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片田舎のおっさん、剣聖になる ~ただの田舎の剣術師範だったのに、大成した弟子たちが俺を放ってくれない件~  作者: 佐賀崎しげる
第八章

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第249話 片田舎のおっさん、捕捉される

「ここから先、やや傾斜が大きくなっております。お気を付けください」

「ああ、ありがとう」


 先導役の騎士に従い、山中を進む。

 今のところは特に何も問題なく進めている様子で何よりだ。とはいえ、山に入ったばっかりで問題が早々に起こってもそれはそれで困るんだが。


「山中行軍! 胸が高まるわ!」

「アデル、静かに」

「はい……」


 集団でがっさがっさと山に立ち入る中、今回の出撃メンバーに選ばれたアデルのテンションが上がっていた。しかしそれを小隊長の騎士に素早く咎められ、しゅんと首を項垂れている。

 なんかレベリオ騎士団に入ってからいきなり聞き分けが良くなったな、この子。道場で剣を学んでいた時は常にうるさかったし、俺やランドリドが多少注意したところで止まる様子もなかったんだが、なんというかかなり従順になった。

 これもヘンブリッツ君による教育の成果だろうか。もしそうならその手腕というか秘訣というか、そういうものを是非とも教示頂きたいところだ。


 騎士の教育を俺が担当するわけじゃない。俺はあくまで剣術を教えるだけであって、当人の素行とか性格とかそういうものに基本的に俺は関与しない。

 けれど、このまま一生剣を振れなくなるまで特別指南役を続けるかと問われたら、それはちょっと微妙だ。嫌だとかそういう話ではなくてね。やはり最終的にはビデン村の道場に帰って弟子たちを育てたいなあ、なんて思っていたりする。


 なのでその時に備え、こういう鼻っ柱の強いヤンチャ坊主……いやアデルは女性だけれど、そういう子たちの巧い御し方みたいなのも知っておきたいわけだ。

 俺は性格上、あまり人に強く当たることが出来ないから、それが原因で増長されてしまう要因もあるにはあると思う。ただ時には指導者として、強く当たらなければならないのも事実。そのやり方みたいなやつを俺も学びたいんだが、どうだろうね。


「植生はあまり変わりありませんね」


 集団の後方で、アリューシアが歩きながら周囲の環境を観察していた。

 割と細かいことではあるんだが、あの服装のまま山に入れるのは凄いな。普通なら生傷が絶えないところを綺麗に躱したり、あるいは邪魔な部分を新しい長剣でさっさと刈り取っている。

 恐らく同じく軽装を好むスレナも同様のことが出来るのだろうが、少なくとも俺には無理だ。戦闘時には心許ないものであっても、肌と布では防御力がかなり違う。

 俺も剣士としては比較的軽装な方ではあるけれど、それでも肌の大部分は布で覆っているし何ならズボンの布は結構厚めである。同じような露出で山に入るのは、俺にはちょっと出来ない。


「凄いねアリューシアは……」

「何か?」

「ああ、いや……」


 まさかこんなところでも彼女の超人っぷりを見せつけられるとは思わなかった。いよいよ本当に欠点がない気がしてきたよこの子。どこで何をやらせても一流の仕事をしそうな気すらしてくる。


「でも見通しはそこまで悪くないね」

「確かに。あまり密生してはいないようです」


 深く突っ込まれても困るので、アフラタ山脈北端の環境についての話題に変える。

 ビデン村から覗けるところもそうだったんだが、アフラタ山脈自体はそこまで植生が豊かなわけではない。いや普通に草木は生えているけれども、いわゆる森のような鬱蒼とした感じではないのである。

 だからそこまで視界は悪くない。良くもないけどね。少なくともしっかり警戒していれば至近距離からの奇襲は防げるくらいの視野は確保出来る。


 だがそれは逆に言うと、他の生物からこちらも見つけやすいということだ。特にアフラタ山脈にはグリフォンのような飛行生物も棲息しているから、そいつらからすれば良い的である。

 もっとデカくてヤバイやつは基本的に山の奥深くから出てこないから、当面の最大難敵は恐らくグリフォンになるだろう。サーベルボアくらいなら可愛いもんである。


 アフラタ山脈の最奥となると危険なモンスターが居る居ないにかかわらず、基本的に人間は死ぬ。勾配と高度がきつ過ぎて根本的に人間が活動出来る環境にないからだ。今は春先で昼間だからそこまで感じないが、これが夜間などになると山頂付近なんて急激に冷え込む。人が過ごせる気温じゃない。

 山の奥は奥で恐らく独自の生態系が育まれているとは思う。ただそれを調査する力が今の人間にはない。時々人の生活圏にあふれ出てくるやつをどうにかこうにかシバけているだけで、この広大な山脈を支配下に置こうなどというのは、現行の文明力では多分無理である。


