第55話 切り札
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作戦の骨子は俺達に掛かってる。
特にミコト・コトネ・リエの3人だ。
3人の中でリエが一番強力な妖精を使役している。
風の妖精と言う事だが、ミコトとコトネも風の精霊を使役している。
また、それ以外の精霊でも相性が良ければ経験値を共有する事が出来ると言っていた。
なので、ウエノの連中が来る前の残された僅かな時間ではあるが、リエの妖精から出来る限りの経験値を共有して貰う事にした。
3人が家の中でお互いに手を繋ぎ目を閉じる。薄く身体全体が発光してる様はなんとも神々しい。
3人とも押しも押されぬ美女、美少女だからな。俺は本当に恵まれているのかも知れない。
さて、そんな感傷は戦いに勝ってから考えよう。
俺は一人で外に出る。本当の賭けは此処からだ。
手に入れられれば強力な切り札になるし、手に入れられなければ戦いを前に命を落とすかも知れない。
本当はそんな賭けは勘弁願いたいところだが、今はそんな事を言っていられない。
昔一度だけミコトに聞いた場所を目指す。場所は墓地の裏の山の中腹だ。特に目印はなく、中腹付近に大きな洞穴があるらしい。
……あった。ここで間違いないだろう。禍々しいような、優しいような雰囲気が漂っている。
意を決して洞窟に入る。
不思議な事に洞窟の中は薄明かりで見えていた。
中は一本道で迷う事はなかった。
目的の場所に着く。
俺は一度も祈った事はないからやり方が分からない。それでも、その昔爺さんや婆さんから習ったご先祖様へのお祈り方法を試す。
なんて事はない、ただ手を合わせるだけだ。
お願いします。力を貸して下さい。お願いします。俺に力を。
俺に出来るのは真摯に祈るだけだ。
しばらく沈黙が続いた後、不意の頭の中に声が響く。
ーーワレヲ呼ンダノハオ前カーー
声と共に凄まじいプレッシャーが俺を押し付ける。触れられていないのに地面に倒れてしまいそうになる。
「ああ、俺だ……。俺に、俺に力を貸して、くれ……!」
ーー貴様ハチカラヲナニニ使ウノダーー
「これから攻めてくる奴らを倒す。この村を守るんだ!」
ーー貴様デハワレノ事ヲ扱イキレマイーー
「そ、そんなのやってみなきゃわかんねえだろ!力を貸してくれ!」
ーーワレヲ使役スルニハーー
思ったよりごちゃごちゃうるさい精霊だな。
「ああ、もう、うっせえな!!良いから力を貸しやがれ!俺がちゃんと手綱を握ってやるから心配すんなよ!早く契約しろ!」
ーー活キノイイ人間ダ。覚悟シテ臨メヨ!
そういうとそいつは俺に纏わり付いてきた。かと思うと、そのまま消えた。
その瞬間、俺の体に吐き気と寒気と嫌悪感が一気に襲ってくる。頭痛と筋肉痛もセットだ。
インフルエンザと食中毒と風邪が全て同時に発症するとこんな感じだろう。
とにかく気持ち悪い、痛い、不快だ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!痛い痛い痛い痛い!
俺は頭を押さえて転げ回る。
ーーーーどれぐらいそうしていたのだろうか。
一瞬の様な、長い時間の様な。
それだけの時の後、俺はやっと精霊を使えるようになっていた。
無事に精霊を従える事が出来た。 さて、今回俺が従えた精霊はどんな奴なんだ?ミコトやコトネを参考に祈りを捧げて顕現させる。
どうでもいいが、この祈り方は美少女だからこそ様になる訳で、俺みたいなオッサンがやっても気持ち悪いと思う。もう少しスタイリッシュな祈りの捧げ方を考案しよう。
真面目に祈ってはいないかも知れないが、空間が輝き精霊が出てくる準備がされる。
次の瞬間、ポンっと軽い音と共に精霊が現れた。現れた筈だった。
「……アレ?いねーぞ?」
現れた筈の精霊は見当たらず、辺りには闇が広がっているだけだった。
おかしいなと目を凝らすと、そこには黒い塊のような物が見えた。
……ウニか?
