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4話「幾ら旦那様といえども使用人の私物を不当に取り上げるのは犯罪行為に該当致します!」

登場人物紹介

旦那様:ド田舎の領主。最近筋肉と体重が減った。

メイドさん:旦那様を愛して止まないメイドさん。最近料理のレパートリーが僅かに増えた。

マーサさん:メイド長。最近孫が増えた。

残機1LIFE0:この作品の作者。執筆スキルが緩やかにing形で減少中。作中にはこれっぽっちも登場しない。

「渡しなさい」


「いいえ、旦那の御命令といえども、この様な危険物の処理を旦那様にお任せする訳にはまいりません」


「いいから。渡しなさい」


「出来かねます」


「いいからその手に持っている媚薬の瓶を渡せぇい!」


「幾ら旦那様といえども使用人の私物を不当に取り上げるのは犯罪行為に該当致します!」


「俺に一服盛った人間(ヤツ)の台詞じゃないっ! くそぅ、こうなったら力づくにでも……」


「旦那様、それはセクシュアルハラスメントです」


「必死かっ!? 今の君とこの前セクハラに敏感になりすぎるなと言っていた君は本当に同一存在であってる!?」


「次回は法廷で御会い致しましょう」


「君に対しては権力とか通じなさそうだから本当にやめていただけませんかねぇ!?」


「ご安心下さい旦那様。この国の法律では軽犯罪は賠償金を払えば大概解決しますので、牢に入るという事は御座いません」


「心配してるのそこじゃないから、ね? マンドラゴラ印とか貴族がそういう事にしか使わないものなんだから、君には必要ないでしょう?」


「いえ、今夜にも旦那様のお誘いがあるかもしれませんので、うら若きメイドとしてこのような物の所持は必要かと」


「その状況はあり得ないし、あり得たとしても薬を使ってまで事をしようとは思わないよ?」


「御安心下さい旦那様、盛ります」


「やめて?」


「盛りつつお誘い致します」


「その状況で前回断ったよね?」


「……旦那様は無性愛者(アセクシュアル)……では御座いませんよね。何度か陰茎部の勃起も確認していますし」


「確認するなよ! 十九歳の淑女が真顔でそういう事を言うのはどうなんですかね!?」


「僭越ながら旦那様、媚薬を持ち歩き、常時雇用主との性行為を想像している女性は淑女には該当致しません」


「好意を抱いている異性に対して変態カミングアウトだと!? メンタルが強靭過ぎる!」


「私は淫乱なのでこの媚薬を手放す事は出来ませんっ!」


「謎理論やめなさいっ! うっかり俺の着替え中にドア開けちゃって赤面してたの忘れてないからね!」


「ううぅう……魔力回路起動! 風よ、私の願いに応え今この時理を変えて戴きたく存じますっ!」


「魔法詠唱!? おわぁっ!」


 /


「痛ッくはないなぁ……すっごい丁寧に浮遊させて追い出された……」


「旦那様、随分と大きな声を出されていたようですが、如何なさいましたか?」


「ああ、マーサ……使用人に貞操を狙われた時どういう対応をすべきなんだ?」


「顔が好みなら愛人として囲えば宜しいかと」


「いや、そういう事じゃなくてだね……」


「ならば解雇致しましょう。一介の使用人が雇用主に特別な感情を抱くなどあってはなりません。その感情を隠しきれないのならば業務に支障をきたす可能性も御座いますし、幸い人手は足りておりますからね」


