第60話 接戦
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決戦の夜明けを間も無く迎える。
俺達は日の出と共に総攻撃を仕掛ける予定だ。
防壁の上に配備したバリスタ、その敵方3台を一斉に斉射して相手の意表を突く。
狙いは相手の馬車だ。馬車の中で寝泊まりしている人間や、積んである物資をまずは壊滅させる。
当然反撃もあるだろうが、生半可な攻撃ではこの防壁はびくともしないはずだ。
今迄準備してきた全てを信じてその時を待つ。
ゆっくりと朝日が地平線を照らす。
その瞬間、ダノンが簡単に、力強く号令を発する。
「ーーーーってぇっ!!」
ダノンの号令に合わせてバリスタを構えていた者が引き金を引く。
矢の先には火炎瓶が括り付けられており、即席の焼夷弾になっている。
引き金が引かれると同時にミコト、コトネ、リエの3人が祈りを捧げ精霊を使役する。すると緑色の光がバリスタ全体を柔らかく包む。
バリスタから放たれた特大の焼夷弾は比喩ではなく音をさせずに飛んでいく。
緩やかな放物線を描き3本の矢はウエノ陣営を襲った。
音もなく飛んだ矢は、ウエノ陣営の2台の馬車に突き立った。矢が当たった瞬間にウエノの馬車は大きな火に包まれ、中から慌てて男達が這いずり出す。
「だ、誰か助けてぇええぇぇぇ!」
這いずり出てきた男達が口々に悲鳴をあげる。
その脇でゴンザは男達に檄を飛ばしていた。
「おい、お前ら!こんなもんに惑わされんなよ!よく見ればちゃんと対処出来る!あんな所から打った矢なぞ大した威力はないわい!」
ゴンザはこちらから打った第2射、第3射の矢をいとも簡単に打ち払う。
やはりこの距離から致命傷を与えるのは難しい様だ。
ウエノ側も慌てて弓を構えている。以前俺の足を貫いた物だろう。
ウエノ側から放たれた矢はこちらの陣営まで届いたが、やはりこちらの矢と同様で大した威力はなかった。バリスタに備え付けた盾の表面を撫でるだけで、突き立つ事はない。
しかしあちらは数が多い。
無数に飛んでくる矢は盾で防ぐ事は出来るが、生身の体で受けたら簡単に貫通されてしまう。
俺達は全員盾の後ろに隠れてあちらの攻撃の手が緩まるのを待つ。
矢の雨が止んだ時、バリスタに番えた矢を放つ。
最初と同様焼夷弾にした。即席焼夷弾を集団の真ん中に落ちる様に調整する。
ゴンザがいくつかを払い落とすが、落とせなかった分が集団へ襲いかかる。
ウエノは統制の取れた戦いをしていた。それが仇となり、きちっと整列していた集団へ打撃を与える。
落ちた瞬間に精霊の風の力を使い火を大きく拡散させる。
これの繰り返しで、ウエノの集団は見る見るうちに集団として機能しなくなっていった。
「クソったれがぁ!!あいつら、チンケなゴミ虫のくせに俺様に楯突きやがってぇええぇぇぇ!!絶対に全員ぶっ殺してやる!!」
ゴンザが怒りを振り撒いてこちらに歩を進めてくる。
その体には炎を纏い、周りの味方にも文字通り飛び火していた。
馬車を引いていた一頭の手綱を取り乗馬する。
そのままイリヤの村に全速力で突っ込んで来た。
ゴンザの後ろから追随する者もいたが、そんな者には見向きもせずに単身突撃してくる。いかに強力な力を持つ者であっても冷静さを失ったら足元を掬う事は容易い。
俺達は冷静に後ろから追いかけて来ている騎馬を撃ち落とす。騎手の居なくなった馬は踵を返し居なくなっていった。
そんな事にも気付かずゴンザは突進してくる。
時折手から火の矢を放つが防壁を崩す程の力は無い。
防壁の手前100メートル程度の所で馬を止め、こちらに向けて怒声を浴びせてくる。
「おいっ、イリヤのゴミ共がぁ!!よくも俺様をコケにしてくれたなぁ!!お前らには後悔させる暇も与えんからなぁ!!消し炭にしてくれる!!」