ウニのように丸く、ちょっと棘があるボールのような物が転がっている。
そのウニは棘をそよそよと揺らすと俺の頭に直接信号を送ってくる。
『おい、オラだよ。オラが今呼び出されたお前の精霊だっぺよ』
「おお、ウニが喋った……!」
『ウニじゃねえよ!失礼なやっちゃな。オラは黒の精霊だっぺよ。お前がオラを呼んだんだろが』
「俺の言ってることがわかるのか?」
『あたりめだべよ!オラはお前と契約したっぺよ。オラ達は契約者と意思が通じるだよ』
「なんでそんなズーズー弁なの?」
『ズーズー弁っておめっちゃ本当失礼なやっちゃな!これはオラの魂の叫びだっぺよ!バカにすんなよ?』
ズーズー弁とバカにされたウニはあたりと飛び回り猛抗議をしてくる。
「わかった、わかったから落ち着いてくれ。ウニが飛び回ると怖いし危ない。そうか、お前は黒の精霊なんだな。お前は何が出来るんだ?」
『……次ウニって言ったら許さないから覚えとけよな。オラは黒っぽい事を何でも出来るっぺよ。闇を濃くしたり、重さを変えたり出来る!どうだ、すごかっぺ?』
黒っぽい事ってだいぶアバウトだな……
まあいいや、追々考えよう。
「俺はコースケって言うんだ。そうだな、お前の名前はクロスケでどうだ?黒の精霊でコースケが契約者、だからクロスケだ。これから宜しく頼むな、相棒!」
『く、クロスケだとぉ……!なんて、なんてイカした名前なんだっぺ!お前っちゃ、コースケ!お前のセンスに脱帽だべよ!ああ、こちらこそ宜しく頼むな、相棒!』
こうして俺にはズーズー弁の頼りになる(?)相棒が出来た。
もう少しクロスケの能力を確かめたいのだが、今は村の状況も把握しておきたい。
クロスケの能力は道すがら確認しよう。
クロスケは通常であれば一般人から見る事は出来ない。こいつは本当の最後の切り札だから普段は見せないようにしておこう。
家に戻ると、ミコト・コトネ・リエはまだ手を繋いだまま目を閉じていた。
風の妖精の力と経験は大きく、その共有に時間が掛かっているのだろう。
俺は長老宅へ向かう。
今は非常事態なので、24時間誰かしらが起きて長老宅へ詰めている。
今はユキムラが居た。
「ユキムラさん、お疲れ様です。今ミコト達が最後に精霊の力を高めているところです。これが済めば俺達の出来る事は全部やったと思うんですが、まだ何かあるでしょうか」
「いや、大筋はそれしかないだろう。今やっているもので良いと思う。後は小手先の小細工くらいか。そこら辺は村の連中でやるから気にしないでくれ」
「ありがとうございます。それで、斥候は出しているんですか?」
「ああ、1つ目の山の所に二人つけてある。間に合う速度であれば走って戻ってくるが、相手の行軍速度が早ければ鳩を飛ばす事になっている」
「伝書鳩ですか?」
「そうではない。ただ村で飼っているだけの鳩だ。鳩が村に戻ってきたら何かしらの動きがあったと言う事にしてある。今回の場合はウエノの連中が向かってきたと言う事だ」
「なるほど。では鳩が来たら行動開始ですね。最初は交渉から入るでしょうか?」
「恐らくな。突然何も言わずに攻撃を仕掛けてくる奴など聞いた事がない。まずは使者として2、3人来るだろうから、そいつらの話を聞く所から始める」
「話し合いで解決出来ないものでしょうか……」
「それは無理だろうな。してもいいが、その時にはこの村の重要人物は軒並み首を刎ねられる事になるだろう。それを受け入れれば話し合いで解決するぞ?」
「そんな事は認められるはずがない!……そっか、そうですね。奴らからすれば話し合いだろうが戦おうが関係ないんですよね。この村を手に入れられる事が出来れば」
「そういう事だ。交渉では奴らはとんでもない事をふっかけてくるだろう。こちらがそれを拒めば武力での争いになる。そういうシナリオを考えているだろう」
「分かりました、心しておきます。奴らに遅れを取る事なんて絶対にしません!」
「コースケ殿、頼りにしている。是非その力を村を守る為に発揮して欲しい」
ユキムラとお互いの意思を確認して家を出る。
もう戦いは避けられない。後は勝つ事だけを考える。
ウエノとの今後や村の今後も本当は考えなきゃならないが、今は余計な事を考えていては負けてしまう。
さあ、やれるべき事は大体やり終えた。後はウエノが来るのを待つだけだ。
家では巫女と精霊使いが力を高め合ってる。
邪魔をしないように俺は村の作業場で無駄になるかも知れない物を作っておく事にした。
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