 こういうことは、稀にだが有り得ることではある。

 鍛冶師に限らず、職人ってのは腕を磨くことが全てだ。勿論、宣伝活動も最低限しなければならないが、基本鍛冶屋が繁盛するかどうかはそこの鍛冶師の腕による。


 で、腕を磨くために色々作ってると、それなりの出来で、それなりに思い入れもあるけど売りに出すのはちょっとなあ、みたいなレベルのやつが出来たりする。

 質が悪ければ迷いなく破棄出来るものの、言う程悪くもないから扱いに悩む、それくらいのやつだ。俺も昔は、そういう類の剣をビデン村の鍛冶師から譲ってもらっていた。


「刀身が短めなのは逆にいいんじゃないかな。クルニは小柄だし」


 武器としては破格の安さ、そして質が悪いわけでもない。

 うん、新たな武器種を試すには丁度いいんじゃなかろうか。

 それに、通常のツヴァイヘンダーより刃渡りがやや短いのは逆にメリットになり得る。クルニ自身が小柄だから、長過ぎると逆に扱えないからだ。


「分かったっす! じゃあそっちにするっす!」

「あいよ、毎度あり」


 そうして、特に疑問を差し込む余地もなく、あっさりとクルニの新武器がツヴァイヘンダーに決定された。

 いや薦めたのは確かに俺だけどさ。それでいいのか。ちょっと心配。


「あ、ところでアリューシア」

「はい、何でしょう」


 ふと気になったことがあるので、壁に飾ってある剣を眺めているアリューシアへ声を掛ける。

 ていうかやっぱり剣に興味がないわけじゃないんだね。ちゃちゃっと買い替えてくれればいいのに。


「その、ツヴァイヘンダーで騎士団って大丈夫なの? 皆普段は長剣を使っているようだから」


 アリューシアはロングソードだし、副団長のヘンブリッツ君も剣捌きを見る限り、得手としているのは長剣の類だろう。

 他の団員も見ているが、ほとんどが通常の木剣を使って訓練している。つまり長剣類を得物としていることが分かる。

 そんな中で一人両手剣ってのはどうなのかなと思っちゃったわけだ。


「それでしたら特に縛りはありませんよ。騎士となる際にロングソードを下賜されますが、それはあくまで形式上のことですから」

「……そうかい」


 どうやら問題は特にないらしい。おじさん安心。

 いや、つーか下賜されるならそれを使いたまえよ。これ突っ込んだらダメなやつか?

 多分あれだろ、叙任式か何かがあってそれで貰えるやつだろ。まあ貰えるのは祭事用の剣で、実戦には耐えられないという線も考えられると言えば考えられるのだが。



「あ、先生ー、先生ー」

「ん? どうした?」


 刀身がやや短めのツヴァイヘンダーを鞘ごと受け取り、ご満悦と思われたクルニが声をあげる。


「私、両手剣って初めて持つので、色々教えて欲しいっす」

「ああ、うん、分かった。基本は俺が教えよう」


 いきなり両手剣だけ持たされてはいどうぞってされてもそりゃ困るわな。


「悪いがうちにはそんなスペースねえぞ」


 俺とクルニの会話を聞いていたバルデルが口を挟む。

 うーむ、ここには試場がないのか。

 場所も中央区だし、土地代だけで結構かかるんだろうな。試場まで準備するとなると、そこそこの広さが要る。


「それじゃあ、騎士団の修練場でやろうか」

「はいっす! 宜しくお願いするっす!」


 首都バルトレーンで剣を気兼ねなく振れる場所って案外少ないからなあ。騎士団の修練場か冒険者ギルドの訓練場くらいしかない気がする。

 まあ街中で振るうもんでもないしね。


 しかし両手剣か。

 お薦めしといてアレだが、俺もそこまで精通しているわけではない。いやまあ、ロングソードさえ押さえておけば大体は応用が利くのだが。


「お待ちください先生」


 クルニの用件も終えたし、じゃあ修練場でちょっと基本だけやっとくか、と思ったらアリューシアが待ったを掛けてきた。何かあるのかな。


「先生の剣をまだ選び終えておりませんが」

「あ、そうだった」


 完全に忘れてたわ。ありがとうアリューシア。


「ほう? 先生の剣だと?」


 そしてそれを耳にしたバルデルの瞳が妖しく光ったのを俺は見逃さなかった。

 やめろ、俺は普通のでいいんだよ普通ので!

明けましておめでとうございます。

本年も何卒、片田舎のおっさんを宜しくお願い申し上げます_(`ω、」∠)_

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ツーハンドソード(ツヴァイハンダー呼びはリカッソの長いドイツのやつだけ)は たいてい抜き身のまま背負うんじゃなかったですっけ? 鞘は置いとく時用ですかね。
[一言] 先生の動きを見ていたはずだから、最適な剣が!
[一言] こりゃ魔剣クラスが出てくるんじゃ!? 今年も楽しい作品をよろしくお願いします!
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