第56話 ゴンザ強襲
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翌日の朝、ついに村に鳩が着いた。
ユキムラの言っていた斥候部隊が用意していた鳩だ。
ウエノの町の軍勢は人よりも早く、鳩よりも遅くこちらに着くだろう。
「ユキムラさん、相手の到着はいつ頃になるでしょうか」
「おそらく昼前後だろう。まずは使者として来るだろうから丁重に持て成さないとな」
「持て成す必要があるんですか?」
「一応な。奴らが腹の底で何を考えてるかは分かったものではないが、それでもお互い体裁というものがある。それを無視する事は出来ん」
「そんなものですか。仕方ないですね。それでユキムラさん、俺はどこにいたらいいでしょうか」
「そうだな、とりあえずは自宅で待機しててくれ。ミコトとコトネは恐らく対応しなくてはならないだろうから、リエと二人だ。最悪の事を考えていつでも動けるようにしておいてくれ」
「分かりました、出来れば何か合図をくれると助かります。それまでは最後に村の武器の調整をしておきます」
村と町の決戦の火蓋が落とされる時間が刻一刻と近づいてくる。
予想通りの昼過ぎに、ウエノの一団と思われる集団が防壁の上から見えてきた。
一団は馬車を5台連れて、村から2キロ程離れた場所で止まる。
4台の馬車は予想通り荷物を運んだきたようで、残り1台の馬車は人が乗っているようだ。
村の反対側、こちらからは様子が伺いにくい場所で何かをやっている。恐らくは野営地を作っているのだろうが、大っぴらにしない所が余計厭らしさを感じさせる。
そのうちに一団の中から身なりの良い3人が馬に乗り村に向かってきた。
最初、イリヤの村の防壁に戸惑っていた3人だったが、心の余裕があるのか動揺した素振りを見せない。 そのうちの一人が防壁前の跳ね橋の差し掛かり大声でこちらに話しかける。
「イリヤの村の方々よ、我々はウエノの町からやって来た使者である。どうか丁重な対応を望む」
大仰に使者と名乗る男は話しかけてくる。予想していた我々は、長老のシンゲンとダノン、ユキムラの3人で使者を出迎える。
「ようこそいらっしゃいました、使者殿。イリヤの村はあなた方を歓迎致します。どうぞこちらへお越しください」
長老はそう告げると新しく建てたばかりの長老宅へ招き入れる。 いつもの通り側仕えの女性がもてなす準備をする。ダモの水に今回はつまみも用意した。
「遠くからよくぞ越しくださいました。私が村の長老を務めておりますシンゲンで御座います。こちらが若頭のダノンと副長老のユキムラに御座います。さて、本日はどの様なご用件でいらっしゃったのでしょうか」
「丁重に対応頂き感謝する。私は使者のタイジだ。用件というのは大した話ではない。実はウエノの町から一人行方不明になった者がおってな。我々はその人間を探している。近くの村や町を訪ねているのだが、こちらでその様な人物に心当たりはないだろうか」
「なるほど、そういう事でしたか。これほどまでの大人数でお探しになるという事はさぞかし町にとって大切なお方なのでしょうな。その方の特徴をお教え頂けませんでしょうか」
使者はリエの特徴をざっくりと伝えてくる。その言葉はまるでリエがここにいる事が分かっているかの様だった。
「ふむ、女性ですか。残念ながらここ最近ではイリヤの村に外から来られた方はおりませぬ。申し訳ありませんがお役に立てそうにないですな」
「そうか、それは残念だ。もしその人物を見かけたら是非教えて欲しい。それと、すまないが村の中を案内して貰えないか。以前からこんな土の壁はこの村にあったか?村の廻りも掘になっているし、いつこの村はこんな大がかりな物を用意したのだ?」
タイジと名乗った使者は当然の様に聞いてくる。 これから戦争をする相手に村の中の弱点を見せる訳には行かない。
しかし、今ここでタイジに村の案内を断る理由がない。
シンゲンとダノンが額に汗をかきはじめた時、ユキムラが冷静に応える。
「使者殿、我々も是非案内したのだが村の中は少々危険だ。この防壁は1か月程前に建てたものだが、これは外から村を守る為の物ではない。村の中の危険を外に出さない為のものだ」
「村の中の危険……?」
「ああ、そうだ。1か月ほど前から村では原因不明の疫病が流行ってな。流れの医者に診てもらったのだがその医者も死んでしまった。だから本来ならば使者殿をこの村の中に招き入れる事も悩んだのだが、まさか立ち話という訳にもいくまい。ならばと安全であろう長老宅にて会談をしているのだ」
「え、疫病だと……。まさか、そんなバカな……!」
「嘘ではありませぬぞ、使者殿。既にわが村では10人程命を落としております。数えれば分かりますが以前より人が減っております」
実際には狩りに出ている人間なのだが。
「そ、そういう事はもう少し早く言って貰わねば困る。そうそう、我々は別の用事を思い出したのでこの辺りで失礼させて頂く。丁寧な対応感謝する」
そう言って使者達は席を立ち村の外に繋がる跳ね橋まで歩いていく。
跳ね橋までついた時、そこにはあろうことかゴンザが立っていた。
「ご、ゴンザ様……。どうしてこちらへ……」
「なに、この村の防壁があまりに立派だったからな。自分の目で確かめて見たくなっただけだ。それで、お前は何をしているんだ」
タイジは顔を青くしてゴンザに近づく。先ほどユキムラから言われた疫病の事をゴンザに説明しているようだ。
「なるほどなぁ。イリヤの村もさぞ大変だったでしょう。それで、長老殿はどちら様かな」
「私ですが……」
「ふむ、長老様は健在のようだな。それに隣の二人も元気そうに見える。今現在疫病に掛かってる人間はいるのか?」
ユキムラは苦虫を纏めて噛み潰したような顔でゴンザを睨みつける。
「……何人かおりますが、ウエノからの貴賓を合わせる訳には参りませぬ」
「なーに、気にしないでくれよ。大変な目にあった村人さんを元気づける為のお見舞いだからよ。すぐに終わる。見舞いの品も用意してある。それとも、合わせられない理由が他にあるのかぁ?」
厭らしい顔でゴンザはユキムラを見据える。 ユキムラも負けじと視線をぶつけるが、腹の探り合いではゴンザの方が上だった様だ。
遂に視線を外したユキムラにゴンザは畳み掛けるように言葉を投げかける。
「おう、男前の兄ちゃんよ。どうした。合わせられない理由がないなら是非見舞いだけでもさせてくれよ。ウエノの町から遠路はるばるやってきたんだ。何かしら友好の形でも残しておきたいからよ」
「……見舞いの品とはなんでしょうか」
ゴンザは後ろの連れに合図すると、一緒に来ていた男達がズタ袋を5つ程まとめてゴンザの前に差し出す。
「これは……」
「鉄だよ、鉄。うちの町の特産物だ。もちろん知ってるだろ?これだけあれば馬車だろうがなんだろうが補強し放題だ。おたくの村は鉄は取れねえよな?これが欲しいだろ?」
ゴンザは厭らしい笑みを浮かべた顔を更に歪めて笑う。
「ええ、有難う御座います。この村では鉄は取れませんからね。ではお手数お掛けして申し訳ないですがうちの村の病人を見舞って頂けますか」
「おう、もちろんさ。しっかり見舞ってやるから安心しろや」
観念した様にユキムラはゴンザ達一向を村の中に再度引き入れた。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
とんとん拍子?で話が進んでおります。
あっという間に物語終盤です。
宜しくお願いします。





