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第21話 片田舎のおっさん、また推薦される

「ふむ。……偽物ではないようですね」

「当たり前だ。文書偽造は大罪だぞ」


 スレナが取り出した書状をまじまじと見つめるアリューシア。

 俺にはその紙が本物かどうかなどさっぱり分からないが、アリューシア曰く偽物ではないらしい。


「……で、どういう内容なのかな?」


 俺も文字は読めるが、覗き見るようなことはしない。

 話を聞く限り、これは冒険者ギルドがレベリオ騎士団に宛てたもののようなので、俺が見るのはちょっと違うかなと思ったからだ。



 特別指南役などというポジションに収まってはいるものの、騎士団内における俺の立場というものは結構微妙だ。


 俺は別段、騎士団に対する指揮命令権を持ち得ているわけではない。

 あくまで騎士たちを鍛える立場の人間であって、内部の政や部隊運用に口を出す立場ではないのである。


 当然ながら俺の所属は今レベリオ騎士団になってしまっているので、そこに所属する人物をどう動かすかは団長であるアリューシアの領分だ。もしくは副団長のヘンブリッツ君かな。


 ギルドが俺を借り受けたいという話もまあ謎だが、それが事実であればそれの可否はアリューシアが握っている。流石に冒険者ギルドもそこまで強権を持ってはいまい。


「新人、若手冒険者の育成に先生のお力を借りたい、とのことです。騎士団として特に反対する理由はありませんが、賛成する理由もないですね」

「新人教育、かあ……」


 ふむ、新人教育ときたか。

 興味がないわけではないが、アリューシアの言う通り騎士団の指南役である俺をわざわざ寄越す理由がない。

 それに新人若手の冒険者となれば、剣技どうこうよりサバイバル技術とかそういう方が大事じゃない? 本来俺が教えるべき内容と絶妙にニーズが食い違っている気がしないでもない。


 というかそもそも、冒険者ギルドのマスターが俺を名指しで借り受けたいなどと言う事態がおかしい。

 俺はギルドと関わりを持っていないのだ。


「……まさかとは思うけど……スレナ?」

「無論、私の推薦です」

「いや無論じゃないんだけど」


 無論じゃないんだけど。

 何でちょっとドヤ顔なんだよ。そういうのはアリューシアだけでお腹いっぱいです。ていうか冒険者に何を教えろって言うんだ。無理難題が過ぎる。


「シトラス、冒険者ギルドとレベリオ騎士団の仲を深めるいい機会になるとも思わんか。悪くないと私は思うんだがな」

「なるほど、そういう見方も出来ますか」


 アリューシアの顔が、本格的に元弟子から騎士団長のものへと変わる。

 俺を派遣することによる組織としてのメリット、デメリットを考えているのだろう。


「しかし冒険者の育成と言われても、どうすればいいのか……悩ましいね」

「勿論、先生が望まないのであればお断りします。即断で」

「……そんなに力強く言わなくてもいいと思うよ」


 俺個人の感情で言わせてもらうならば、興味が無くはない。折角首都バルトレーンまで来たのだし、そういうのに触れてみたいという気持ちは確かにある。


 だが新人教育となると、ちょっとどうしたらいいのか分からんのが正直なところ。道場で剣を教えるのとは違うだろうし、何をどうすればいいのか皆目見当が付かない。


 それに、一時的に借り受けるってことだから継続して教えるわけでもないだろう。体験学習じゃないんだから、一度教えるとなればしっかりとした期間、指導教育をしていきたい。が、ニュアンスから察するにそうでもなさそうだ。


