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最終話 エピローグ2 〜旅立ち〜

最終話です。

 戦いの疲れを取る為に今日はゆっくりと温泉に入りに行く。

 準備の為に周囲の木々を纏めて伐採してしまったので、道や温泉の周囲はなんとなく寂しい風景になってしまった。もう少し落ち着いたら必ずこの道や温泉周りは整備し直そう。


 温泉にはミコトとコトネ、意外な事にリエと4人で入る事になった。

 リエを一応誘った所、嫌々ながらも付いて行くと自分で言ったのだ。


 4人で温泉に向かう。

 脱衣所ではミコトが甲斐甲斐しく服を脱がしたりタオルを用意したりと俺の世話をする。


 そんなミコトを見てコトネは張り合って俺に身体を寄せてくる。

 おい、やめろ。そんなに近づくと色々アレがアレだ。


 リエはそんな俺達を見てはっきりと呆れた視線を向けてくる。だが、今までの様にトゲトゲしさは減り、その代わりに少しだけ羨望が混じっているように見えた。


「どうした?リエも混じるか?」


「そんな訳ねーだろ!ばかっ!」


 罵る言葉もなんとなく愛嬌を感じる。


 ここまで来てやっと俺は、戦いの終わりを実感して来た。


 みんなで湯船に浸かり一息つく。

 ミコトが樹液の水を用意してくれ、それを飲みながらのんびりと温泉を堪能する。


 この戦いは色々考えなきゃいけない事があった。勝利の方法もそうだし、村の今後も然りだ。

 ただそれ以上に、戦いの理由が俺には納得行かなかった。

 俺達の中ではウエノ側からの侵略という事になっているが、ウエノからは本当にそうだったのだろうか。

 ゴンザは紛れもなく悪い奴だったが、一緒に来ていた男達もそうだったのだろうか。


 誰かの家族であり、恋人であり、父親であったかも知れない。その人達にとっては掛け替えのない1人だったはずだ。

 その命を、鉄を巡る争いで無闇に散らしてしまった。やはり戦いは好きじゃない。国がない、統一する意思がないだけでこうも簡単に戦争に発展してしまうなんて許せるはずがない。


「コースケ様、如何されたんです?折角戦いに勝利したのに浮かない顔をしてますよ?」


「……そうか?そうなら済まない。いやな、今回の戦いの事で色々と考えがまとまらなくてな。死ななくていい人が沢山死んでしまった。こんな事を二度と起こさない為にどうしたらいいのかなって考えてたんだ」


「コースケ様は優しいね!コトネならそんな事思わないなー。自分の好きな人達が生きてる、その為に頑張る。それじゃダメなの?」


「勿論自分の好きな人達の為に頑張る、それは当たり前さ。でもウエノの人達の中でもお互い大切に思ってる人がいたんじゃないかなって思ってさ」


「そりゃそうだな。オレはもう家族はいないが、あの時暮らしていたウエノの町は良いところだった。あの人達が戦いに巻き込まれるのは嫌だな」


「と、そう言う元ウエノ側の人の意見もある。出来る事なら争いなんてない方がいいんだ。みんな笑顔で幸せな方がいいに決まってる」


 みんなしてウンウンと頷き合う。

 そこまで話しながら、自分の中で考えがまとまっていないので少し強引に切り上げる事にした。


「でも、こうしてみんなで入れるお風呂は幸せだ。こんな美少女達と暮らせてお風呂に入れる、最高の贅沢じゃないか!」


 俺の言葉にミコトとコトネはニコニコしながら抱きついてくる。リエは相変わらずの視線だが、嫌ではなさそうだ。


 こんな日常の一コマがとても嬉しい。俺達はみんな上機嫌で風呂を出て、追悼の会と銘打った宴会に向かう事にした。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 こうして大掛かりな宴会が催されるのは、この村にきた時に長老が開いてくれた歓迎会以来だ。