「マーサ……!」


「これはこれは、失言で御座いました」


「そもそも、彼女をお茶汲み係に任命したのは君だろうに……」


「ええ、何か問題でも? 技量は十分、顔も器量も良い。愛想は……まあ追々身についてくるもので御座いましょう」


「それ以上に、信頼関係が大事なんじゃなかったのかい?」


「面接を通して、彼女は旦那様に害を与える存在ではないと判断しましたので」


「貞操を狙われたり一服盛られる事はこの上なき実害では?」


「旦那様を思っての行いでしょう。必要であれば、私から今後一切の旦那様に対しての性的接触をしないよう言いつけておきますが?」


「……いや、それはいいよ。無理に抑えつけた所で禍根が残るだろうからね。俺がキチンと断るのが一番良いだろう」


「畏まりました。では、私は静観している事に致しましょう」


「ああ、それで……あの、マーサさん? 彼女の説得をしてほしいんだけれども、何故に一歩下がったのかな?」


「私は静観していることに致しましょう」


「何で二回言ったの? ねぇ何で二回言ったの? 大事なことだから? 大事なことだからなの?」


「おや、無理に抑えつけた所で禍根が残っては意味が無いのでは?」


「数瞬前の自分に沈黙の呪いを掛けたいっ!」


「僭越ながら、旦那様は強化系の魔術しかお使いになられないのでは?」


「慣用句だよ。ハァ……行ってきますよっと」


「行ってらっしゃいませ。……時に旦那様」


「何か?」


「旦那様は彼女が来てからというもの、少しばかり張りが出てきましたねぇ」


「それは、今までが死んだ様だったと言いたいのかな?」


「おや、否定はなさらないのですね」


「どうかな。久しく対等な立場に立とうとしてくれる人間が居なかったから、楽しいのは確かかもしれないなぁ」


「左様でございますか」


「何をニマニマと……」


「子作りは計画的になさって下さいね」


「何を言ってるんですかマーサおばあさん?」


「今日の夕食はアオメガレイの姿煮に致しましょう」


「本当に申し訳ないマーサお姉さん。いや心からの謝罪を申し上げる。だからアオメガレイの姿煮だけは……! せめて、せめて焼き魚でっ……!」


 /


「……あー、オホン。ドア越しですまない、俺に少しばかり時間を貰えないだろうか」


「…………」


「そのー……だね、確かに君が何を持とうが俺の関与する所ではないし、君が持っている薬を無理に奪おうとした事は謝らなければならない事だ。それは本当に申し訳ない。二度とそんな事はしないと誓おう」


「……」


「ただそれでも、年長者のお節介だと思って言わせていただきたい。そういうものは然るべき時に然るべき場所で然るべき相手に使う物だと俺は思うんだ。君の事はそれなりに好意的な目で見ているけれど、だからといって俺は今は恋愛的な事を考える事は出来ないわけで、肉欲に溺れれる程に貴族的な思考も持っちゃあいない。だから……何と言うかな……」


「……旦那様」


「うぉっと! いきなりドアを開けられるとだね……いや、顔を見せてくれてありがとう……も、何かおかしいのか……?」


「申し訳御座いません旦那様。私、旦那様に虚言を述べてしまいました」


「きょ、虚言?」


「この私、四六時中旦那様との情事について考えているわけでは御座いません」


「ああ……うん。そうじゃなかったら身の危険を感じていたよ……今でも若干感じてるけど」


「無礼を承知で申し上げますが、私は旦那様のその長きに渡って武器を握ったが為に出来たマメだらけの手を指でなぞる事や、共に王都の中央市場にて夕食に使う野菜の目利きをする事や、旦那様が仮眠を取っていらっしゃる時にそっと毛布を掛け太陽の光を反射し揺らめいているかのように輝くその茶髪に静かに手を這わせながら白髪の数を数えたりする事等、まるで恋愛に(うつつ)を抜かしている生娘のする様な妄想を脳内で反芻(はんすう)している女で御座います」


「ま、真顔で堂々とそういう事を言われると此方まで恥ずかしくなるんですけれども?」


「然し、私の行動指針は旦那様に今現在よりも幸せになっていただくこと。旦那様が無理にこういった物を摂取する事を好まれないというのでしたら、潔く私は旦那様にお渡しいたしましょう」


「ああ、うん。わかっていただけたようで何より……」


「ですが、それを踏まえた上で私は旦那様には領主として、そして親としての幸せを掴み取っていただきたい。たとえ旦那様が望むまいが今以上の幸福を感じていただきたい。色恋が今は『まだ』できないというならば、その感情を芽生えさせるお手伝いをしたい、という所存で御座います。何卒御理解下さいませ」


「いや、あの……うん?」


「それでは、私は業務に戻らせていただきます。失礼致します」


「いやあの、ちょっと!? メイドさーん!? …………今は『もう』って意味だったんだけどなぁ。ていうか媚薬(コレ)どうしようか」

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青い鳥(ツッタカター)
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普段書いてるやつも良かったら読んでね!!!!(クソデカボイス)
誰か銭湯の男湯に美少女(ロボ)が居た時の正しい対処法を教えてくれ。
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