「実際に、どういうことをするんだい?」

「主にはダンジョンアタックへの同伴ですね。戦う術、生き残る術がきちんと身に付いているかの確認と、万一の際の戦力としてです」

「ダンジョンアタックかあ……」


 思わず顔がちょっと曇る。

 あんまりいい思い出がないんだよな、それ。



 ダンジョンアタック。

 文字通り、世界中に点在する遺跡、迷宮、洞窟等に侵入する行為全般を指す。


 レベリス王国のあるガレア大陸には、大小さまざまなダンジョンが存在する。

 それは過去の遺跡の成れの果てだったり、魔法的力が作用した不思議な空間だったり、ただ天然の洞窟をモンスターが縄張りにしたものだったり、様々だ。


 色々と形状や呼び方はあるが、そういうものを全部ひっくるめて『ダンジョン』と呼称している。


 で、冒険者になる者のほとんどが見る夢。

 それがこのダンジョンアタックである。


 単純にモンスターの素材は換金率がいいし、未踏の遺跡などであれば莫大なお宝も期待できる。成功さえすれば、一代で大きな富と名声を得られる可能性もある。

 まさに一発逆転を賭けるに相応しい相手というのがダンジョンだ。


「大丈夫なのかい? 新人若手と言うくらいだから、ホワイトやブロンズ……精々がシルバーランクくらいだろう?」


 だが当然のこと、ダンジョンアタックには大きな危険が付き纏う。

 モンスターに殺されることもあれば、遺跡の罠に嵌まって動けずに死を迎える、なんてことも珍しくない。

 自身の力量とダンジョンの危険度。

 それを見誤った者から死んでいくのだ。


「問題ありません。ギルドの管轄下にあるダンジョンは調査も進んでおり、生息する魔物も判明していますので。適正な引率者が居れば問題ないでしょう」

「俺ではその『適正な引率者』に不適だと思うんだけど……」


 どうしてアリューシアといいスレナといい俺への評価が無駄に高いんだ。


「先生の力であれば全く問題はないでしょうが……ふむ」

「いや、問題しかないでしょ」


 俺はしがないおっさんやぞ。

 自分の身を守るだけで精一杯なのに、新人の面倒を見ながらダンジョンアタックなどハードルが高すぎる。


 うーむ。これは、お断りした方が無難かもしれないな。

 ただの教育だけなら満更でもない気持ちだったが、流石に命の責任を背負い込むことは出来ない。二つ返事で了承を返せるほど、俺が強ければ話は別だけども。



「スレナ、悪いけどこの話は俺にはちょっと荷が重――」

「おう、こんなところにおったのか」


 お断りの返事をしようとしたところ、誰かの声がそれを遮った。


「ルーシーさん、こんにちは。珍しいですね、こちらに来るのは」

「うむ、ちょいと冒険者ギルドのマスターと話をしておってのう」


 やってきたのは金髪が眩しい見目幼い少女。

 魔法師団の団長、ルーシーその人であった。


「マスターと話か。もしやこれと関係のあることか?」


 言いながらスレナが、ギルドマスターが(したた)めたという書状を見せる。


「ん? ……おお、そうそうこれじゃ」


 まじまじと書状を見つめるルーシーは内容を読み解くと、鷹揚に頷いて見せた。


 しかし、当然のようにこの三人は話をしてるな。

 やはり騎士団長、魔法師団長、最上位冒険者となれば面識も生まれるのだろうか。



「聞き覚えのある名前だったんでな。わしからも推薦しておいたぞ」

「は?」


 ルーシーィィィ!!


「冒険者ギルドのマスター、ブラックランクの冒険者、加えて魔法師団団長からの推薦ですか……これを断るのは難しいですね」

「え、ちょ」


 待って。アリューシア頑張って。

 主に俺の命と俺に命を預けるであろう新米冒険者の命が懸かってるんだ。


「決まりだな。ならば先生をしばし、こちらで預からせてもらうぞ」

「いいでしょう。騎士団の皆には私から説明しておきます」


 いいでしょう、じゃないんだよなァ~~~~!

ルーシー「ドヤァ……」

おっさん「キレっそ」


感想および誤字報告、ありがたく拝読しております。

仕事と執筆とで返信が返せておりませんが、何卒ご理解頂けますと幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 目が最大の武器だから暗いところは苦手とかそんな感じかな。
[良い点] やっぱ彼お人好しだなぁ。 [気になる点] 冒険者で薄ら感じてたけどモンスターとかいる世界か、そりゃある程度以上のモンスターだと技量だけでは死なないにしても倒せない千日手になり得るから自分は…
[良い点] 追い込み自体はいいよ。 こう、さぱっと気持ちよくやってくれるなら。 [気になる点] ダンジョンにいい思い出が無さそうな雰囲気。 [一言] おっ仕置き! おっ仕置き!
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