 今回は長老が亡くなってしまったので、副長老のユキムラが取り仕切っている。その横にダノンが立っている。シンゲンはキチンと後進を育てていたのだ。あの2人が力を合わせれば大抵の事は乗り越えられるだろう。




 宴会はダノンの大声で始まりを告げる。


「みんな!戦いお疲れ様だったな。無事にこうして顔を合わせられて本当に良かった。ここに戻って来れない奴らの分は、俺達が精一杯生きてこの村を守る事で供養にしよう。今日はアイツらの追悼式だ。しみったれた顔なんてしないで、目一杯飲んで歌って楽しんでくれ!!」


 実にダノンらしい挨拶だった。

 泣き腫らしていたご婦人も、元気のなかった女の子もしっかりと顔を上げ、微笑みながら頷いている。


 亡くなった方への哀悼は色々な方法があると思うが、これからも生きて行くという強い意思を感じられるダノンの様な方法も、人々を元気づけると言う意味で良いのかも知れない。



 それからの宴会は、中々に盛り上がった。

 まずはユキムラが長老を引き継ぐ発表があった。その発表の内容にご婦人達が嬌声を上げ、ユキムラ夫人を目指し群がっていった。


 ダノンは若い衆への景気づけと言い、突如腕相撲大会が開催された。ダノンに勝った者には弓技の指導とお手製の弓が贈られるという事で男連中はこぞって参加したが誰も勝つ事は出来なかった。

 勿論俺も参加したが、手を組んだ瞬間に負けを確信したよ。


 ミコトもコトネもリエもリリも、普段飲まないお酒を飲んで陽気に踊っていた。

 酔っ払ったリエが風の妖精を少し暴走させてしまい、男にとっては眼福な事故があった事は間違いない。




 宴は深夜まで続き、流れで解散となった。

 俺達はだいぶ遅くまで居残っていたが、飲み過ぎた事もあり皆フラフラになりながら家に辿り着く。

 個人の部屋はあるが、そのまま広間の床に倒れ込む。


 ミコトもコトネもリエも、俺の腕の中で寝息を立てている。

 この世界に来て、この村に辿り着いてまだ1ヶ月足らず。女の子に囲まれる事も命懸けの戦いをする事も想像していなかった。


 凄く大変だった。前の世界にいた時の大変さとは比べ物にならない大変さだ。ただ、自分が頑張ればその分報われるのは間違いない。


 俺は両隣の腕の中にいる顔を見て自然と微笑む。

 大変な思いをして守れたモノがここにある。これは自分で誇っていいんじゃないかな。

 でも、一つだけ気になってる事がある。

 彼女達の幸せは、望む形はどこにあるのか。それだけはちゃんと聞いておかないとなって、そんな事を考えながら眠りについた。



 ◆◆◆◆◆◆◆




 翌朝、広間の床で目が覚めた俺は寝坊している三人娘の姿が目に入る。

 夜中に誰かが持ってきたのか、皆掛布団だけは掛けていた。さあ果たして俺は誰の布団の中で寝ていたのか。



 3人を起こさない様にそっと抜け出し、村の広場へ向かう。

 広場では既に炊き出しを行っており、俺はどうやら最後尾のあたりらしい。昨日あんなに遅くまではしゃいでいたのに、朝早くからの炊き出しをしている人達には頭が下がる思いだ。


 給仕の人から4人分の朝食を受け取り家に帰る。

 予想通りだが先に目を覚ましていたのはミコトだ。

 既に身嗜みを整え、残りの2人も起こしにかかっている。



「ミコト、おはよう」


「コースケ様、おはようございます。昨晩は激しかったですね……!」


 朝からなんの話だ、ミコトさん!俺はまさか意識のないうちにミコトに対して粗相をしてしまったのか……!?