 まあ支配下に置いたところで旨味があるかどうかも分からないしね。そりゃ何かしらはあるかもしれないが、支払うコストに見合うかと言われたら大変に微妙だろう。

 だからこそこの山脈を領土に含むレベリス王国とサリューア・ザルク帝国は、とりあえず領地としてカウントはしているものの大きく手を入れてはいない。帝国が今どうしているかの詳細までは流石に分からないにしても、そこまで大仰なことはやっていないはず。


 他方、以前ヘンブリッツ君がビデン村への帰省に同行した際に漏らしたように、こうやって麓付近で訓練に使うには丁度いいのかもしれない。

 実戦経験を積むにあたり、適度な「敵」の確保というのは案外大変だ。人同士で鍛錬は出来るが殺し合いをするわけにもいかないし、安易に他国へ戦争を仕掛けるわけにもいかない。


 人の手が入っていない未開拓領域というのは、それはそれで使い道がある。勿論、大多数の人はとっとと安全圏を拡大してほしいと考えてはいるだろうけれどね。それがささっと出来れば誰も苦労しない。難しい話だ。


「総員、止まれ」

「……おっと」


 この山について色々と考えていると、先頭を行く騎士から停止命令が下った。

 んー。何匹か居るな。完全に包囲されているとまでは言わないが、ある程度前方に広がって捕捉されているって感じだろうか。

 気付いた人の割合でいえば全体の半々か、ちょっと少ないくらい。帯同した新人以外の騎士は皆気付いたようだ。流石新米の教導を任される騎士だけあって、その辺りの危機察知能力はなかなかのものである。


「あの、小隊長……?」

「みだりに喋るな。恐らく一角狼だろう」

「……!」


 一人の新人が声を上げるも、それは素早く制された。

 俺も多分狼系の中型だと思うね。ボア系ならもっと早く気付けるし、あいつらはあまり隠れるという行為をしない。こちらの様子を窺うように展開するのは狼系独特の動きだ。

 ただの平原なら気付けるものも、こうやって少し環境が変わればそれだけで分からなくなる。

 森に比べて多少視界が利くとはいえ、普段より見えづらいことには違いない。この辺りの勘所というのか、そういうものも今回の遠征で養ってほしい部分だな。


 まあでも、不意打ちを受ける状況ではなくなっただけでも大分マシだ。極端な話、真横からいきなり飛びつかれたら人間に対応は不可能である。


「二人一組で前方へ展開。残りは前線支援のため戦闘待機。後ろは私が見る。先生、前は」

「任された」


 状況を把握したアリューシアが素早く指示を飛ばす。

 狼が数匹程度なら、普通の騎士であれば鎧袖一触で撃破出来る相手ではある。別にこっちも単騎というわけじゃないしね。ただ今回の目的は新米たちの育成なので、前線には彼らを立たせる。

 後ろはアリューシアが見るということで、こっちは警戒しなくても問題ない。彼女が抜かれた時点で俺たちはここで敗れる。俺は言われた通り、万が一新人たちが危うくなったら飛び出していく係に集中しよう。


「――確認! 一角狼! かかれ!」

「はっ!」


 二人組を作った新米騎士たちがじりじりと前方へ進むと、相手の姿が確認出来た。先導役の騎士の予想通り一角狼だ。

 一角狼というのは、まあ普通の狼と身体能力的にはさほど変わらない。ただ名前の通り、額に一本の角が生えているので噛みつきや引っ掻きの他、突進によるダメージが無視出来ないという点が普通の獣と異なる部分。

 流石に金属鎧を貫通するほどの威力はないにしても、衝撃自体は相当なもの。そんなのが生身にぶち当たったら身体に穴が穿たれることとなる。甘く見ていい相手ではない。


「きぃえああああっ!!」

「ふんっ!!」


 互いの姿が視認されれば、それはつまり戦端が開かれるということである。まずは比較的近い距離に居た一角狼へ、アデルがお得意の気勢を発して突っ込んだ。

 これがこっちからの不意打ちなら相手が獣であっても多少はビビるんだろうけれどね。残念ながら向こうは既にこっちを捉えていたので、この程度ではビビってくれない。何なら牙を剥き出しにしてバッチリ臨戦態勢だ。


「上手く囲めよ! 味方を活かせ!」

「はい!」


 確認出来た一角狼の数は四匹。多分普段の狩りもこのメンバーでやっているんだろうなという感じである。

 素早く動く獣を相手に一撃で決めるのは難しい。アリューシアなら難なくやれるだろうが、その領域を新人に求めるのはそもそも不可能だ。なのでこうやって人数差を上手く活かして追い込んでいく。

 一発で戦闘不能に陥らせることが出来ずとも、手傷を与えていけば速度は鈍る。そこを徹底的に叩いていくのが多対多の基本戦術だ。頭数の差は多少の実力差を容易にひっくり返すからね。


「もぉらったァ!!」

「ギャンッ!?」


 一人の騎士が追い込んだところを、今度はアデルが横っ腹から袈裟斬りをかける。飛び退いた後の着地の隙を突いた見事な一撃。絶命まではいかなかったものの、胴体をバッサリ斬られた一角狼は既に瀕死の状態。何もせずとも遠からず命の灯は潰えるだろう。