力を集中させているのだろう。ゴンザの周りを取り巻く空気が陽炎を立ち昇らせる。竜巻の様に赤い尾を持つ光がグルグルとゴンザの周りに集まり一つの塊へと形を変えて行く。
「ミコト、コトネ、リエ!来るぞ!」
俺達はこれを想定していた。むしろ期待していた。
ゴンザが怒り狂う事を。怒りに任せて特大の火球を放つ事を。
アレはゴンザの切り札のはずだ。そうそう何発も撃てるものではない。アレさえ防ぎ切ればこちらが相当優位になる。
「くぅぅらぁえええぇぇぇえ!!!」
ゴンザが雄叫びと共に特大の火球を放つ。両手を天に翳し作り上げた火球は凄まじい熱量を放つ。
その大きさは初めて見た時の比ではなく、パッと見ただけで30メートルはありそうだ。
「こここここ、コースケさまぁ!アレ防げるんですかぁぁぁ!!」
「わからんっ!!でもアレを止めなきゃイリヤは終わりだぞぉぉぉ!!」
珍しくミコトも慌てながら確認してくる。
俺はコトネとリエも近くに呼び寄せ精霊使いを3人並べる。
「お前達!正面からアレを防ぐのは無理だ!風を横から吹かせてあの火球の軌道をずらすんだ!」
俺の言葉に三者三様に対応をする。
すると、精霊達が起こした風は右に左に吹き荒れ、火球にぶつかっては灼熱の竜巻となり、その余波が俺達の陣営まで辿り着く。
「あつ、熱い!熱いって!お前らちょっとやめろ!そんな無秩序に力を!熱いっ!」
一つ一つは強い力を持った風だが、てんでんばらばらな方向へお互い風を吹かせてしまうと、その力は相殺され且つ火球の軌道を変えるには至らない。
その事に気付いた3人は風の方向を合わせる。
出来る事なら来た方向、ウエノ陣営に押し返せれば良いが、正面から力をぶつける事はリスクが大きい。
なので山側から風を吹かせ、草原方面へ抜けるように誘導して行く。
「よし、これで火球は防げただろう!よしっ、よし!」
俺はこの戦いの勝利を早くも感じていたが、不意にその感覚に冷水を浴びせられる。
敵方に近い防壁上の三ヶ所のバリスタ。その内の二つが火の玉に襲われている。
ゴンザの火球には比べるべくもないが、風の力も加わったのか、火の玉が火の嵐の様になりバリスタ付近にいた村人達を焼いて行く。
火の玉の出所はウエノ陣営、その中の生き残りの精霊使いだと思われる。
ゴンザやリエなどに比べれば強力なモノではないが、一般人を襲うには有り余る力が牙を剥く。
くそっ、折角優位に持ち込めた戦況がまた傾いてしまう。
攻撃を受けたバリスタ周辺は黒焦げになった村人と、未だに火がついたままのたうち回る者達が踠いており、直ぐに手を出せる状況ではなかった。
怪我人の救出はユキムラに任せ、引き続き俺達はゴンザへの対応にあたる。
振り向けばゴンザの放った火球はミコト達の踏ん張りにより、その方向を大きく左方向へと変えていた。
確実に避ける為に後一息という所で、リエが防壁上の惨状に気付いた。
「こなくそっ!しゃらくせえぇぇぇえぇぇ!!」
リエの魂の叫びは風の妖精の力を増幅させる。
強まった風は豪風となり火球を逸らすだけに留まらず、その向きを反転させウエノ方面へとその矛先を向けさせた。
空気を焼く音を立てながら特大の火球はゴンザの元へ勢いを付けて戻って行く。
ゴンザの元に着いた火球は勢いをそのままにウエノの陣営まで滑りながら辿り着く。辺りにはウエノからの叫び声しか聞こえない。
どちらの陣営も一連の出来事がもたらした事の重大さに身動きを取れずにいた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
物語は間も無く終盤ですので、完結までお付き合いの程宜しくお願いします。
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