「お姉、言葉はちゃんと選びなよ。コースケ様、おはよ。激しかったのはコースケ様のイビキだよ。コースケ様が思ってる変な事はなかったから大丈夫。したくなったらコトネの部屋にこっそりきてね」


 とびきりの笑顔で答え合わせをしてくれたコトネだが、どうやら俺が答えを間違えない様に講師役も買ってくれるそうだ。やめてくれ。


「朝からお前達はなんて会話をしているんだ……」


 プルプルと震えながらリエが起き上がる。


「リエ、おはよう。ごめんなうるさくして。夜中俺のイビキはうるさかったか?」


「いや、そんな事はなかったと思うが……。オレは寝たら起きないたちなのでな。記憶にない」



 なんかリエにまで気を使われてしまった気がする。大人として申し訳ないな。

 気を取り直して全員で朝食を取る。



「なあ、ミコト、それにみんな。俺、皆に聞いておかないといけない事があるんだ」


 全員が俺を見ながら首を傾げる。ミコトはナンをちぎりながら、コトネはもっしゃもっしゃと食べながら、リエはスープを飲みながら俺の事を見返す。



「順番でいいから答えて欲しいんだけど、あのさ。この村での幸せって何だ?ミコトの、コトネの、リエの幸せって何だ?どうすれば皆幸せになれると思う?」



 俺の言葉にそれぞれの反応が返ってくる。

 ミコトは決意を固めた眼で、コトネは笑いを堪えながら、リエはこめかみに指を当てて困った仕草だ。



「ぷっ、ぷぷぷ!こ、コースケ様が真面目な顔で何を言うのかと思えば…!じゃあコトネが先に答えるね!

 この村の幸せは良く分かんないけど、コトネの幸せは今ここにいる皆で死ぬまでずっと一緒にいる事かな。コトネはお姉もリエチーも大好き。それで、コースケ様も大好き。だからずっとみんなで一緒に居たい。それがコトネの幸せ!あ、後付け加えるなら、コースケ様との子供も欲しいかな!はい、次リエチー!」


とんでもない爆弾発言を混ぜてきたがスルーしてリエを見る。


「お、オレかよ!オレは……、正直幸せって良く分かんない。昔の父さんや母さんがいた時の生活は間違いなく幸せだったけど、その形は崩れてしまって二度と返ってこない。だから他の幸せの形を知らなきゃ、見つけなきゃならないんだと思う。でも、あそこでコースケ達に助けられて、ここで食事なんて出来てる。これも凄く幸せなんだと思う。コースケ、ありがとう」


 ちょっとなんとなく予想と違った回答が来て、俺の方が戸惑ってしまう。最後にミコトの回答を聞く。



「私の幸せは、それは村がどこに襲われる事もなく、村の皆が健康で、笑顔でいられる事。これが村の幸せであり私の幸せです。ずっとそうだと思っていました」


「過去形なのか?」


「そうです。私はコースケ様に出会って変わりました。変えられてしまいました。それは私の価値観です。私は今まで個を捨て公の為に生きてきたつもりです!でもそれは間違いでした!私は私の為に生きるのです!」


 なるほど、ミコトが少しアホの娘になってしまった。


「そして、私の為に生きるという事。それはコースケ様と生涯を添い遂げる事です!コースケ様、この場を借りてお伝え致します。私はコースケ様を愛しております。どうぞ、その生涯の伴侶として下さいませ」



 突然の愛の告白に俺は固まる。よく見ればコトネもリエも固まっている。ミコトは俺を見つめてニコニコしている。とても可愛い。


「コースケ様!お返事は!?」


「う、うん……、ありがとう。お、俺もミコトの事は好きだよ……」


 押し切られる形でミコトの告白を受け入れてしまった。そうじゃないのに!!