「仕留めたからとて油断するな! 戦場を見渡せ!」


 今回はツーマンセルで戦闘に入ったが、実際の戦場では自分が担当している相手を倒したらそれで終わり、というわけにはいかない。一息ついたその瞬間を別の敵に狙われるなんてことはよくある。

 身近な敵を仕留めた後が一番油断も隙も生まれやすい。倒したと思ったら起き上がってきて手痛い反撃を食らうなんてのもしょっちゅう起こり得ることだ。そういう事態を減らすには、やはり敵を打倒した後も油断なく観察することが必須である。


「……どうやら俺の出番はなさそうだね」

「よいことです。新人たちだけで対処出来ている証拠ですので」

「確かに」


 ある程度緊張感をもって見守っていたが、特に俺が手を出すまでもなさそうな状況に推移している。少なくとも二人一組が瓦解して一角狼が突っ込んでくる、なんてことはなさそうであった。

 俺の呟きにアリューシアが反応しているあたり、後ろも問題ないらしい。流石に後方警戒を怠って俺とのお喋りに興じるようなことはしない。


 一角狼の角はサーベルボアの牙と同様に、まずまずの値段で取引される。主に観賞用だったり、加工して色々と使うんだそうだ。無論のこと、傷がない方が好ましい。

 だが今回は別に金稼ぎに来ているわけじゃないので、その辺りは勘案せずに各々がぶっ飛ばしている。やはり新人と言えど、レベリオの騎士試験に合格するくらいだから基礎的な戦闘力は高いね。


「ケニーの方も順調に進んでいるといいけどね」

「心配ないでしょう。土地勘はあちらの方があります」


 こちらの部隊とはやや離れた所へ展開しているケニーの部隊も、今頃はこうやって山々の危険を排除しているんだろうか。

 今回、俺たちは新人の演習のためにヒューゲンバイトまで来ているが、そもそもヒューゲンバイトに常駐する部隊は日常的な任務として麓の偵察と掃討を行っている。要は彼らの通常任務に俺たちが相乗りした形なわけだ。


 いつもより人手があるということで、人員はアリューシアが率いる部隊とケニーが率いる部隊で分けている。とはいっても、あっちはいつも通りの編成といったところか。

 多分、拠点に戻ったら狩った獲物の数とかで競い合うんだろう。そういうシーンは容易に想像が付く。そしてそのような語らいというか競争というか、それらはないよりはあった方がいい。互いに刺激を受けるからね。


「残敵確認出来ず! 掃討完了!」


 一角狼四匹はすべて恙なく対処がなされ、教導役の騎士により戦闘終了の合図が下された。

 時々、戦闘中に他のモンスターやら動物やらが寄ってきてなし崩し的に連戦になることがある。今回はそういう事態にはならなさそうで何よりだ。特に山だとその危険性は高い。


「……いや、待った」

「先生?」

「……上に何か居るね」


 さて、それじゃあ行軍を再開、といきたいところだったが、どうやら物事はそう上手く進まないらしい。

 地上の敵は無事掃討された。しかし俺の目は、上空を過る何かの影を一瞬ながらしっかりと捉えていた。


「……グリフォンですか」

「どうやら見つかったらしいねえ」


 上空を見やると、散生している木々の合間から明らかに野鳥のサイズではないモノが飛び回っている。

 通り過ぎるのではなく旋回している辺り、完全にこちらを捕捉しているらしい。ただの鳥もグリフォンも、獲物を見つけたら上空を飛び回るのは共通である。


「これは流石に荷が重いかな」

「でしょうね。逃げるにも難しいでしょう」


 仮に全速力で麓まで走ったとしても、グリフォンから逃げるのは無理。相手が空を飛べるのも勿論あるが、単純に出せる速度差がデカすぎる。なので襲ってくる素振りを見せているのなら迎え撃つしかない。

 この相手を新米騎士にやらせるのは流石に荷が重いだろう。俺とアリューシアは互いに言葉を交わすと同時、剣を抜いた。


「班毎に固まって防御態勢! 相手は私たちがやる!」


 抜剣を終えたアリューシアが叫ぶ。

 グリフォン狩りかあ。ゼノ・グレイブル以来の相手だが、まあ今回向こうは火を吐いてきたり地面をマグマ化してくるわけでもない。無論油断は禁物ではあるけれど、皆の安全のためにもしっかり仕留めきるとしよう。

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― 新着の感想 ―
プレゼントの剣のお披露目かあ、一瞬で終わっちゃいそう。
相手が空を飛んでいるだけに弓が欲しい所ですが、弓はこの世界の騎士の業ではないかな? おっさんの前って事でアリューシアが張り切り過ぎ&誂えた剣が業物すぎて新人ドン引きとかありそう。
おお、おっさんの剣技の見せ所ですね、次話期待してますよ。
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