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第6話 温泉

 ミコトに案内された温泉は、なるほどこれは絶景だった。


 村人用の温泉から2段程高い場所に位置しており、ここからだと村人用の温泉を見る事が出来る。

 この場所からは、まだ日が高いおかげもあって遠くまでよく見渡せる。

 目の前に広がる草原が風に吹かれて波を打つ様子は幻想的だ。夕日に照らされながら見たらまた違った様子も見られるだろう。

 今度是非見に来よう。


「気に入って頂けましたか? 私も何回かしか見たことがないですが、一度見たら忘れられない光景です。村の中での一番のお気に入りなんです」


「そうなんだ。でもその気持ちはよくわかるよ。確かに素晴らしい光景だ。でもミコトちゃんはいつも見てるんじゃないの?大切なお客様がきたらここに連れて案内するんでしょ?」


「……ミコトちゃん。え、あっ、はい! ええとですね、まず基本的にこの村にはお客様は滅多に来ないですよ。一年に一回あるかないかです。

 それでもたまにいらっしゃるお客様はシンゲン様がおもてなししますので、私がこの温泉に連れてきた方はコースケ様が初めてです。

なので私は父親以外の男の人とお風呂に入るのは初めてですよ!」


 なんか+αな情報も入ってきたな。大切な事だからもちろん記録しておくけど。

 俺も33年生きてきて一緒にお風呂に入ったのは君が初めてだよ!(プロを除く)


「そうなんだ。さっきの感じだと、この温泉に案内するのも慣れてたみたいだったけど。そうでもないの?」


「全然慣れてなんかないですよ!温泉のご案内を命じられたのは私は初めてです」


 そういいながらミコトは手桶にお湯を汲み、俺の足元に優しくかけてくれた。


「さあ、コースケ様。お背中流しますね。そちらの椅子に座ってください」


 石で作られた椅子に腰をかけるとミコトが桶でお湯をかけながらタオルで体を擦ってくる。


 ああ、とても気持ちいい。気持ちよすぎて手が滑ってしまいそうだ。


 俺の心の声に気づいた訳ではないだろうが、ミコトが赤い顔でモジモジしながら声をかけてきた。


「コースケ様、も、申し訳ありませんが恥ずかしいので前はご自分でお願い出来ますか・・?」


 おっといけない。意識が飛ぶところだった。

 ええー。前もやってほしいなー。おもてなしなのに裏しかやって貰ってないなー。ああ、表なしだから裏だけか。違うか。


「もちろん、俺も恥ずかしいから自分でやろうと思ってるよ・・」


 具体的に今は見せられない状態になっている場所もあるし。


 ミコトは頷くと俺から少し離れた場所にしゃがみ、自分の体にゆっくりとお湯をかけ始めた。


 俺に背を向け、巻いていたタオルを解くと、素晴らしいくびれや意外なほどに女性らしいお尻へのラインが丸見えである。

 傷一つない肌は玉のようで、陽の光を浴びてキラキラと輝いてすら見える。


 そんなミコトは顔を赤らめながら肩越しにこちらを向き


「あの、コースケ様、恥ずかしいのでそんなに見ないでください・・・ね?」


 ですって。もちろん俺は全力で顔を背けました。


 俺が湯船に浸かると、タオルを巻き直したミコトも隣に入ってくる。


「お湯加減はいかがですか?ここの温泉は少しぬるめなのでついつい長風呂してしまうんですよね。冬なんかは中々出られません」


「うん、俺にもちょうどいいかな。熱い風呂は苦手だから、少しぬるい方が好きかも知れない。」


 そんな会話をしながら俺とミコトは世間話をする。


 本当はこの世界の事やミコトの仕事の事など色々聞きたいが、俺はまだ手紙の内容を長老やミコトに伝えていない。


 彼らこそ、聞きたいこともお願いしたいことも本当は山ほどあるのだろう。

 そんな彼らが気を遣ってくれているのに、俺だけ自分の気になる事を聞くような事は出来ない。

 俺は空気を読める男だからな!


