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第58話 外道

 事態は膠着してしまった。

 

 あちらには余力もあるし、仲間もいる。

 こちらは男4人に女1人だ。そのうちの2人は怪我をしていて動ける状態ではない。

 ここは退きたいが退かせてくれるだろうか。


 その時、今まで石の様に無口だったシンゲンが口を開く。


「ゴンザ殿。こちらに非礼があったのなら詫びよう。だからここはダノンを治療させてくれぬか。彼はまだ若い。これからこの村を背負って立つ男なのじゃ。ここで命を落とすのは忍びなくてのう。こちらから出来る譲歩はする。だからここはこの爺に免じて矛を収めてはくれぬだろうか」


「ほう、この状況でも冷静なんだな。流石伊達に長老を名乗っているだけはある。よし、わかった。お前の一番大切な物を譲り渡すのであればここは素直に退いてやらんでもない」


 ゴンザのこの言葉にお付きの男達が一瞬目を剥く。段取りと違うという事か? ただ誰も口に出して反論はせずにゴンザに主導権を渡している。


「……一番大切な物とな。わかった、それをゴンザ殿に譲るのでダノンの治療をさせて欲しい。」


 シンゲンはゴンザの条件を飲みゴンザもそれに頷く。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆



 ユキムラはダノンを連れてコトネの元へ急ぐ。俺は警戒しながらもゴンザ達を村の入り口まで連れて行った。


「さあてよう、ここの長老さんは一体何をくれるんだろうなぁ。おい小僧、知ってるか?」


「小僧と言われる程の年齢じゃない。それに俺はこの村の事は詳しくない。長老殿が何を持ってくるかは知らん」


  「おい小僧。口の聞き方には気を付けろよ?俺がその気になりゃこんな村一瞬で消し炭だからな?」


 はったりとは分かっていても俺はゴンザの言葉に一瞬動揺してしまう。それを悟られまいと踏ん張っては見たものの、恐らく奴には気付かれているだろう。


  こんなにも経験の差が出るものなのか。

 奴はこんな事は嫌というほど場数を踏んでいるのだろう。それに対して俺はほぼ初めてだ。


  悔しい。こんな奴に良い様にされて何一つ覆せない自分に腹が立つ。

 俺のスキルなんて何の役にも立たなかった。村を囲った防壁も、その上に据えたバリスタも、護身用に持たせた鉄製の武器も何もかもだ!


 俺は怒りが抑えきれなかった。自分に対しての怒りだ。手に痕が付く程強く握りしめる。 その握った手には何も大切な物は掴めていなかった。


「ゴンザ殿、お待たせしたな。これがわしの、強いてはこの村での一番大切な物じゃ」


 横合いからシンゲンが現れる。シンゲンが持っていたのは両拳程の大きさの水晶だ。

 ミコトから聞いてはいたが、本物を見るのは初めてだ。


「ほう、綺麗な水晶だな。だが、ただの水晶であればこんなもんいらねえぞ?何か特別な力があんだろうな?」


「もちろんじゃ。この水晶は先詠みの水晶と言ってな。使用者の力量に寄ってその力の効力を変える。力のあるものが使えば遥か先の未来まで見通す事が出来ると言われておる」


「へえ、おもしれえじゃねえか。おい、爺はどこまで先がみえんだよ」


「わしは力なぞ持っておらんからな。大きな災いや飢饉が起きぬよう見ておったが、何も感じられぬ」


「そうかよ。じゃあ俺が見てやろう。ほれ、貸してみろ」


  ゴンザはシンゲンの手から無理矢理水晶を奪い取ると顔の前に翳してみる。


「使い方がわかんねえがどうやんだこれ。こうか?」


目の前に翳した水晶にゴンザが生命の力を込める。すると水晶がぽうっと発光し、ゴンザの目には何か映像が映し出されているようだ。


「……何か見えたか。ならばそれが本物であると証明されたであろう。であればそれを持ち、この村から出て行ってくれ」


「……おう、はっきりと見えたぜ。こいつは本物だ。じゃあ置き土産に何が見えたかお前らにも見せてやろう。爺、こっちにこい」


 シンゲンが訝しげな顔をしながらもゴンザの横に並び立つ。 ゴンザは持っている水晶をシンゲンの顔の横に高さを合わせ、その映像を見せようとする。



 次の瞬間、俺に目に映った映像はシンゲンの腹に人の頭が入りそうなくらいの大きな穴が開いている様子だった。


 穴の周囲は黒く炭になり、辺りには肉が焼ける臭いが立ち込める。 シンゲンはその場に音もなく倒れこむ。

ゴンザの右手には、今まさに放ったであろう火球の残滓である煙が立ち昇っている。



「て、てめえぇぇぇぇ!!」


 状況を理解した俺は頭が一瞬で沸騰し、形振り構わずゴンザに向かって殴りかかる。

 しかし、ゴンザに辿り着く一歩手前でお付きの男達に囲まれ、そのまま地面に組み伏せられる。


「あーっはっはっははーー!こいつは本物だぜぇ!なんせ俺がこれからこの爺を殺そうと思ってたら全く同じ映像が流れるんだもんなぁ。すげえ物を手に入れた、まさかこんなちんけな村にこんな逸物があるなんてよぉ。来てみるもんだぜ」


「お前、よくも!よくも長老殿を!!」


「あーあ、うっせえうっせえ。自分じゃ何も出来ないガキが吠えてんじゃねえよ。黙ってそこで大人しくしてろ。ただまぁ、今回は死んだ爺に免じて退いてやるよ。この水晶をしまっておきてえから1日だけ時間をやるよ。その間に愛しいママとのお別れ済ませておくんだぜ、坊主よ。明日また来て、今度こそこの村を俺のものにしてやるから待ってろ」



 そう言ってゴンザは村から出て行く。俺はそれを組み伏せられながら見ているしか出来なかった。



  ◆◆◆◆◆◆◆◆



  光を灯さない眼を開いたままシンゲンは倒れている。

 俺にはせめて死に顔を穏やかなものにする事しか出来なかった。


 やがてユキムラが来て、状況の確認を求めてくるが今の俺には何も答えられなかった。

 ただひたすらに憎しみが溢れ出て、怒りと憎しみで真っ黒に自分を染め上げていく。



「…………許さない。絶対に許さない。ウエノの連中は皆殺しにしてやる!!」


「コースケ殿。やっと口を開いたかと思えばそれか。コースケ殿の気持ちは分かったし、俺も同じ気持ちだ。ただ状況だけは教えてくれないか。何故こうなったかを。その後でゴンザを八つ裂きにする方法を考えよう」


「ユキムラさん、すまない。俺がついていながら何も出来なかった。俺のせいで長老様は殺されてしまった。俺が、俺がもっとしっかりしていれば。もっと強ければ……!」


「コースケ殿の責任ではない。そんなに自分を責めないでくれ。俺もシンゲン様の隣を離れてしまった。俺だって悔しい。今すぐにゴンザを殺してやりたい。でもダメだ。このまま正面から挑んだのではまたやられてしまう。次こそ確実に奴を仕留める。だからコースケ殿、今は冷静になれ」


  ユキムラに諭されて俺は真っ黒な感情を研ぎ澄まして行く。 必ず、必ずこの手でウエノを撃退してゴンザを仕留めてやる。



 俺とユキムラは静かに打合せを続ける。


ここまで読んで頂きありがとうございます。


申し訳ないのですが、毎日更新が途切れそうです…


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