「み、みんな、ありがとう。大体分かった。みんなが求める幸せには、今の生活の改善や変更なんかは入ってなかったのが意外だったな」


 小踊りしてるミコトを座らせ話を元に戻す。

 俺は生活を豊かにするにはインフラ整備なんかが必須だと思っていたが、こと幸せになる為にはあまり関係のないことらしい。



「コースケ様、偉そうに言わせて貰うけど、幸せの形なんて人それぞれなんだから、形に嵌めようとしてみても難しいと思うよ?」


「そうだな。コトネが思っている幸せとオレが求めるべき幸せとは違うと思う。コースケはどんな事が幸せだと思ってるんだ?」


「俺は……。村が豊かになれば幸せだと思ってた。家が大きくなり、色んな食べ物が食べられて、水なんかも汲みに行く手間がなくなればいいなって思ってた」


「コースケ様、それは幸せじゃなくて便利というだけです。便利と幸せは必ずしも一緒ではないんですよ?」


 みんなに諭されてしまった。そして、諭された事で俺の中で一つの決意が固まった。


「コースケ、どうしたんだ?難しい顔をして」


「いや、やっぱりと言うかなんと言うか、俺の気持ちが固まったなーって思ってさ」


「……じゃあ私の事を!」


「うんうん、そうじゃないよミコト。それもいつか考えるけど、俺が思ってるのはそういう事じゃないんだ。俺は旅に出ようと思っている」


「「「たび!?」」」


 3人揃って聞いてくる。そりゃそうか、なんも説明してないもんな。


「うん。俺はやっぱりこの世界の事を全然知らないなってずっと思ってた。それが今回ウエノの事で凄く感じたんだ。色んな人がいて色んな考えがある。幸せの形も人それぞれだ。だから俺は出来るだけ多くの形を知りたい。その為に旅に出ようと思ってる」


 俺の言葉に3人ともすぐには返事を返せないようだ。暫くするとコトネが口を開く。


「コースケ様……。その旅、コトネも連れて行って!コースケ様と離れるなんて嫌!」


「オレもだ!頼む、コースケ!オレは皆にずっと助けられてばかりだ。だから色々見たり聞いたりしてオレに出来る事を探したい!」



 コトネとリエがほぼ2人同じタイミングで頭を下げてくる。チラッとミコトを見ると、難しい顔をしている。


「2人とも、まだ旅は何も決まってない。少なくとも村の体制を確立するまでは出るつもりはないよ。だからそれまでゆっくりと考えておいてくれればいい。連れて行くのは嫌とか言うつもりはない」


「その、その旅!私もお供させて下さい!先程伝えた通り、私はコースケ様と生涯を添い遂げる覚悟です。行かない訳には参りません!」



 みんなの反応は何となく予想していた通りだ。

 でも正直に嬉しい。俺の為…かどうかは分からないが、それでも一緒に旅をしたいと言ってくれている。


 俺はこの世界に来て日は短い。

 それでも、こうして信頼出来る仲間が何人も出来た。自惚れていいのであれば、これは俺が残せた功績だ。

 せめて彼女達の期待を裏切らない様に、俺は努力し続けなくてはならないな。



 こうして俺達の旅はほぼ決定した。


 社畜だった俺は、あの時からは想像もつかない満ち足りた生活を手に入れる事が出来たのだ。


 これからこの世界を変えられるかは分からないが、変えるべく行動し続ける事は出来る。

 この仲間達がいればなんでも出来るはずだ。



 食卓には笑顔と笑い声がいつまでも絶えず響いていた。

ここまでお読みくださいまして本当にありがとうございました!


無事に完結させる事が出来ました。


初めての投稿で自身で納得行かない部分も多々ありましたが、それでも完結させられたのは読者の皆様の応援によるものです。


本当に感謝感謝です。


拙いお話ですが、指摘や感想など頂けると次回作への糧と出来ますので、是非お願い出来ればと思っております。


また、いつか自分の文章力自信がついたら、この物語を進めていきたいなとも思っております。



今後とも宜しくお願い致します。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



読者の皆さんのブクマや評価が、執筆のモチベーションとなりますので、お手数をおかけしますがぜひお願いします。

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