「ミコトちゃんは何歳なの?」


「コースケ様、女性に歳を聞くのはNGなんですよ?」


 空気は読めていなかったみたいだ。


「いやぁ、ごめん・・。ミコトちゃんくらい若い子なら歳なんて聞かれても構わないものかと思ってさ」


「確かにコースケ様よりは若いと思いますが、そんなに若くないですよ。私っていくつに見えますか?」


「若くないっていくつからが該当するのかわからないけど、俺はミコトちゃんは15.6歳かなって思った」


「ふふ、若いと言うよりはその歳だと子供ですね。私は今年18歳になりました。条例とか色々ありますし」


「18歳もおじさんからみたらまだまだ子供だよ。羨ましいなぁ、18歳。その頃の俺だったら何でも出来たかも知れない」


「コースケ様もお若いのではないですか?失礼ですが今おいくつなのですか?」


「それこそ、俺はいくつに見えるか聞いてみたいものだね」


「私あまりそういうのは得意ではないのですが、正直に言えば25歳前後かと思っております」


「はは、ミコトちゃん嬉しいことを言ってくれるね。俺は実際は君の倍くらいの年齢だよ。今年で33歳だ」


「ええっ、そうなんですか? 25歳って実は少し思ったより上に言ったんですけど・・。コースケ様、見た目が本当にお若いです。うちの村の30歳過ぎの人はもっとこう、髭を蓄えて熊の様な見た目なので全然コースケ様と違います」


「村の男の人たちは苦労してるから顔も体も逞しく、厳ついんじゃないかな。俺はそんなに大変な思いをしていないから、きっとその差が見た目に出ているのかも知れないね。」


「そういうものなのでしょうか。確かにコースケ様は村の男の人のように体や顔に傷があったり、筋骨逞しい訳ではありませんでしたが。コースケ様は今迄どの様な生活をされてたのですか?」


 結構核心を突いてくるね。

 しかも意外と良く俺の身体を観察していたみたいだ。いやん。


 さあなんて答えるべきか。


「俺は多分、ここからとても遠い場所で生きていたんだ。そこには大きな街や国があって、人々は豊かに暮らしていたよ。俺はそこで、長老様みたいな人の下で仕事をしていたよ」


「大きな街や国ですか。そこでどの様な仕事をされていたのですか?」


「そうだね、ものを書いたり、木や石を必要としている人に届けたり。自分で届けるんじゃなくて、いつ、どこに、どれだけの数の物を届けるか指示を出していたんだ。だから自分で重たい物を持ったりはしなかったね。あんまり筋肉がないのはそのせいだろうなぁ」


「やはりコースケ様は偉い方なのですね! 文字を書けたり人に指示を出すなんて凄いです!」


「いやいや、そんな人は沢山いたよ。俺より偉い人なんて」


「そうなのですか? それであればそのコースケ様のいらっしゃった街は偉い人で溢れているのですね。それに物を欲している人に必要な物を届けるというなんて。慈愛の心に満ち溢れています」


「確かに偉い人は沢山いたけど、別に慈愛の心で商品を届けていた訳じゃないよ。商品を届ける代わりに対価を貰っていたし。あくまでも商売だよ」


「商売・・?ですか。すみません、商売という事があまり理解出来ません。その物を届ける代わりにコースケ様は何を対価として得ていたのですか?」


「お金だよ。って、そうか、今村ではお金を使ってないのかな。イリヤと他の村や町とは物々交換をしてるの?」


「そうですね、この村では狩猟を主に行なっているので、その狩猟で取れた動物の肉や革、後はダモの木から取れる樹液を他の村の野菜や衣類と交換して頂いてますよ。その、お金とはなんでしょうか?」


 そうか、物々交換の村だと貨幣の説明が難しいな。

というか国がないから貨幣が発行出来ないのか。


「俺たちは商品を届けて、その代わりにお金と言うものを貰っていたんだ。お金というものは価値のとても高いもので、それを持っていれば何にでも交換出来たんだ。」


「それは凄いものですね。何にでも交換出来たのですか?」


「そうだよ。肉にでも服にでもなんでも。そしてお金は嵩張らず腐ったりもしない。だから、いつでもどこでも、そのお金を持っていれば困らなかった。」


「なるほど、それはとても便利そうです。価値が高いとおっしゃいましたが、どれ程の価値だったのでしょう?」


「じゃあ逆に質問なんだけど、この村で一番価値のあるものは何?」


「それは勿論、この村の村人たちです。彼らの命には何物にも代え難い価値があります」


 しまった。彼女は巫女だった。

 俺の俗物みたいな価値観は通用しなかった。


「そ、そうだね。それは勿論だね。じゃあ村人の次に価値のあるものを考えてくれる?例えば馬とか羊とか、その他のものとか」


「そうですねぇ・・。お馬さんも羊さんもとても有用な動物ですからね。それと代えられるのは、シンゲン様のお持ちになってる水晶か、後は鉄ですかね」


「鉄!鉄なんてあるんだ」


「コースケ様は鉄をご存知ですか?ええ、鉄がございます。うちの村には極僅かですけどね。コースケ様は私が乗っていた馬車を覚えていらっしゃいますか?」


「ああもちろんだ。とても可愛い子が降りてきたなって思ったからね」


「そんな、妖精みたいに可愛いだなんて。うふふ。ありがとうございます。そう、私が乗っていた馬車の、車軸の部分が鉄で作られています」


 そんな修飾語をつけた覚えはないが、間違ってはいない。

 妖精みたいに可愛いよ!


「そうなんだ、でもどうやって鉄を手に入れたの?」


「何年も前ですが、二つ隣の町のウエノから祭事の依頼がありました。その時のお礼にという事で頂いたという事です」


「ウエノねぇ・・。じゃあここはイリヤで間違いなさそうだな。あのオッサンが間違えてここに送った訳じゃないんだな」


「どうされました?ここは間違いなくイリヤですよ?」


「いや、ごめん。独り言。それで、そのウエノの町はどうやって鉄を手に入れたの?」


「町の秘密という事で詳しくは教えてくれないみたいですが、どうやら町の下に大規模な洞窟があるそうで、そこから産出されるとは聞いた事があります」


 そりゃ、多分だけど地下鉄だ。

 俺の知ってる上野だったら銀座線・日比谷線、ちょっと離れて京成線がある。


 地下鉄の壁には大量の鉄筋が入ってるからな。でもそれだったら入谷も日比谷線が走ってた筈だ。

 ここも鉄が取れるんじゃないだろうか。



「そうか、なんとなく理解できた。この村では鉄がとても価値のあるものなんだね。じゃあお金の話に戻るけど、例えば鉄が山ほどあれば、野菜や服とか色んな物に交換してくれるよね?」


「そうですね。僅かな鉄で村人全員の野菜が手に入ると思います」


「お金というのはそれと一緒でとても便利だった。だからお金をみんな欲しがったんだ。俺は木や石を届けて、その代わりにお金を貰っていたんだよ。」


「はぇー、よく考えられてるのですねぇ。少し変則的な物々交換という事で宜しいのでしょうか?私には難しくて騙されてしまいそうです。」


 そうだね、お金のやり取りは難しいね。

 おじさんも昨日騙されてきたばかりだよ。


「ミコトちゃんのおかげで少しはこの村とかの事がわかったよ。ありがとう。さあ、長話してるとのぼせちゃうからそろそろ出ようか」


「はい、そうですね。色々お話しして下さってありがとうございます。また色々聞かせてくださいね」


 そう言って二人で湯船を出た。



 俺が体を拭いているとミコトちゃんがコップを片手に近寄ってきて話しかけてくる。


「お風呂上がりにこのダモの水を是非飲んでください。お風呂では汗もかきますからね。それにこれをお風呂上がりに飲むとお肌もツルツルになるんですよ」


 そう言いながら俺のコップにダモの樹液水を注いでくれるミコトちゃんは、俺との身長差もあり胸元が大変な事になっている。


 いやはや。若いのに発育がよろしい事で。

 不意打ちの事態に体の一部がちょっとだけ反応してしまった。



「、、、、っ!」


 そしてついにミコトは気づいてしまったようだ、俺が紳士であることに。

 顔を真っ赤にして岩陰に隠れてしまった。


「すすすす、すいません!変なものを見せてしまって!あの、お着替えはそこの棚にありますので!風邪を引かないようにちゃんと体を拭いてくださいね!」


 そういうと岩陰からぽーんと新しいタオルが投げ込まれてきた。変なものを見せてしまったのは俺なので居た堪れない気持ちになった。


「ミコトちゃん、ごめんなさい。そんな気はなかったんです。ホント申し訳ない。俺はさっさと着替えて出て行くから、ミコトちゃんもちゃんと体拭いて風邪引かないようにしてね」


 そう言って俺は着替えを済ませ、外でミコトが出てくるのを待つのであった。


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